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『黄昏の迷宮』と『赤髪の少年』


黄昏たそがれの迷宮入り口付近に、琉偉は立っていた。



人伝ひとずて黄昏たそがれの迷宮の入口を教えて貰いようやくたどり着いた。


「ここかぁ…なんか…スケールがデカいな!!ん?人が結構いるな…」


山の斜面しゃめんを切り崩した様な入口を越え、石で出来ている門をくぐり大理石で出来ているフロアを進むと中には沢山の冒険者達の喧騒とホテルの受付の様な作りの場所、そして少し奥に頑丈がんじょうさくで囲まれた大きな穴が開いていてその中に冒険者らしき人が入っていくのを琉偉は見た。



「あそこか!よし!!行くか!」



琉偉はその大きな穴に向かい、そのまま入ろうとして衛兵えいへいに止められた。


「ちょっと…ちょっと!!」


全身ぜんしんよろい鉄仮面てっかめんの男に腕をつかまれる琉偉。



「なに!?こっちは急いでるんだけど…!」



「いや…急いでるって言ったって…こっちも仕事なんだ!…カードを見せてくれ!」


衛兵は琉偉にうんざりしながら言う。


(ヤバイ…入るのに何か資格しかくみたいのがあるのか??…どうする…)



衛兵の言葉に琉偉はあせりながら時を止めた。




「えっと…あ…か…カードね?あぁ…悪りぃ!忘れてた…忘れてた!いやぁ…それがさぁ〜この前無くしちゃっんだよね…だから、その…悪いんだけど今日の所は見逃みのがしてくれよ兄弟きょうだい!頼むよ!!」



琉偉は動揺しつつも頭を下げ、てのひらを合わせて調子ちょうし良く衛兵に言った。



「…はあ?なんだ?ギルドカードを無くしたのか?じゃあ受付で再発行さいはっこうしてもらえよ!ギルドカードを確認したいとここは通せないぞ!」



「いや…今、急いでて身分証みぶんしょとかも忘れて持ってないんだよ!」



琉偉は必死に食い下がる。



「身分証??え?もしかして…貴族きぞく様ですか??」


衛兵えいへいがこちらを見定みさだめるように琉偉に聞いてくる。


「いや…貴族じゃなが…何とか頼むよ!!急いでんだよ!!マジで!」


琉偉はだんだんイラつきながら衛兵に頼み込む。


「なんだよ!!ビビらせんなよ!変わった格好してるから貴族様かと思ったぞ!だが、カードの所有しょゆうしてない者はここから先はダメだ!!そう言う決まりだ!」


衛兵は安堵あんどしながら琉偉に対応し己の仕事をまっとうする。


(クソ!こうなったら、コイツをぶっ飛ばしてでも…)


と、琉偉が浅はかな考えをしたその時。


「…だけど…そこのロビーの奥の冒険者ギルドの受付でカードを貰えば通してやるぞ!…ちなみに登録とうろくも無料で再発行さいはっこうも、身分証みぶんしょなんてものはらないはずだぞ兄弟きょうだい!」


衛兵えいへいがいい声で親切しんせつに教えてくれる。



「えっ?そうなの??…って早く言えよ!!またすぐ来るから!ありがとな!」


「ああ!」


琉偉はかおの見えない鉄仮面てっかめんの男に軽くツッコミをいれ、笑顔で感謝かんしゃを告げ受付に走り出す。



(…変なやつだな…なんつーか…不思議ふしぎな奴だな…)



