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『ポコ』と『記憶』


ポコの過去編ラストです…5話分程の長文になってしまいましたが…飽きずに読んでもらえたら幸いです。



麻倉 虎徹。


「なぁ?ポコ…夕方までどうするつもりだ?」


幾人いくにんもの人が忙しなく往来するパーレンの街、商店通りの一画で獣人のエドガーが街の様子をキョロキョロと見回す赤髪の子供の様な青年に向けて今後の予定を問う。



「ん〜っ…あとは『パンドラ』ってお店を探すしか…」



エドガーの質問にポコは記憶の片隅にある名前を挙げる。



「でも…さっきの美人のはこの街には『パンドラ』って店は…無いって言ってたぞ?……本当に手がかりは、それだけなのか?…焦らずゆっくりでいいから思い出してみろ!幾らでも待ってやるから!」



獣人エドガーは、腰ほどの高さのポコに向けて心配そうに、それでいて頼れる兄貴のように優しい言葉を口にする。



「うん…ありがとうエドガー!他に手がかり…手がかり…ん〜っ…………あっ!そうだ!確か…爺様じぃさまがこの街の『鍛治職人』と知り合いだって昔…聞いたことがある!」



心を落ち着かせゆっくりと思考し昔に聴いた話を思い出した。



「おお!そうか!じゃあパーレンの街の鍛治職人って言ったら『ベイズ』と、もう1人は『ハルカス』って職人が有名だな!ハルカスの所なら俺も利用した事もあるぞ!ここからそう遠くないから行ってみるか?」




「本当に!!?やったぁ!何かわかるかな!?…エドガーはやっぱり頼りになるよぉ!!ありがとう!」



子供の様に喜ぶポコを優しく見つめるエドガー。



「じゃあ決まりだな!『ハルカス』って人族がやってる鍛冶屋は、この先の中央広場の近くにあるんだ!ひとまずそこに行って聞き込みをするか!」



「うん!行ってみよう!」



2人は商店通りから中央通りに向けて歩き出す。



「ねぇ?エドガーは今日は衛兵のお仕事はお休みなの??」



目的地に向かってる途中でポコがエドガーに質問する。



「今日は、夜の当番だから夕方まではポコに付き合ってやるから安心していいぞ!あと…今日も夜はウチで寝れば明日も爺さん探せるだろ?」




「えっ?……本当にいいの?」



「ああ…勿論だ!昨日みたいな『おもてなし』は出来ないけど、寝床なら貸してやるよ!心配すんなよ!」



エドガーは優しかった…


ポコが出会った誰よりも優しくて、いい奴だった。



「…エドガー…ありがとう…本当にありがとう…」



ポコは男らしくぶっきらぼうに笑いかける獣人に、感謝の言葉が心の底から溢れ出した。



「…なんだ?また泣いてるのか?ははっ…そんなんじゃいつまでたっても冒険者なんてなれないぞ!?ポコ?」



「うん…ごめん…でも…なんか…止まらないんだ…」



「……たくっ…後で、旨い焼き串を買ってやるから泣くなよなぁ…」



「うん…エドガー…ありがとう…」



腕でゴシゴシと目元を拭い溢れる泪を必死に止めようとしたが、悲しいなみだは枯れるのに、嬉しいなみだはなかなか止まってはくれなかった。



その様子を見かねたエドガーは、子供をお菓子で釣る様に、ポコに屋台の焼き串を買う約束をする。




「おう…あんまり気にすんなよ!おっと…もう少しでハルカスの鍛冶屋だからな?ちゃんと爺さんの情報を聞くんだぞ?」



「…うん!!」



「やっぱ…ポコはそっちの顔の方がいいぞ!?年下好きのオネェちゃんにナンパされるかもな!ははっ!」



ポコは泪を振り払う様な笑顔で返事をし、エドガーはポコに冗談を言って歯を見せて笑った。



「おねぇさんかぁ…ははっ!そうだといいなぁ…」



見た目は幼いが、心は立派な思春期ししゅんきの男のポコは淡い期待を胸に恥ずかしそうに呟いた。





「よし!着いたぞ!ここがハルカスの鍛冶屋だ!見た目は怖いけど…腕のいい鍛治職人だぞ?俺も武器の手入れはここ出してるんだ!」



エドガーが指差す先には、店先に大きな盾と剣が飾ってある大きな煙突の付いた立派な佇まいのお店がそこにあった、近づくと『キーン、キーン、カンカン』と鉄を打つテンポのいいリズムの音が店の中から漏れ出している。



「鍛冶屋さんかぁ…本でしか知らないけど…エドガーが知り合いならすごく心強いよぉ!」



「おう!じゃあ行くか!?」


「うん!!」



2人はハルカスの店の重厚な扉を開ける。



「いらっしゃっい…って…お?エドガーか?なんだ?先月にロングソードを出したばっかじゃなかったか?今日は何用で来たんだ?」



エドガーが扉を開けると沢山の剣や鎧、そして少し焦げる様な香りが漂う店内に坊主頭の30代前後の大柄で山賊の様な風貌の男が話しかけてくる。



「今日は俺の用事じゃなくて…コイツがハルカスに聞きたい事があるんだ!仕事中に悪いんだが、聞いてやってくれるか?」



エドガーは親指を後ろのポコに向ける。




「ん?コイツって言うと…その後ろにいる…その子供か?」



ハルカスはエドガーの後ろに隠れる様に立つ赤髪の少年に黒色の瞳を向ける。



「あ…あの…オイラはポコ!は…はじめまして、ハルカスさん…オイラはある人を探しています!『ロイド・ライデン』と言う名前に心当たりはありますか?」



ポコは緊張した声で挨拶をし、失礼の無いように、言葉丁寧に強面こわもてのハルカスに祖父の名を確認する。




「なんだ!?小さいのに、やたらとしっかりしてるな!?…おっと悪い…『ロイド・ライデン』だったか?え…確か…有名な玉座の作り手がそんな名前だったな!?俺自身は知り合いでもなんでもないがな…すまないな…これぐらいしか俺にはわからねぇよ…」



大柄な鍛治職人ハルカスは、下顎に蓄えた髭を触りながら思い出す様にポコに知り得る情報を提供する。



「そっかぁ…ハルカスさん、教えてくれてありがとう!」



「……なぁ?ハルカス?『ベイズ』ってドワーフの鍛冶師がいるだろ?あの店にも行きたいんだが、どんな奴なんだ?『ベイズ』って…」



(…ドワーフ?…ドワーフってどんな種族なんだろぉ…)



ポコは、エドガーの発した『ドワーフ』と言う単語を聴き、まだ一度も目にしたことのない種族に好奇心が刺激され思考する。



「あ?ベイズだとぉ?あの頑固者の事だから…多分、質問に答えちゃくれないし、下手したら店から追い出されるぞ!アイツはこの街の一番の鍛治職人だが、変わり者で、偏屈へんくつだからな…あと、剣の腕も立つらしいぞ?まぁ…行ってみるといい、場所は分かってるだろ?」



