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『迷宮街』と『ガゼルの大宿』


黄昏たそがれ迷宮めいきゅうのギルド受付うけつけロビーにて新たな英雄えいゆう誕生たんじょう冒険者達ぼうけんしゃたち祝福しゅくふく激励げきれいの言葉を発する中、怒りに震える冒険者が皆の注目ちゅうもくを集めた。


「おい!俺たちを忘れちゃいないよな??」


スキンヘッドの冒険者カルロが琉偉に向け、殺気さっきを乗せて言葉ことばはなつ。


「よぉ!皆んな…聞いてくれ!!こいつの話は真っ赤なうそだ!!…こんなヤローを信用しんようするなバカども!」


カルロは見下す様に、扇動せんどうするようにほかの冒険者に大声おおごえのたった。


「いきなり出てきて嘘ってなんだよ!さっきの話が嘘なら守護龍しゅごりゅう一体いったい誰が討伐とうばつしたんだ!嘘と言い切るなら説明せつめいしろ!!このハゲ!」


琉偉とポコの熱い友情ゆうじょうに涙を流し、聴いていた1人の若い冒険者がカルロに食ってかかった。



「じゃあ、真実しんじつを教えてやるよ!!そこの金髪きんぱつ女獣人おんなしゅうじんに黄昏の水晶石の回収かいしゅう依頼クエストを出したのは……何を隠そう…この俺だ!!」



カルロは自信満々に真実しんじつを暴く正義せいぎ味方みかたの様な口ぶりで冒険者達に『英雄えいゆういつわ疑惑ぎわく』の『間違った真相しんそう』を皆に伝える。



「それを、そこのクソ黒髪くろかみのヤローに出し抜かれたんだ!!」



「そうだ!コイツらはグルだったにちげぇーねぇー」



つば飛ばし、カルロが群衆ぐんしゅうのたまう。


「……それ本当ほんとうかよ!それが本当なら『英雄えいゆう』どころか契約違反けいやくいはんの『罪人ざいにん』だぞ!!」



『ああ…もしそれが本当なら罪人だ…』


『なんだよぉ…偽物にせものかよ!』



冒険者の1人が驚いた声がロビーに響き、カルロの話が、先程さきほどの『熱き友情ゆうじょう冒険譚ぼうけんたん』が『いやしい冒険者の詐欺話さぎばなし』に変わる可能性を、息を呑み話を聴く冒険者達に感じさせた。