受付うけつけに走り出す黒髪の青年の背中を、鉄仮面の衛兵は姿すがたが見えなくなるまで見つめていた。




「お待たせ致しました…次の方どうぞ」



受付の、物静ものしずかそうな女性が順番じゅんばん待ちをしている琉偉を呼ぶ。



「本日はどの様なご用件でしょうか?」



「あの…ギルドカードってヤツを作りたいんだけど、お願いできるか??」



琉偉は、少し緊張しながら受付の女性にたずねる。



「はい。新規しんき様ですね、ではギルドカード発行はっこうため、こちらの『こくしょうせき』でマナを読み取り登録とうろくを行います。」


受付嬢うけつけじょうから渡されたのは黒い『野球ボール』程の石だった。



「えっと…これにさわるだけで終わりなの??」



琉偉は黒い石と受付嬢うけつけじょうの顔を交互こうごに見ながら、興味きょうみ深く聞く。




「はい…その石に登録者様のマナを記憶きおくさせて、登録とうろく完了かんりょうとなります。」


「へぇーっ…そんな簡単なんだ!!」


あまりの速さに琉偉はニッコリと受付嬢に声を発する。


「それと、迷宮めいきゅう探索にはいくつかルールがあります、その御説明ごせつめいを今からしますので、それが終わり次第しだい終了となります。」


受付嬢は無難にテキパキと仕事をこなす。


「そっか!わかった。なるべく早く頼む!」


早く迷宮に行きたい琉偉は迅速じんそくな対応を受付嬢にうながす。


承知しょうちたしました…それでは、1番重要じゅうよう項目こうもくになりますのでお聞き逃しのないようお願いします。」



「おう!しっかり記憶するぜ!」



「1つ。迷宮めいきゅう内での争い、冒険者ぼうけんしゃ同士どうしの私闘、争いを禁止きんしします。」


「2つ。迷宮上層階での、極大きょくだいクラスの魔法を禁止きんしします。」


「3つ。魔物まもののドロップした魔石ませき魔核コアはギルド以外いがい譲渡じょうともしくは売却ばいきゃくする事を禁止きんしします。」



「4つ。故意こい的な、魔物のなすり付け行為、『死の行進デスパレード』を禁止きんしします。」



「以上4つがもっと重要じゅうような、禁止きんし事項じこうです。禁止事項をおかせば、おも罰則ペナルティ発生はっせいしますのでご注意ちゅういをしてください。」



「この他にも細かい説明もありますが、お急ぎの様子ようすなので次回じかいにでもまた、お聴き下さい。」



(1つめ以外は良く分からなかったが…問題もんだいなしだ!)



(早くファーランの所にいかねぇーとな!)



「オッケー!ありがとう!助かるよ!」



琉偉は目尻めじりを下げ、目の前の受付嬢に感謝かんしゃを告げた。



「はい…では、こちらがギルドカードになります、新規しんき発行はっこうなのでランクは一番下のGランクとなります。」



そう言って受付嬢うけつけじょう名刺めいしサイズの金属製のプレートを琉偉に渡す。



「そのカードは所有しょゆうしゃ本人のマナを流すと同調どうちょうして光ります。身分を証明するの事にも使えますので、覚えていて下さい。」



そう淡々と話す受付嬢に向かって、琉偉はある事を思う。


「えっと…今更いまさらなんだけど…俺の名前とかは必要なかったのか??」



琉偉は一度も自分の名前を聞かれなかった事に不思議ふしぎに思い、物静ものしずかな受付嬢に質問しつもんをした。



「?…はい…マナの情報じょうほううそはつけませんし、御名前もその時に登録しましたよ?ルイ殿」


「……スゲーな!!」


心のこえ全面ぜんめんに出てしまった琉偉がカードをまじまじと注視ちゅうしする。



(コッチの魔法まほう技術ぎじゅつって俺が居た世界よりもハイテクかも知んないな……つーかなんだこの文字…何語なにごだよ!)



手に持つギルドカードの見知らぬ文字もじを見て琉偉は少し戸惑とまどう



一度いちど、確認の為にカードにマナを流して下さい。」



受付嬢うけつけじょうはニッコリ微笑ほほえみながら琉偉に手続きの最終さいしゅう確認をうながす。



(魔法のかばんと同じ要領ようりょうか?よし…やってみるか…)



魔法の鞄でマナの感覚かんかくを覚えた琉偉は、おのれの右手に持つカードにマナ流す。



するとカードはあわ金色きんいろに光った。


「!!!…えっ?…なんで?…………うそぉ!!!」



受付嬢は、今までの対応たいおう台無だいなしになるぐらい動揺どうようしてカードと琉偉を大きな瞳で見つめていた。



「本当に光る!スゲーな!じゃあこれで終わりだな??行っていいんだな??」



受付嬢に登録の終わりを確認する琉偉。



「………はっ…はい。い…以上で手続きは完了です…」



変わらず、動揺どうようしながら受付嬢は答える。



せかして悪かったな!説明せつめいありがとう!また何か困ったら聴きに来るかも知んないから、そん時はまた、よろしくな!…それじゃ!」



「あっ…はい。?」



そう言って様子ようすのおかしい物静かそうな受付嬢の元を後にして、迷宮入り口の衛兵えいへいの所に駆け寄る琉偉。





「よぉ!兄弟きょうだい!これで俺も中に入れんのか??」



手にしたカードを鉄仮面てっかめん衛兵えいへいに意気揚々と見せる。



「…おう!早かったな!大丈夫だ!…よし!確認した!気をつけてせいで来いよ!危ない目にあったら、一目散いちもくさんに逃げんだぞ!何よりいのちが一番だ…命にまさたからはない…覚えたか?兄弟きょうだい!」


顔は鉄仮面てっかめんで見えないが、いい声で衛兵が琉偉に冒険者の心得こころえ教授きょうじゅする。



「おう!そうするよ!ありがとな!」



そう言って琉偉は巨大きょだいな穴の階段かいだんを走って降りて行った。



「……兄弟きょだいか…なつかしい呼び名だな…無理むりして死ぬなよ兄弟…」


誰にも聞こえない程の声で、鉄仮面てっかめん衛兵えいへいは小さくつぶやいた。






黄昏の迷宮めいきゅう内上層部、高低こうてい約20メートル程ある長いおお階段かいだんを降り、大きな広間ひろまに辿り着いた、周りにはチラホラと何人かの冒険者の集団がいる中で琉偉は周りを見渡した。


「マジか…想像そうぞうしてたより全然広いな…まずいな…これじゃファーランを探すのは苦労くろうしそうだな…だけど、早くファーランを助けないとな!取り敢えず1番下まで行けば良いのか?」



