『感謝』と『感謝』
黄昏の迷宮最下層から無事ファーランを助け出した琉偉達は迷宮の入口、上層の大階段の前に立っていた。
「それにしても、魔法ってスゲーな!!帰りも来た道を戻るのかと思って、少し気合を入れてたが一瞬で戻ってこれるとはな!さすがメルヘンワールド!!」
琉偉は、興奮しながらポコに嬉々として喋りかける。
「そうだね!オイラも祭壇の奥に『転送石』があるとは思ってなかったよ!しかも上層まで来れるとはツイてるね!オイラ達でも…ここの階段を上がってギルドに行ったら『ルイは』英雄扱いされて大騒ぎだと思うよ!」
ファーランを背に背負う琉偉が楽しげに、だが少し陰りのある顔のポコを見やる。
「…ん?…そりゃ大変だな!でも、その小さな石がそんなに高価な物なのか?」
琉偉達は、ファーランを助けた後に祭壇を付近を探索し上層部に繋がる転送魔法を施された魔法道具『転送石』と、黄昏の『水晶石』と言う迷宮の秘宝を発見していた。
「当たり前だよぉぉ!!この水晶石は迷宮のマナをずっと貯めて莫大なマナを石の中に溜てるんだ!何千、何万の冒険者が命を賭けてこのお宝を手にしようと散っていったんだ…売れば、聖金貨5枚はくだらない代物だよ!正真正銘のお宝だよぉ!!!」
紅眼をキラキラさせて今にも踊り出しそうなポコの言葉を聞いて琉偉は思考する。
(そんな死ぬような思いをしても欲しがるものが聖金貨5枚…俺の持ってる奴と同じなのか??)
「なぁポコ!『聖金貨』って『モーリル聖金貨』か?」
琉偉はポコに問い、確かめる。
「勿論そうだよぉ!モーリルの聖金貨は世界で一番の質の良さで、最っとも高価な金貨だよ!その価値は金貨100枚分だよ!オイラも実際に見た事は無いけどね!」
「マジか!!」
(よっしゃ!!はい!!俺のこれからはスーパー大富豪で決まりだ!!ついに俺の時代が来たって事か??トカゲ様様だな!金貨1枚の価値がわからないけどポコがこんなに興奮して話すんだ!それなりの価値はあるはず!)
「…じゃあ地上に戻ったら三日三晩ドンチャン騒ぎして美味いもんをいっぱい食べて俺らで宴会だな!!」
琉偉は現世から授かった能力『豪遊癖』を遺憾なく発揮する。
「ルイって本当いい性格してるよね!!ってちゃんとオイラの報酬も覚えておいてくれよぉー」
先頭を、足取り軽く歩くポコが慌てて琉偉に声をかける。
「おう!がっつりボーナス弾むから期待しとけよ!!」
親指を立て琉偉がポコにキラリと光る歯を見せて笑った。
「オイラ…野菜は苦手だよぉ〜」
「あ…あの…すみません…ルイ様?」
ポコが琉偉の発言で何かを勘違いしてる所に琉偉の背で運ばれる、ファーランが緊張した声を発する。
「どうした?ファーラン?何処か痛むのか?」
「いえ…そう言う訳でわ…無いのですが…ルイ様…私はもう、大丈夫なので…降ろしては貰えないでしょうか??」
琉偉に背負れるファーランが、最初は申し訳なさそうに、そして最後は恥ずかしそうに頬を染て伝える。
「ん?気なんか使わなくても平気だぞ!俺はファーランに何度も助けられてんだ!こんなんじゃ全然恩を返せないから素直に背負われてくれよ!!…って俺に触れられたくないんだったらすぐに降ろすけど…」
「……ルイ様…本当にありがとうございます…」
真っ白な頬を更に赤らめ、瞳には少し涙を溜めてファーランは琉偉の背中に顔を付けた…優しさと暖かさに触れる両腕に少し力を入れ、愛しい人に呟やく様に伝えた。
「ルイ!地上に上がる前にこれを着た方がいいよ!」
そう言ってポコが薄い生地の少し汚れたローブを琉偉に手渡した。
「その背中は、あまり人にも見られない方が良いと思うよ…」
ポコが、少し低い声で琉偉を見上げる。
(ん?この世界は刺青は存在しないのか?)