「確か…一等地区と商店通りの間に店を構えてるはずだよな?あの辺は…貴族達が多いからなぁ…」



ハルカスは少し不安そうに『ベイズ』の印象を語り、エドガーは声を低くし、小さく項垂れた。



「じゃあ、仕事中に悪かったな!あっ…それといつかこのポコが冒険者になった時は宜しくな!ハルカス!」



「おっ!なんだ…赤髪の坊主…冒険者になりたいのか?」



エドガーの粋な計らいにハルカスはポコに向け目尻に皺を寄せ笑いながら問う。



「…うん…いつか…いつかオイラは冒険者になるんだ!そして…困った人を助けれる様な…そんなカッコイイ男になりたいんだ!」



ポコは心に刻まれた優しき獣人を見て己の気持ちを目の前の厳つい坊主の鍛治師に告げた。



「……そうか……ヨシ!名前は『ポコ』って言ったよな?…いつかお前が、俺の耳に入る様な活躍をしたら俺が何かイイものをくれてやる!!男の約束だ!」



ハルカスは厳つい顔で、気持ち良い笑みをポコに贈る。



「ほんとぉ!?やったぁ!オイラは身体からだが小さくて力が無いから…剣士は無理だけど…頑張って『魔導師まどうし』になるんだ!」



ポコは秘めた想いをハルカスに誓った。



「おっ!魔導師ねぇ…じゃあ、それまでにいい杖を作っておかないとな!…それと…少し待ってろ!」




そう言って部屋の隅の木の箱をガチャガチャと漁り1つの銀色に輝く少し形の悪い胸当てを手に持ち、それをポコに差し出す。



「良いのがあったぞ!ほれ!」



「えっ…この防具は?貰っていいの?」



「おう!それは…お前の心意気を称賛して俺からのプレゼントだ!…小さく作りすぎて誰も買わなかった余り物だが…材質は良いものだ!大事に使えよ!」



ハルカスはポコの真っ直ぐな優しさを感じ、小さな冒険者志望の少年に男臭い笑みを投げかける。



「やったぁ!…うん!!ありがとう!!絶対オイラは冒険者になるよぉ!ハルカスさん!」



「おっ!良かったな!?ポコ!ハルカスの防具はパーレンじゃ有名なんだぞ?…ハルカスもありがとな!今度どこかで一杯奢らせてくれよ!」



「なに…俺の気まぐれだ…変に気をつかうな!エドガー……ベイズの所に行くんだろ?気をつけろよ!」



「ああ!じゃあ、また来るよ!」



「ハルカスさん…本当にありがとうぉ!ちゃんと約束守るからね!覚えててね!またね!」



「……おう!だが、急ぎすぎて迷宮の魔物に足元すくわれるなよ!?気をつけるんだぞ!ポコ!」



「うん!胸当て大切にするね!じゃあね!」



「ああ…またな!」



ポコは思いもよらない2日連続のプレゼントに興奮し紅い瞳をキラキラと輝かせ、左手に大切そうに小さな胸当てを抱え…ハルカスに手を一生懸命振って別れを惜しみ『冒険者になる』と言う夢をより一層深め、大通りを進んで行く。



「なぁ…ポコ?ハルカスはいい奴だろ?」



「うん!!エドガーと笑った顔が似ていたよぉ!とっても優しい顔だった!」



「おい!俺はあんなに凶悪な顔してないだろ!」



「そんな事ないよぉ!とぉーってもそっくりだよぉ?…ははっ」



「なんだよ!俺はもっと爽やかだろ!撤回しろ!ポコ!優しくてカッコイイお兄さんって言え!」



「…オイラ…嘘つくのは苦手なんだぁ…」



「えっ…本当に…俺もハルカスみたいなツラに見られてるのか?嘘だろ…気づかなかった…だからモテないのか…?チクショー…」



「嘘だよぉ!!エドガーはオイラが見た中で1番カッコよくて優しい…オイラの英雄だよぉ!これは嘘じゃないよ?ははっ!」



ポコはおどける様に満開の笑顔で心折れそうになっているエドガーに声高く褒英しょうえいの言葉を贈る。




「…なんだよぉ!ポコの顔は冗談なのか本当なのか分かりづらいな!危うく鉄仮面を付けたまま生きることを選ぶとこだっだぞ…」



「ねぇ…エドガー…それはハルカスさんに失礼だよぉ!」



「…いや…冗談だよ!!そこは本気にすんなよ!ポコ!」



「あはははっ」



少年と獣人の、ある強面こわもての鍛治師に失礼な会話は、通りを歩く人を振り返らせるほど楽しそうで、笑いに満ちた声だった。





「……おい!耳障りだ!獣人風情が堂々とこのパーレンの街を笑いながら歩くな!」



そして…その声につられる様に、エドガーとポコに敵意の声を発する。



「…マズッ……あっ!これは…貴族様…すみません…直ぐに行きますので…失礼します!…ほら!行くぞポコ!」


「う…うん!」



エドガーは声の主を振り向く前に小さく声が漏れ、一度頭を下げポコと足早にその場を去ろうとした。



「待て!おい!そこの汚い赤髪のガキが持ってる防具を俺に見せろ!」



その暴力的な声の主は3人組の派手な服で着飾った若い貴族だった、そして…その内の一人がポコの左手に大事そうに抱えた銀色に光る胸当てに目を付け、悪意の声を吐く。



「…ポコ…貴族様の言うとうりにするんだ……」



エドガーは声を低くそして悔しそうにポコに声をかける。



「うん…はい…どーぞ…あの…コレは大切なものなんだぁ…だから…ちゃんと返してね?」



「あ?なんだ?ガキ!俺が盗賊にでも見えるってのか!?おい!俺を侮辱してんのか!?おい!!」



ポコの一言で怒り、大声を上げる1人の貴族が伸ばした手をポコの胸ぐらに向け、両手で掴み持ち上げる。



「う…苦しいよぉ…エドガー…助け…て…」



「貴族様!この子はまだ…子供です!!どうか許してあげて貰えないですか!お願いします!」



「あ?子供だろうが平民が貴族を侮辱したんだ!これは立派な犯罪だ!!確か…お前はこの街の衛兵だったよな?どうするんだ?不敬罪だぞ!!」



「本当に申し訳ありません!!この子には良く言って聞かせますので…どうか……この通りです!お願いします!」



エドガーは地面に膝をつき頭を下げる。



「クックックッ…まぁ…そこまで言うなら俺も名誉ある貴族だ…しょうがない…コイツの持ってる『胸当て』でこの話は水に流してやるよ!じゃーな!薄汚い下民ども!!」



『ドカッ…』




「あっ…いてッ…う…ゔぅぅ…」



貴族は感情の乏しい気味の悪い笑い顔を晒し、ポコを投げ捨てる様に地面に叩きつけポコの腕から落ちた銀色の胸当てを拾い…それを懐にしまう。



「はははっ…良い酒代が出来たな!?これ売って飲みに行こうぜ!今日は俺の奢りだ!ついてんぜ!」



膝をつくエドガーの横を通り過ぎる3人は笑いながら路地裏に消えていく。




「……くそ……チクショウ……」




「…いてててて………エドガー……」





エドガーは必死に歯を食いしばり、ポコに初めて見せる血走った灰煙色はいえんいろの眼を既に居ない貴族に向け小さく呟き…ポコはそれを見て、憎しみに染まりかける獣人の名前を呼ぶ。



「……大丈夫かポコ!?怪我はないか?……ごめんな…せっかくハルカスがくれたのに…ごめんな…守ってやれなくて…本当…情けねぇーよな……」



「…うんん!!そんな事ないよ!!オイラが…あの人達の気に障る事を言ったから…こんな事になっちゃったんだ…だから謝らないで!エドガー…エドガーはオイラをまた助けてくれたんだ!…嬉しかったよぉ!ありがとうエドガー!」



土と埃にまみれて紅い瞳に涙を溜め、一生懸命笑って笑みを無くしたエドガーに感謝を伝えた。



「ポコ…?…ポコは…悔しくないのか!?ハルカスにあの胸当てを貰った時…あんなに…喜んでただろ…?」



エドガーは不思議に思った…これまで、短い間だがポコと接し、色んな場面で涙を浮かべるポコは、もっと泣いて悔しがると思っていたからだ。



「オイラは…その……慣れてるから…だから…悔しいけど…我慢する事しか…出来ないから…だから…ハルカスさんには後で謝りに行くよぉ…大切にするって約束…守れなかったから…」



ポコは儚く笑った…小さい手を白くなるまで握りしめ悲しそうに声を細め、呟いた。



「…ポコ……お前…そうやって…ずっと今まで我慢してきたのか?」



「だって…オイラ…皆んなとは…違うでしょ…?だから…仕方ないんだよぉ…ごめんね…エドガー…」



ポコは、自分が何者なのか自覚した時からずっと諦めていた…大切な物を奪われる事を…理不尽な扱いに抗う事も…そして…幸せになる事を…



エドガーは無い気持ちが溢れかえり口を開く。



「…なぁ…聞いてくれ…ポコ…」



そして、エドガーはポコの暗く濁ったくれないの瞳を見つめて、無理に作った笑顔で語り出す。



「…俺は…ポコと出会えて本当に良かった!!


それに、俺は一度も混血の血を引くお前を怖いと思った事なんて無い!!嘘じゃない!!


ポコはいい奴で…真っ直ぐな奴で…それで…俺の大事な『友達』だ!!


…だから…頼む!諦めないでくれ!!


いつか世界は変わるんだ!!


種族なんてちっさい物に負けるな!ポコ!『俺達』は負けない!!あんな奴らには絶対に屈しない!!



今は…まだ…なにも出来無い事かもしれない…でも…希望を捨てるな!!


俺は…誰がなんと言おうと、ポコを蔑んだりしない!!


