『怒り』と『宣言』
「全てを、お話しします…」
銀髪の騎士は、ファーランにそう伝えると、心苦しそうに語り出す。
「私は、『ベルファーレ王国』の『近衛騎士団』に所属していました…
我が、『ホッツ家』はベルファーレ王国の中級貴族です。
国は、半年程前まで国王側と国の勢力の8割を牛耳る大臣側が政争をしていました…
当時、ベルファーレの王国様は、まだ幼く、このままでは国は大臣の手に落ちてしまう…そんな所まで来ていました…
そして、それを阻止するべく、今より半年前に『ある作戦』が実行されました…
大臣の暗殺計画です…
選ばれたのは、ベルファーレ王国最強の近衛騎士団、騎士長…『ディアス・ホッツ』…私の兄です…
兄は幼い時から天賦の才と人族とは思えぬ膨大なマナを所有していました。
そして、兄は非常に優しく…誰にでも救いの手を捧げる立派な騎士でした。
私には…自慢の兄でした…
そして…暗殺計画は実行されます…
しかし、大臣暗殺は失敗に終わります…
国王様の側近、宮廷魔導師『バラス』が、国王側を裏切り、大臣側についたのです!
国王様は窮地に追いやられ国外にお隠れになりました。そして兄は捕まり拷問をかけられたうえで…ある『罰』を体に施されました…」
「『呪い』で、御座いまね…?」
ここでファーランは初めて口を開きシャールに問う。
「はい…その呪いは『国を捨て国外に逃げた王を処刑する迄、追い続けろ』強制魔法の『呪い』です。
兄は…国王様を殺す旅に出ました…拷問でボロボロになり家を出て行く時、私にこう言いました…『強くなれ…シャール…強くなって私が国王様を殺してしまう前に私を殺してくれ』と…兄は国王様に強く忠誠を誓っていました。
それから数ヶ月…ベルファーレ王国は大臣に乗っ取られ…国王側に付いていた者は全ていたぶられ、国民に晒されて、処刑されました…私の家族も…そして…酷い悪政が始まります。
何故か…私だけは奴隷身分に堕とされ投獄されました。
酷い暴力と非難に遭い…飢えと悲しみで潰れかけていた時、裏切り者の宮廷魔導師が私にこう言いました。
…兄を助けたいか?…また国に忠誠を誓うか?…と…私は…助けたかった…あの優しい兄を…そして私は奴隷から解放され、新国王に忠誠を誓いました。
ですが…時が過ぎても兄は帰っては来ませんでした…
そして…ある日、異変が起きました…兄に掛けられていた宮廷魔導師バラスの強制魔法が何者かによって剥がされました…
私は心の中で歓喜しました。
もしかすると兄が元国王様と一緒にベルファーレ王国を救いに来てくれるのではと…
私には唯一の残された希望でした、ですが…その希望もすぐに打ち砕かれます…
私は直ぐに新国王に呼び出され、ある命令を受けます
…それは『兄を殺し、その首を国に持ち帰れ』という王命でした…
兄を助ける為に忠誠を誓った私に…
家族を…目の前であんな無残に殺されても耐えたのに…
唯一の家族を…
最後に残った兄を…殺せと…」
下を向き掌から血が出る程、拳を握りしめる銀髪の少女はファーランに初めて大粒の涙を見せた。
「シャール様……」
「私には出来なかった…最後の家族を手にかけるなど…私には出来なかった!!」
銀髪の少女は声を荒げる。
「では…シャール様に掛けられた『呪い』と言うのは…まさか!?」
「はい…兄の命を奪い、己の命を救う呪いです…私は後3ヶ月以内で兄の命を奪わなければ呪いが発動し、…死に至ります…」
銀髪の少女は震える声で静かに口にした。
「そ…そんな卑劣な呪いを……許せません…」
ファーランの声が低くなり、微かに黒い霧を纏う。
「そして…目的を果たさなければ私に関わりのある者を1人ずつ処刑すると…言ってきました…私はもう…どうしていいか分からないのです…」
「…なんたる愚行!!王が国民を人質に取ったのですか!?…許せません!!そんな事は断じて許せません!!」
普段は静かな物言いのファーランが怒り、瞋恚の火を心に灯す。
「ファーラン殿…」
シャールがファーランの名を呟く、その時『ガチャ』っとドアノブが回る音がした。