「おう!少し寒かったんだ!助かるぜ!」
一旦ファーランを下ろしローブを羽織る。
そして階段を上がって3人はギルドがある場所に到着した。
「よう!無事だったか!兄弟!たっぷり稼せいで来たか??」
ギルドのあるフロアを歩いていると、誰かが明るく気持ちの良い声を琉偉に掛けて来た。
入口の鉄仮面の衛兵だ。
「おう!その節は助かったぜ!今日の夜は大宴会だから兄弟も来てくれよな!」
琉偉は親切に迷宮の入り方と、無事帰還した事を喜んでくれている衛兵に感謝をし、同じ喜びを分かち合う為、宴会に誘う。
「オイオイ!気持ちは嬉しいが、ちゃんと金貯めて装備や次の迷宮探索の準備金にしないと冒険者なんか務まらないぞ!兄弟!」
衛兵は浮かれた琉偉に注意を促がす。
「エドガー!!」
と、そこにポコが割って入る。
「依頼は無事成功!でも報酬はいらないよぉ!たんまり稼せいだからこれで当分は迷宮に潜らなくても生活できるよぉ!」
ポコが笑いながら衛兵に依頼完了の報告をする。
「……はあ?お前ら知り合いなのか??」
仲良く話す2人を見て琉偉が問う。
「実は…頼りない新人冒険者がいるから面倒見てくれって衛兵のエドガーに頼まれたんだ!だからルイに声を掛けたんだよぉ!」
「お前…」
琉偉は呟く。
「いや…その…なんだ!兄弟はすぐに魔物の餌になるって俺の第六感が騒いでな!ハハッ……余計な事しちまったか?兄弟?」
ポコが琉偉の知らなかった事を伝えて、衛兵は照れたように言ったのを琉偉は真剣な眼差しで聞く。
「いや…ポコがいなかったら俺は…ここにはいなかったしファーランも助け出すことは出来なかった…なぁ…兄弟…兄弟の名前はなんて言うんだ??」
琉偉は真面目な口振りで衛兵に問う。
「俺は『エドガー』パーレン所属!黄昏の迷宮の万年平の衛兵だ!遅くなったが、よろしくな!」
衛兵は琉偉に、良い声で自己紹介をした。
「俺は琉偉だ!エドガーのおかげで、俺はここにいられる!本当に助かった!今日の宴会絶対来いよ!約束だぞ!絶対な!」
琉偉は、エドガーに感謝を、そして男の約束として拳突き出す。
「…おう!そこまで言うなら、了解だ!ルイ!夜は楽しみにしてるぞ!」
「おう!期待しろよ!!じゃまた後でな!」
「エドガーじぁ〜ねぇ!場所が決まったら伝えにくるよぉ!!」
「おう!また後でな!」
琉偉とエドガーは拳を合せ、約束をし、3人はギルドの受付を目指す。
そこから少し歩いて行くと3人組の冒険者に声をかけられた。
「よぉ!そこの黒髪のガキ!その背中に背負った獣人に話があるんだが…わかってるよな?獣人!」
「……あ?なんだお前ら?」
体格のいいスキンヘッドの冒険者が、琉偉の後ろのファーランに声を強め、その敵意の声に反応した琉偉はスキンヘッドの男を睨む。
「はい…依頼は失敗しました。申し訳ありません…前金の金貨90枚は…今は手元に無いので働いてお返ししますので、少しお待ち下さい…」
ファーランは俯き、冒険者に伝えた。
「は??今すぐ返せよ!バカか?お前?お前みたいな獣人がすぐに金作れんのかよ!?冗談きついぜ!」
ニヤケながら罵声を飛ばすスキンヘッドの冒険はファーランに凄む。
「ですが…今は手元に…」
「そんな事俺たちが知るわけねーだろ!!金がねぇーなら自分を売るしか無いよなぁ?俺が紹介してやる!それで金を返してこの話は終わりだ!」
ファーランの言葉を遮り、嫌らしい顔で冒険者は宣った。
「おい!!お前らさっきから黙って聞いてりゃ何だそれ!?ただの昭和のチンピラか?お前ら…」
琉偉が、冒険者を睨みつけ声を荒げる。
「あ?…しょうわ?…何言ってやがんだ?…そう言えば何だお前?獣人なんか背負いやがって…頭いかれてるのか??だがなぁ…お前がなんと言おうとコッチは『魔法契約』をしてる。もしも破ればそこの獣人は罪人の印がついちまう!獣人の冒険者の罪人は戦争奴隷しか道は無いって事だよ!分かるかクソガキ?」
冒険者は、ファーランを蔑み琉偉をバカにしたように憎たらしい声を上げる。
「おい!てめーらいい加減…」
「ル…ルイ…ダメだ!!腹が立つけど…コイツらの言ってる事は本当だよぉ…でも!ルイには『アレ』があるでしょ??」
琉偉がキレかけた瞬間にポコが慌てて話に割って入る。
「…迷宮のお宝か……わかったよポコ!今回は穏便に済ませるか。」
琉偉には莫大な金貨と、迷宮のお宝『黄昏の水晶石』がある。
(クソ!ここで騒ぐと面倒だから、仕方なく金を払って済ませるか…)
