『交渉』と『エルフ』
「お待たせ致しました。次の方どうぞ」
それは業務的で、抑揚の無い同じ音階の声が、黄昏のギルドの受付ロビーに小さく響いた。
「よぉ!早速さっきの説明の続き聞きにきたぜ!」
琉偉はギルドカードの手続きをしてくれた受付嬢の元に来ていた。
「……あっ!金色のマナの異国の新人冒険者!」
呼び出しの声とは打って変わって、感情豊かに受付嬢に指を刺され驚かれる琉偉達一行、その様を見て琉偉がポコと視線を交わす。
「おい…ねぇーちゃん!随分な言い方だな?接客の心得を叩き込みたいぜ!…だけどなぁ…新人だなんだって言うのは、数時間前の話だ!!なぁ?ポコぉ!」
琉偉はポコを呼ぶときロビーで一際大きい声で宣った。
「…そうさぁ!皆んなぁ!聞いてくれ!オイラ達は最下層の守護龍を倒して見事…黄昏の水晶石を手に入れた!!」
ポコはギルドのロビーで、どこかセリフじみた雄勇な高い声を響かせる。
『お?なんだ…なんだ?』
『あのガキ今、黄昏の水晶石って言ったか??』
『ハハっ!どっかのホラ吹きが騒いでんな?』
『そうだよな?』
『当たり前だろ!』
『どこのパーティの酔っ払いだ?』
『ガセネタに決まってる、なんせ…守護龍自体、何百年も復活してないって話だぜ?第一最下層の通路の出現場所を探し当てる事事態が奇跡だろ?ガセネタか大嘘に決まってる…』
『でも、あの赤髪のガキ…手になんか持ってないか??』
黄昏のギルドのロビー居た冒険者達は、ポコの言葉に注目して集まり、面白おかしく、冗談半分に聴き、口々に嘘だと笑い飛ばした。
「ふっふっふ!よく見てぉ!!コレが証拠さぁ!!」
ポコは自信満々に水晶石を天高らかに掲げた。
『!!!おい!アレ…本物じゃないか??』
『う…嘘だろ!!最下層って』
『おい!誰か鑑定のスキル持ちいないか?アレを確かめろ!!』
『うっはぁ…こりゃスゲーもん見たな!』
『スゲー!英雄だ!!なんだあのパーティー??知らないぞぉ!!』
『あの溢れ出すマナ…本物だぞ!!!』
冒険者達はざわつき、狼狽え、そして最後には羨望の眼差しで、琉偉達に拍手喝采を送る。
「あ…あの…先程は大変失礼致しました…宜しければギルドの中の応接間までお越し願えませんか??…もちろんその場で金貨はお支払いします。案内致します、こちらへどうぞ。」
完全に思考を停止させていたギルドの受付嬢が己の職務を思い出し、ようやく冷静さを取り戻す。
「よし!ポコの言った通りだな!気を引き締めていくぜ!」
琉偉がポコに向かって笑い飛ばす。
「ここまでおおっぴらに公表すれば大金を持つオイラ達をどうこうしようする輩を減らせるし、ギルドも丁重に扱ってくれるからねぇ!」
琉偉とポコは受付に行く前にポコの提案でこの状況を故意に作り出していた。
豪華な調度品などが並ぶ大層な作りの部屋に案内された3人は見ただけで分かる高級ソファーに座るよう促された。
「金が有り余ってるッ〜ぅ感じだな…こりゃ相当ボロ儲けだな冒険者ギルドめ…」
琉偉は少し悪い顔をしていた。
ポコとファーランは少し緊張気味にソファーに背筋を伸ばして座っていた。
すると程なくして1人の整った上品な顔に、短かい金髪、耳先が尖った翠の瞳をした若い男と、大きな胸を強調し歩くたびに揺れ動く魔性の黒いドレスを着た20代後半ほどの美しい白髪の女性が応接間に入ってくる。
「ほう…話には聞いたが…相当に若いな?貴殿はどこの国の騎士の所属だ?…いや…すまない…自己紹介が先だったな!…私はここの黄昏のギルドの長、ギルド長を務める『ミルティス』だ。初見の詮索を許してくれ!」