『バーーンッッ』
「…えっ!?」
「ま…まずいよぉ!ルイ!」
「いや!我慢ならなぇー!!そのクソヤローは絶対に許さねぇ!!」
勢いよく扉を開け放つ琉偉と、後ろに隠れるポコが顔を出す。
「御主人様??どうしたのですかいきなり!?」
ファーランが驚き慌てる。
「おい!シャール!さっきの依頼は無しだ!!いいな!そんな事は…手伝わない!!…なぁ?ポコ!」
「う…うん!無理だね!!」
「…そんな…しかし…それでは多くの命が……」
突然部屋に入るなり、クエストの取り消しを琉偉は宣った。
「…なぁ?シャール…お前はどうしたい!?誰も救えないとメソメソ泣くだけか?…どうしょうもない不幸だと…諦めんのかよ!!お前が今やる事は冒険者に兄貴を殺す手伝いを頼むことか!?おい!!どーなんだ!?」
琉偉は大声でまくし立てる。
「違う!!その様な言い方はやめろ!!これは沢山の命の問題なのだ!!私1人の問題ではない!!」
シャールは溢れる涙を隠さず琉偉に吠える。
「そぉーじゃねぇ!!お前の今できる事はなんだ?よく考えろ!!ファーランは…お前の為に涙を流した!ポコは…お前の為に『兄弟』を殺せなんてクソみたいな依頼を受けたんだ!!」
「!!?……でも、私は弱く…何も無い…」
「お前は馬鹿か!!なんで諦める!!持ってんだろ!!…お前は俺に初めて声をかけた時…膝をついて頼んだよな?あれは俺の国では最後の最後にやる頼み方だ!!」
「………」
「お前の願いは兄貴を殺して国を救う事か!?それとも兄貴を助け国民を殺す事か!?選択肢は2つしかないのかよ!!もっと、よく考えろ!!!」
「じゃあ…どうすればいい!!私には分からない!!もう…どうしていいの分からない…」
銀髪の騎士は一人の銀髪の少女になり、声細く呟やき、嘆いた。
「……」
「…オイラ達を…頼れないかなぁ??」
ずっと事の成り行きを見ていたポコがシャールに優しく語り掛ける。
「ねぇ?シャール…オイラ達は冒険者だよぉ?どんな難しい依頼でも受ける…『黄昏の覇者』『土龍』だよ?」
赤髪の少年は優しく、そして子供の様な笑みで、嘆く銀髪の少女に力強く手を差し出す。
「ポコ殿…」
「そして…なんてったて…涙を流す人が居たら自分の命を投げ出しても助けちゃうお人好しが居るパーティだよぉ??」
「…なぁーに自分の事言ってんだよ!ポコ!」
「ポコ様…」
琉偉とファーランがポコに微笑む。
「…なぁ?ポコぉ…どっかに俺達の勇姿を見せつける依頼は転がってないか?なんか国を救っちゃう系の奴?今なら無料で引き受けるよな?コッチは元気有り余ってるし!!」
「ルイ殿…」
「…コレが最後だぞ!シャール!もう一度聞くぞ!?お前は何がしたい?どうなりてーんだ?」
琉偉がシャールに最後の質問をする。
「わ…私は…悪政の中で苦しむ国民を救い…兄を助けたい!!そしてベルファーレ王国を救いたい!!!どうか力を…そのお力を、この『シャール・ホッツ』にお貸ししてはくれませんか?」
シャールはその場に膝をつき、こうべを垂れる…美しい顔を涙で汚し…そして…漆黒の瞳に一筋の輝きを見せた。
「…ポコ…こっから先はリーダーの仕事だ!」
「うん!!改めて!この依頼『土龍』が責任を持って引き受けた!!オイラ達の報酬はシャール・ホッツのとびっきりの『笑顔』だよぉ?」
「よーし!!よく言った!ポコ!それでこそ男だ!」
琉偉は腕を組み、男気を出した自慢の家族に満面の笑みを贈る。
「…本当に…本当に宜しいのですか??相手は…国なのですよ!?」
シャールは涙を流し、事の重大さを不安そうに伝える。
そして…シャールは周りを見渡した…そして、更に熱い泪を流す……3人は笑っていた…心配するなと…心強く微笑んでいた。
「…感謝します…心の底から感謝を…」
シャールはとめどなく湧き上がる感謝の気持ちを胸に深く、深く刻んだ。
「よぉーし!!ようやく…なんかスッキリしたわ!」
頭の後ろに手をやり、その場の空気を変えるよう声を放ち跪くシャールを見やる。
(ほほぉーん!跪くスイカップの破壊力はやべーな!…はっ!?)
