『迷宮街』と『ガゼルの大宿』
黄昏の迷宮のギルド受付ロビーにて新たな英雄の誕生に冒険者達が祝福と激励の言葉を発する中、怒りに震える冒険者が皆の注目を集めた。
「おい!俺たちを忘れちゃいないよな??」
スキンヘッドの冒険者カルロが琉偉に向け、殺気を乗せて言葉を放つ。
「よぉ!皆んな…聞いてくれ!!こいつの話は真っ赤な嘘だ!!…こんなヤローを信用するなバカども!」
カルロは見下す様に、扇動するように他の冒険者に大声で宣った。
「いきなり出てきて嘘ってなんだよ!さっきの話が嘘なら守護龍は一体誰が討伐したんだ!嘘と言い切るなら説明しろ!!このハゲ!」
琉偉とポコの熱い友情に涙を流し、聴いていた1人の若い冒険者がカルロに食ってかかった。
「じゃあ、真実を教えてやるよ!!そこの金髪の女獣人に黄昏の水晶石の回収の依頼を出したのは……何を隠そう…この俺だ!!」
カルロは自信満々に真実を暴く正義の味方の様な口ぶりで冒険者達に『英雄偽り疑惑』の『間違った真相』を皆に伝える。
「それを、そこのクソ黒髪のヤローに出し抜かれたんだ!!」
「そうだ!コイツらはグルだったにちげぇーねぇー」
唾飛ばし、カルロが群衆に宣う。
「……それ本当かよ!それが本当なら『英雄』どころか契約違反の『罪人』だぞ!!」
『ああ…もしそれが本当なら罪人だ…』
『なんだよぉ…偽物かよ!』
冒険者の1人が驚いた声がロビーに響き、カルロの話が、先程の『熱き友情の冒険譚』が『卑しい冒険者の詐欺話』に変わる可能性を、息を呑み話を聴く冒険者達に感じさせた。
「あぁ…だから、こいつらをギルドに突き出す!!」
「そして…俺たちが手にする筈だった聖金貨20枚も俺たちのもんだ!!」
カルロは口角を上げて己の幸福を噛みしめる様に琉偉を見下した。
「てめー…取り消せよ…」
琉偉が小さく…そして感情を殺した様に呟く。
「あ?今更何を取り消すんだ?お前のした詐欺話をか?それとも嘘つきの英雄を気取った事か?」
「何が『土龍のポコ』だ!?嘘つきの馬鹿話じゃねーか!」
カルロは、勝ち誇り見えていなかった。
【……ころ……】
琉偉の周りに黒い霧を纏っている事を。
【………せ…】
「……どれでもねぇーんだよ!!カスヤロー…俺の家族を馬鹿にした事だよ!!!クソヤロー!…『ドン』!!」
「うぅぐぉぉぉぉぉ」
カルロが大理石の冷たい床に沈む。
琉偉は自分より二回り程大きいカルロの鍛え上げられた腹を右拳で殴りつけていた。
「…おい……早く取り消せ…次は殺すぞ?」
「か…カルロ…」
「ヒィーーッ…」
苦しむ仲間を見つつ、底冷えした琉偉の声にカルロの仲間達は萎縮し小刻みに震える。
『おい!なんだあのマナ?黒いぞ!!見間違いか?』
『それにしても殴るトコ見えたか??』
『…いや…見えなかった。』
『本当に…人族…だよな?』
冒険者達は、目の前の事態を認識出来なかった。
その時、1人の麗人…金髪の獣人が琉偉の視界に入る。
「怒りを抑えて下さい…御主人様この者は恐らく…勘違いされています。」
「悪りぃ…ファーラン…下がってくれ…こいつはポコとファーランの心を踏みにじった…絶対に許せねぇ…」
(!!!??なんだ…?またこれか?…)
琉偉は静かに語る…そして心の中で『何か』が囁く声を感じた…冷たく何を言ってるのかは聞き取れない。
だが、間違いなく何かが琉偉の中で蠢いてる。
「こいつらは…多分ファーランが迷宮のお宝を回収出来ると思って依頼を出したんじゃない。ファーランを嵌める気だったんだと俺は思ってる。」