俺みたいな奴は…いっぱい居るんだ!!この世界は広いんだ!!だから…だから…そんな顔するな…ポコ…」



獣人は泣いていた…



ボロボロと大粒の涙を流し…希望の言葉をポコに注ぎ…泣いていた。



エドガーは、全てを悟り絶望した瞳で笑うポコを見て耐えきれなくなった。



パーレンの街に身を置いたエドガーの周りにあったのは…差別と理不尽と…吐き気がする程の悪意だった。



その経験は大人のエドガーでも耐え難い物だった。



そして産まれてから、ずっとその環境にいたであろう目の前の純粋で心優しき『友』に伝えたかった…口先だけの希望でも…理想だけの夢だったとしても…エドガーは今、伝えたかった。



「…エドガー…ありがとう…『友達』かぁ……えへへ…嬉しいなぁ…あんなに…心が冷たくなったのに…もう治っちゃった!!…やっぱりエドガーは凄いや……いつか…オイラもエドガーみたいに強くなりたいな!…ほんとに…ありがとう…」



涙を流し、必死にポコに希望の言葉を贈る獣人の『友』を見上げ、凍った心をゆっくり溶かす様に少し照れ、同じ様に泪を流すポコは感謝を告げた…互いに傷ついた心を癒す様に。



「……さぁ!!じゃあ……行くか!!」



「うん…あっ…置いてかないでよぉ…エドガー!」



涙をぬぐいながら、エドガーはポコに背を向け、『ベイズ』に向けて早歩きで歩き出す。



鼻を啜り、泣き腫らした目元を冷たい風で冷やし、恥ずかしさを隠す様にエドガーは通りを進み、ポコも短い脚を必死に動かし、獣人の後に慌ててついて行く。




そして立派な屋敷が所々に目につく様になった場所でエドガーが言葉を発する。



「確か…この辺だな?あっ!あったぞ!ポコ!あそこが『ベイズ』の鍛冶屋敷だ!」



「わぁーーっ…凄く立派だねぇ!!今からここに行くの?…平気かな?怖い人じゃなきゃ良いけど…」



2人が見上げるのは大きな敷地に、二つの大きな屋敷が繋がった様な立派な佇まいの鍛冶屋だった。



「冒険者達もたくさん居るな!あそこだったら俺達が入っても平気そうだな?まずは中に入ろう!ポコ!」



向かって右側の建物に何人かの冒険者らしき風貌の人が出入りしている入り口をエドガーが指差す。



「うん!…なんか…緊張するなぁ…でも、オイラ…頑張るよぉ!」



「ああ!ちゃんと爺さんの情報を聞けよ?近くにはちゃんと居るから安心しろ!ってあの後じゃ…心配かも知れないけど、俺がついてる!なぁ?信じてくれ!」



「うん!オイラはエドガーを信じてるから平気だよぉ!!…よし!!オイラはできる!!行こう!」



エドガーはいつもの優しい笑顔を見せ、ポコは友の声を聴き不安を振り払う様に…己に言い聞かせるように声に出した。



「いらっしゃいませ!あら…小さなお客さんね?お使いか、何かかな?」



ベイズの鍛冶屋に入店した瞬間に、腰まで伸ばした艶のある綺麗な黒髪の女性に声を掛けられる。



「あの…ここの鍛冶師の『ベイズ』さんは居ますか??聞きたい事があって…会って話しがしたいんだ!」



ポコは後ろから見守ってくれているエドガーを信じ、ポコと同じ紅い瞳を持つ女性に来店の目的をしっかりと告げた。



「あれ…もしかして…『ロイド』さんのお孫さん?ポコちゃんじゃない??」



「えっ…爺様の事知ってるの!?それにオイラの名前も…もしかして…ここに爺様は居るの!?おねぇさん!!」



女性の意外な返答にポコは興奮した様に祖父の消息を訪ねる。



「やっぱり!!私『ソアラ』よ?昔一度だけ私と会ったの覚えてない?確か…8年ぐらい前だったかしら…?」



「ソアラ…さん?…ん〜っ…ごめんなさい…わからないやぁ…」



ソアラと名乗る女性はポコに久しぶりに会う身内の様に接し、ポコは記憶を辿るがソアラと言う名前に心当たりはなかった。



「その赤髪と真っ紅な眼を覚えてるわぁ!大っきくなったわねぇ!…それと…ロイドさんの事だけど…ごめんね、ここには居ないわ…詳しい話は…上でしましょう…?直ぐに『ベイズ』を呼ぶわ!二階に応接間があるからそこで少し待ってもらえる?」



「…爺様はここには居ないのかぁ…うん…わかったよ!」


期待していたポコが残念そうに返事をする。



「…ポコぉ良かったな!!何か分かりそうじゃないか!」


そんなポコを見て後ろから見守っていたエドガーが声をかける。



「あら?ポコちゃんの付添い?じゃあ、階段を上がって1番奥の部屋で待っててくれないかしら?お願い出来る?獣人のお兄さん?」



「…ああ…了解した!よっしゃ!ポコいくぞ!」


「うん!」



エドガーを見たソアラがニッコリと笑い、早歩きでその場を立ち去った。




「確か…1番奥の扉って言ってたよな?ここか?」



「うん!ここだね!」



二階に上がってきた2人はソアラに言われた通り、二階の1番奥の応接間の扉に手をかける。



「おお!さすがパーレンで1番有名な鍛冶屋だな!」



「うん!!いっぱい武器が飾ってあるね!すごい高そうな物ばっかりだぁ!!」



2人が部屋に入るとそこには至る所に鑑賞用と思しき綺麗な細剣レイピアや金と銀の細工を施した奇妙な形のヤリなど多種多様な武具が壁に飾ってあった。



「ポコぉ!絶対に触るなよ!?多分…盗難防止の魔法がかけてあると思うから大騒ぎになっちまうぞ!」



「へぇーっ!!そんな魔法もあるんだね!!エドガーは物知りだね!」



「ここの武具は俺の一年分の給金じゃ買えない物ばかりだからな!それ位はしてるはずだ!」



元冒険者のエドガーはポコに細心の注意を払うように促す。



「へぇーっ…武具ってそんなに高いんだぁ…そっかぁ…」



ポコは先程まで所有していた胸当てを思い出し、申し訳なさそうに声をだす。



「……いや…ここに飾ってあるのは全部一級品ばかりだからな!もっと手頃な値段の物も沢山あるんだぞ!?」



ポコを見たエドガーは慌てる様に情報に補足を入れる。



「…そうなんだぁ!でも…いつかはこんな装備で…冒険者をやってみたいなぁ!」



ポコはじっくりと、煌びやかな武具を紅眼せきがんに焼き付け、小さい子供の様に夢を語った。



「ああ!頑張れば…いつかは絶対手に入れられる!想い続ければいつか必ずそれは現実になるんだ!ポコ!」



「うん!オイラは爺様を見つけて、冒険者になって…それでハルカスさんに立派な杖を作って貰うんだ!」



「…ああ…そうだ!そしてSランクの冒険者になって…あのバカ貴族達を見返してやれ!なっ!ポコ!?」



「うん!!」



ポコはこの時を夢を語った…


優しき友の声に心震わせ、想像した。


誰も許してはくれなかった明るい未来を…




『コン…コン』


「入るぞ!」


その時、ノック音と共に若く高い声が扉の向こうから聴こえてきた。



『ガチャ』



「…ポコ…か?…俺の事覚えてるか?」



扉を開き入ってきたのは見た目はポコと同じ位の年頃の、黒髪で黒い瞳の小さな子供だった。



「えっ?…ごめんなさい…わからないや…オイラの事を知ってるの?」



「……そうか…あの時は…まだ…ポコは小さかったからなぁ…じゃ、改めて、俺は『ベイズ』…種族はドワーフ族だ…こんな見た目だが、歳は150は超えてる大人だ!宜しくな!」