この状況で跪き涙を流すシャールに興奮する無神経な琉偉は刹那の殺気を感じた。
「ごほん…」
ファーランが冷徹な視線を琉偉に贈り、わざとらしく咳き込む。
「所で、ルイ様…?シャール様はまだ、お着替えの最中ですよ!?」
「えっ?あ…いや…今のはさぁ…なぁ?」
「はっ!む…胸当てを…外しておりました…気が動転して気づきませんでした…!」
「やっぱ…すんごいまん丸だぁ!!」
「お二人共…早く部屋から退室をお願いします!!」
「こ…こわいよぉファーラン…」
「お早く!!」
ファーランは琉偉とポコを部屋から押し出し、振り返り、シャールに向けて優しい笑顔を見せた。
「これが私の自慢の『家族』なんです!」
「ファーラン殿…本当にありがとうございます…
この御恩は一生忘れません…」
「いえ!シャール様…私は、私が受けた恩を誰かに返したいのです…なのでお気になさらず…そして安心してください!絶対に貴方を救って見せます!」
ファーランは力強く金色の瞳を、泣き腫らした顔の銀髪の少女に向けた。
「ねぇ?ルイ?」
「あん?どうしたポコ?」
「…ルイってほんとに他人をほっとけない性格だよね?まさか1人の為に国を相手にするなんてね!ははっ…まぁルイならやると思ってたけどね!」
ファーランに隣の部屋を追い出されたポコはベットに寝転ぶ琉偉と言葉を交わす。
「だってよぉ!ムカつくだろ!俺だって好き好んで厄介ごとに首を突っ込む訳じゃねぇーけど…アレは違うだろ?アイツに…シャールに見せてやりてーんだ…1人救うのも国を救うのも同じ事だって…やる事に意味があるって…って、今はそれが出来るかもしれない力があるから言えんだけどな…」
琉偉は少しだけ何かを思い出した。
「…でも、やっぱりさぁ…見たいよね!銀髪の可愛い子の笑顔をさぁ!?」
「そぉーだな!もう…はち切れんばかりだったもんな!バインバインだよ!」
『ドン!!!』
「…ルイは学習能力を鍛えた方がいいよ…そのうちファーランにやられちゃうよ?」
『ドン!!!』
「ヒぃ〜っ…オイラもダメなのかぁ…」
相変わらずお気楽な2人だった。
その後、着替えと湯浴みを済ませた4人はガゼルの大宿、食堂大ホールの人気の少ない角のテーブルに向かい合い、話をしながら夕食を取っていた。
「じゃあ、厳密に計画を組もうぉ!まずは、何からするかって事から決めよう!」
ポコが話の進行を務め、作戦会議が始まる。
「いや…やる事は1つだろ?そのベルファーレって国に特攻を仕掛けるべきだ!!時間をかければかけるだけ苦しむ人がいるなら早い方がいい!」
「いやいや…4人じゃあどうやったって無理だよぉ!ちゃんとした作戦を練らないと!」
「違う!4人じゃないと無理なんだ!」
「えっ?どう言う事??」
「ポコが今思った通り敵も『4人じゃ無理だ』と、思うだろう?」
「…うん…だって…そんな自殺行為する奴はルイくらいなもんでしょ?」
「…まぁ…今の失礼は見逃してやる…でも!そこが大事なんだ!」
「敵の…意表をつく…という事ですか?御主人様??」
琉偉とポコの話を聴いていた琉偉の正面に座るファーランが琉偉の話の核心を突き、確認する。
「そうだ!!俺達は今、都合がいいぐらいこの街で目立ってるよな??って事は…もしかするとそのベルファーレのクサレ王に会えるかもって思わないか?」
琉偉が片手にフォークを持ち悪知恵を働かせた子供の様な笑みを浮かべる。
「おお!それは、ありえるよぉ!迷宮のある街の強者は、王国の騎士や近衛兵に抜てきされやすいんだよぉ!」
ポコが声色高く琉偉の意見を肯定する。
「はい…ベルファーレ王国内でも、ここラウル王国『パーレンの冒険者』達は有名です!だから私は強者を求め、この国に参りました。」
「ふぅーん…じゃあ、それであんなに目立つ装備を装着するルイ達に声をかけたんだね!」
「はい…その通りです!」
「では、御主人様…仮に…仮に王に謁見出来たとしましょう…次に何を行いますか?」
「…勿論そこで戦闘だ!!」
「…ルイ殿…王を守る精鋭の近衛兵はおよそ50人…更に…城と王都には10000を超える宮廷兵が居ます…とても4人でなど…不可能です…」