ミルティスと名乗るギルド長は軽く頭を下げる。
「いや…いいよ!若いだのガキだのコッチ来て言われ慣れたしな……んで?俺たちの要件は迷宮のお宝の買取交渉って認識でいいんだよな?早速始めたいんだが?」
琉偉は相手に見下されないよう少し頭のいい振りを心がけた。
コレは琉偉の生きてきた世界での常識であった。
(兄貴の買取交渉の仕事に付き合わされた経験がこんな所で役立つなんて思ってもみなかったな…)
数ヶ月の経験をフル活用して琉偉は余裕をみせる。
「あ…あぁ…待たせてすまない。早速始めよう…こちらで検討した結果、多少の上乗せとして『モーリル聖金貨7枚』でギルドは黄昏の水晶石を買い取ろう!」
ミルティスは顔に一瞬だけ笑みを浮かべ爽やかな顔で琉偉達を見つめた。
「!!やったよぉ!!ルイ!!聖金貨7枚!!オイラ達はちょっとした御大臣だよぉ!!お金持ちだ!!やったよぉ!!」
ポコがソファーから立ち上がり紅眼を輝かせ、嬉々として興奮する。
ファーランは金色の瞳と、小さい口を目一杯広げて思考を停止させていた。
そしてミルティスは琉偉を見て自信満々に口にする。
「では、交渉成立ですね?手続きが有りますので早急によろしくお願いします。さぁ…水晶石の提示を…」
「…いや…待て…悪いが水晶石は売れない…交渉は決裂だ!!」
そう声を低く、琉偉はミルティスに眼を細め言い切った。
「な…なっ…何故ですか!?こちらは相場よりも高く買い取ると言っているのですよ?何か問題でもありましたか??わ…我々は貴殿の最大の功績に見合う金額を提示しています。もしもこちらに不手際があるならば申してください。それと正式に断るならハッキリとした理由をお聞かせ下さい。」
ミルティスは意表を突いた琉偉の答えを聞いて口早にまくし立てた。
「…あんた気づいてないのか??急ぎ過ぎだ…それに俺が交渉を蹴った時に眼が泳いでたし…ポコが喜んだ時、口元がにやけてたぜ?それに、なんで『上乗せ』なんてしてくれるんだ?……普通に考えて、やましい事があるからだよな?……それによぉ…最初から最後まで喋りすぎだ…あんた、わかりやしーんだよ!!」
琉偉が交渉中に感じたのは違和感だった。
「なぁ?一個教えてやる…売買の主導権ってのは基本的に売る側と、買う側のどっちの方が情報を多く持ってるかで決まる。」
琉偉はドヤりながらテーブルに足を上げ不敵な笑みでミルティスを見やる。
「それとな?…交渉ってのは取引相手の最初に出た言葉を疑え、って言う常識的な物があるんだよ!……本当はもっと出せるんだろ?……じゃなきゃこんな金の掛かった部屋を作れる訳ないよな?…本当の買取上限を教えてくれよ!交渉はここからが本番だぜ!ギルド長さんよぉ?」
ソファーに踏ん反り返り腕を組んでカッコ付けながら、琉偉は現世で兄貴に言われた事と全く同じ事をさも自分が言ったようにギルド長ミルティスに言葉をぶつけた。実は…ただの虚仮威しのハッタリだ。
「………フッ…うふふふっ…どうやらこの交渉ミルティーの負けのようね…それにしてもやはり『聖龍の使徒』の称号は伊達じゃないわね…お見逸れしました。」
先程から一言も喋らず、ずっと琉偉を緋色の瞳で見つめていた輝く様な白髪の黒いドレスの美女が吹き出し、嬉々として喋り出す。
「くっ…わかりました。…こちらの提示出来る買取上限は『聖金貨20枚』です…コレが本当の上限です。」
ミルティスは、先程の余裕は消え去り悔しそうに俯き、予想外の言葉を口にした。