「あぁ…だから、こいつらをギルドに突き出す!!」



「そして…俺たちが手にするはずだった聖金貨せいきんか20枚も俺たちのもんだ!!」



カルロは口角こうかくを上げて己の幸福を噛みしめる様に琉偉を見下した。



「てめー…取り消せよ…」




琉偉が小さく…そして感情を殺した様に呟く。




「あ?今更何いまさらなにを取り消すんだ?お前のした詐欺話さぎばなしをか?それとも嘘つきの英雄を気取きどったことか?」



「何が『土龍どりゅうのポコ』だ!?嘘つきの馬鹿ばか話じゃねーか!」



カルロは、勝ち誇り見えていなかった。



【……ころ……】



琉偉の周りに黒い霧を纏っている事を。



【………せ…】



「……どれでもねぇーんだよ!!カスヤロー…オレ家族なかまを馬鹿にした事だよ!!!クソヤロー!…『ドン』!!」


「うぅぐぉぉぉぉぉ」


カルロが大理石だいりせきの冷たい床に沈む。



琉偉は自分よりふた回り程大きいカルロの鍛え上げられたはらを右拳で殴りつけていた。


「…おい……早く取り消せ…次は殺すぞ?」


「か…カルロ…」


「ヒィーーッ…」


苦しむ仲間カルロを見つつ、底冷そこびえした琉偉のこえにカルロの仲間達は萎縮いしゅくし小刻みに震える。



『おい!なんだあのマナ?黒いぞ!!見間違いか?』


『それにしても殴るトコ見えたか??』


『…いや…見えなかった。』


『本当に…人族ひとぞく…だよな?』



冒険者達は、目の前の事態じたい認識にんしき出来なかった。


その時、1人の麗人…金髪の獣人が琉偉の視界しかいに入る。


いかりを抑えて下さい…御主人様ごしゅじんさまこのものは恐らく…勘違かんちがいされています。」


「悪りぃ…ファーラン…下がってくれ…こいつはポコとファーランのこころを踏みにじった…絶対ぜったいに許せねぇ…」


(!!!??なんだ…?またこれか?…)


琉偉は静かに語る…そして心の中で『何か』がささやく声を感じた…冷たく何を言ってるのかは聞き取れない。


だが、間違いなく何かが琉偉の中でうごめいてる。



「こいつらは…多分たぶんファーランが迷宮のお宝を回収出来ると思って依頼クエストを出したんじゃない。ファーランをめる気だったんだと俺は思ってる。」



琉偉は怒りを抑え、冷静なフリをしている。


身体の異変こえ気付きずいたからだ。



「…俺が前にいたところに…こんな奴は腐る程いた…ひとの心を踏みにじり…弱みに付け込み…そしてカネ尊厳そんげんを奪っていくやからだ……。」


ファーランは無言むごんうつむく…恐らくファーランも気付いていた。依頼クエスト達成たっせい出来なかった時はどうなるのか。



「俺は金で解決かいけつ出来ればそれで良いと思った…だけどいまは違う!この2人は俺の唯一の家族かぞくで守るべききずなだ!」


琉偉に、更に濃く黒い霧がまとわりつく。


「ル…ルイ!!ダメだ!オイラ達は平気さぁ!だから…それ以上やったら…その人死んじゃうよぉ!ルイ!!!」


「御主人様…」




ポコがあり得ないマナと殺意を放つ琉偉に思わず割って入り、ファーランは琉偉を止められない。



琉偉が血走ちばしったを細め、更に殺気さっきこぶしに載せる。



「…おっと…そこまでにしてもらえないか?兄弟!」



琉偉が意識が朦朧もうろうとするカルロを再度さいど殴る寸前、それを止める聞き覚えのある声がロビーにひびく。


「ギルドの中で暴力沙汰とは感心しないぞ!『兄弟』!」



そこにはギルド長のミルティスがいた、余裕を見せた声を琉偉に届ける。



「……それは10分前の自分てめーに言ってやれ!!」



琉偉は、冒険者達の前に歩み出でてくる、先程の失恋しつれんサイコエルフのみどりの眼に視点を合わせ、軽く笑いツッコミを入れた。



「ふっ…やはりな……兄弟が理由わけもなく暴れる人種じんしゅには見えないからな。演技えんぎなんだろ?兄弟きょうだい!」



自信満々に何かを勘違いしてるミルティス。



「お前ら聞け!…我が友、『冒険者ルイ』は最下層さいかそう守護龍しゅごりゅう撃破げきは黄昏たそがれ水晶石すいしょうせきを持ち帰った冒険者だ…これはギルドが確認した…事実だ!!」