「…ねぇ…ねぇ…そこの黒髪くろがみのおにーさん!」



広間ひろまの大きさに少し不安になりながらも、やるべき事を復唱ふくしょうし確認する琉偉に後ろから誰が話し掛けてきた。



琉偉が振り返るとそこには身長120センチ程の身体に黒い皮製の粗末そまつなローブに、それに不釣り合いに輝く胸当むねあてをしている体の小さな、目のまん丸でぱっちりした、赤い髪の男の子が琉偉を深いあかひとみで見上げ立っていた。



「お?なんだ?」


「おにーさんは救出きゅうしゅつ系の依頼クエストか何かでこの迷宮に居るの??」


赤髪あかがみの子供は淡々と琉偉に言葉をかける。


「あ?…おう!そんな感じの事を今からやろうとしてるが…どうした??ってか……お前…迷子まいごか??てか親は?」



赤髪あかがみの子供のはっした『依頼クエスト』と、言う聞き慣れない単語たんごに琉偉は、少し動揺どうようして答え、目の前のおさなさに少し心配しんぱいした。



「し…失礼しつれいな!オイラはまよっても無ければ…子供こどもでもないよぉ!!オイラは正真しょうしん正銘しょうめいのBランクの冒険者だよぉ!!」



少し怒った様にギルドカードをあかく光らせ琉偉に見せドヤ顔でのたまった。



「おぉ…すまん!そりゃー悪かったな!見くびった!…で、なんか用か?…俺こう見えても急いでんだよ!」



琉偉は軽く謝罪しゃざいして急いでる事を小さな冒険者に伝えた。



了解りょうかい了解!じゃあ、要件ようけんは…目的もくてきまでの護衛ごえいをオイラにやらせてよぉ!報酬ほうしゅうは今日のかせぎの3割でどう??」



赤髪あかがみの子供…もとい、冒険者ぼうけんしゃ口早くちばやに琉偉にそう言って3本の小さなゆびを琉偉に突き出した。



「何?手伝てつだってくれんのか??だったら頼むよ!!」



迷宮の大きさに困っていた琉偉はすぐさまはなしに乗る。



「本当ぉ!?話が早くて助かるよぉ!オイラは土竜どりゅうの『ポコ』…よろしくぅ!!おにぃさんはなんて名前?」




ポコと名乗なのる赤髪の冒険者は、子供の様に大喜びしながら琉偉に名前をたずねてきた。



「どりゅー??なんか…カッコいいな!俺は琉偉だ!今さっき冒険者になったばっかりだ!!よろしくな!」



土竜どりゅうと言うひびきに感銘かんめいを受けつつ琉偉は自己紹介をした。



よろいもローブも装備そうびしていないからもしかして…って思ってたけど、やっぱり…新人しんじん冒険者だったんだぁ!」


ポコは琉偉の全身隈なく見て新人冒険者と辺りを付けていたらしい。


「だけど…安心してよぉ!オイラは迷宮めいきゅう案内あんない得意とくいとして、この迷宮の護衛ごえいけん道案内あんないを仕事にしてるんだぁ!!」



ポコは小さい胸をって自慢じまんげに琉偉に話を続ける。




「オイラは、こう見えても下層かそうまでの地図ちずを頭に入れてんだ!すごいだろぉ?」


さらにのってきたポコはこしに手を当て、胸を張ってドヤ顔をする。



「お…おう!そりゃー心強いな!!じゃあ、よろしく頼むよ!行こうぜ!ポコ!!」



満面まんめんの笑みでポコの小さく暖かい

傷まみれの手と握手する琉偉。




「ねぇ?…ところで、さっきブツブツ言ってたの聞こえたけど誰かを助けに行くの?最初は上層で魔物を倒して経験値を積むってのがセオリーなんだけど…」



先を歩くポコが後ろを振り返り、琉偉にたずねる。



「おう!知り合いがここの、さい下層かそうってトコを目指めざしてこの迷宮に居るはずなんだが、全然場所が分からなくて困ってたんだ!」



ポコに平然と琉偉はやるべき事を告げる。



「えっ??さい下層かそうって…冗談じょうだんでしょ?この迷宮の難易なんいは…上から3つ目のAランクだよ??」


琉偉に、再度さいど依頼クエスト確認かくにんをするポコ。


「最下層から無事ぶじ一人ソロ帰還きかんするだけでも凄い事なのに…新人冒険者には絶対ぜったい無理むりだよぉ!…その依頼クエストことわれないの??」



ポコはあわてて、琉偉に事の危険きけんさを伝える。



「いや、あぶなかろぉーが新人しんじんだろうが、何が何でも行かなくちゃいけねぇーんだ!!頼むよポコ!」



琉偉が真剣しんけんにポコに、使命しめいなんだと声を少し熱くさせ、伝える。



「…何か…事情じじょうがあるみたいだね……分かったよぉ!オイラから声を掛けたんだ!!付き合うよぉ!!」


琉偉の強く真っ直ぐな黒い瞳を、紅い瞳で見つめたポコは、琉偉に力強く告げる。



「だけど…最初さいしょ約束やくそくの3割じゃわりに合わないから、半分はんぶん半分の山分やまわけで手を打つよぉ!!どうだい??」


ポコは、商売しょうばいにんの顔を出してニッコリと微笑みながら琉偉に、報酬ほうしゅう変更へんこうを願い出る。