琉偉は怒りを抑え、冷静なフリをしている。
身体の異変に気付いたからだ。
「…俺が前にいた所に…こんな奴は腐る程いた…人の心を踏みにじり…弱みに付け込み…そして金と尊厳を奪っていく輩だ……。」
ファーランは無言で俯く…恐らくファーランも気付いていた。依頼が達成出来なかった時はどうなるのか。
「俺は金で解決出来ればそれで良いと思った…だけど今は違う!この2人は俺の唯一の家族で守るべき絆だ!」
琉偉に、更に濃く黒い霧が纏わりつく。
「ル…ルイ!!ダメだ!オイラ達は平気さぁ!だから…それ以上やったら…その人死んじゃうよぉ!ルイ!!!」
「御主人様…」
ポコがあり得ないマナと殺意を放つ琉偉に思わず割って入り、ファーランは琉偉を止められない。
琉偉が血走った眼を細め、更に殺気を拳に載せる。
「…おっと…そこまでにしてもらえないか?兄弟!」
琉偉が意識が朦朧とするカルロを再度殴る寸前、それを止める聞き覚えのある声がロビーに響く。
「ギルドの中で暴力沙汰とは感心しないぞ!『兄弟』!」
そこにはギルド長のミルティスがいた、余裕を見せた声を琉偉に届ける。
「……それは10分前の自分に言ってやれ!!」
琉偉は、冒険者達の前に歩み出でてくる、先程の失恋サイコエルフの翠の眼に視点を合わせ、軽く笑いツッコミを入れた。
「ふっ…やはりな……兄弟が理由もなく暴れる人種には見えないからな。演技なんだろ?兄弟!」
自信満々に何かを勘違いしてるミルティス。
「お前ら聞け!…我が友、『冒険者ルイ』は最下層の守護龍を撃破し黄昏の水晶石を持ち帰った冒険者だ…これはギルドが確認した…事実だ!!」
ミルティスは誇らしげに琉偉の功績を称えた。
「まっ…待ってくれ!!水晶石は俺たちが出した依頼で手に入れているはずなんだ!!」
琉偉に腹を殴られ、瀕死の冒険者カルロがミルティスの足にすがりつく。
「貴方は勘違いなされてます。」
そこにファーランが喋り出す。
「か…勘違いだと!?」
「はい…私は最下層で守護龍に阻まれ…死にかけていました。」
ファーランはゆっくり事実をカルロに告げる。
「そこに、御主人様とポコ様が現れ救出してくださいました……その後、水晶石は御主人様が発見し取得したものです。」
ファーランが光る瞳でカルロを見定め、伝える。
「おい…貴様らは魔法契約を結んでいなかったのか??」
ミルティスが足に縋り付くカルロに琉偉に向ける声質とは違う声で問う。
「ま…魔法契約ならちゃんとしたぞ!!そ…それがなんだ!?」
カルロは苦しそうに息を切らしながらミルティスに答える。
「…ギルドは…希少なアイテムの買取時、盗品の可能性を危惧してアイテムのマナを解析し、アイテムに最初に触れた取得者の情報確認する…その時に当然、契約違反の罪人かどうかも調べる。」
ミルティスは静かに無表情でカルロを見る。
「貴様には残念だが…契約違反なし!!取得者も申告通りにルイであった!コレは我が黄昏のギルドが正式に公表する事実だ!」
ミルティスは大声で断言した。
「そんなぁ…俺の…聖金貨20枚が…」
ミルティスの足にすがりついてたカルロが力無く両手を冷たい大理石につける。
「それと、貴様らは弱者から多額の金銭の違法搾取の容疑が掛かっている。覚悟しろ!!…衛兵!!この者達をギルドに連行し、尋問しろ!」
「「ハッ!」」
「ちくしょう…」
ミルティスは近くにいた2人の衛兵に拘束を命じカルロ達は静かに力無く頭を下げ、腕を掴まれ連行された。
「……まぁ…いいか!収まりつくなら大人しくしとくかな!」