ミルティスは誇らしげに琉偉の功績こうせきたたえた。



「まっ…待ってくれ!!水晶石は俺たちが出した依頼クエストで手に入れているはずなんだ!!」



琉偉に腹を殴られ、瀕死ひんしの冒険者カルロがミルティスの足にすがりつく。



貴方あなたは勘違いなされてます。」


そこにファーランが喋り出す。



「か…勘違いだと!?」



「はい…わたしは最下層で守護龍にはばまれ…死にかけていました。」


ファーランはゆっくり事実じじつをカルロに告げる。


「そこに、御主人様とポコ様が現れ救出きゅうしゅつしてくださいました……その後、水晶石は御主人様が発見はっけん取得しゅとくしたものです。」



ファーランが光る瞳でカルロを見定め、伝える。



「おい…貴様きさまらは魔法契約まほうけいやくむすんでいなかったのか??」



ミルティスが足に縋り付くカルロに琉偉に向ける声質とは違う声で問う。



「ま…魔法契約ならちゃんとしたぞ!!そ…それがなんだ!?」



カルロは苦しそうに息を切らしながらミルティスに答える。



「…ギルドは…希少きしょうなアイテムの買取時かいとりじ盗品とうひん可能性かのうせい危惧きぐしてアイテムのマナを解析かいせきし、アイテムに最初に触れた取得者しゅとくしゃ情報確認じょうほうかくにんする…その時に当然、契約違反の罪人かどうかも調べる。」



ミルティスは静かに無表情でカルロを見る。



「貴様には残念だが…契約違反なし!!取得者も申告通しんこくどうりにルイであった!コレは我が黄昏のギルドが正式に公表こうひょうする事実じじつだ!」


ミルティスは大声で断言した。


「そんなぁ…俺の…聖金貨20枚が…」



ミルティスの足にすがりついてたカルロが力無く両手を冷たい大理石につける。



「それと、貴様らは弱者じゃくしゃから多額たがく金銭きんせん違法搾取いほうさくしゅ容疑ようぎが掛かっている。覚悟かくごしろ!!…衛兵えいへい!!この者達をギルドに連行し、尋問じんもんしろ!」


「「ハッ!」」



「ちくしょう…」



ミルティスは近くにいた2人の衛兵に拘束を命じカルロ達は静かに力無く頭を下げ、腕を掴まれ連行された。



「……まぁ…いいか!収まりつくなら大人しくしとくかな!」



琉偉はミルティスの采配さいはいを受け入れた。



「さぁ…これにて騒ぎは終わりだ!!」



各冒険者にミルティスは騒動そうどうの終を発した。




「んで?ミルティスは何しに戻って来たんだ?ギルド長様は余程暇を持て余してるのかぁ?」



まだ少しモヤモヤが取りきれない琉偉がミルティスに嫌味いやみを乗せた軽口かるくちを叩く。



「…そんな言い方しないでくれ…兄弟!…要件という程じゃ無いんだが、兄弟達はこの街に拠点きょてんはあるのか?」



唐突とうとつにミルティスは琉偉に問う。



「ああ…泊る所はあったんだけど…その…なんつーか…訳ありで戻れないから新しくどこか探す予定よていだ…」



ファーランの件で店主を殴ってしまった琉偉は気まずそうに…歯切れ悪くミルティスに答えた。



「ほう…ならすこぶるいい話があるぞ…丁度ちょうど、ギルドが所有しょゆうしている空き物件ぶっけんがあるのだが、どうやら悪党あくとう占拠せんきょされているらしい…もしも取り戻せたら兄弟の好きにしていいぞ!…悪い話では無いだろ?」


ミルティスは、発声良く、有益ゆうえき情報じょうほうを琉偉の元に届ける。



「へぇ…本当かよ!!分かった!その話に乗ってやる!!」


「ち…ちょっとルイ!詳しく内容ないようも聞かないで依頼クエスト受注しちゃダメだよぉ!」



琉偉が先走りお得そうな情報に喜び、騒動の終わりにそっと息をついていたポコが注意をうながす。



「…エルフ族のほこりと名誉めいよにかけて兄弟達に不利益ふりえき事柄ことがらでは無いとここに誓う。」



言葉に力を込め、真剣しんけんかおでミルティスは誓いを立て真っ直ぐな口調で琉偉に言った。



「おう!信じるぜ!」


琉偉は目尻めじりしわを作り笑って誠実なエルフに応えた。



「では、詳しい話はギルド受付の『ララ』と言う受付に伝えておく!準備じゅんび出来次第できしだいギルドに顔を出してもらおう……それと…今宵こよいうたげわたし参加さんかさせて貰うぞ!はっはっは!…楽しみだな!では、後程のちほど!兄弟!……それと…今日はもう問題を起こさないでくれよ?」