「え?聖金貨20枚…?へ?………嘘ぉぉーーーーっ!!『ドサっ』…ってえーーっ!ルイぃ!!おねーさん気絶しちゃったよぉぉ!!!」
ポコは生まれてから最大の衝撃に1人取り乱し、ファーランに至ってはその場で気絶した。
「…なんか…コッチは混沌な感じになったが…それなら文句はねぇーよ!交渉成立だ!」
ソファーから立ち上がり、琉偉が右手を出し、尖った耳を少し下げたミルティスとガッチリ握手をした。
「でわ…少しお待ち下さい。」
ミルティスは聖金貨の支度をすると言い、応接間を後にする。
そして、何故か白髪の黒いドレスの美女がソファーから立ち上がりその場に片膝を付き、胸に片手を当て琉偉に頭を下げた。
「……自己紹介が遅れました。私は聖龍の巫女を務める一族が長『アテナ・シリウス』と申します…生ある内に使徒様を拝見出来る事、心より光栄に思います。今に至るまでのご無礼お許しを…」
「へ?…聖龍の巫女様の一族!?…し…し…しかも族長様…!?も…もう無理だ…ルイ…なんでこの国の最上級の貴族様が跪いてるの??…それに聖金貨20枚って…なんだ?オイラ…夢を見てんのか?そうだ!あの龍のブレスでやられたんだ…そうじゃないと説明がつぅかぁ…『ドサっ』」
話の状況についていけず、目を回しポコが逝った。
「アテナ…アテナ?なんか聞覚えがあるぞ…なんだっけ……ってあっ!トカゲの『試練』だ!!…そぉーだ!!こんなにサクサク目的を達成出来るとは…幸運過ぎてそのしわ寄せが後から来そうで怖えーよ!!」
琉偉は順調な滑り出しに少し狼狽え、後の不幸を危惧した。
「あ…てか…そろそろ普通にしようぜ!コッチも俺以外は、戦闘不能みたいだし…サクッと取引した後でまた試練とかの話し聞きにくるよ」
琉偉は未だ床に伏せるアテナに告げる。
「そうですか…私は明日のこの時間まで使徒様を待ちます…ですからどうぞ、その時にでもお話し下さいませんか?」
「あぁ…必ず伺うよ!」
琉偉は、アテナと約束をする。
「あっ!悪りぃ!それともう一つ…あのさぁ…俺のマナの光を見る奴はみんな驚くんだがやっぱり何かおかしいのか?」
琉偉はアテナにこの世界に来て度々驚かれる事を問う。
「はい。御説明します。本来人族や獣人族や魔物はマナの聖光は白色です。…しかし、種族によっては色を宿す種族がいます。まずは代表的な種族として『エルフ族』が挙げられます。ここのギルド長ミルティスもエルフ族です…エルフ族は若草色のマナを所有しています。コレは森や自然からマナを取り込むためと言われております。」
「ヘェ〜…エルフは皆んな耳が尖がってるのか?」
琉偉は思わず口にした。
「ふっ…ふふっ……あ…いや失礼しました。その通りでございますよ」
アテナは何かを思い出した様に笑みをこぼし琉偉に答えた。
「続けますね…そして、『精霊族』です…精霊族のマナは燃る様に紅くそして膨大な量のマナを所有しています」
「精霊族ってのは、まだ会ってないな…珍らしい種族なのか?」
琉偉はアテナに問う。
「はい。今は…精霊族は人族や獣人とは関わりを持たないように暮らしています。なので滅多に我々の前には現れません、唯一『ドワーフ族』が精霊族と交流があると知られています。」
アテナは不意にポコを見つめる。
「其方の赤髪の冒険者も少しではありますが…大地の『精霊ノーム』のマナを感じます」
琉偉も気を失った子供の寝顔のようなポコを見る。
(そう言えば魔法を使う時ノームがなんたら言ってたっけ?)