「おい!昭和チンピラ冒険者金は俺が代わりに払う!!だから、もう少し待て!逃げたりはしない!1時間後に、ここで取引だ!それで文句はねぇーだろ?」
琉偉は3人の冒険者に自信満々に取引の指定時間を口にした。
「いけません…ルイ様…これは私が払うべき事ですので、どうぞお取り消しを…お願いします…」
そこえ、ファーランは細い声で琉偉にはっきり言った。
「いや…ダメだね!ファーランの頼みでも、それは聞けねぇ!…ファーランは、元は俺の為に無理な依頼を引き受けたんだろ?…だったらその責任は俺にある!…だから、心配すんなよ!ファーラン!」
「ルイ様……………」
琉偉に背負われるファーランは、琉偉の背中に顔をつけ声を殺して泪を流した。
「はぁ?お前、金貨90枚だぞ?分かってんのか?それに獣人の為にとか…本当にお前、頭おかしいのか??だがな…金を払うってんなら口約束はダメだ!魔法契約だ!いいな?」
スキンヘッドの冒険者は、獣人の為に大金を出すと言う琉偉を更に侮辱し嘲笑う。
「ああ……問題ない…ファーラン…悪りぃ…少し降りて待っててくれるか?……」
「はい…」
一段と声を低く、怒りを抑えながら琉偉はファーランをゆっくり降ろし、スキンヘッドの男を黒眼で視殺す。
「…おい!…どうすればいい?……」
「お…おう…この契約書にマナを流せ!そして1時間後にあの汚ねぇ獣人の為に金貨90枚を払うと心の中で誓え!それで終了だ!」
「……この紙でいいんだな…」
琉偉は口数少なく、スキンヘッドの冒険者が出した羊皮紙にマナを流し、思考する。
(マジでムカつくなぁ…ほんとコイツ!!しかし…ほんとマナって便利だな…使い方もだんだん慣てきたし…ヨシ!…俺は可愛いファーランの為に金貨90枚を1時間後に、このクソハゲに支払う。)
契約書が金色の光を放つ。
「って…はぁ!?アンタ龍人族か!!!??」
スキンヘッドの冒険者が腰を抜かす。
「えっ?全然…人間ですけど?」
意味が分からず琉偉は無表情で淡々と否定する。
「だ…だって今…マナの色が金色だったのを俺はみたぞ!!」
焦り、どもるスキンヘッドの冒険者
「いや…うるせーよ!良くわかんねーけど、これで終わりなんだな?そんじゃ俺らやる事あるから!1時間後にまたなクソヤロー…」
呆然とする冒険者達を残して、興味なさげに琉偉はその場を立ち去った。
「………何者なんだアイツ…」
最後にスキンヘッドの冒険者は呟いた。
琉偉達は、ギルドの受付を目指して移動する。
「ル…ルイ様…本当によろしかったのですか??金貨90枚とは何年も迷宮に潜ってようやく稼せげる額です…私なんかの為に…」
先程の冒険者から離れた場所でファーランは琉偉に再度確認をる。
「ファーラン…俺は恩人と金を同じ秤になんかかけない!…ってカッコ付けさせてくれよ!なっ?」
琉偉は変わらず笑った、いつもの様に。
『ドキンッ』とファーランは胸の脈を震わせる。
「もう…私は何も言えません…本当に…本当にルイ様…ありがとうございます…。」
「おう!それと、全部、事が片付いたら一個だけ頼みを聞いてくれないか?」
心から感謝を伝えるファーランに琉偉は再度笑いかけ救出報酬を願いでる。
「はい…私に出来る事なら例えこの命だろうと、全てルイ様にお渡しします!」
ファーランは真剣にな眼差しで琉偉に声を届ける。
「いやいや…ようやく頑張って助け出したんだ!勘弁てくれ…そんな大したお願いじゃないよ!」
琉偉はおどけて、ファーランに困った顔をみせた。
「ファーランのその可愛いくて、綺麗な『うさ耳』を後で触らせてくれないか?」
「えっ?私の耳?なんで…?」
ファーランは自分の長く、真っ白の耳を触る…
「おねーさん気づいてなかったんだぁ!へへっ…後でルイに話を聞くといいよぉ…多分ビックリする事、確実だよぉ!!」
ポコはファーランに笑みをこぼして言った。
「はい…ポコ様も本当にありがとうございます」
ファーランはポコに感謝を伝える。
「オイラは…たまたまルイと一緒に居ただけだから、様付けなんて照れるからやめてよぉ」
ポコは子供の様に恥ずかしがりファーランに笑顔の花を咲かせる。
「よぉーし!じゃ、ちょっくら換金しに行くかな!そしたら皆んなで馬鹿騒ぎだな!!」
「イェーイ!!オイラは肉をお腹いっぱい食べたい!!」
「おう!任せろ!動けなくなるぐらい食わせてやる!」
琉偉とポコのテンションは限界を突破しかけながらギルドの受付に向かった。