「うん!あの…ベイズさん…それで…オイラの爺様の事なんだけど…何か知ってますかぁ??」



「…ああ…そうだったな…ロイド爺の行方を聞きに来たんだよな?………所で…そっちの獣人のかたはどういう知り合いだ?」



ポコの後ろで2人の会話を黙って聴いていたエドガーに、ベイズが2人の関係を大きな黒眼で刺す様にみつめ、問いかける。



「あっ!?俺か?俺は…この街で衛兵をやってるエドガーだ!ベイズさん!俺はポコの…友人だ!」



「エドガーは…何も分からないオイラを助けてくれたんだ!オイラの大切な…凄く大切な友達だよ!ベイズさん!」



エドガーはベイズの問いに真っ直ぐ答え、それを証明する為にポコも同調する様に声を発する。



「…そうか…それはポコが世話になったみたいだな!…感謝する…エドガー!」



エドガーの瞳をじっくり見て、ベイズは少し笑みを見せ、ポコの友人の獣人を見上げ感謝を告げ、頭を下げた。



「いや…そんな大した事はしてないよ…なぁ…ベイズさん?ポコの問いに答えてやってくれるか?…もし俺が居たらまずい感じなら外に出るけど?」



エドガーは逸る気持ちのポコを見て気を使い、話を進める様にベイズに促した。



「いや…すまん…2人ともソファーに座ってくれるか?俺が知ってる事を話す…」



ベイズはポコとエドガーを黒い立派なソファー座る様に声をかけた。



「ベイズさん!それで…爺様はどこに居るのか知ってるの!?」



「悪いな…居場所は俺も知らないんだが……ポコとエドガーは『精霊狩り』って言葉を知ってるか?」



「…『精霊狩り』?…ううん…オイラは聞いたことないよぉ…」



「………俺も…聞いた事は無いな…」



ベイズの言葉を聞いた2人は嫌な予感に見舞われる。



「『精霊狩り』ってのは…精霊族の有する膨大なマナを抜き取る事を目的とした人攫いの犯罪集団だ…実は…1ヶ月位前に精霊狩りの被害にあった『風精霊シルフ』と話す機会があったんだ……」



「えっ…1ヶ月前って…オイラの爺様と同じ時期だ…も…もしかして爺様も…!?」



「…俺は2ヶ月程前に…ロイド爺とイザナの森で会ったんだ…その時に誰かに見張られてるって言ってたんだ…ポコは聞いてないか?」



「…オイラは…何も聞いてないよぉ…」



「そうか…俺は月に一回、ロイド爺から鍛治に使う『鉄鉱石』や『魔銀ミスリル』なんかを買ってたんだ…でも、約束の日が来てもロイド爺は現れなかった…心配になってイザナの森周辺を探していたら…偶然その風精霊シルフに出くわしたんだ!傷ついてマナも抜き取られ…今にも生き絶える寸前だった…」



「…うそ……その風精霊シルフは何か言ってたの!?」



「……ああ…自分の他にもう1人捕まってたって教えてくれたんだ…風精霊シルフが言うには…赤髪の土精霊ノームだったって…」



「そんなぁ!!その風精霊シルフはどこに居るの!?オイラ…話を聞きたい!ねぇ!ベイズさん!教えて!!…爺様が心配なんだ!!」



ポコはベイズの話を聞き、取り乱す様にベイズに近寄り情報を握る風精霊シルフの居場所を震える声で確認する。



「残念だけど…その風精霊シルフは…もう…この世には居ない…すまない…ポコ…俺はそいつを助けてやる事が出来なかったんだ…手遅れだった…」



ベイズは記憶を思い出す様に黒い瞳を下げて悔しそうに語った。



「じゃあ…じゃあ爺様は……嫌だ!!爺様を助けなきゃ!エドガー!!どうしよう!!」



ポコは血の気の引いた顔で縋る様に隣に座るエドガーに切迫した声をあげる。



「…なぁ…ベイズさん!それは国の警備隊に話したか?俺はそんな話は知らない!俺は守備兵だ!パーレンの近くでそんな事起きたら問題になるはずだ!」



エドガーは目の前のベイズに灰煙色はいえんいろの瞳を向け、問いただす。



「その日にパーレンの守備兵に言った…でも…動いてはくれなかった…被害にあったのは『精霊族』だ…ロイド爺は『人族』や…『貴族』じゃ無かったから…取り合ってもらえなかった…」



「……くそ……アイツら……」



ベイズは声を落として2人に告げる…そして、エドガーは心当たりのある、同僚達の顔を思い浮かべ低い声で呟く。



「なんで!!爺様は…この国の国民だよ!!ちゃんと国にお金を納めてるよ!なんで助けてくれないの!?精霊族だから?貴族じゃないから?ねぇ!エドガー!教えて!!どうしたら…どうやったら……ごめん…エドガーも…分からないよね……ごめん…ごめんなさい…」



余りのショックな情報にポコは声を荒げ、取り乱してエドガーに問いを重ね…冷たい涙を流し…謝った。



その光景を見ていたベイズがある情報を語る。



「ポコ…俺も手を尽くしてその手の話に詳しい人に聞いたりしたんだが…全然情報がなくてな…協力してやりたいんだが……でも、1つだけわかった事がある…その精霊狩りをしている奴らは『魔族』って情報があった…」



「魔族…」


「ポコ!一旦この話は俺が預かる!心配かもしれないが…俺に任せてくれないか…?…ベイズさん!この話は俺達以外には話してないか?」



エドガーは『魔族』と言う単語を聞いた瞬間、即座にポコに真剣な顔で捜索の中断を促し、ベイズに情報の漏洩を危惧した様に問う。



「…うん…分かったよぉ…エドガー…」



「ああ…精霊狩りの情報は…お前らにしか言ってない!国に取り合ってくれるのか?」



「…出来るだけ…力になれるよう働き掛けるつもりだ!ベイズさん…俺の同僚が悪い事をしたな…ポコも…本当にすまない…」



エドガーは国を守る衛兵の仮面を被り、エドガーは職務の責任を感じ、ポコに頭を下げた。


「エドガーは何にも悪くないよぉ…だから謝らないで…」


「そうだ…あんたは何も悪くない…あんたなら…ポコを安心して預けれそうだ…ポコを…よろしく頼む…あの…名前も知らない風精霊シルフの為にも…」



「ああ…やるだけやってみる!」



エドガーは神妙な面持ちで答えた。



『コン・コン』…


「あんた…もしかして…話は終わっちゃった?お茶とロイドさんから預かってた『アレ』を持ってきたけど…」



3人の話も終盤になった所に先程の長い黒髪を揺らすソアラが木のお盆にお茶と菓子を持って応接間に現れた。



「さっきのおねぇさん…」



「ポコちゃん…その顔じゃ…やっぱり…ロイドさんの居場所はまだ分からないんだね…これでも食べて元気出して!」



ソアラは元気無く声を出すポコに砂糖菓子と湯気の立ったハーブティーをポコの前に優しく置いて声をかける。



「ん?おねぇさんだと?ポコ?ソアラはこう見えても…」



「あんた!?余計な事は言わなくていいのよ?ベラベラ喋る男は夕食を抜きにしますよ?……あっ!すみません!あはははっ…お気になさらず召し上がり!ポコちゃん!」


「……うん…いただきます…おねぇさん?」



ソアラは一瞬少しだけドスの効いた声をベイズに向け、小さなドワーフの話を切り捨て、ポコにキラキラとした可愛い笑みを浮かべた。



「あ…あの…ソアラさんはベイズさんの奥さんか?」



「あ…あぁ…俺の自慢の…鬼嫁だ…」



エドガーはベイズに囁く様な声で声をかけ、ベイズは少し項垂れる様にソアラに聞こえない程の声で呟いた。


「あんた…明日の昼まで食事は自分で作って下さいね…」



どうやら…ベイズの声は聞こえてしまった様だった。



「それと…これ…ロイドさんから預かってた物なの…ポコちゃん、手を出して?」



「えっ…爺様から??なぁに?これ?」



ポコがソアラから受け取ったのはうっすらマナを感じさせる、小さなガラス玉の様な物だった。



「それは…もし自分に何かあったらポコちゃんに渡してほしいって…ロイドさんから預かっていた物だよ…」




「…それは…魔封石と言って…何かの魔法の元素を封じ込めた宝玉だ!売れば何十年も暮らしていける程価値のある代物だ…大事にするんだぞ?」



「何十年も……!??でも……あの…これはまだ預かって貰っても良いですか…?」



ソアラはロイドとの約束を果たす為にポコに魔封石を渡したが…ポコは小さい声で断りを入れる。



「私達は構わないけど…ポコちゃんお金…平気なの?この街で暮らすにはお金は必要よ?」



「オイラ…まだ…コレを護れる自信が無いんだぁ…すぐに誰かに取られちゃうから…ここで預かって貰えると助かるよぉ…」



ポコは、気のいい鍛治師から貰った大切な物さえ守れない自分の力を…分かっていた…そして、その光景を見守るエドガーが声をかける。


「なぁ…ポコ…?」


「うん?どうしたのエドガー?」



「ポコは…その魔封石を売って金に変えるつもりか?もし違うなら…その魔封石を使ってみないか?そしたら誰かに奪われる事もない!魔法だって使える様になって自分を守る事だって、冒険者になってこの街で暮らす事だって出来るんだぞ?…どうだ?」