「おう!約束やくそくだ!やってやろうぜ!成せば成るだ!ポコ!」


「うん!!」


ポコと琉偉は、子供こども大人おとな程のこぶしをガッチリ合わせた。



「じゃあ、とにかく急ごう!最下層までの道は分かるのか?ポコ?」


はやる気持ちを落ち着かせポコに問う。


「うん!オイラ自体じたいは最下層は降りた事ないけど最下層に通じる場所までなら行った事がある!だから信用しんようして!最短さいたんルートで行くよぉ!」


「分かった!頼りにしてる!俺はポコを信じるぜ!」



2人の冒険者は最下層に向けて走り出した。







ほどなくしてポコはある事に気付きずく。


(おかしいな…ルイと一緒に迷宮をり出して1時間じかん程経つけど…まだ一度も魔物まもの遭遇そうぐうしていない…変だ…もうすぐ中層ちゅうそうなのに…全く気配けはいすらない?)


ポコは、普段ふだんはウンザリする程、魔物と遭遇するのに今日は一度も魔物の姿すがたを見ていない事を不安に思っていた。



「なぁ!?ポコ!本当ほんとうにここに魔物っているのか??普通ふつうにただのデカい洞窟どうくつって感じだな!つぅーか裸足はだしはきついな…」


警戒心けいかいしんが薄れて軽口かるくちを叩く琉偉。



「…オイラも…こんなの初めてだ…気をつけよう!今日の迷宮はいつもとは違う気がする…」



思考しこうし、困惑こんわくしながらポコが不安を乗せて答える。




そこから2人は慎重かつ順調じゅんちょうに迷宮をつき進んで行く。





(ありえない…もうすぐ下層かそうに入るってのに小鬼ゴブリン1匹見ていない…絶対ぜったいにおかしい…)


ポコはおさなく見えるがもう5年以上この迷宮にもぐり冒険者として数々の経験けいけんをして来た。



だが、今日みたいな日は初めてだった…。



「あと、1時間もしない内に下層に入るよ!この先に休憩きゅうけいには丁度ちょうどいい広さの洞穴ほらあながあるから、そこで一旦いったん装備そうび体力たいりょく回復かいふくをはかろう!」



ポコが提案ていあんする。



「そうだな…俺ものどカラカラだし…少し休んで行こう!」


ポコの提案に琉偉は乗る。



程なくして、琉偉は人が20人は入れる洞穴ほらあなの前に辿り着いた。



「ココが休憩きゅうけい最後のポイントだよ!少し体を休めよう!」



ポコが案内した洞穴の中にはランタンの光と思しきわずがな光に照らされ、2人はたいらな岩にこしを下ろした。



「ほら!ルイ!これあげるよぉ!あと、はい!お水!」


ポコが自分じぶんかたに掛けているかばんをゴソゴソとあさって小さい透明とうめいなガラス容器ようきに入っている青い液体えきたいを琉偉に渡そうとした。


不思議そうにその液体を見る琉偉。


「ん?これなんだ?くすり?」


「えっ?ルイは魔法まほうやく知らないの?…それは『ポーション』って回復薬かいふくやくだよ!」



「ポーション?魔法の栄養えいようざいかなんかか?」


ポコからポーションと水の入った革製かわせい水袋みずぶくろを受け取り珍しそうに琉偉は観察した。



「でも…いいのか?これお前のだろ?」



「いいよぉ!オイラの分もあるし、すごく高価こうかな物でも無いからね!今はそ…その…『仲間』なんだから…気にしないでよぉ!」


そう言ってポコは、もう一つかばんから回復薬ポーションを出して、それを一気いっきに飲み干した。


「そっか!ありがとうな!じゃあ、遠慮えんりょなくいただくよ!」


琉偉もポコと同じようにポーションを飲み干す。


「おぉーっこれ激甘げきあまだな!ハチミツみたいな味だなぁ!糖分が疲れた体にしみてくる!」


琉偉はすぐに体の変化へんか気付きずく。


「ん?なんだ?体がスゲー軽くなって今までの疲れが吹き飛んだ!!」


「ん?ルイは本当にポーション飲んだこと無いのぉ?」


この世界で一般的なポーションをめずらしそうに飲み大袈裟おおげさなリアクションの琉偉を見て、ポコは不思議ふしぎに思いその紅い瞳で琉偉を見る。



「ああ…俺が前いた所にはこんなに効く栄養えいようざいは無かった!すげーな!」



「ルイってカッコもそうだけど、この国の人間ひとじゃ無いでしょ??出身うまれはどこなの??」


Tシャツ短パン姿の琉偉を見てポコは問う。


「ん〜っ…信じないかも知んないけど、実はな…俺ってこの世界せかいの人間じゃ無いっぽいんだよ」


「へ?」


ポコが突然の言葉に琉偉の目をジッと見る。



「って…意味いみわかんないよな!別にポコを馬鹿ばかにしてんじゃなくて、俺自身も全然今の状況じょうきょうについて分からない事だらけなんだ!…だから、うまく説明せつめい出来ないんだ…悪りぃな!」