琉偉はミルティスの采配を受け入れた。
「さぁ…これにて騒ぎは終わりだ!!」
各冒険者にミルティスは騒動の終を発した。
「んで?ミルティスは何しに戻って来たんだ?ギルド長様は余程暇を持て余してるのかぁ?」
まだ少しモヤモヤが取りきれない琉偉がミルティスに嫌味を乗せた軽口を叩く。
「…そんな言い方しないでくれ…兄弟!…要件という程じゃ無いんだが、兄弟達はこの街に拠点はあるのか?」
唐突にミルティスは琉偉に問う。
「ああ…泊る所はあったんだけど…その…なんつーか…訳ありで戻れないから新しくどこか探す予定だ…」
ファーランの件で店主を殴ってしまった琉偉は気まずそうに…歯切れ悪くミルティスに答えた。
「ほう…ならすこぶるいい話があるぞ…丁度、ギルドが所有している空き物件があるのだが、どうやら悪党に占拠されているらしい…もしも取り戻せたら兄弟の好きにしていいぞ!…悪い話では無いだろ?」
ミルティスは、発声良く、有益な情報を琉偉の元に届ける。
「へぇ…本当かよ!!分かった!その話に乗ってやる!!」
「ち…ちょっとルイ!詳しく内容も聞かないで依頼受注しちゃダメだよぉ!」
琉偉が先走りお得そうな情報に喜び、騒動の終わりにそっと息をついていたポコが注意を促す。
「…エルフ族の誇りと名誉にかけて兄弟達に不利益な事柄では無いとここに誓う。」
言葉に力を込め、真剣な顔でミルティスは誓いを立て真っ直ぐな口調で琉偉に言った。
「おう!信じるぜ!」
琉偉は目尻に皺を作り笑って誠実なエルフに応えた。
「では、詳しい話はギルド受付の『ララ』と言う受付に伝えておく!準備が出来次第ギルドに顔を出してもらおう……それと…今宵の宴は私も参加させて貰うぞ!はっはっは!…楽しみだな!では、後程!兄弟!……それと…今日はもう問題を起こさないでくれよ?」
ミルティスは満足げに宴への参加を表明した後、少しだけ心配そうに琉偉に釘をさし立ち去った。
「…なんか…ルイ…凄くギルド長に好かれてない?」
ポコは足取り軽く去ってくミルティスの後ろ姿を見て琉偉に自分の心に産まれた疑問を投げかける。
「ん?そうなのか?人懐っこいだけだろ?」
あっけらかんとして口を開く琉偉。
「…う〜ん…これは噂なんだけど…ギルド長って冒険者の前では絶対笑わないって話だったんだけど…」
ポコが評判とは異なるエルフの態度を不思議がる。
「いやいや…それガセネタだろ!アイツ、終始ニコニコしてたけど?」
「…うん…だから少し気味が悪いよね…」
琉偉は、ミルティスの対応を思い出し、 ポコが少し考えながら寒気を感じ呟いた。
「さぁ…取り敢えず要件は片付いたし、寝床を確保してお楽しみの宴と行くか!」
琉偉はポコとファーランに向かい、精悍な口調と持ち前の『いい顔』で移動を促す。
「あの…御主人様…本当にすみませんでした…それと宿を見つけたら、少し私に時間をもらえませんか??」
ファーランは先程の一件を謝り琉偉に真面目な顔つきで少し恥ずかしそうに口ごもる。
「ファーラン…俺も悪かったよ…こんなにキレるとは自分でも思ってなかった…あっ!それと俺たちはもう『家族』だぞ?もっと砕けた感じで行こうぜ!あの時テンパって素になったファーランも超絶可愛かったぜ!」
琉偉はファーランの『テンパり』をしっかりと楽しんでいた。
「…あ…あの……すみ……御主人様は…意地悪です……宿に着いたら…約束ですよ…」
(ん〜っ…今のを録画して、寝る前に4回は鑑賞したいぜ…くそ!なんで携帯持ってないんだ…一生の不覚!!)
