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『慈愛』と『運命』


「あの…自分達の早とちりで…怪我をさせてしまい本当にすみませんでした!!どんなばつでも受けます…本当にごめんなさい。」


「本当にごめんなさい…」


2人の白髪はくはつの少年達がゆかひざをつけ頭を深く下げ、目の前の金髪の兎の獣人に謝罪しゃざいを行う。



「…大丈夫ですよ!もうキズも癒えましたし、何より御主人様ごしゅじんさまがお許しになられたのですから、お二人ともお立ち下さい、私は謝罪を受け入れました。」



ファーランは優しい笑みを見せ、2人の近くにかがみ、小さい肩に触れ2人のつみを許した。



「ねぇ…お兄ちゃん…この人…お母さんと同じ匂いがする…」


「お…おい!ブール!失礼だろ!…弟が変な事を言ってしまってすみません…」


ファーランに懐かしい香りを思い出し、母の面影おもかげを重ねた龍人族の兄弟の弟、ブールがファーランに緋色ひいろ視点してんを固定して涙ぐみ、慌てて兄のベェーリィが再び謝罪をする。



「…ブール様と言うのですか?…お綺麗きれいな髪ですねぇ…少し触らせて頂いてもよろしいですか?」


「うん…」


ファーランはブールの隣にひざを折り、細く真っ直ぐな白い長髪を愛おしそうにゆっくり撫で、ブールはまぶたを閉じ、何かを思い出したかのように一筋の透き通る涙を流した。



「ブール…」



「さぁ…貴方あなたはお兄様ですか?貴方もこちらに…」


「はい…兄のベェーリィです!俺は…じ…自分は大丈夫です…」


ファーランは兄のベェーリィにも声をかけたがほほをうっすら染め、照れたようにファーランに断りをいれる。



「そうですか…では、先程の『ばつ』を今、受けてもらいます!ベェーリィ様…こちらに。」




「…はい。」


ファーランは慈愛じあいに満ちた表情で兄ベェーリィに声をかけ、頬を染めたベェーリィはファーランの近くに正座し、白い短髪の頭を傾ける。


「先程は…ずっと弟ブール様を守って戦っていましたね!立派なお兄様です…」



「…あの……一回だけ…一回だけ『母さん』って呼んでもいいですか…?」


「はい…ベェーリィ様」


「……母さん…守れなくてごめんなさい…ごめんなさい…」


「お母さん!!」



2人の龍人族の子供は頭を優しく撫でるファーランに飛びつき滂沱ぼうだの涙を流した。


その光景こうけいを声一つ出さず観ていた琉偉、ポコ、シャール、ガゼルの4人はゆっくり、静かに部屋から退室した。


「なんかアイツら…訳ありっぽいよな?ポコ?」


「うん…なんか可哀想かわいそうだったね…」


「私も…母上ははうえを思い出しました…」


「…ワシは朝食の準備に向かうとするかのぉ…あの2人に元気が出る料理をこさえるとするか!もう少ししたら降りて来なさい…では、食堂でまっとるぞぉ!」



「おう!楽しみにしてるよ!ありがとな!ガゼル!」



「おいしいお肉を期待してるよぉ!ガゼルさんまた後でね!」



「今日もあの料理を頂けるなんで幸せの極みです!」



店主ガゼルが階段を降りていき、廊下に出ていた3人は琉偉とポコの部屋に移動した。


「あの…ルイ殿…一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


部屋に入るなりシャールがかしこまり琉偉に問う。


「あ?なんだよそんな真面目まじめな顔して?」


「その…ルイ殿の今の格好が正式せいしきな『ヤクザ』の戦闘装束せんとうしょうぞくなのですか?」


「今?あ…そーいえば風呂から焦って来たから浴衣にブーツか…これじゃ…露出狂ろしゅつきょう変態へんたいだな…」



琉偉は入浴中に襲撃が開始された為、『雷獣らいじゅう武靴ブーツ』に浴衣以外の装備を持ってはいなかった。



「てか…なんでそのブーツを持って来てたのぉ?」



「ん?部屋の中じゃコイツの性能が分からなかったから長い廊下で試そうと脱衣所に置いてたんだよ!」



「よく不用心ぶようじんに脱衣所にその武靴ブーツを置いていけたね…さすが…ルイ、でも、ゴンドの時には分からなかったの?」



「なんかこの武靴ブーツ…昨日は、マナをいくら流しても反応しなかったんだ…でも、さっきは凄い速さで動けた…コイツの『韋駄天いだてん』って奴か?」



ポコは、小国の国家予算こっかよさんに匹敵する程の価値を持つ装備をその辺の靴と同じように扱う琉偉に少し呆れ、琉偉は昨日からなんの反応も示さない伝説級の防具の特性を見極め中であった。