ポコはまばたきをせず…琉偉を大きく丸いあか綺麗きれいひとみで見つめていた。


「……ルイ…ルイってもしかして…『勇者ゆうしゃ』だったりする??」


「は?勇者ってあの勇者?」


唐突とうとつなポコの言葉ことばにゲームか漫画まんがでしか知らない勇者のイメージを頭に浮かべた。


「いや…多分たぶん違うよ!俺…むしろ勇者に倒される悪役あくやくな気がするな!」



それが現世げんせはん社会しゃかい勢力せいょく加担かたんしていた琉偉の自己評価ひょうかであった。



「……オイラの故郷こきょうに、古くからの言い伝えがあるんだ…」


ポコはゆっくりと思い出したかの様にかたす。



世界せかいが悲劇と悲しみに包まれた時、別の世界から勇者がこの世界に召喚しょうかんされるって爺様じぃさまが言ってたんだぁ…

勇者は人外じんがいの強さでやみを斬るひかりつるぎなんだってさ」


ポコは、瞳を震わせこの世界に伝わる伝承を語った。


「ん〜っ…まぁ!俺が勇者じゃないって事だけは確かだな!」


琉偉は笑いながらポコ言った。


「…プッ…だよねぇ…オイラもなんかそう思う!」


そして…吹き出した様にポコも笑った。


「よし、休息きゅうそくもとったし、いこぉーか!ルイ!」


ポコが琉偉に休憩きゅうけいの終わりをうながし立ち上がる。



「よっしゃ!行こうぜ!!」



琉偉も立ち上がり2人は目的地、最下層に向けて洞穴ほらあなを後にした。








そこから更に1時間程の時間が経った。


やはり迷宮の魔物は姿を見せない。



「ルイ…ココが最下層の入口だよ!!」


「ようやくかぁ〜疲れたなぁ…」



ポコが琉偉に声をかけ、小さなゆびす。


そこには、石のトンネルのような穴が奥深おくぶかく続いていた。



「オイラはこっから先は行った事がないけど、このまま一本道いっぽんみちはずだよぉ!気を引き締めて行くよぉ!」



「じゃあ、このトンネルの先にファーランがいるのか…??」


真っ暗なトンネルを見つめて琉偉が決意する。


「おう!行こう!」


「うん!警戒けいかいおこたらないでね!!ルイ!」


2人は未知の領域に足を踏み入れた。





15分程進んで行くと何が爆発ばくはつする衝撃しょうげきを琉偉は感じた。


「この先に何かいるよ!ルイ…気をつけて!」


ポコの余裕よゆうの無い声が洞窟どうくつひびく。




気を張り2人は注意深く先に進んだ。




そして先に気づいたのはポコだった。



「!!!!!えっ?なんで!?…ヤバイよ!!ルイ…この先に多分…守護しゅごりゅうがいる!!」


ポコには見えてしまった。


あおく輝く禍々しいマナを放つ龍が祭壇さいだんの前で大暴おおあばれしていた。


守護しゅごりゅうってなんだ!?ってかこの爆音ばくおんってそいつの仕業しわさか?………!!!!!」



ポコに問う琉偉だったが、30メートル程進んだその先に琉偉も祭壇さいだん守護しゅごりゅうを見つけ足を止め、祭壇の前の道に両足りょうあしを太ももから無くし鮮血せんけつ水溜みずたまりにしずむ金髪の冒険者が倒れているのを琉偉は見開みひらいて確認かくにんした。



「おい!ルイ!ダメだ…逃げよう!」


ポコが走り出そうとする琉偉のシャツを掴む。



「離せ!ポコ!あそこに倒れてるのが俺が助けたかった奴だ!!!だから、俺は逃げれねぇ!ポコは来た道を戻れ!!俺に付き合う必要ひつようはねぇ!」


「で…でも!!」


「俺は行く!!悪りぃなポコ!!報酬ほうしゅう約束やくそくは守れないかもしんねぇー!!ここまでありがとな!本当に助かった!ポコ!」



ポコの手を振り解き琉偉は走り去る。


「ルイ…」



琉偉を止められず、その場にとどまるポコ。



「ファぁーラァーーーン!!」



琉偉の叫び声に反応はんのうしたあおく禍々しいりゅうは琉偉に向けてその大きな口を開け衝撃しょうげきを打つ。




琉偉に向けて放たれる衝撃波を何度もギリギリでかわす琉偉はぜん速力そくりょくでファーランの元に駆け寄る。


血溜ちだまりひざをつきファーランをき寄せ、すかさず岩陰に身を隠す。


「おい!ファーラン!!」


(…まだあたたかい!ファーランの心臓しんぞうは動いてる!!)