「…ほんとうに?……よし!…オイラ…コレ…使うよ!!エドガー!どうやって使うの?」



ポコは少し考え、エドガーの提案に乗る。



「本当に良いのか?ポコ?売れば危ない事をせずに暮らしていけるんだぞ?良く考えろ?」



話を聞いていたベイズがポコに最後の確認を取る。



「オイラは…爺様が託してくれた物はお金には変えれないよぉ…だから…使うよ!心配してくれてありがとうベイズさん!でも…オイラは…爺様を探しながらこの街で冒険者を目指すんだ!大切な物を奪われない様に…それと…友達に心配をかけない様に…」



ポコは決意する。


祖父を想い…強く言葉を発して…


自分を想ってくれる友の事を想い恥ずかしそうに言葉にした。



「ポコは…良い友達を持ったな!ソアラ!金庫から幾らか…支度金をポコに渡してやってくれないか?…俺の小遣いは当分要らないから…頼むよ!」



ベイズはポコの言葉を聞いて笑みを浮かべ、妻のソアラに嘆願した。



「…あんた…惚れ直したよ!待ってて!直ぐに持ってくるから…それと…お小遣いは半分にまけてあげるわ!安心して下さいね!」



ソアラは紅い瞳を潤ませ、自分の亭主を褒め称え部屋を出る際に片目を瞑りプチ鬼嫁を出して去っていった。




「……半分かぁ……優しい鬼嫁を持って良かったよ…」



「支度金って…本当にいいのぉ?オイラ…いつ返せるかわからないよぉ?良いの?」



「あぁ…大丈夫だ!コレは俺の気持ちだから…安心して受け取りな!それと…エドガー…ポコを頼んだぞ?宜しくな!」



「ああ!俺の大事な友達だからな!頼まれたよ!……良かったな!ポコ!」




「うん!ありがとう!!ベイズさん!オイラ…頑張るよぉ!それと…エドガー!この魔封石?だっけ?コレってどうやって使うの?」



ベイズがエドガーに頭を下げ、エドガーは曇りなき言葉を交わし、ポコに笑って声をかける。



そして、ようやくいつもの笑みを浮かべるポコはエドガーに魔封石の使用方法について質問する。



「魔封石は魔導のスキルを持った者に『魂刻こんこく』して貰うんだ!魔法屋に行けば銀貨1枚程でやってくれるはずだ!」



「そうなんだぁ…あっ…なんか…前に…本で読んだことあるかも!どんな魔法がこの中に入ってるんだろう…」



「それは…魔法屋でも、分からない…鑑定のスキルを持ってしても魔封石に閉じ込められてる魔法は分からないんだぞ?」



「昔の…いにしえの錬金術師なら神眼の力で分かったのにな…」


「あっ!!!ランスロット!そうだ!ランスロットだ!」


ベイズが放った一言でポコが思い出したかの様に声をあげる。



ポコは何年か前に祖父に聞いたお伽話を思い出した。



「おお!ランスロット…伝説の錬金術師だな?確か…この魔封石を作ったのはその錬金術師だったと、昔とあるエルフに教わったなぁ…ってポコは物知りだな?」



「そう言う話は…オイラ好きなんだぁ…」


一般的にはマイナーな、とある錬金術師の名で盛り上がり、エドガーは先程までの空気を変える様に声に出し、英雄好きのポコは友に褒められ可愛く照れた。



「待たせてごめんね!あんた…はい!ポコちゃんに渡してあげて!」



程なくすると、支度金を用意したソアラが応接間に戻ってきて皮袋をベイズに渡す。



「ポコ!大事に使うんだぞ!?この金は誰にも見せない様に少しずつ持ち歩け!分かったな?」



「うん…ありがとう!ベイズさん、ソアラおねぇさん!いつか絶対に返すから…冒険者になって返すから!本当にありがとう!」



「金なんかいつでも良い…また顔を見せに来てくれ!」


「また、おねぇさんって言ってくれるのね…可愛いポコちゃん!今度はご飯を食べに来てね!おねぇさん…いっぱい作って待ってるから!」



その皮袋をそのままポコに手渡し、ポコは精一杯の気持ちを込めて感謝の言葉を口にし、ベイズは優しい顔を見せ、おねぇさん呼ばわりされたソアラは余程嬉しかったのかポコを力強く抱きしめた。



「それじゃ…何かあったらいつでも頼って来いよ!エドガーも…いつでも俺の店に来てくれて構わないからな!今度、装備を持ってきな!無料ただで手入れをしてやるから!」



「…俺も良いのかよ?ありがとう!ベイズさん!今度寄らせて貰うよ!…じゃ行くか!ポコ!?」



「うん!絶対にまた来るから!本当にありがとう!」



「おお!気をつけろよ!またな!」


「直ぐに顔を出してね!またね…ポコちゃんとエドガーさん!」



「うん!!直ぐにまた来るよぉ!じゃあーね!!」



ポコとエドガーはベイズ夫婦に挨拶をし、通りに出る。



「じゃあ、夕方まで…まだ時間があるから…早速、魔法屋に行くか!」



「うん!…それと…コレ…どうしよう…オイラが持ってたらまた取られちゃうかも…」



ポコは、ベイズに貰った皮袋を見てエドガーに相談する。



「…ハルカスがあんな言い方してたからどんな人物かと思ったが…めちゃくちゃいい人だったな?」



評判とは全然違った鍛治師を思い出しエドガーが笑いかけ、ポコは皮袋を確認する。



「えっと…えっ??これ金貨??中に金貨50枚ぐらい入ってるよぉ!!こんなに貰っちゃって良かったのかな!?」



「ほんとかよ!!一気に俺の全財産を上回ったな…でも、ベイズさんに言われた通り、ちびちび使うんだぞ?変な使い方したらベイズさんとソアラさんが悲しむからな!あと…その金はどこかに隠しとけよ?」



「うん!大丈夫だよぉ!このお金は冒険者になる為に使うんだ!…鞄の中に隠しておくよぉ!」



エドガーは再度ポコに注意し、ポコは鞄の中、深くにその皮袋をしまった。



「魔法屋は『ミッド』の近くの商店通りにあるから…丁度いいな!…よし!…ポコ!大金を持ってるんだ!用心しろ!」



「うん…ねぇ…エドガー?あのさぁ…今日もエドガーの家に泊まってもいい?…お金は持ってるけど…オイラ少し不安なんだ…迷惑かけるけど…平気?」



「あ?…当たり前なこと聞くな!ポコ!行くぞ!」


「…ありがとう…エドガー…」



ポコは、この優しい男に何度救われただろう…


初めて笑顔を差し向けてくれた衛兵に…


行く宛のないポコに救いの手を差し伸べた獣人に…


そして、沢山の希望の言葉を贈ってくれた…ポコの最初の『友』のエドガーに…


ポコの心は感謝と嬉しさで満たされていた。



「よし!ココだぞ!…いよいよ魔導師の第一歩だな!準備はいいか?」



2人は魔法屋の前に到着していた、そこでエドガーが緊張するポコに声をかける。



「うん!じゃあ行こう!エドガー!」



ポコは決心したように頷き、犬歯を見せ笑う友に力強く言葉を発した。



「…おーい!ジャル婆!!居るか?お客を連れてきてやったぞ!おーい!」


怪しい雰囲気の店内に入った瞬間にエドガーが誰かの名前を呼び、辺りを見回すポコが驚いたようにエドガーを見る。


「?エドガー…ここのお店の人知ってるの?」


「…ああ…腐れ縁でな…黙ってて悪かったな!緊張してるポコが可愛くてついな!はははっ!」



「エドガーの意地悪!!」


「まぁまぁ…っておーい!婆ちゃん!!寝てんのか?」



エドガーが茶目っ気を出して笑い出し、ポコがエドガーを見上げ頬を膨らませる。



「うるさい犬だねぇ…聞こえてるよワン公!!……おっと…こりゃまた小さい子だねぇ?魔法薬かい?僕?」



店の奥からエドガーの大声を煩わしそうにして出てきたのは白髪の混じったボサボサの金髪を纏めた、白眼はくがんで、かなり歳の召し、深い皺が刻まれた顔のお婆ちゃんだった。



