『目標』と『自己紹介』
ここは、数多くの調度品や絵画がズラリと飾ってあるガゼルの大宿の受付。
「あのぉ…オイラ達ここで宿を取りたいんだ!…人数は3人、部屋は一緒でかまわないから空きはあるかい??」
ポコは宿を取る為、受付の若い女に声をかけた。
「……申し訳ありません…失礼ですが、ここはお一人様でも最低、一泊に銀貨5枚です…お見掛けしたところ…冒険者様の様ですので、もっとお安い宿をオススメしますが…?」
受付の若い女は、ポコを上から下まで品定めをするように見て、やんわりと断りを入れて来た。
「なぁ?ねーちゃん?人を見た目で判断するのは接客業としてどうかと思うが、こんな見た目だとそう思うのも仕方ねーか…」
薄手の汚れたローブを羽織る琉偉が、ポコの前に出て受付の若い女に口を出す。
『チャリン』琉偉は、受付の若い女の前に聖金貨を1枚受付のテーブルの上に投げた。
「えっ??こ…これは?聖金貨???」
受付の若い女は、聖金貨を目を見開いて凝視をし、震える手で聖金貨を確かめている。
「これでここに泊めてくれよ!ついでに豪勢な料理と、『大宴会』の準備もよろしくぅ!」
琉偉は笑みを浮かべながら、堂々と驚き固まる受付嬢に言った。
「…き…貴族様とは知らず…誠に申し訳ありませんでした…すぐに…すぐに最高級のお部屋を用意しますので、少々お待ちくださいませ!」
受付の若い女は、琉偉達に非礼を詫びて、慌ただしく動き回り、すぐに最上階の大部屋に琉偉達を案内した。
「お待たせ致しました…こちらへどうぞ。」
受付の女性が細かい細工の入った大きな扉に手を掛け、ドアノブを回す。
『ガチャ…』
「おお!!スゲぇー!ゴージャス!!ベットもフカフカぁ!ここ最高だな!ポコが良い所を知ってて助かったぜ!」
琉偉は部屋に入ると同時に、金細工をここぞとばかりに使った豪華なベットにダイブした。
「では、用意ができ次第伺わせて頂きますので、どうぞごゆっくりお過ごし下さい。失礼します」
受付の若い女性は扉をゆっくりと閉め部屋から退室する。
「ねぇ?ルイ…さっきの聖金貨、全部渡しちゃってどうするのさぁ??」
ポコは部屋の中を見渡して、宿泊費に大金を渡した琉偉に非常識だと訴えかける。
「えっ?だって、あぁやった方がナメられなくてすむだろ?…宴会だって金はいるんだし…大丈夫だろ!」
琉偉はベットに横になり、のほほんとした答えをポコに投げかける。
「あの…御主人様何か、お飲物をお持ちしますか??」
そこにキョロキョロ周りを伺う、ファーランが琉偉に話しかける。
「おっ!いいねぇ!歩き疲れて、喉カラカラなんだ!お願い出来るか??ポコもファーランも好きに飲んだり自由にまったりしよーぜ!!」
「はい!御主人!」
琉偉はテンション高めに答え、ファーランはニコッと笑い、軽快な動きで部屋を出て飲み物を取りに行った。
「ねぇ!ちょっとルイ…!!聞いてるの??一体ここに何泊するつもりなんだよぉ!」
ベットで横になりご機嫌な琉偉に、ポコが赤いソファーに立膝をつき、少し御立腹な様子で琉偉に再度話かける。
「…ポコ!ほらよぉ!」
琉偉は身体を起こし、ベットの際に腰掛け、肩に掛けた鞄を漁りポコに小さな皮袋を優しく投げ、それをポコは見つめる。
「え?これ?…え?…」
中身を見たポコは、光り輝く黄金の煌めきに一瞬にして固まる。
「これは俺達の約束の報酬だ!…断るとは言わせねー!!もう渡したんだからそれはポコの物だ!返金は受け付けてないからな!…ファーランを助け出せたのは全部ポコのおかげだし、俺の命も救われた。」