確かな鼓動こどうと生ある者のぬくもりを琉偉は感じた。



「おい!!ファーラン!起きろ!生きてるよな?!!返事しろぉ!!」



ファーランを揺さぶり琉偉が大声おおごえをあげる。


「……っ…えっ?ゆ…め?」


ファーランはゆっくりと、まぶたを開けて目の前の漆黒しっこくの瞳を見た。


「!!!ル…ルイ…様?…どお…してこんなところに…くっ…」


弱々しくファーランは声を振り絞る。


「どうしてって…ファーランを助けに来たに決まってんだろ!勝手かってに俺を助けて勝手に死ぬな!!絶対ぜったい死ぬな!!意地でも生きろ!!」



ファーランはその言葉ことばを聞き、金色こんじきに輝くひとみから一筋ひとすじの泪を流した。


そしてゆっくりとまぶたを再び閉じファーランは意識いしきを失った。


その時。


『ドーーーーーーーンッッ!!』轟音ごうおんひびいた。


あおりゅうつづざまに琉偉とファーランが隠れる岩陰に向けて衝撃波を放った。



1度目の衝撃波で岩が爆砕し2発目を刹那せつなの差でかわすファーランを抱いた琉偉……だが、琉偉は分かってしまった…次は躱せない…そう頭の中でけたたましい警鐘けいしょうり響く。


(くっそぉーーーー)


『ドォーーーンッッ!!』



だが、ファーランをまもり抱き込む様にかがむ琉偉の後ろに突如とつじょ、大きな岩の壁が出現した。


いまだよ!!その子を連れて早く逃げて!!」


それはポコだった…


大声で琉偉に退却の声を上げる。


ポコの魔法がりゅうの放った衝撃波をかん一髪いっぱつふせいだのだ。


「はやくしろぉぉぉーーーっ!!」


ポコが大声で叫ぶ。


「助かった!ポコぉ!……わかった!!」


琉偉は、足を失い子供の様な軽さのファーランを抱き上げトンネルに向かい全速力で走る。


りゅうが見えなくなるところまで走った琉偉はポコが来ない事に気付いた。


ファーランを見つめる。


「…クソ!…悪りぃファーラン…もう少し待っててくれるか?」



意識はなく、血の気の引いたファーランを岩陰いわかげかくし、自分のシャツを脱ぎ引きさいてファーランの両足の太ももに巻きつけしばって止血しけつした。


「ファーラン…絶対ぜったいに死ぬなよ…」


琉偉はまた、祭壇さいだんに向かって走り出した。一振ひとふりしろ短剣たんけん片手かたてに。



(ヤバイ!!防御ぼうぎょ魔法まほうが破られる…もう、ルイは逃げたかな?…オイラが見ず知らずのやつを逃すためにこんな事やるなんて…自分でもおどろきだなぁ…でも、最後さいごぐらいだれかを助けたら向こうで待ってる父様とうさまと、母様かあさまはオイラをめてくれるかな?それに…あの約束も…)


ポコは額に汗をかき、走馬灯の様に今までの記憶が頭の中を猛スピードで浮かんできた。



(ルイかぁ…不思議ふしぎやつだったなぁ…いい奴だったなぁ…楽しかったなぁ…もっと早く逢いたかったな…)


『ビキ…ビキビキ…』


岩の壁に無数むすうのヒビが入るか。



終わりだ…ポコは命をあきらめ、不思議な新人冒険者しんじんぼうけんしゃを思い出し、少しだけ微笑ほほえんだ。


だが、そのとき


「おぉーーーーーーっ!!!ポぉーコぉーーーーっ!!」


琉偉が大声量で叫ぶ。


ポコは見た、そこにはじょう半身はんしんはだか右手みぎて純白まっしろ短剣たんけんを持った琉偉の姿すがたがあった。


「ルイぃ!!!なんで…なんで戻ってきたんだ!!…オイラは逃げろと…言ったぞぉ!!!」


ポコが叫ぶ。


「…バカヤロー…俺はなぁ…カッコつけるのは好きだが、カッコつけられるのは嫌いなんだよ!…ポコ!」



最初さいしょはしかめっつらで、その後は笑って琉偉は、いのちまもってくれた赤髪あかがみの冒険者に軽口かるくちを叩く。



それを見てポコの口元くちもとゆるむ。



「ははっ!カッコ付けに来たってんならルイにはとっておきの秘策ひさくがあるんだろーね??」


身体からだのマナを振り絞りあせを流すポコが琉偉に笑い、問う。



「あぁ…多分たぶんな!!」


「多分かよぉ〜!!」


ちょっとだけ不安ふあんになるポコ。


「ポコ!あのりゅうの近くに行ける方法ってあるか??」


琉偉が口早に問う。


「オイラは…転送てんそう魔法や空間くうかん魔法は使えないけど…つち魔法に『保護魔法レブロン』って魔法がある!」


「れぶろん??」


「うん!保護魔法レブロン発動はつどうすると数秒すこしの間、大地ガイア加護かごまと物理ぶつり攻撃以外は効かない!!」


「おお!さすがだぜ!ポコ!」



厄介やっかいなのはりゅうの口から出す衝撃しょうげきだ!!」



「衝撃波はブレス攻撃…風魔法かぜまほうだ!!」



ポコがけに出る。


「………オイラはルイに賭けるよぉ!!」


ポコが小さいこぶしを琉偉に向かい突き出す。


「おう!任せろ!ポコ!」


白い歯を見せて拳を合わせるポコと琉偉。


「もう…防御魔法も限界げんかいだ…やるよ!ルイ!」


そう言うと、ポコは詠唱えいしょうを始める。


大地だいちかみガイアよ…われ精霊せいれいノームの血を引くものなり。》


森羅万象しんらばんしょうせいなる神よ…我に今一いまいち力を!!》


《レブロン》!!