ミルティスは満足まんぞくげに宴への参加さんか表明ひょうめいした後、少しだけ心配そうに琉偉に釘をさし立ち去った。



「…なんか…ルイ…凄くギルド長に好かれてない?」



ポコは足取り軽く去ってくミルティスの後ろ姿を見て琉偉に自分の心に産まれた疑問を投げかける。


「ん?そうなのか?人懐ひとなつっこいだけだろ?」


あっけらかんとして口を開く琉偉。


「…う〜ん…これはうわさなんだけど…ギルド長って冒険者の前では絶対笑わないってはなしだったんだけど…」


ポコが評判とは異なるエルフの態度を不思議がる。


「いやいや…それガセネタだろ!アイツ、終始ずっとニコニコしてたけど?」


「…うん…だから少し気味きみが悪いよね…」


琉偉は、ミルティスの対応たいおうを思い出し、 ポコが少し考えながら寒気さむけを感じ呟いた。



「さぁ…取り敢えず要件は片付いたし、寝床ねどこ確保かくほしてお楽しみのうたげと行くか!」



琉偉はポコとファーランに向かい、精悍せいたんな口調と持ち前の『いい顔』で移動を促す。




「あの…御主人様…本当にすみませんでした…それと宿やどを見つけたら、少し私に時間じかんをもらえませんか??」



ファーランは先程の一件を謝り琉偉に真面目な顔つきで少し恥ずかしそうに口ごもる。



「ファーラン…俺も悪かったよ…こんなにキレるとは自分でも思ってなかった…あっ!それと俺たちはもう『家族かぞく』だぞ?もっと砕けた感じで行こうぜ!あの時テンパってになったファーランも超絶可愛かったぜ!」


琉偉はファーランの『テンパり』をしっかりと楽しんでいた。


「…あ…あの……すみ……御主人様は…意地悪いじわるです……宿に着いたら…約束ですよ…」



(ん〜っ…今のを録画して、寝る前に4回は鑑賞したいぜ…くそ!なんで携帯ケータイ持ってないんだ…一生の不覚!!)



思わず謝りかけたファーランだったが途中で琉偉の笑顔の真意を悟り恥ずかしさを隠すように上目づかいで琉偉と約束を交わす。だが琉偉の心はファーランを見てすこぶるえていた…。



「なぁ?ポコぉ!どっか豪勢ごうせい安心あんしんして泊まれて尚且なおかつメシの旨い所ねぇーのか??あるならそこにしようぜ!」


琉偉がポコに問う。


「う〜んっ…それなら、まち一等地区いっとうちくの『ガゼルの大宿おおやど』って言う宿が評判高いよぉ!?でも、1泊『銀貨ぎんか』5枚もするよ?貴族様きぞくさまも泊まるから安全あんぜん確実かくじつだけど…どうするのぉ?」