「…なんだ…ジャル婆まだ生きてたのか…おっと!心の声が出てしまった…」



「エドガー…そんな事言ったら失礼だよぉ〜」



店主のお婆ちゃんを見るとエドガーは今までにないくらい悪ガキの顔をして憎まれ口を叩き、ポコが注意する。



「そんな事ばっかり言ってたら…死ぬ時はあんたに呪いをかけて死んでくよ!?ワン公!…それで?今日は何の用だい?昔のツケを払いに来たようには見えないけどね…」



ジャル婆と呼ばれる店主も馴染みの獣人に軽口を叩き返し、来店の理由を尋ねる。



「口の減らない婆さんだな!…まぁいい!今日はこのポコに魔封石の『魂刻こんこく』をしてもらいたいんだ!」



「…魔封石なんて上等なもんどうやって手に入れたんだい!…見せてみな!」



エドガーがジャル婆に用件を伝えると白眼を光らせ魔封石を要求する。



「ポコ!見せてやってくれないか?」


「うん!はい…お婆ちゃん!」


ポコは鞄にしまった魔封石を、皺くちゃな手を出したジャル婆に手渡す。



「こりゃまた…大したもんだねぇ…坊や?この魔封石を売る気は無いかい?…金貨で300出すよ?」



「さ…300だと!?ついにボケたかジャル婆!?魔封石は高価だが…それじゃ店が潰れちまうぞ!…それにその魔封石はポコの大事なもんだ!ダメだよな?ポコ?」



驚きの買取額を提示され、エドガーはまた憎たらしい軽口を叩き、ポコは口を開けたまま固まった。



「…ポコ?大丈夫か?おい!」


「えっ…?あっ!ごめん!…お婆ちゃん?これはオイラの大切な人が残してくれた物なんだ…だからお金には変えれないよぉ…ごめんね?」



「そうかい…無理を言って悪かったねぇ…その大切な人はあんたにコレを渡して正解だよ!長年魔法屋で働いてるが…こんなにマナの溢れ出す魔封石は見たことない…そして…坊やもまた…とんでもないマナをその小さい身体からだに宿してるね?坊や人族だろ?…………精霊の血を引いてるね?」



ジャル婆は少しだけ笑いポコのマナを感じ取り、ポコの秘密を言い当てた。



「そんな事まで分かるんだぁ…お婆ちゃん凄いね!」


ポコは、混血の血を引く自分を怖がらないお婆ちゃんに少し安心し、まん丸な目を輝かせ称賛した。



「…可愛く笑う子じゃないか…ワン公のツレにしとくにはもったないよ!うちの子にならないかい?」



「おい!バッチリ聞こえてんだよ!って何、誘惑しようとしてんだよ!ばばぁの癖に色気付いてんじゃねぇよ気持ち悪い!」



「エドガー……もぉ…」



「あんたは本当に失礼だね!!絶対呪いを殺してやる!覚えときな!犬っころ!……あっ…悪かったね…とんだ邪魔が入っちまったよ…それじゃ店の奥に儀式の間があるから…そこで『魂刻こんこく』の儀を行うよ!ポコって言ったね?付いてきな。」




何故か口悪くジャル婆を罵るエドガー、それに聞き慣れたように言い返すジャル婆がポコに淡々と声をかけ店の奥に移動するように促した。




「俺はここで待ってるから…ポコ!楽にしろよ?あんな…ばばぁだが…腕は俺が保証する!」



「うん!行ってくるよぉ!待っててね!エドガー!」


「おう!」


ポコは足早に店の奥に走っていった。



(はぁ…ああは言ったけど…やっぱり緊張するなぁ)



ポコは扉の前に立って一呼吸してから沢山の文字が彫られた扉を開ける。



「じゃあ、その魔法陣の中心に立ちな!それでそこから動かず魔封石を手に持ち大人しくしてな!すぐに終わるから!」



「うん…よろしくお願いします…」



ポコは5メートル四方の真四角の部屋で床に書かれた真っ赤で巨大な魔法陣の中心に立ち、片手に魔封石を握りしめ、瞼を閉じた。



「じゃ始まるよ!…《聖なる防壁を砕くラピスの精よ…我の名はジャルス・ソーエン…我に今一度力を!》


《パニッシュビリード》!!



ジャル婆が詠唱を始めるとポコの持つ魔封石が光り出しポコの胸に吸収される…そしてポコの燃えるような紅いマナと融合し、更に強烈に輝いた。



「ん?ポコ…あんた…奴隷だったのかい?ステータスロックをかけられてるね?ったくどこの魔導師だい…こんな子供にこんな複雑な魔法式を組んだのは…」



「オイラは奴隷に堕ちたことは無いよ?すてーたすろっく?何それ?オイラは知らないよ?」



ジャル婆の問いに首を傾げて考えるポコ。



「…そうかい…私に外せるのは……1つだけ?だと?…ポコ!あんた…何者だい?この鍵…外しても構わないかい?」



「ん…よく分からないけどぉ…出来るならお願いしてもいい?」



「本来は…ぼったくるとこだけど…ワン公のツレだし、まけてやるよ!」



ジャル婆はポコのステータスに違和感を感じ、鍵を開けてしまう…



「…ったく…あのばばぁ…本当…昔と変わんないなぁ…そろそろ引退してゆっくり休めばいいのに……

俺も大分世話になったし…な…。」



その頃、エドガーは店内を見回し想い出に浸っていた…


その時。



『ブゥ……ッッッドォーーーーン!!!!』



ジャルスの魔法屋の店内は爆風に晒されてエドガーは吹き飛んだ。



「…はぁ!?…なんだ!?何があった!オイ!!ババぁ!ポコぉ!大丈夫か!!!!」



エドガーは爆発が起きた店内の奥の儀式の間に慌てて駆けつける。



「!!!!ジャル婆……待ってろ!!すぐ店の中から薬持ってきてやるから!!死ぬな!死ぬなよ!!」


「エド…悪いねぇ…あの子は無事かい?」


そこには両手腕を吹き飛ばされてひじから先を無くしたジャル婆が血溜まりに倒れていた。


ポコも魔法陣の中心で気を失ってる。

ポコは何かに守られた様に無傷だった。



「ポコは大丈夫だ!!気を失ってるだけだ!もう喋るな!待ってろ!」



「…ちくしょう…しくじったよ…反射魔法がかけられてたよぉ…『鍵外しのジャルス』様もこれまでか…早いとこ引退しておくんだったよ…」



エドガーは走り出した…



「……どこだ!どこにある!?……あった!!ハイポーション!」



エドガーは商品が散乱する店内でようやく止血出来る魔法薬を発見して急いで戻る。



「…あったぞ!!……オイ…オイ!!ジャル婆!!オイ!死ぬな!コレを早く飲め!!…」


「…………」


「…おい!…頼む……頼むから!!死ぬな!!!ばばぁ!!!!」



ジャルスは返事をしなかった…


「…頼む…頼むから…死なないでくれ……俺は…まだあんたに何の恩も返してないんだ!!………おい!ジャル婆!!!……婆ちゃん!!!」



「……耳元で…うるさいよ…聞こえてるよ…ワン公…」



「ジャル婆!!早くコレを飲め!!傷口にもコレを………ってもう止血してある?……おい!ババぁ…さっき…死んだふりしてただろ!?ふざけんなよぉ!こんな時に!!!」





「こっちは何年も魔導師で食ったんだ…傷を負った瞬間に治癒魔法が発動する様に術式を組んでるよ!……ちょっと…最近はやたらと嫌味ったらしい『孫』の優しさを感じたかっただけさ!…エド……心配してくれありがとう…」