思わず謝りかけたファーランだったが途中で琉偉の笑顔の真意を悟り恥ずかしさを隠すように上目づかいで琉偉と約束を交わす。だが琉偉の心はファーランを見てすこぶる萌えていた…。
「なぁ?ポコぉ!どっか豪勢で安心して泊まれて尚且つメシの旨い所ねぇーのか??あるならそこにしようぜ!」
琉偉がポコに問う。
「う〜んっ…それなら、街の一等地区の『ガゼルの大宿』って言う宿が評判高いよぉ!?でも、1泊『銀貨』5枚もするよ?貴族様も泊まるから安全は確実だけど…どうするのぉ?」
ポコは自分の知り得る中で一番の宿を琉偉に伝えた。
「なぁ…ポコ…銀貨ってどれくらいの価値だ?」
「えっ?……はい?……」
「ご…御主人様?」
琉偉の『この世界』の常識外れな問いに、ポコが唖然とし、ファーランは琉偉を眺めて細い声で名を呼ぶ。
「…ははっ…やっぱりおかしいよな!?まっ!取り敢えず宿屋に行こう…そこで2人に俺からも話がある!!」
琉偉は、絆を結んだ家族に異なる世界からの移転を伝えるつもりだ。琉偉は家族に自分と言う人間を知ってもらいたかった。
「うん!」
「はい…分かりました!」
ポコとファーランはお互いの眼を見て頷きあい、琉偉に応える。
「じゃあ、ポコ!案内よろしくぅ!…街も楽しみだな!」
琉偉は、この世界に来てまだファーランが働いていた宿と、迷宮までの山道以外見ていなかった為少し興奮していた。
「あっ!宴にはギルド長も来たいって言ってたけど…場所とか言ってないよね?…あと、確か…エドガーも誘ってるんでしょ??」
ポコが出発前に琉偉に確認の為、問いを重ねる。
「おう!エドな!そーぉ言えばさっきの騒ぎはの中には居なかったみたいだな?…じゃ、ギルドの受付に伝えとくか?」
「それでしたら…私が受付に行き言伝を頼んできます。」
ファーランが一歩琉偉に近づき名乗り出る。
「それなら頼むよ!ファーラン!…変な男に絡まれたら思いっきり殴って逃げろよ…あと、ついでにミルティスにも伝わるよう頼むよ!」
ついでの様な言い方でサイコエルフの兄弟を思い出しファーランに伝える。
「はい!わかりました。では、少しお待ちください。」
ファーランは颯爽と受付に向かう。
「……おい!ポコ!今は男2人だ!今から行く街には可愛い女子の店は無いのか??」
琉偉はファーランが受付に向かうなりポコにいやらしい大人の顔で問う。
「…ルイ……とびっきりの店があるよぉ!!」
ポコも紅眼を輝かして琉偉に親指を立てる。
「よし!やる気出てきた!!じゃあ、ファーランを先に返して夜は楽しむか!」
「ルイは…少し変わってるけど、そこは普通の男と変わらないんだね…なんか少し安心!」
ポコはハニカミ、安堵の微笑みを琉偉に向ける。
「…お待たせ致しました。言伝は確かに受け付けて貰いました……」
そう慎ましく話すファーランは少し声の音階を落とし、そして何故か暗かった。
「おう!ありがと!ファーラン!じゃあ向かいますか!」
3人はガゼルの大宿に向かい移動する。
「結構歩いたな?まだかポコぉ!腹減って死にそうだぞ…」
黄昏のギルドを出発して約30分程たった頃あいで歩く事に疲労と空腹を感じ、琉偉がポコに子供の様にボヤく。
「もう少しだよぉ!そこの角を曲がれば……ほら!街門が見えて来たよぉ!もうすぐしたら『パーレンの街』だよぉ!」
林道を抜け、一眼に目立つ巨大な大木の角を曲がったら…そこには夜の闇の中に真っ白に輝く、高さは10メートル程の大きな頑丈な門が見えた。
「おお!!でけーなぁ!!あれが街門かぁ!……俺たちの…始まりの街だ!!楽しく行こうぜ!!」
「うん!そうだね!!」
「はい…御主人様。」
琉偉は想像の上を行く、立派な門に興奮し、先頭を歩くポコは目を輝かせ、ファーランははしゃぐ琉偉を横目に微笑んでいた。