ポコは自分の知り得る中で一番の宿を琉偉に伝えた。


「なぁ…ポコ…銀貨ぎんかってどれくらいの価値かちだ?」


「えっ?……はい?……」


「ご…御主人様?」


琉偉の『この世界』の常識外れな問いに、ポコが唖然とし、ファーランは琉偉を眺めて細い声で名を呼ぶ。


「…ははっ…やっぱりおかしいよな!?まっ!取り敢えず宿屋やどやに行こう…そこで2人に俺からも話がある!!」


琉偉は、絆を結んだ家族に異なる世界からの移転を伝えるつもりだ。琉偉は家族に自分と言う人間を知ってもらいたかった。



「うん!」

「はい…分かりました!」


ポコとファーランはお互いの眼を見て頷きあい、琉偉に応える。



「じゃあ、ポコ!案内あんないよろしくぅ!…街も楽しみだな!」



琉偉は、この世界に来てまだファーランが働いていた宿と、迷宮までの山道さんどう以外見ていなかったため少し興奮こうふんしていた。





「あっ!宴にはギルド長も来たいって言ってたけど…場所とか言ってないよね?…あと、確か…エドガーも誘ってるんでしょ??」



ポコが出発前しゅっぱつまえに琉偉に確認の為、問いを重ねる。



「おう!エドな!そーぉ言えばさっきの騒ぎはの中には居なかったみたいだな?…じゃ、ギルドの受付に伝えとくか?」



「それでしたら…わたしが受付に行き言伝ことずてを頼んできます。」


ファーランが一歩琉偉に近づき名乗り出る。


「それなら頼むよ!ファーラン!…変なやつに絡まれたら思いっきり殴って逃げろよ…あと、ついでにミルティスにも伝わるよう頼むよ!」



ついでの様な言い方でサイコエルフの兄弟を思い出しファーランに伝える。


「はい!わかりました。では、少しお待ちください。」


ファーランは颯爽さっそうと受付に向かう。


「……おい!ポコ!今はヤロー2人だ!今から行く街には可愛い女子チャンネーの店は無いのか??」



琉偉はファーランが受付に向かうなりポコにいやらしい大人おとなの顔で問う。


「…ルイ……とびっきりの店があるよぉ!!」


ポコも紅眼せきがんを輝かして琉偉に親指おやゆびを立てる。


「よし!やる気出てきた!!じゃあ、ファーランを先に返して夜は楽しむか!」



「ルイは…少し変わってるけど、そこは普通ふつうの男と変わらないんだね…なんか少し安心!」




ポコはハニカミ、安堵の微笑みを琉偉に向ける。





「…お待たせ致しました。言伝は確かに受け付けて貰いました……」



そうつつましく話すファーランは少し声の音階を落とし、そして何故か暗かった。



「おう!ありがと!ファーラン!じゃあ向かいますか!」



3人はガゼルの大宿に向かい移動する。






結構けっこう歩いたな?まだかポコぉ!腹減って死にそうだぞ…」



黄昏のギルドを出発して約30分程たった頃あいで歩く事に疲労と空腹を感じ、琉偉がポコに子供の様にボヤく。



「もう少しだよぉ!そこの角を曲がれば……ほら!街門がいもんが見えて来たよぉ!もうすぐしたら『パーレンのまち』だよぉ!」



林道りんどうを抜け、一眼ひとめに目立つ巨大な大木たいぼくの角を曲がったら…そこには夜の闇の中に真っ白に輝く、高さは10メートル程の大きな頑丈がんじょうもんが見えた。


「おお!!でけーなぁ!!あれが街門がいもんかぁ!……俺たちの…始まりの街だ!!楽しく行こうぜ!!」


「うん!そうだね!!」



「はい…御主人様。」



琉偉は想像の上を行く、立派りっぱな門に興奮し、先頭を歩くポコは目を輝かせ、ファーランははしゃぐ琉偉を横目に微笑んでいた。



「ぉぉ!!間近まじかで観るとやっぱでけー…でも…とびらまってんけど、どうするんだ??」


「えっとぉ…正門せいもん裏門うらもん何処どこの街でも夕方以降ゆうがたいこうは閉まるんだ!でも…ちゃんと入れる場所があるから心配しないでよぉ!ルイ!」




琉偉の問いに、ポコはこの世界の常識を交えつつ答える。



「おっ?あのでかい門の横の白い扉か??」


琉偉は高さ2メートルの程の普通の扉を発見した。



「そうだよぉ!夕方以降はあの門から街入まちいりするんだ!…2人とも…ギルドカードを用意よういしておいて!」



ポコが、琉偉とファーランに指示をして自分も肩に下げる鞄を漁り、銀色の四角い、文字が書かれてる名刺めいし程の『ギルドカード』を手に取る。



「夜は、身分みぶんしめものが無いと街には入れないんだよぉ!」



「そうか!それならてるあいだ盗賊とうぞくとかにやられる心配しんぱいは少なそうだな!」


安心あんしんしちゃダメだよぉ!この街にも悪い奴はいるし、一等地区って言ってたけど、まずしい人も街の中には多いんだ!…大金たいきんを持ってるんだから用心ようじんしよう!」