あかい光が琉偉に向かって流れ出す。


時間じかんはもって30秒程だよ!その間に仕留しとめめないとオイラ達は終わりだ!」


ポコがひたいに玉の汗をかいて琉偉に言う。


「それとすべての魔法は無効むこう化できるけど、単純たんじゅんな力による物理ぶつり的攻撃は防げない!頭に入れといて!!」




「おう!わかった!やるぞぉ!ポコ!」



『ガッシャーーーン!!』



その時、ポコの魔法防御壁が吹き飛んだ。



その音が合図あいずの様に、琉偉の身体からだあかい光が琉偉をつつむ。



琉偉は走った…全速力で。


白く輝く抜き身の短剣を手に。


ポコは走り去る琉偉の背中を、せきがんをいっぱに開いて、見つめていた。


そして、昔に聞いた精霊せいれい達の『神話しんわ』を思い出す。



それは、勇者ゆうしゃ御伽噺おとぎばなしではなかった。


世界を創造したかみ様とりゅう神話しんわだった。


その物語ものがたりの中で登場した神様と龍の争いを止めた人物じんぶつを思い出していた。


懐かしき声が響く…


ものは、漆黒しっこく黒髪くろかみに漆黒の黒眼こくがんの青年、真白で美しく全てを斬ってしまう神から授けられしつるぎを持ち背中せなかりゅう紋章もんしょうを刻みし異国いこく龍騎士りゅうきし


それは全ての始まりの神話だった。



ポコは、琉偉の背中に大きくられた龍の『刺青いれずみ』をまばたき一つせず大きく見開いたせきがんをさらに大きくし、食い入るように見続みつづけていた。



「うぉーーーーーッッ!!」


爆音ばくおん爆風ばくふう渦巻うずま祭壇さいだんの道を全速力で走る琉偉。


琉偉はある事を思い出していた。


宿屋の店主クズを殴った時の事だ。


多分たぶんあのクソヤローをぶん殴った時の力がマナだ!!それを剣にもまとわせる事が出来たらあのりゅうれるか!?)



琉偉は、己の中にあるマナを右手の短剣にそそぐ。


感覚かんかくは魔法のかばんとギルドカードと同じ要領ようりょうだった。



龍との間は5メートル強。


(行けるか……!?)


その時、龍が反転はんてんしその太く長い尾を叩きつけてきた。


(ヤバイ!!)


琉偉は頭の中で2度目の警鐘けいしょうを聞き、焦った。


だが、その太く長い尾は琉偉には当たる事はなかった。


後ろから放たれた岩の氷柱のような物が龍の尾に当たり軌道がそれ、間一髪かんいっぱつ、琉偉は回避かいひ出来た。


「ナイスアシストぉ!!ポコぉ!!」


後ろでひざをつき、苦しそうに笑みをこぼしているポコに琉偉が叫ぶ。


「いっけぇーーーー!!ルイ!!」


力を振り絞りポコが叫ぶ。


「うぅぉぉぉーーーーーーーっ!!」


「こんのぉ…デカクソトカゲ!!いっぺん死んどけぇーーっ!!!!!」


あり得ない跳躍を見せる琉偉が頭の上に構えた短剣を振り下げる。


(クソっ!射程リーチが足んねぇ……)


その時、短剣たんけん刀身とうしんが伸びて白金色はくこんしょく発光はっこうし、龍を頭から真っ二つに切り裂いた。


龍は一瞬いっしゅんで光の粒子りゅうしとなり琉偉に吸収きゅうしゅうされる。




「おおおおお!!ルイ!!すごぉぉぉーいぃ!!」



ポコが興奮こうふんし、驚きと称賛を口にする。



龍を撃破げきはした琉偉はポコの元に駆け寄った。



「よし!!コッチは大丈夫だな!ポコ!悪りぃ…さっきのポーションもう無いか!?」


琉偉はポコにたずねる。


「まだあんなら…分けてくれないか!?ファーランの血を止めないと!!ファーランが死んじまう!!頼む!!」


琉偉はあせってポコに願い出る。



「…ポーションはあるけど…さっきの子の傷は…重傷じゅうしょうだ…オイラのポーションなんかじゃ…役に立たないよ…ごめんよ…」


下を向き申し訳なさそうなポコ。



「で…でも、さい下層かそうの…それも伝説の守護しゅごりゅうを倒したんだ!もしかしたら『最上級回復薬エクスポーション』や、可能性は低いけど、それを上回る伝説の『神薬エリクサー』がこの階にドロップしてる可能性かのうせいもある!」