「ぉぉ!!間近で観るとやっぱでけー…でも…扉が閉まってんけど、どうするんだ??」
「えっとぉ…正門と裏門は何処の街でも夕方以降は閉まるんだ!でも…ちゃんと入れる場所があるから心配しないでよぉ!ルイ!」
琉偉の問いに、ポコはこの世界の常識を交えつつ答える。
「おっ?あのでかい門の横の白い扉か??」
琉偉は高さ2メートルの程の普通の扉を発見した。
「そうだよぉ!夕方以降はあの門から街入するんだ!…2人とも…ギルドカードを用意しておいて!」
ポコが、琉偉とファーランに指示をして自分も肩に下げる鞄を漁り、銀色の四角い、文字が書かれてる名刺程の『ギルドカード』を手に取る。
「夜は、身分を示す物が無いと街には入れないんだよぉ!」
「そうか!それなら寝てる間に盗賊とかにやられる心配は少なそうだな!」
「安心しちゃダメだよぉ!この街にも悪い奴はいるし、一等地区って言ってたけど、貧しい人も街の中には多いんだ!…大金を持ってるんだから用心しよう!」
ポコは琉偉に気を引き締める様促す。
「はぁーいポコ先生…ってかファーランもギルドカードを持ってるのか??」
真剣さに欠ける返事をした後、不意に琉偉はファーランに声をかける。
「はい。奴隷解放と同時にギルドに登録しました…」
ファーランは、やはり少しだけ元気がなかった。
「ファーラン?もしかして具合でも悪いのか?もし辛いなら宴は明日にして今日は早く休んだ…」
「いえ!!御主人様!私は大丈夫です!!」
琉偉の話が終わる前に、ファーランは瞳に力を入れて断言した。
「そ…そっかぁ!ま…まぁ無理はしないようにな!」
ファーランの迫力に少し押されつつ、琉偉はファーランを気遣かった。
「じゃあ、入るよ!」
『ガチャ』
扉の前に立ったポコは、白い扉のドアノブに小さい手を掛け回した。
『はぁ??なんだって!!!』
ポコが扉を開けた瞬間に、大きな驚き声で出迎えられた。
そこには、若い軽装の冒険者らしき人物と 鈍色に輝く全身鎧の男が話をしていた。
「ん?エドガー??」
全身鎧の男に、琉偉が親切な兄弟の名を呼び声をかける。
「ん?…なんだ?エドガーの知り合いか?…だが、俺はエドガーじゃないぞ。」
鎧の男が鉄仮面を脱ぎ、男らしい豪胆な顔を琉偉に披露する
「俺の名前は『マイト』、エドガーと同じパーレンの衛兵だ!よろしくな!そんで、仕事をさせて貰うぞ…ギルドの登録証か身分が証明出来る物を提出してくれ!」
マイトはニッコリと笑い白い歯を見せ慣れた口振りで仕事をこなす。
「オイラ達は冒険者!…はい!コレが3人分のギルドカードね!」
ポコは事前に預かっていた琉偉とファーランのギルドカードと自分のカードをマイトに渡す。
「よし!確かに預かった!少し待っててくれ!」
そう言ってマイトは四角い石版の様な1メートル四方の台の上にカード並べる。
「あのさぁ!一個…聞いてもいいかな?」
ポコがマイトと話してた軽装備の冒険者らしき人物に声をかける。
「ん?なんだ?坊主?」
「……オイラはこう見えてもちゃんと成人してるんだ!」
「本当かよ!…そりゃ悪かったな!…で何が聞きたいんだ?」
ポコの発言に軽く驚き、謝罪をほのめかし、軽装の男はポコに聞き返す。
「さっき、オイラ達が入ってきた時に驚いてたよね?何かあったの??」
先ほどの声の理由を尋ねる。
「なんだ!?この街で冒険者をやってるのに黄昏の迷宮の制覇を知らないのかぁ?今、町ではこの話題で盛り上がってんだ!!」
軽装の男は嬉々として近々に誕生した迷宮の覇者の話をポコにした。
「へ…へぇーーッッ…それは…驚くだろうね…」
「…なんだ?反応薄いな…さては知ってたな?」
ポコは情報流通の速さに少し動揺したように答える。
だが軽装の男はポコの反応をお気に召さない様子だ。
「じゃあ、更に凄い事を教えてやる!サービスだぞ!