「では…やはり…さっきの雷光らいこうの様な速さもその『武靴ブーツ』のスキルによる効果なのですか?」



「すごかったよね?オイラもルイが転移系の魔法を使ったのかと思ったよぉ!」



「多分な…自分でも驚いたよ!昨日は一日中コイツにマナを流してたから充電されたのかな?」



「はい?…ルイ…もしかして…昨日、ずっとそのブーツにマナを流してたのぉ??よくマナが切れなかったね?」


「は?マナって無くなんのか?」


「……え?…ルイってマナが枯渇こかつして気持ち悪くなったりした事無いのぉ?」


「る…ルイ殿?」


突然の琉偉による常識外れの発言にポコがマナを扱う誰しもが経験するマナ欠乏けつぼうの症状を教え、シャールが整った顔を崩し固まった。



「たしか…あの迷宮の龍をる時に限界までマナを出したけど、そんな事にはなんなかったぞ?」



「やっぱ…ルイはマナの量も普通じゃないのかもね!精霊族せいれいぞくとか、魔族まぞくは自然のマナを取り込めるからルイもそんな感じなのかな?」


ポコが小さく腕を組み、琉偉の『異常』の理由を推測すいそくする。


「私の兄も…とてつもないマナを所有していましたが…一日マナを武具に放出したら確実にマナ切れを起こすと思います…『ヤクザ』はマナの精密操作せいみつそうさ修練しゅうれん一環いっかんなんでしょうか?」