ポコは琉偉に気を引き締める様促す。



「はぁーいポコ先生…ってかファーランもギルドカードを持ってるのか??」



真剣さに欠ける返事をした後、不意ふいに琉偉はファーランに声をかける。



「はい。奴隷解放どれいかいほう同時どうじにギルドに登録とうろくしました…」



ファーランは、やはり少しだけ元気がなかった。



「ファーラン?もしかして具合ぐあいでも悪いのか?もしつらいならうたげ明日あしたにして今日は早く休んだ…」


「いえ!!御主人様!わたしは大丈夫です!!」



琉偉の話が終わる前に、ファーランは瞳に力を入れて断言だんげんした。



「そ…そっかぁ!ま…まぁ無理むりはしないようにな!」



ファーランの迫力はくりょくに少し押されつつ、琉偉はファーランを気遣きづかった。




「じゃあ、入るよ!」


『ガチャ』


とびらの前に立ったポコは、白い扉のドアノブに小さい手を掛け回した。



『はぁ??なんだって!!!』



ポコが扉を開けた瞬間しゅんかんに、大きな驚き声で出迎でむかえられた。


そこには、若い軽装の冒険者らしき人物と 鈍色に輝く全身鎧フルプレートの男が話をしていた。


「ん?エドガー??」


全身鎧フルプレートの男に、琉偉が親切な兄弟の名を呼び声をかける。


「ん?…なんだ?エドガーの知り合いか?…だが、俺はエドガーじゃないぞ。」



鎧の男が鉄仮面てっかめんを脱ぎ、男らしい豪胆こうたんな顔を琉偉に披露ひろうする



「俺の名前は『マイト』、エドガーと同じパーレンの衛兵だ!よろしくな!そんで、仕事しごとをさせて貰うぞ…ギルドの登録証とうろくしょか身分が証明しょうめい出来る物を提出ていしゅつしてくれ!」



マイトはニッコリと笑い白い歯を見せ慣れた口振りで仕事をこなす。



「オイラ達は冒険者!…はい!コレが3人分のギルドカードね!」



ポコは事前に預かっていた琉偉とファーランのギルドカードと自分のカードをマイトに渡す。



「よし!確かに預かった!少し待っててくれ!」


そう言ってマイトは四角い石版の様な1メートル四方の台の上にカード並べる。


「あのさぁ!一個…聞いてもいいかな?」


ポコがマイトと話してた軽装備の冒険者らしき人物に声をかける。


「ん?なんだ?坊主ぼうず?」


「……オイラはこう見えてもちゃんと成人してるんだ!」


「本当かよ!…そりゃ悪かったな!…で何が聞きたいんだ?」


ポコの発言に軽く驚き、謝罪をほのめかし、軽装の男はポコに聞き返す。



「さっき、オイラ達が入ってきた時に驚いてたよね?何かあったの??」



先ほどの声の理由わけを尋ねる。



「なんだ!?この街で冒険者をやってるのに黄昏の迷宮の制覇せいはを知らないのかぁ?今、町ではこの話題わだいで盛り上がってんだ!!」


軽装の男は嬉々として近々に誕生した迷宮の覇者はしゃの話をポコにした。


「へ…へぇーーッッ…それは…驚くだろうね…」


「…なんだ?反応はんのう薄いな…さては知ってたな?」



ポコは情報流通の速さに少し動揺どうようしたように答える。

だが軽装の男はポコの反応をお気に召さない様子ようすだ。



「じゃあ、更に凄い事を教えてやる!サービスだぞ!