琉偉は数時間前の記憶を思い出す。
「次に金色のマナを所有する種族がいます。」
「……『龍人族』だろ?」
アテナが種族名を言う前に、琉偉がある冒険者に言われた単語を口走る。
「はい。流石に知っておられるようですね…ですが、細かく分けると少し違います。こちらを見て下さい。」
そう言うとアテナは水晶でできた3センチほどの小さい首飾りの先を大きい胸の谷間から出しマナを注ぐ…すると黄色と橙色の間の様な光を放つ。
「ん?俺の光と少し違うな?俺のはもっと白っぽくて淡い金色だ…ってアテナさんてあれか?龍人族なの?」
琉偉は今更ながら驚く。
アテナの見た目は完全に人族の女性だった。
「はい。私の種族は『龍人族』です…人と龍の交わりし一族です…」
「人族と見た目は同じなんだな…で、俺の金色は何族なの??」
「それは…『龍族』です。龍族の王と言われる聖龍様の保有しているマナの量は『神』と同じと言われています…この世界で龍と言えば神にも匹敵する程の存在です…今日、黄昏の迷宮で使徒様が討伐されたのも龍族でございますよ。」
「え?何?神クラスやっちゃった系??俺マジでぱねぇーわ!!」
アテナが真面目に説明する中、説明が難しくなりよく分からなかった琉偉がふざけだす。
「聖龍の使徒様にはお見通しと思っていました…重ね重ね、説明が遅れた事を謝罪します。」
アテナは再度、琉偉に深々と頭を下げる。
アテナの真摯な態度に正気に戻る琉偉。
「いや…アテナさん…俺、本当はそう言うの少し苦手でさぁ…普通の友達みたいに接してくれねーかな??ダメかな?」
琉偉は苦笑いしながらアテナに言った。
しかし…それはこれから始まる地獄の始まりだった事を琉偉はまだ気づいていない…
「…使徒様がそう仰いますなら…」
跪いていたアテナは立ち上がり、ソファーに座る琉偉に近寄り…そして琉偉の膝の上に跨った…お淑やかな笑みを妖艶な笑みに変えて…豊満な胸を琉偉の顔に押し付けてきた。
「ち…ち…チョットぉぉーーーー!!族長??何?どうした!なんかのサービスタイムか??こっちの文化はハンパねーな!!おい!!」
柔い胸の感触を堪能しつつ、琉偉はテンパりすぎていつものアホになっていた。
「…私、本当は…もう我慢の限界を迎える所でしたぁ…今宵、私と子を成しましょう!!使徒様と私の子なら必ず一族を率いるにたる器の子が生まれてきます…さぁぁ…その猛々しいマナで私をいたぶり愛して下さいませ…使徒様…」
白髪の美女は興奮し、瞳を潤ませ琉偉に求愛を迫る。
「ストップ!ストップ!!マナと種族の説明は??なんでこんな豹変すんだよ!ちょっと…一回離れてくれよ!ってか…すげー力だな!!っていたぶるってなんだよ!俺の違うマナが暴発するだろ!!ドM族長!!息が…出来ない!一回離れろ!!!」
焦る琉偉は軽く言葉のセクハラをして、アテナを引き離そうともがく。
「ん…ルイ様…??私は気を失って…えっ??なにを…えっ?やだ!!……何をしてるんですかッッ!!ルイ様!!破廉恥です!離れてください!!」
琉偉にとって最も最悪な時にファーランは目を覚まし、ショックを受け素になり絶叫している。
「お待たせして申し訳ない…聖金貨の支度に時間がかかりました。では……えっ?えーーーっ!?
何をなさってるんですか!御二方!?……えーーーーーーーっ??」
金貨を用意し、戻ってきたギルド長、ミルティスがあり得ない光景を目にする。
「…ん?…なんかうるさいなぁ…って!?取引はどうなった…?えっ?えーーーーーーーっ…なんでルイが襲われてるの?なに?交渉決裂?……どう言う事なの?!」
ポコもこの騒ぎで目を覚ました。
「驚いてないで早くコイツを引き離してくれ!息が…出来ない…!」
そして…1人のエルフにより、豪華な応接間は混沌を極め修羅場と化す…
「そんな…許せません!!そんな事は断じて許せません!!こんな…公然の場所で何をなさってるんですか!!私だって……いや…俺だってアテナ様の御神体に触れた事ないのにーーッ!!ふざけんなぁぁーーーっ!