「もう、俺は人外じんがいの扱いだな…あとシャール…『ヤクザ』の件は忘れてくれ!」



ポコとシャールが琉偉を解析かいせきする中、琉偉はシャールの空前くうぜんの『ヤクザ』ブームをなんとかうやむやにしようと考える。


『コンコン…』


「はぁーい!」


「ファーランです、失礼します。」


「どぉーぞぉ!」


『ガチャ』


「御主人様…お待たせ致しました、お着替えを済ませて朝食に向かいますか?」



そんな話をしているとファーランが2人の小さな手を引き、琉偉達の部屋に入る。



「ファーランの母性本能ぼせいほんのうは凄いな、もう完全に母と子だな!」


「あの…ファーラン様…ありがとうございました。」


「…おねぇちゃん…優しくてしてくれありがとう!」


2人の龍人族の子供は顔を赤らめファーランに心からの感謝を告げた。


「いいえ、私も心が癒されました…こちらこそ感謝します」


ファーランもまた2人に温もりを貰い静かにお礼を言った。



「じゃ、大所帯おおじょたいになって来たが、飯を食って今日の予定を話し合おう!」



「食堂に向けてしゅっぱーつ!!」



ポコの元気な声で『土龍一行』と『銀髪の騎士』、『龍人族の兄弟』の新たな1日の幕が上がった。




「なぁ?ベェーとブーは、歳は幾つなんだ?」


ガゼルの大宿、食堂大ホールにてテーブルを囲い座る琉偉がベェーリィとブールに質問をしていた。



「自分は19歳で、弟が18歳です!!使徒様!」



「…まじかよ!!…弟と俺タメかよ!!なんだ?見た目どうりの歳じゃないのか?」



「龍人族は、エルフ族や精霊族と同じで、何千年も生きられます…むしろ、人族や獣人族が短命たんめいなのですよ…御主人様?」



驚愕の情報に琉偉が突っ込みを入れ、ファーランがこの世界の常識を琉偉に補足する。



「自分達は里でも1番若い兄弟です!龍人族は80歳前後から成長し、ようやく大人と認められます!」



「すげーな!俺がヨボヨボの爺さんになってからお前達はようやくAVを借りれる歳になるって事か…?」



「なに?えーぶいって?」



「あ?ん…男の精神統一せいしんとういつに使う…まぁ修行みたいなもんだな!気にすんな!」



「非常に気になります!!それが『ヤクザ』の強さの秘訣ひけつですか?私も『えーぶい』で修行を行いたいです!」



「はは!シャールならAVに出たらもしかしたら1番になれるかもな!」



アホな会話にまたしても食いついたシャールにデタラメな知識を植え付ける琉偉。



「あの…お聞きしてもいいですか?使徒様?」



ベェーリィの隣に座るブールが少し緊張した様子で琉偉に話しかける。



「ん?どうした?ってか…あれだ!俺の事は琉偉って呼んでくれ!」



「うん!ルイ様!さっきの『ばいと』の事なんだけど…なにをすればいいんですか?」



琉偉の親睦しんぼくの一言に明るく笑ったブールが、琉偉の発した『バイト』の詳細について問う。



「そうだよぉ!ルイはこの子達になにをさせるのさぁ?」



「ん?そうだな…なぁ?ファーランにシャール!さっきの戦闘はどうだった?この2人は強かったか?」



琉偉は2人を品定めするように笑みを浮かべ、ファーランとシャールに2人のポテンシャルを聞く。


「はい、ベェーリィ様は体術と身のこなしはBランクの冒険者と同等と言ったところでしょう、ですが、それは武器を使わない状態でした。」


「弟のブール殿は魔法詠唱まほうえいしょうも早く、Aランクの魔導師クラスだと私は感じました!恐らくベェーリィ殿は私よりも強く、速い戦士です!」


「へぇーっ…えっ?ブールって『転移魔法てんいまほう』が使えるの!?…あっ…またやっちゃった…」



「……ポコ様はやっぱり『神眼しんがん』のスキルをお持ちなのですか?」


「ん…また今度説明するよぉ!」


「はい…お願いします!」


ポコの発言に兄弟の兄ベェーリィが神妙しんみょうな顔で静かに声を発する。



「種族を当てられた時から疑問に思っていたのですが…里を出る時に、俺とブールはステータスに『隠蔽魔法いんぺいまほう』をかけられています…これは任務中に無闇むやみに鑑定スキル持ちの人に種族と真名しんめいを晒さない為です…」



「弟の『転移魔法』は非常に珍しく、世間に出れば悪用されかねません…」



「オイラも本で読んだことあるよぉ!昔、転移魔法のスキル持ちの暗殺者が7人もの王を暗殺し、捕まらず姿を消したんだ!伝説の暗殺者、『音無おとなし』だったかな?」


ポコが昔ある本で読んだ事のある、この世界の最強の暗殺者の話をテーブルを囲む5人に話す。



「伝説の暗殺者か…こえーな…ってか転移魔法ってすげー便利だな!じゃあ、そのベラルーマ王国って所からその転移魔法を使ってここパーレンに来たのか?」



「はい!弟のマナの量では一回では厳しかったので3回に分けてラウル王国の領土に入りました。」



「ねぇ?それってどれくらいでこっちに着いたの?」


「半日程です!」


「………嘘ぉ!!これって…ねぇ?ルイ!?」



「ああ!お前達のバイト内容が今、確定かくていしたぞ!喜べ…シャール?思ったよりも早く国を救えそうだな?」


「やはり…御主人様は強運きょううんの持ち主なのですね!さすがです!」



「はい!!偶然ぐうぜんもここまで来たら運命さだめの様に感じて来ました…これはもしや、天の思し召しなのですか…?さずが『ヤクザ』…」



「今の会話でヤクザはカンケーねぇだろ!!」


龍人族の兄弟が発した言葉で土龍一行とシャールは喜び、最後にはお決まりとなった琉偉のツッコミが浮き足立つ仲間の声に重なった。




「えっ?お兄ちゃん…今…ルイ様達が『国を救う』って言ってなかった?」


「ああ…確かに聞いた!!」



琉偉の言葉を聞いた龍人族の兄弟が食い入る様に緋色ひいろの瞳を輝かせ興奮し始める。



「使徒…いや…ルイ様!自分達は里の長老に将来『どこかの国を救う』って言うお告げをうけています…どうか自分達にもお手伝いさせて下さい!!」


「お兄ちゃんは『救国きゅうこく黒兎こくと』に憧れて武術を始めたんだもんね!よかったね!お兄ちゃん!英雄になるチャンスだよぉ!!」




「ハハッ!!やっぱりこれは偶然じゃないな…なぁ?ファーラン?」


「……はい!…私もそう思います!御主人様…」


「よぉーし!今日帰ったらまた作戦会議だね!」


「おう!じゃ今日も一日頑張る為にいっぱい食えよ!ベェーにブー!!」


「はい!」

「うん!!」


偶然に偶然が重なり、運命になる瞬間を体感した皆の心は太陽の様に煌めきそしてみなぎる力を確かに感じた…そこに、沢山の料理が積まれる台車を押す黒髪黒眼の少年が到着する。



「なんじゃ…やけに元気になったのぉ!やはりお主らと居ると皆、笑ってしまうのかのぉ…」


「ナイスタイミング!!ショタ爺!!ここの料理はハンパないぐらい上手いから食べ過ぎには注意しろよ!」



「そんな言い方されると怒るに怒れんわ!はっはっは!!」


「お兄ちゃん!すごいよぉ!!こんな料理見た事ないよ!」


「…行儀よく食べるんだぞ!?ブール?」


「2人とも!ちゃんとお野菜も食べないといけませんよ!?」


「………」



「ポコ様!?ちゃんとお手本になる様にお野菜を食べましょうね?」



「気配を消してもダメかぁ…」


「諦めろって言ったろ?ファーランからは誰一人逃げられないからな!…あっ…冗談だよ?ファーラン?」


「やはりこうなるのですか…クスっ…」


「じゃあ、皆んな!手を合わせて!『いだだきます』」


「「「「「いだだきます」」」」」


テーブルを囲む沢山の声が今日の一日の始まりを告げる、この先、ここに居る者達が世界を率いる事になるとは…運命の神を除いて誰一人としてまだ知る由はなかった。




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