「…本当に助かった!ありがとうな…ポコぉ!これからも頼むよ!」
琉偉は聖金貨10枚をポコに渡し、言葉に心からの感謝を込めて、唖然とするポコに言った。
「…ねぇ…ルイ…?本当にいいの?」
金貨を手にし、困惑して琉偉に確かめるポコ。
「ポコぉ!覚えとけ!俺に二言はナッシング!!」
「えっと…よくわからないけど…大切に使うよ!オイラからも、ありがとう!ルイ!……あぁ…手が震える!!」
琉偉のふざけた言葉を理解出来ずスルーしたポコは、感謝し初めて持つ聖金貨の重さに感激していた。
『ガチャ』
「お待たせ致しました。どうぞ、御主人様」
部屋に戻ってきたファーランは、片手に持つ木製のお盆に何種類かの飲み物を持ってきた。
「おう!サンキュー!ファーラン!早かったな!どれどれ??」
お盆には黄色いレモネードの様な果実の入った飲み物と、水の入った透明な瓶と、泡立つ黒っぽい飲み物が乗せてあった。
「こちらは…『マリーズ』と言う果実を、ハチミツと水で割った甘めの飲み物です…疲労回復の効果があるようです!そしてこちらは、アラサ山脈の冷水、最後にオップスと言う弱めのお酒でございます。…どちらにいたしますか??」
優れたメイドの様な口振りで琉偉に詳細を伝え、問いかけるファーラン。
「どれも初めてだな…じゃあ、ひとまずこの黄色いヤツを貰おうかな!」
琉偉は、お盆に乗ったマリーズの水割りを指差した。
「オイラはオップスをもらえるかな?オイラ大好きなんだぁ!」
ポコは大きな丸い紅眼を輝かせ、木で出来たコップをファーランに差し出した。
「「うめぇーーーーっ!!」」
2人はファーランに飲み物を注いでもらい、一気に飲み干す。
「スッキリしたオレンジジュースだな!!甘さもいい感じで最高だ!」
久しぶりの甘味に琉偉は至福を味わう。
「オイラもこんなに上等なオップスを飲んだの初めてだ!!ファーラン!もう一杯貰えるかな??」
「はい!どうぞポコ様…」
琉偉は喉の渇きを潤しポコはファーランに二杯めを注いでもらう。
「ファーランもそんな気を使ってないでゆっくりしようぜ!!」
琉偉がファーランを労う。
「いえ…私は大丈夫ですので、お気遣いなく。」
「…なぁ!ファーラン…?俺達はまだ出会ってすぐだけど、もうちゃんとした家族だ!!気を使うのは外にいる時だけで十分だ!俺からのお願いだ!頼むよ!」
琉偉は、真面目に最後は、困った顔をしてファーランに頼んだ。
「はい…ありがとうございます…ルイ様!」
ファーランは頬を染め、恥ずかしそうに答えた。
「おっ!ようやく戻ったけど…様って…まぁいいか!…じゃあ…チョット2人とも集合だ!!」
琉偉はベットに座りながらポコとファーランを近くに呼んだ。
「改ためて、俺の今の状況を2人には知ってもらいたい!…多分驚くとは思うけど、俺は家族に嘘はつかない!これだけは最初に言いたい!」
「うんッッ!」
「はい!ルイ様!」
琉偉は、真剣な顔で話を切り出す。
ポコもファーランも真剣に耳を傾けて聴いている。
「改めて!!俺の名前は『内藤 琉偉』歳は『18歳』…まず俺は…この世界の人間じゃない!別の世界の『日本』って国から来た人間だ…夜、寝て気がついたら、馬鹿でかい荒野の洞穴で寝てたんだ…で、そこで言葉を喋る2匹のトカゲに会ったんだ!」
「「……」」
琉偉は己の軌跡を語り、話を聴く2人は黙って琉偉の黒い瞳を見続ける。
「…それで、そのトカゲに言われたんだ!『試練』と『称号』を与えるって…その後は、ファーランに助けられた所に倒れてたって感じだな!」