離れろぉーーっ!……不敬罪だ!!コレは不敬罪ダァーーーーー!……ハァハァハァ…神を穢す不埒な輩め!エルフの誇りにかけて貴様をこの世から滅殺する!」
何故かその場で高価そうな台に乗る20枚の聖金貨を床に叩きつけブチギレて発狂するミルティス。
「ル…ルイ様…殺気を感じます…殺りますか…!?先ずは…ルイ様にまとわりつく白髪の女からです…」
金色の瞳を怪しく輝かしたファーランは、琉偉が今までに聞いたことのない程、低く冷たい声で琉偉に囁く。
「え?オイラ達の報酬は?え?肉は?宴会は?えっ?」
未だ、状況が飲み込めないで狼狽えるポコ。
「いい加減にしろよ…なんでどいつもこいつも普通な奴はいないんだ?流石の俺も怒るぞぉ!」
その時『キュイーン』と音がした。
魔乳から抜け出した琉偉の頬を何が掠めた。
ミルティスが怒りのあまり琉偉に向かって何かしらの攻撃魔法を放ったのだ。
琉偉の頬を伝う真っ赤な血。
そこで遂に、殺戮の黒兎が目を覚ます。
「ルイ様!!!おのれ…おのれ…おのれ…エルフ…と白髪女!貴様ら……絶対に許しません…」
ドスの効いた声でファーランが鬼神と化す。
「私は……いや…俺は600年ずっとアテナ様を愛してきた…出会ってから1日も…1秒たりともこの想いを忘れた事はない!!俺はアテナ様を愛してるんだぁ!!」
顔と耳を真っ赤にしたミルティスは心の中に秘めていたアテナへの想いを洗いざらいぶちまけた。
そして詠唱を始めてしまう。
《我が命を捧げる…破壊の神『ラータス』よ…我が名はバリティスが子ミルティス…》
「不味わ…ミルティーは上位の極大魔法を使う気です!使徒様!」
巨大なマナを感じとったアテナは正気に戻り琉偉に事の危険さを伝える。
「はぁ?極大魔法って何だよ!!何でただのサービスタイムでこんな事態になってんだよ!!…ってか9割はお前と、あのイカれサイコエルフの所為なんだから、お前がどうにかしろぉ!」
琉偉は頭の中で鳴り響く本日3度目の警鐘に焦り、なりふり構わずアテナに叫んだ。
「わかりました。では直ちに!」
そう言うとアテナはミルティスに向かって歩み始める。
「聞きなさい…ミルティー…そなたが私を慕っていた事は気づいていました…ですが、その恋慕にはお応え出来ません…」
「そんな…アテナ様……」
「龍人族の族長は龍人族か龍族の者としか番になれません…それは太古から決められし『掟』なのです…それに私は…一度、最愛の夫を亡くしています……それは、種族の『掟』を重んじる、清廉を重んじるエルフ族には決して受け入れられない。ミルティーもそれは分かってますね?」
「…また『掟』…そんなぁ……アテナ様…」
ミルティスの周りを纏っていた若草色のマナを解消してミルティスはその場に崩れ落た。
誰も近寄れず、燃え滓の様なミルティス…そこに近寄る人物がいた。……琉偉だ。
琉偉はミルティスの肩に手を掛けて、優しく言葉を贈る。
「なぁ…よく聞け!俺がお前の立場ならこっ酷くフラれた時はな…酒を死ぬほど呑んで夜のおねぇ様達に癒してもらいに行くんだ!なぁ今日は最後まで付き合うぜ!なぁ?『兄弟』!」
琉偉は真っ白になったミルティスに声をかけた。
それは半年前、琉偉は惚た女に『ヤクザは嫌い!』と言われ、こっ酷くフラれたのをシンクロさせ思い出したからだ。
「き…貴殿は…貴殿は…こんな失態を犯した私を許してくれると言うのか?それも…『兄弟』と…」
ミルティスは震える声で琉偉を見上げる。
「あぁ…600年も片思いした女にフラれた男を責立てる程、俺は器の小さな男じゃねーよ!兄弟!さぁ…立てよ!」
琉偉は優しい笑顔でミルティスに心のこもった声を届かせる。
「……この先…もしも貴殿が…私の出来る事で力になれる事かあるのならば是非私を使ってくれ!すまない…本当にすまない…き…き…兄弟!!」
ミルティスは琉偉の優しさに心を打たれ、翠だった眼を真っ赤にして泣いていた。
琉偉にとってはこの世界で2人目の兄弟の誕生であった。
一方ミルティスにとっては、生まれてから700年で初めて出来た……悪友だった。