迷宮を制覇したのはなんと………たった2人の冒険者だ!!」



軽装の男はポコ達を驚かせようと、言葉を溜め、衝撃しょうげき発言はつげんっぽい感じで声を上げる。



「……へ…ヘェ〜ッ!!ほ…本当にぃ!?それはすごいねぇーーっ!!」


ポコは既に知っていると言うか当事者なので親切に教えてくれた情報に棒読みのセリフを吐いた。



「なんだ!!やっぱ知ってたんじゃねぇーか!」



あまりの大根っぷりに軽装の男は落胆らくたんする。


「いやぁ…知ってたって言うかぁ…ねぇ??」


ポコは先程からみょうに静かな琉偉を見やる。



「おい!にーちゃん!?にーちゃんもそこまで知ってるなら、その冒険者の名前は知ってるのか??」



少しニヤけたと思うと琉偉はいきなり話に入る。



「あぁ…その冒険者の名前は確か…『土龍』のパーティーの連中だ!!どうだ?知らなかっただろ??」


軽装の男は『会心かいしん一撃いちげき』並みの情報を琉偉に教えた。


「………」


ポコは少し下を向いていたが琉偉には嬉しそうなポコの横顔が見えていた。



「…はっはっは!!ヤッパリ俺、冒険者おまえらが好きになったぞ!!そぉーだよな!!教えてくれてありがとな!!」



琉偉は嬉しかった。自分の名前より先にポコの称号が出た事に。


荒くれ者の冒険者達は琉偉の願いを聞き入れていた。



「おーし!待たせたな!罪人は1人もいない!コレが許可証きょかしょだ!それと、もし街の中で職質されたら自分のギルドカードを見せろよ?コレを見せればちゃんと検閲を通過した者だと分かるから!」



ギルドカードに記させれてるマナを解析したマイトは3枚のカードに自分のマナを流し、カードは何かの紋章が白く光りそのまま消えた。


「ほらよ!無くすなよ!」



「うん!ありがとうぉ!これで終わりなんだね?…じゃあ、オイラ達は行くよぉ!マイト!」



「ああ!この街で問題は起こすなよ?冒険者!じゃーな!」


ポコは許可書とギルドカードをマイトから受け取ると恥ずかしさを隠す様に足先を街に向けた。



「なんだ?…そそっかしい奴らだな…で!さっきの続きなんだけどな!パーティリーダーは『土龍』の…えっと…『ロコ』!いや…違うな…そうだ!『ポコ』だ!思い出した!『土龍のポコ』って称号が認められたらしい!!カッコいいよな!!」


「……っておい!『ポコ』って言ったか?今…ポコって言ったよな!!??」



「ど…どうしたんだよマイト?そんなに慌てて…」



マイトが激しく動揺しながら軽装の男に確認を取っている。



「…さっきの奴らがそのうわさの黄昏の覇者の冒険者だよ!!」


「え?はぁ??…えぇーーーーーーーーっ!!!!」


軽装の男は今日一番きょういちこえを盛大に上げた。



琉偉達は無事に門を抜けて街の中を歩いていた。



「ほおーっ!人もいっぱいいるなぁ!!想像してたよりも都会だし中々凄い建物が多いな!コレならば…夜の店は期待きたい出来るな…」



琉偉は隣を歩くポコにしか聞こえないぐらいの声で、街並みを眺めてささやいた。



よるの街は魔法灯まほうとうと呼ばれる街灯がいとうに包まれ、多種多様な格好の人々や、冒険者の賑わう酒場の様な店などが有り、三階さんかい建ての大きな家や夜でも光り輝く街、中央ちゅうおうの赤や黄色に光る噴水ふんすいなど幻想的げんそうてきな異国風景だった。