「御主人様…私も、それには反対です…申し訳ありません。」
シャールとファーランは無謀だと琉偉の作戦に異議を唱える。
「………」
「…ポコはどう思う?行けると思うか??」
「…オイラも……」
ポコは口に出した言葉を止め少し考えて答えを出す。
「…いや……オイラは行けると思う…多分だけど…一定の『条件』が重なれば、4人でも国を取れるかも!」
「な…何か、秘策でも有るのでしょうか!?」
予想外の発言に一筋の汗を流すシャールが神妙な顔でポコの顔を見つめる。
「ん?だって…こっちには『ルイ』が居るんだよ?」
「………えっ…ポコ殿??」
「いやぁ…ファーランとシャールはルイの戦ってる所を見た事が無いから仕方ないけど…ルイは、その日に冒険者になって、『初探索』で最下層のあの『守護龍』を討伐したんだよ??」
「…え?…守護龍…??」
「ファーランなら分かるでしょ?」
「……御主人様…突然申し訳ありません…あの時…私が倒れた時、どうやって私に近づいたのですか??」
ファーランは迷宮最下層の記憶を思い出し、琉偉に金色の眼を光らせ、問う。
「え?…普通に走ってだよ?ん?なんでだ?」
琉偉は平然と答え、ファーランに問い返す。
「!!?…私は…持てる全てを出し尽くし、全速力で走りました…兎獣族は全獣人族の中で最速の種族です…」
ファーランは琉偉の言葉に驚き、そして琉偉の黒眼を見つめ、思考する。
「ルイは龍のブレスを『避けて』ファーランの元までたどり着き、そして龍の攻撃より『速く』回避行動を取ったんだ!!…そして一撃であの龍を仕留めた!」
琉偉の『偉業』を嬉しそうに話すポコ。
「…一撃ですか……」
ファーランが静かに呟く。
「あ…あの…話の途中で、も…申し訳ないのですが…『守護龍』と言うのはまさか、あの伝説の『マレフィスの蒼龍』ですか?」
シャールが話についていけず、動揺しながらベルファーレにも語られる伝説の迷宮の龍の名を口にする。
「うん!そうだよぉ!それも…初めての探索でだよ?めちゃくちゃな話だよね?」
「ル…ルイ殿はどこかの国の『騎士』だったのですか??」
「おう!俺は『日本』って国の『ヤクザ』だ!!まぁ…こっちの騎士とたいして変わんねーよ!」
「なんと!!そうなのですか!ニホン…ですか!!『ヤクザ』…外国にはその様な高貴で勇猛な騎士がいたとは…心に焼き付けました…私もいずれルイ殿の国の『ヤクザ』の様になりたいと深く思いました!」
「…やべ………しくったな!」
琉偉は冗談のつもりで口にした『ヤクザ』と言う響きに何故かシャールが感化されてしまい『嘘ピョーン』のタイミングを完全に逸してしまった…
そして銀髪の清廉な女騎士が『ヤクザ』になりたいと公然の場で口にする奇妙な会話となってしまった。
「すまん…シャール…今の話は忘れてくれ!…話を戻すぞ!ファーランはまだ厳しいと思うか?」
「…いえ…ルイ様の作戦を更に細かく練りましょう、それと…今は、やめておきましょう…ホールに人が増えてましたので…」
ファーランは周りを見渡し、静かな声で琉偉達に作戦会議の終わりを告げた。
「おう!そうだな!」
「じゃあぁ!夕食の後でオイラ達の部屋に集合だね!」
「はい!」
「分かりました。」
「おら!シャールも沢山食べろよ!ここの飯は最高に旨いんだぞ!?」
「はい!非常に楽しみです…!」
「肉ぅ!!シャール!ここのお肉はねぇ!最高なんだぁ!!」
「ポコ様は、お野菜も一緒に食べましょうね!」
「ファーラン…もしかして…オイラが野菜を食べるまでずっと言うの…それ…」
「はい!勿論です!」
「ポコ…だめだ!諦めろ!野菜食え!」
「ルイまでぇ!!」
「クスッ……クスクス…」
「あっ!シャール…オイラを笑ったな!」
「あっ…いえ、ポコ殿が可愛い子供に見えてしまいました…申し訳ありません…クスッ…」
「笑うなぁ!!」
身体と心が疲弊し、疲れと悲しみと空腹で行き着いた旅の先にシャールが得た物は、優しさと、笑い声と、そして一筋の小さな小さな希望の光だった。