エドガーの『祖母』…『人族』のジャルスが弱々しく自分の孫のであるエドガーに感謝を告げた。


「…ったく…大事な腕を無くして何が魔導師だ……でも…よかったぁ…本当によかったよ!くそ!」



エドガーはいつもの様に軽口を叩いて泣いていた…唯一の家族を失う恐怖から脱して安堵の涙を流す。



エドガーは…ポコと同じ禁忌の血を引いた…混血の子供だった…



「…ん…エドガー?えっ?何これ?どうしたの?一体…な…何があったの!?」



そこでポコは意識を取り戻し、周りを見て近くにいたエドガーに、至る所にヒビが入り、めちゃくちゃな部屋を見て慌てて状況を確認する。



「……ジャル婆がボケて失敗したんだ…ポコ?怪我は無いか?」



「うん…オイラは平気だけど…お婆ちゃん!!大丈夫ぶ!?その腕……お婆ちゃん!?」



ポコはジャルスの状態を確認し動揺して声を発する。




エドガーは嘘を付いた…


ポコが心に傷を負わない様に…


自分を責めない様に。



「…悪いねぇ…ポコ…心配かけて…でも安心しな!ちゃんと『魂刻こんこく』は済ませたし…鍵も1つ解錠しといたから…私の最期の仕事になったけどね…悔いは無いよ!」



「お婆ちゃん…オイラのせいで…ごめんなさい…」


「ポコの所為じゃ無いよ…これは私のミスさ…そんな事思っちゃいけないよ!約束しな!この事はこれで終わりさ…分かったね!ポコ?」


「でも…」


ジャルスはエドガーに支えられながらポコに強い眼差しを贈る。



「ポコ…ジャル婆の意思を汲んでくれ…頼む!」



エドガーはポコに視線を向け声小さく頼んだ…


「ポコ…俺はジャル婆を近くの教会まで運んでくる!先に家に帰ってて待っててくれないか?」



「…オイラも一緒に行くよぉ!!お婆ちゃん運ぶの手伝うよ!」



「ポコ!!頼む!!」


エドガーは頑なにポコの協力を拒む…


「エドガー……」


「『ミッド』には明日行こう……今日は帰るんだ!…帰り道は分かるよな?コレが家の鍵だ…先に待っててくれよな?すぐに俺も戻るから安心しろ!」



ポコに家の鍵を渡し、エドガーは無理に笑顔を作った…


「…わかったよぉ…大人しく待ってるから…」


「ああ!悪いな!」


ポコはエドガーから鍵を受け取り出口に向かう。



その時ジャルスがポコに声をかける。



「ポコ…エドと仲良くしてくれてありがとうね…」


「お婆ちゃん!早く元気になってね!そしたらもっといっぱいお喋りしようね!」


「ああ…約束だよ!またね!ポコ…」


ポコは後ろ髪を引かれる様に心配した顔でジャルスの魔法屋を後にした。



散乱した部屋に残ったエドガーがジャルスに声をかける…


「……ババア……出来ねぇ約束なんてしてんじゃねぇよ………」


「…………」


エドガーは気づいてしまった…


徐々に冷たくなるジャルスの体温に…


「なぁ…婆ちゃん……ポコはいい奴だろ?」


「…………」


「アイツと…ポコと俺は一緒にだったんだ…」


「…………」


「昔の俺にそっくりだ…だから…助けてやろうと思ったんだ…」


「…………」



「違うな…俺はポコに昔の自分を見てたんだ…」



「…………」



「弱くて…泣き虫で…周りの冷たい目が怖くて…」



「…………」



「でも…そんな環境でもアイツの笑顔は綺麗なんだ…

どんな悪意も憎しみも全部消してくれる様な…太陽みたいに笑うんだ…」



「…………」



「俺を…守ってくれた婆ちゃんみたいに守ってやりたいんだ…最後まで迷惑かけちゃったけど…ポコを…俺を守ってくれてありがとう!!婆ちゃん!!…大好きだよ…婆ちゃん!!!!」



「…………」



ジャルスは最後に涙を流した…頬に伝った涙を見てエドガーは子供の様に泣きじゃくった…




今日…エドガーは残された最後の身内をうしなった。



ジャルス・ソーエンは二度とその白眼はくがんを見せ軽口を叩く事は無かった。











「お婆ちゃん大丈夫かなぁ…心配だなぁ…やっぱりついて行った方が良かったかなぁ……早く…エドガー帰って来ないかなぁ…」



ポコはエドガーの家に居た。


エドガーと別れて4時間程経ったが未だエドガーは姿を見せなかった。



「『コン…コン…』俺だ…ポコ!開けてくれるか?」


(あっ!帰ってきた!)


「待ってて!エドガー!すぐ開けるね!!」


「『ガチャ』…『ドサっ…』えっ?エドガー!!!どうしたの!?なんでそんなに血だらけなの…酷い傷だ!!何があったの??エドガー!!」


扉を開けたポコにエドガーが被さる様に倒れこんできた…全身血塗れで、至る所に切り傷があり憔悴しょうすいしきった顔には笑みが溢れていた。



「ポコ…ほらよ!今度は取られるなよ…」



エドガーは懐から小さい見覚えのある『胸当て』を出してきた。



「これって…ハルカスさんに貰った胸当て…なんで…エドガーが持ってるの!?まさか…これを取り戻す為にそんな酷い傷を負ったの??オイラの為に…?」



「違う!!ポコの為じゃない!俺の為にやったんだ…俺の為にやったんだよ……」



「エドガー!?ねぇ!エドガーったら!!」


エドガーは気を失った。


腫れ上がった顔に涙を浮かべ、笑ったまま気を失った。



そして、徹夜で看病をし、朝にようやく寝床に着いたポコが起きるとそこには誰も居なかった。



「あれ?エドガー?そんな…動ける傷じゃ無かったのに…どこ行ったんだろ…」



ポコは部屋を隅々まで探しある事に気づく。



「あれ?この本棚の後ろ…どこかに繋がってる?」



ポコは、人族では珍しいあるスキルを取得していた。

それは『地脈看板ちみゃくかんぱ』地中に存在する空間の把握能力だった。



(この感じ…かなり大きな空間が地中にあるの?なんだろう…もしかしてこの中にエドガーが居るのかな?)



(行ってみようかなぁ…)


ポコは本棚をずらし、隠れていた階段を発見し、ゆっくり音を立てずにその階段を下って行く。



(ん?声が聞こえる?……えっ?この声って…ハルカスさん?)


ポコが耳にしたのは昨日、胸当てをプレゼントしてくれた厳つくて心優しい坊主の鍛治師の声だった。


ポコは耳を澄ませる。


「じゃ…お前は…任務を忘れて昨日の事件を起こしたのか!?」



「…すまねぇ…ハルカス…」


(エドガーもいる??)


ポコはエドガーの声を聴き、少し安心した様に騒つく心を静止しさせた。


「謝って済む問題じゃないだろ!!お前は何をしてんだ!今朝の強盗騒ぎで有耶無耶になったが…もう少しでお前は捕まる所だったんだぞ!わかってんのかエド!?」


「本当にすまねぇ…ハルカス…あまり大きな声で喋るな…ポコが起きちまう…」



「お前が…ポコに思う気持ちは分かる…でも、状況が変わった!分かるだろ!」



「ああ…全部俺のせいだ…」



「俺は…お前を責める為に言ってるんじゃない!お前は『反乱軍レジスタンス』だろ!?軽はずみな行動は全てを無駄にする!もっと自覚を持て!隊長!」


(えっ…『反乱軍レジスタンス』??なんだろう…隊長って??)


ポコは聞き慣れない言葉を頭の中で思考する。



「なぁ…ハルカス…ベイズの屋敷を襲った奴らってやっぱ『パンドラ』の野郎どもか?」


(…ベイズさん!?襲われた?何かあったのかな!?無事だと良いけど……)


「多分な…今…街は混乱してる…昨日の夜に貴族が3人殺され…そして、朝にはこの街で1番有名な鍛治師が殺されたんだ!…そして…ジャルスの婆さんも死んだんだろ?」



「ジャル婆は関係ない!!アレは事故だ!誰が悪いわけじゃない!」



「俺が言いたいのはそうじゃない!このままだとお前が守ってるポコだって危ない!『パンドラ』に狙われるのも時間の問題だ!!目を覚ませ!ここは一旦ポコから身を引け!!」



(えっ…ベイズさんは殺された?なんで!?お婆ちゃんも死んじゃった!?どうして…?なんで?…なんで…どうして!!)