迷宮を制覇したのはなんと………たった2人の冒険者だ!!」
軽装の男はポコ達を驚かせようと、言葉を溜め、衝撃の発言っぽい感じで声を上げる。
「……へ…ヘェ〜ッ!!ほ…本当にぃ!?それはすごいねぇーーっ!!」
ポコは既に知っていると言うか当事者なので親切に教えてくれた情報に棒読みのセリフを吐いた。
「なんだ!!やっぱ知ってたんじゃねぇーか!」
あまりの大根っぷりに軽装の男は落胆する。
「いやぁ…知ってたって言うかぁ…ねぇ??」
ポコは先程から妙に静かな琉偉を見やる。
「おい!にーちゃん!?にーちゃんもそこまで知ってるなら、その冒険者の名前は知ってるのか??」
少しニヤけたと思うと琉偉はいきなり話に入る。
「あぁ…その冒険者の名前は確か…『土龍』のパーティーの連中だ!!どうだ?知らなかっただろ??」
軽装の男は『会心の一撃』並みの情報を琉偉に教えた。
「………」
ポコは少し下を向いていたが琉偉には嬉しそうなポコの横顔が見えていた。
「…はっはっは!!ヤッパリ俺、冒険者が好きになったぞ!!そぉーだよな!!教えてくれてありがとな!!」
琉偉は嬉しかった。自分の名前より先にポコの称号が出た事に。
荒くれ者の冒険者達は琉偉の願いを聞き入れていた。
「おーし!待たせたな!罪人は1人もいない!コレが許可証だ!それと、もし街の中で職質されたら自分のギルドカードを見せろよ?コレを見せればちゃんと検閲を通過した者だと分かるから!」
ギルドカードに記させれてるマナを解析したマイトは3枚のカードに自分のマナを流し、カードは何かの紋章が白く光りそのまま消えた。
「ほらよ!無くすなよ!」
「うん!ありがとうぉ!これで終わりなんだね?…じゃあ、オイラ達は行くよぉ!マイト!」
「ああ!この街で問題は起こすなよ?冒険者!じゃーな!」
ポコは許可書とギルドカードをマイトから受け取ると恥ずかしさを隠す様に足先を街に向けた。
「なんだ?…そそっかしい奴らだな…で!さっきの続きなんだけどな!パーティリーダーは『土龍』の…えっと…『ロコ』!いや…違うな…そうだ!『ポコ』だ!思い出した!『土龍のポコ』って称号が認められたらしい!!カッコいいよな!!」
「……っておい!『ポコ』って言ったか?今…ポコって言ったよな!!??」
「ど…どうしたんだよマイト?そんなに慌てて…」
マイトが激しく動揺しながら軽装の男に確認を取っている。
「…さっきの奴らがその噂の黄昏の覇者の冒険者だよ!!」
「え?はぁ??…えぇーーーーーーーーっ!!!!」
軽装の男は今日一番の声を盛大に上げた。
琉偉達は無事に門を抜けて街の中を歩いていた。
「ほおーっ!人もいっぱいいるなぁ!!想像してたよりも都会だし中々凄い建物が多いな!コレならば…夜の店は期待出来るな…」
琉偉は隣を歩くポコにしか聞こえないぐらいの声で、街並みを眺めて囁いた。
夜の街は魔法灯と呼ばれる街灯に包まれ、多種多様な格好の人々や、冒険者の賑わう酒場の様な店などが有り、三階建ての大きな家や夜でも光り輝く街、中央の赤や黄色に光る噴水など幻想的な異国風景だった。
「スゲーなポコぉ!あの光る噴水とか街灯とかは電気か??」