琉偉は、現状で把握している情報を2人に話した。
「どうだ?信じてくれるか??」
琉偉は少し不安に2人に問う。
「………ルイ…信じるよぉ!てか、やっぱりか…って感じだよ!」
「私も信じます。それに私も薄々、ルイ様は普通の人族の方とは違うと思っていました。」
2人は琉偉の言葉を、一瞬も疑わずに信じた。
「やっぱりって…なんか心辺りでも、あるのか??」
ポコの発言に対して琉偉は問う。
「多分…そのトカゲって『聖龍様』じゃないかな?…この世界では神様と同じ位の凄い存在だよぉ!」
ポコは、己の知識の中にある、この世界の最上位に位置する者の名前を挙げた。
「聖龍かぁ…小さいトカゲだぞ?」
神と対する存在だとまだ信じられない琉偉は、記憶を思い出し、やはり半信半疑だった。
「はい!!私も聞いたことがあります…昔の神話にある『神様と聖龍様の争い』でしたでしょうか?」
ポコが思考し、ファーランが少し興奮した様に有名な神話を口にする。
「あのトカゲそんなに凄いヤツだったのか…あっ!それとこの魔法の鞄とこの短剣を渡されたっぽいんだよな!」
琉偉は所持品の経歴も2人に話す。
「この魔法の鞄ってもの凄いマナを発してるんだよ?気づいてた?…恐らく…『S Sランク』の魔法道具だよ!それに、その白い短剣…あの守護龍を一撃で倒したんだ!伝説級の武器な事は確実だよぉ!!」
ポコは迷宮での出来事を思い出し、琉偉に補足し説明する。
「その…ルイ様はいつか…元の世界にお戻りになられるのでしょうか…? 」
ファーランは先程とは打って変わって俯き、悲しそうな声で琉偉に問う。
「あ…いや…取り敢えず…その試練ってのをどうにかしないといけない感じだけど、その前に俺は一つ目標を立てた!」
「目標??」
ポコは聞き返す。
「おう!俺は、まだ1日しかこの世界に居ないけど、ある程度この世界の状況を見たつもりだ!それで…思ったんだ!この世界は『差別』と『理不尽』でいっぱいだ!これは俺の前にいた世界の昔と同じだ!」
琉偉は、現世の世界にも昔は差別と理不尽が渦巻いてた事をある程度、理解していた。
「それで、俺の居た世界は戦争を続けたんだ…今もそれは他の国で続けられてる…俺の生まれた国は戦争で沢山の命が奪われた…それで…戦争は二度と起こさないと国は誓ったんだ…それで、俺の生まれた国は栄えたんだ!」
「…戦争を辞めて、平和で悲しみの無い国になったんだね…だからルイは優しいのか…」
ポコはルイの言葉を理解し、口にする。
「…あぁ…俺の生まれた国は平和になったよ!国民一人一人確かな人権があったし、働きさえすれば飢える事の無い平和な国だ!」
琉偉は眼を瞑り自分の生まれ育った国を語る。
「それは…本当に素晴らしい事です…ルイ様はその様な平和をこの世界にもたらしてくれるお方なのですか??」
ファーランは期待に胸を膨らませ琉偉に金色に輝く瞳を向けて問う。
「…ごめん…ファーラン…違うんだ…ポコも俺を優しいって言ってくれたけど…本当は違うんだ!」
琉偉は初めて辛そうな顔を見せて低い声で2人に真実を語る。
「…前の世界では俺は…人を騙したり、暴力を振るって理不尽に金や尊厳を奪っていた輩だ……ファーランを嵌めたあの冒険者と変わらない事を前の世界でしてた…俺は英雄でも無ければ優しい聖者でも無い!ダダの意気地の無いクズだ!…俺はそれを自分で分かってる。」
話を黙って聞く2人は、初めて見る琉偉の表情に何も口に出せないでいる。
琉偉は一旦間を空け、再び話を続ける。