「…そうか………!!!?」


希望きぼうはあるとポコはうつむく琉偉に声をかける。


「え?ポコ!?『神薬エリクサー』で助けられるのか!!!?」


琉偉は驚きポコに問う。


「う…うん!『神薬エリクサー』は本当に貴重な物だけど、その力は本物だよ!グズグズしてられない!早く探しに行こう!!」


「いや…ポコ…!『神薬エリクサー』って奴なら俺、持ってる!!」



琉偉はポコにそう言った。



「えっ??本当に!?だって…神薬エリクサーってそれ一つでお屋敷を買えるくらい高価こうか貴重きちょうなんだよ…?」



「…なぁ!?ポコ!!その神薬エリクサーがあればファーランは助かるんだな!?」



「う…うん!!その可能性は高いよ!でも…ど…どこで手に入れたのぉ!!?」


興奮して驚くポコ。


「ひとまずその話のはあとだ!!先にファーランの所に行こう!ポコ!」


「う…うん!ごめん!行こう!」


2人はファーランの元に走った。


琉偉がファーランに駆け寄り一緒に置いた魔法の鞄に手を突っ込み神薬エリクサーを出す。


(頼む!出てきてくれ!!…掴んだ!!!)


琉偉が取り出したのは小さなガラスの容器ようきに入った血のような真っ赤な液体えきたいだった。


「赤い魔法薬……本で見たのと一緒だ…本当ほんとに持ってる……!?それに…そのかばんって…」


ポコは呆然ぼうぜんと、開いた口がふさげないないぐらいおどろいてた。


「話はあとだ!!これどうすればいい??ポコ!」


琉偉は焦りポコに問う。


「う…うん!まず両足りょうあしに少しずつかけて!あと頭にも傷を負ってるから頭にも掛けて!最後に口に流し込むんだ!!」



ポコは動揺どうようしながら琉偉に答えた。



琉偉が神薬エリクサーの入った容器のふたを開けファーランの太ももの切断せつだんめんに液体を少しずつ掛けると、すぐに変化へんかあらわれた。


「…っておい!!どうなってんだ!あしえてきたぞ!!てか、もうなおってるよ!こんな事ありえるのか??」


エリクサーの効果こうかはビックリするぐらい抜群ばつぐんだった。


「す…すごい!本物だ!!!」


ポコも、信じられないものを見て驚愕きょうがくしていた。


「あ…あと、頭にかけんだろ?」


琉偉は少し動揺しつつ、ファーランの頭にも少量の神薬エリクサーを掛けた。


すると今度は頭から真っ白のうさぎの耳が生えてきた。


「ファーランはうさぎだったのか??」


琉偉はおどろいて、ファーランを見つめた。




「あとは、飲ませるだけだが、まだ…気を失ってるぞ!?どうすればいい?ポコ!?」



口移くちうつし、しかないよ!ルイが口に含んで飲ませてあげて!!」



(いいのか?こんな状態じょうたいだから仕方しかたないか!!…ファーランも分かってくれるだろ!よし…いただきます!)


琉偉は神薬エリクサーを口に含みファーランに飲ませた…ゆっくりと…琉偉の命を分け与えるように…


数分すうふん後、ファーランは目をさました。



金色こんじきの瞳が最初さいしょに見たのは心配しんぱいそうに話しかけてくる琉偉の汚れて、ボロボロで、傷だらけの顔だった。



「ファーラン!俺が分かるか??どこか痛い所はないか??無理しないで言ってくれ!」



「ルイ様…どうやってこんな所まで…えっ?あ…足が!?え?…どうして!?」


ファーランは自分の身体を確認して驚愕した、吹き飛ばされたはずの足が元どおりに治っており、更には迷宮の底にいるはずのない琉偉がいたからだ。


「まぁ、何とか助かったって事だ!なっ!ポコ!」



「ちゃんと後でオイラにも話してよぉ!?ルイ!」


琉偉とポコは笑いあった。



「あの…ルイ様…この最下層に居たあのりゅうはどうなったのですか??」


ファーランは状況じょうきょうつかめず、さらには吹き飛んだ足が何もなかったかのように元に戻ってる事の答えを聞けず、困惑こんわくして琉偉に問う。


「あぁ…あのデカいトカゲは挨拶あいさつ仕方しかたが気に食わなかったからちゃんとしつけといた!だから気にすんな!なぁ?ポコ!」


「…はははっ!…うん!そうだねッ!」




冗談っぽく琉偉は傷だらけの顔で、ポコに同意を求め、唖然あぜんとするファーランに笑いかけた。



目を点にしたファーランはそのあと…笑っていた。




『クスクス』と、金色こんじきに輝くひとみから溢れるなみだを止めず、暖かい気持ちで笑った。



ファーランはこの時、生まれて初めて『幸せのなみだ』を流した。






そしてこの後程なくして3人は無事ぶじ黄昏たそがれ迷宮めいきゅうの上層に立っていた。







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