琉偉は光輝く街並みを視界に捉え、ポコに問う。
「デンキ?って魔法は知らないけど…アレは迷宮の魔物がドロップする魔石や魔核からマナを抽出して生活利用した『魔法道具』だよぉ!…それとあんまりキョロキョロしちゃダメだよ!位の高い貴族様や要人なんかもいっぱい居るから…」
(…ヤッパリ…電気は存在しないのか?マナって何をするにも使用する生活の一部なのか…)
「そうなのか!じゃあ迷宮が近くにある街は全部こんなに栄えてるのか?」
「うん!そうだよぉ!迷宮は宝の山だし、その恩恵も生活利用する事によって凄く栄えるんだ!…人も沢山集まるんだよぉ!商人やオイラ達冒険者も点在する迷宮の近くの街集まるんだ!」
街の大通りを琉偉が物珍しそうに眼を輝かせ子供のように辺りを見渡し、ポコが補足を入れ説明する。
「ヘェ〜…じゃあこのパーレンって街は別格なのかぁ!…あっ!そんでポコもファーランもパーレンの街に来たことがあるのか??」
好奇心に駆られた琉偉は次々と質問をする。
「…オイラは何度かこの街に来ているよ!依頼は迷宮の中だけじゃないんだ!勿論街の中での依頼も存在するんだぁ!」
冒険者の経験が豊富なポコは少し自慢げに琉偉達にドヤりながら話す。
「私は…4年程前に奴隷として最初に連れて来られた場所がここ、パーレンの奴隷市場です…その時、一度だけ街を歩いたのを思い出します…」
ファーランも淡々と過去の記憶を琉偉に答える。
「…悪りぃな…なんか…変な事思い出せたみたいで…ごめんなファーラン…」
琉偉は己の気遣いの無さを恥て、申し訳なさそうにファーランに謝罪をする。
「いえ…そんなこと…私は今、御主人様とポコ様の『家族』として、この街を歩ける事に幸福を感じ、感動してます!」
ファーランは瞳を震わせ、微笑みながら琉偉に答えた。
「オイラもパーレンの街をこんなに堂々と歩くなんて思っても見なかったよぉ!…ルイのおかげだね!」
光輝く街を3人はとても幸せそうに目的地に向けて進む。
しばらく街を眺めながら歩くと、白と黒のモノトーンカラーの近代的で豪華な建物の前でポコが足を止める。
「着いたよぉ!!ここがパーレンでも1、2を争うって言われる大宿だよぉ!貴族様御用達『ガゼルの大宿』さぁ!!!」
琉偉は他の建物より倍程の大きさの建物を見上げると、大きな看板を目にしていた…そこには斧を担ぎヒゲを蓄えた子供の様な絵が描いてあった。
「他とは比べ物にならないぐらいデカいし独創的だな…よし!ここに決定だ!!」
琉偉は、壮観なデザインの、建物を見上げ、感心していた。
「この様な所で宿を取るなんて…恐れ多くて申し訳ないです……」
ファーランは気を咎める。
「なぁ?ファーラン…俺たちは頑張っただろ?今まで我慢して耐えて人の悪意にも負けなかったんだ!だから……喜ぶ時はトコトンやろう!それが前にいた場所のやり方だ!」
「はい…ありがとうございます…御主人様…」
ファーランは少し困った顔をしたあと、ゆっくり花の様に笑った。
「よっしゃ!じゃあポコ!ファーラン!先ずは部屋を取ろう!そしてゆっくりコレからの『作戦会議』だ!!」
琉偉達は明るい未来に胸を踊らせ重厚な扉を抜けて受付に向かった。