「…戦争を辞めて、平和になった国だけど…虐げられる人間や、理不尽…憎しみ…悪意、そして悲しみが無くなる事は無かった。」
「ルイ様…」
辛そうに語る琉偉を観てファーランが呟く。
「…俺は、あの龍を倒して自分に他の人とは違う力がある事を知った…」
琉偉は口調を少し変え、金色と紅色の瞳を交互に見て決意する。
「…前の世界で俺は、暴力と人の悪意に抗がえなかった!でも…今は違う!!俺には守るべき家族と、変えるべき世界を…俺は見た!そして多分…俺はそれをするためにこっちに呼ばれたんだ…こんな俺が今更何言ってんだ!って思うかもしれないが…やってみたい!!」
2人の『家族』が琉偉の顔をジッと見つめる。
「俺は、ポコやファーランの様に優しい人間じゃない!でも、差別や理不尽を笑って見過ごせる程腐った人間でもない!!頼む!俺を信じてくれ!俺はこの世界を変えてやる!!皆んなが『命』を尊い物だって思える様に……『笑顔』は心を…気持ちを優しくさせるんだって事を!そして、この世界に寂しく孤独と戦う同類を助ける為に!…俺は…この世界の差別と理不尽と戦いたい!前の世界で出来なかった事をコッチの世界で成し遂げたい!」
琉偉は自分の根底にあった思いを必死にぶちまけた。
「だから…2人の力を俺に貸してくれ!」
琉偉は、膝に両手をつき、話を黙って聞く2人に頭を下げた。
「…ルイ様…家族にお気遣いなどは無用のはずですよ!」
ファーランは瞳を潤ませ優しく手を取り、琉偉に言葉を向ける。
「オイラはルイが世界を変える人だって最初から信じてるよぉ!だからやろう!オイラはルイに教えて貰ったんだ!!笑う事が幸せなんだって!…オイラ達で世界を変えよう!!」
ポコは琉偉の肩を叩き笑った。
「ありがとうな…お前ら!!」
琉偉は少し瞳を潤ませ、恥ずかしそうに言った。
「…さぁ!これで俺の自己紹介は終わりだ!」
琉偉は照れた様に雑に話を終わらせた。
「じゃあ、次はオイラだね!」
ポコが続いて話を始める。
「オイラは『カイドル』って国に生まれて、子供の頃にここパーレンの近くにある『イザナの森』に来たんだ!母様と父様が死んじゃって…爺様に引き取られここパーレンで冒険者になったんだ!」
ポコは淡々と過去を語る。
琉偉とファーランはポコの話に耳を傾ける。
「オイラの爺様は『精霊族』って言ったけど、爺様は『土精霊』上級精霊だったんだ!だからオイラは小さい頃、ずっと森で生活をしていた!そこで土魔法を覚えて『地脈看破』って言う『スキル』を手に入れたんだ!」
ポコは他人には絶対に明かさない所有スキルを琉偉達に話す。
「それで、黄昏の迷宮に潜って地形を記憶したって事なんだ!…どうだ!すごいだろぉ!」
ポコは胸を張り自慢げに語る。
「ちなみにぃ!年齢は20歳だよ!オイラの方が年上だねルイ!」
「えっ?まじかよ!!そこが一番ビックリだわ!」
ポコが笑いながら琉偉に話し、琉偉は驚愕していた。
「これでオイラの話も終わりだよ!」
ポコはスッキリした顔でそう言った。
「「……」」
ポコと琉偉はファーランを見る。
「えっと…私ですね…」
気まずそうに口を開くファーラン。
「…っと!その前に、ファーラン…喋りたく無い事は言わなくてもいいよ!俺やポコはファーランが例え魔王でも悪魔だったとしても今と何も変わらない…俺らはずっと『家族』だぜ!」
琉偉はそう言って優しく笑った。
「はい!私は、四年前にある国で救国の黒兎と呼ばれていました。…理由は……」
ファーランは己の過去を全て琉偉とポコに語った。
いつのまにか琉偉は涙を流していた…