「スゲーなポコぉ!あの光る噴水とか街灯とかは電気でんきか??」


琉偉は光輝く街並みを視界に捉え、ポコに問う。



「デンキ?って魔法は知らないけど…アレは迷宮の魔物がドロップする魔石や魔核コアからマナを抽出して生活利用せいかつりようした『魔法道具まほうどうぐ』だよぉ!…それとあんまりキョロキョロしちゃダメだよ!位の高い貴族様や要人なんかもいっぱい居るから…」



(…ヤッパリ…電気は存在しないのか?マナって何をするにも使用する生活の一部なのか…)


「そうなのか!じゃあ迷宮が近くにある街は全部ぜんぶこんなにさかえてるのか?」



「うん!そうだよぉ!迷宮はたからの山だし、その恩恵おんけいも生活利用する事によって凄く栄えるんだ!…ひと沢山たくさん集まるんだよぉ!商人やオイラ達冒険者も点在する迷宮の近くの街集まるんだ!」


街の大通りを琉偉が物珍しそうに眼を輝かせ子供のように辺りを見渡し、ポコが補足を入れ説明する。



「ヘェ〜…じゃあこのパーレンって街は別格なのかぁ!…あっ!そんでポコもファーランもパーレンの街に来たことがあるのか??」


好奇心こうきしんに駆られた琉偉は次々と質問しつもんをする。


「…オイラは何度なんどかこの街に来ているよ!依頼クエストは迷宮の中だけじゃないんだ!勿論もちろん街の中での依頼クエスト存在そんざいするんだぁ!」



冒険者の経験が豊富なポコは少し自慢げに琉偉達にドヤりながら話す。



わたしは…4年程前に奴隷どれいとして最初に連れて来られた場所がここ、パーレンの奴隷市場どれいいちばです…その時、一度だけ街を歩いたのを思い出します…」


ファーランも淡々と過去の記憶を琉偉に答える。



「…悪りぃな…なんか…変な事思い出せたみたいで…ごめんなファーラン…」


琉偉はおのれの気遣いの無さを恥て、申し訳なさそうにファーランに謝罪をする。



「いえ…そんなこと…私は今、御主人様とポコ様の『家族』として、この街を歩ける事に幸福こうふくを感じ、感動かんどうしてます!」



ファーランは瞳を震わせ、微笑みながら琉偉に答えた。



「オイラもパーレンの街をこんなに堂々と歩くなんて思っても見なかったよぉ!…ルイのおかげだね!」



光輝く街を3人はとても幸せそうに目的地もくてきちに向けて進む。



しばらく街を眺めながら歩くと、しろくろのモノトーンカラーの近代的きんだいてきで豪華な建物の前でポコが足を止める。



「着いたよぉ!!ここがパーレンでも1、2を争うって言われる大宿おおやどだよぉ!貴族様きぞくさま御用達ごようたつ『ガゼルの大宿おおやど』さぁ!!!」




琉偉は他の建物より倍程の大きさの建物たてものを見上げると、大きな看板かんばんを目にしていた…そこにはおのかつぎヒゲを蓄えた子供の様な絵が描いてあった。



ほかとは比べ物にならないぐらいデカいし独創的どくそうてきだな…よし!ここに決定だ!!」



琉偉は、壮観そうかんなデザインの、建物たてものを見上げ、感心かんしんしていた。



「このような所で宿やどを取るなんて…恐れ多くて申し訳ないです……」


ファーランはとがめる。


「なぁ?ファーラン…俺たちは頑張っただろ?今まで我慢がまんして耐えて人の悪意あくいにも負けなかったんだ!だから……喜ぶ時はトコトンやろう!それがまえにいた場所のやり方だ!」



「はい…ありがとうございます…御主人様…」



ファーランは少し困った顔をしたあと、ゆっくりはなの様に笑った。



「よっしゃ!じゃあポコ!ファーラン!先ずは部屋へやを取ろう!そしてゆっくりコレからの『作戦会議さくせんかいぎ』だ!!」



琉偉達は明るい未来みらいに胸を踊らせ重厚じゅうこうとびらを抜けて受付に向かった。



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