ポコは余りの衝撃的な情報に頭がついて行けず…その場に倒れる様にうずくまった。



「!!?」


「誰だ!出て来い!」


そしてその時、小石を蹴ってしまいそれにハルカスが気づく。



「…エドガー………」



「……終わりだな…エド…」



階段の陰から下を向き1人の赤髪の少年が姿を現した。


「ポコ…お前…なんでこの場所……今の話…聴いてたのか?…ポコ?」



「ねぇ…エドガー…どういう事?ベイズさんは殺されたの?…ソアラさんは?…お婆ちゃんも?…ねぇ!教えて!!なんで…昨日は皆んな元気だったのに…なんで??……夢だよね?…オイラは夢を見てるんだよね?………答えてよ!!!エドガー!!!」



ポコは声を荒げ、パニックを起こしてしまった。


「エドガー…いいな?」


「いや…俺がやる…」


声を低くしたエドガーがポコに近寄る。


「なぁ?ポコ!お前は今から少し記憶を無くすが…怖がる事はない…俺を信じろ!俺は今でもお前の事が大好きで…1番の友達だ!ちょっと悪い事が重なっただけだ…お前は何も悪くない!!だから…もしまた俺と逢えたらまた友達になってくれるか?ポコ?…立派な冒険者になって弱い奴を守ってやってくれ!!…ポコ!俺はずっと覚えてるから!!お前の事は絶対に忘れないから!!」



エドガーはボロボロと泣きながらポコを抱きしめた。

力一杯、親愛なる同胞に愛情を込めて。



「……エドガー…良く分からないけど…もう…お別れなのかなぁ…迷惑ばっかりかけてごめんね…オイラも忘れないよぉ…忘れれるわけないよ!!こんなに楽しい2日は初めてだったんだ…オイラは忘れない…絶対に忘れるもんか!…だって…まるで…オイラにお兄ちゃんが出来たみたいだっだんだ…オイラ…エドガーもハルカスさんも2人とだぁーい好きだよぉ!」



「本当にありがとな…ポコ…《レパルスロスト》」



「ごめんな…兄弟…」



ポコはエドガーに身を任せた…


信じ切った友に…


優しさをくれた、兄の様に慕う獣人を…


乱れた心で、最後に残った優しい兄弟に…


そして、ポコの楽しい2日の記憶は消された…愛情に抱きしめられて安心するように…そして、ポコは見たことのない場所で目を覚ます。



「ん?なんだ?ここって…どこ?ん?」


ポコは見知らぬベットに寝ていた。



「あっ…起きた?だいしょうぶ??どこか痛いところはない?」


「……うん…大丈夫だけどぉ…ここはどこかなぁ?」


ポコは目の前にいる小さな金髪の子供に声をかける。



「ここは『ミッド』ってお店の二階だよぉ!お兄ちゃんは…ここの店の前に倒れてたんだよ?覚えてないの?」



「『ミッド』…えっ?パーレンの街の『ミッド』?」



「…うん!思い出した?ねぇ…私の…お母さん知らない?」



「お母さん?…ごめん…全然わからないやぁ…」



「…そっかぁ…お兄ちゃんと一緒に手紙が置いてあったんだ…お母さんの字で『この子を頼む』って書いてあったから…何か知ってるかな?って思ったんだけど…そっかぁ…」



「ごめんよぉ…力にならなくて…所で…君はなんて名前なのぉ?」


「ううん…だいじょうぶ…私は『マール』ここの店で働いていた『メイ』の娘だよぉ!お兄ちゃんの名前はなんて言うの?」


マールと名乗った少女は悲しそうに答え、赤髪の少年に名前を尋ね返す。



オイラは『ポコ』パーレンに爺様を探しに来たんだけど…確か…森で魔物に襲われたんだっけ?う〜ん…なんだろう…変な感じがする…」



ポコは身体に違和感を感じ、ぼーっとする記憶を必死に呼び戻していた。



「ポコちゃんて言うんだ!可愛い名前だね!じゃあ、もしかしたらお母さんが助けてここまで運んで来たのかな?」


「じゃあ…オイラは助けられたんだね…ありがとう!マール!それと…オイラの鞄はあるかい?」


ポコは感謝を告げ、記憶に残る持ち物を思い出し、マールに問う。


「うん!一緒に置いてあったよぉ!……これでしょ?あと…この胸当ても一緒にあったよ?」



マールはベットの下からポコの鞄を取り出しそれをポコに手渡し更に、見覚えの無い銀色の金属もポコに渡す。



「これって……痛た…なんか…頭がズキズキするぅ…でも…なんかこれ見た事あるかも…」



「ポコちゃんにピッタリだからポコちゃんのでしょ?」


「そうかなぁ…えっ?…なんで…オイラこんなにお金持ってるんだろう…」



ポコは鞄の中を確認すると1番奥から見覚えの無い皮袋を発見して中を見るとジャラジャラと記憶には無い金貨が沢山出てきた。



「…すっごぉーい!!ポコちゃんお金持ちなの?…もしかして…『きぞくさま』だったりして!」



その光景を見たマールが金貨に視線を縫い付けて驚いていた。



「『貴族』?…違うよぉ…オイラは『貴族』じゃない!なんなんだろう…全然…覚えて無いや…」



「ん?手紙?オイラ手紙なんて持って無かったのに…」



「ん?…『親愛なる同胞、ポコへ…


この手紙を読んでるって事は無事なんだな?安心したよ!ポコは今、何も覚えて無いと思うけど…お前は爺さんを探しにこの街に来だんだ。


そして、訳あって爺さんは今は戻れないみたいだ…


お前はこの街で冒険者になるって決めたんだぞ?


だから…冒険者を目指せ!弱い人を助ける様な…カッコイイ冒険者なってくれ!お前なら出来る!俺は信じてる…


その為の支度金も持ってるだろ?それと、一緒にあった胸当ても大切にしろよ?


俺はいつか…また逢えるって信じてる。


お前は必ず何かを成し遂げる!だからゆっくりでいい!力をつけて頑張って立派な魔導師になれよ!


そして最後に…『マール』って子の母親は…今ちょっとしたいざこざに巻き込まれて帰れない状態だ。


だから…守ってやってくれ!頼んだぞ!ポコ!あと…鞄の中の金貨は誰にも見せるなよ?冒険者ギルドに預けるか…どこかバレない様に隠すんだ!分かったな?


最後になったけど…いつか…また楽しく飯を食う日を楽しみにしてる…その時まで頑張れよ!負けるなよ!ポコ!お前は1人じゃ無い!俺がいる!!…忘れんなよ!ポコ!じゃ、いつか逢うその時まで楽しみにしてる! そん時は、また…お前の太陽の様に笑う顔を見せてくれ!じゃーな!ポコ! お前の兄弟より。』…」



「どうしたのぉ?ポコちゃん…悲しい事が書いてあったの?…平気?」



マールが手紙を無言で読むポコを心配した。


ポコは止めどなく泪を流していた…


決壊した川の様に…大きな紅い瞳からボロボロと。


ポコは手紙に書いてある事は何一つ覚えていなかった…しかし伝わってきた…この手紙の主の感情が、優しさが、そして暖かさが。



そしてこの日、ポコは冒険者になった、名もなき友の言葉だったから、何にも疑わず手紙に書かれた文字をポコは信じ切った。



そして、黄昏の迷宮に潜る様になって3年の月日が経った。


ポコは変わらず小さいままだった。


だが、経験を積んだポコはすっかり冒険者の仲間入りを果たしていた。


そして、ポコは名も知らない兄弟と再会する。



いつもの様に黄昏の迷宮に潜ろうと、大階段の前に差し掛かった時1人の衛兵に止められた、毎日潜るポコを知らない衛兵はいなかったので、ポコは不思議に思った。



「よぉ!お前ちっちゃいな!本当に冒険者かぁ?ギルドカードを見せてくれ!」



「ん?新人の衛兵さん?ハイ!オイラはこう見えてもCランクの冒険者だよぉ!?今度からは止めないでね!?…ちゃんと覚えてよね!よろしくぅ!!あははは!」



ポコはドヤ顔をして最後には太陽の様な笑顔を目の前の衛兵に贈った。



「そりゃ悪かったなぁ…名前はポコって言うのか…俺は問題を起こしてパーレンの街からここに飛ばされ昇進の夢を失った哀しきひらの衛兵のエドガーだ!!宜しくな!ポコ!」



鉄仮面を被る衛兵はエドガーと名乗りポコに懐かし声を贈る。



「……アレ?なんだろう…急に涙が出てきた?え?なんで?…あはははっ…ごめんね!新人さん!えっと…エドガー……だったね!?…これからも宜しくね!」


ポコは自然に伝う泪に動揺し、それを隠す様に笑い飛ばした。


この街で、少なくはない差別を受け、冒険者達からは馬鹿にされ、嫌われて、蔑まれ、それでも曲がらずに真っ直ぐな瞳で笑うポコは見て…衛兵も仮面の中で泪を流した。



ポコに気づかれない様に…音をたてず…エドガーは只々嬉し泪をながした。



そして、今は挨拶だけの関係だが、ポコの心にはしっかりと優しき獣人の『記憶』が刻まれていた。



「ああ!気をつけて行ってこいよ!ポコぉ!」



「うん!ありがとう!エドガー!」





今日も黄昏の迷宮には心優しき獣人と太陽の様に笑う小さな冒険者の声が心地よく響いていた。




次話から本編に戻ります。


内容を忘れてしまった方も居ると思いますが…これからもお付き合いの程、何卒宜しくお願い致します。


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