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『魔法の鞄』と『奴隷』


小鳥の鳴き声と、暖炉から薪が静かに弾けた音を奏で無言の時を過ごす琉偉は目の前の金髪美女ファーラン金色こんじきひとみを見て呆然ぼうぜんとしていた。



琉偉は自分が生きていた世界ところとは別の世界ところにいる事をようやく頭に入れる事が出来た。



「あっ…あのさぁファーラン!ちょっと変なこと聞いていいか?」



琉偉は緊張した様子で目の前のファーランにたずねた。



「はい!私が答えれる事なら何なりと申してください。」


ファーランは琉偉にうなずく様にこたえてくるれた。


「…今日って…何年のいつだっけ??」


琉偉が気まずそうにファーランに問う。


「はい。今日はモーリル帝国歴ていこくれき1860年の赤の月でございますが…?」


サラリとファーランは答える。



(やっべーーっ…全然なに言ってるのかわからねぇ……ほぼ確定で俺の世界じゃないな…こう言うのってタイムトラベル?違うな…異世界転生?そんなアニメが深夜にやってたな…それか?それなのか?)


昼夜逆転の生活を送っていた自堕落な不良は夜中の暇つぶしに見ていたあるアニメの内容を思い出した。


「あの…ルイ様?」


「ぁ…あっ!そ…そうなんだ!!いや…なんかド忘れしちゃってさぁー……」


反応の薄い琉偉にファーランは不思議そうな顔をして琉偉の名を呼び、変な事を言ってる自覚じかくがあった琉偉は無理に話を流そうとした。


「あの…もしかしてルイ様は…記憶きおくを無くされているのですか??」


ファーランが心配そうに琉偉に問う。


(…どうする俺…俺は違う世界から来ましたーってゲロるか?それともココハドコワタシワダーレスタイルをキメこむか…どっちだ…?)


ファーランに対する対応を決めかねる琉偉だったが心配そうに金色の瞳を向けるファーランに言葉を放つ。



「ファーラン…実は今は訳があってあまり話せないってか…信じて貰えないと思うから…悪りぃ…良くして貰ったのにごめんな…」



琉偉は不良ヤクザでバカで短気たんきだが、命の恩人おんじんで、見目麗しい女にうそをつきたくないと思える人間だった。



「いえ…私こそ申し訳ありません…本来、こんな素性すじょうさぐ真似まねなど…許されませんね」


そう言って、ファーラン少し寂しそうな顔で頭を下げて琉偉に謝罪した。


「いやいや…そんな律儀りちぎに謝らなくても平気だよ!!むしろ俺が悪いんだから!俺に分かる事はちゃんと言うからまた笑ってくれよファーラン!」


琉偉が慌ててファーランに笑いかける。


「……ルイ様は…変わったお方ですね…」


少し照れたようにファーランも笑った。


(おお!!少し頬を染めて笑みを見せる女はやべーな!)


琉偉アホはファーランにやられそうになっていた。


「でっ…でわ、お言葉に甘えてもう一つ…よろしいでしょうか?ルイ様の所有物もちものの事なのですが…お聞きしてもよろしいでしょうか??」


「えっ?俺…なんか持ってたっけ??」


洞穴で目覚めた琉偉は最初の状況把握げんじょうはあくの時に何も持っていないと確認済みである。


なのでファーランが何を言っているのか琉偉には分からなかった。


「あっ!そのなんちゃらの加護かごが付いた白い短剣だっけ??」


思い出すのはトカゲに投げつけられた短剣である。


「その短剣もそうなのですが…此方こちらかばんはルイ様のものですか??」


ファーランは机の上にある小汚い鞄を手にして琉偉に問う。


「え?かばん?(俺は鞄なんか持ってなかったよな?)それも短剣と一緒にあったのか??」


琉偉は見に覚えの無い皮で作られている鞄を見て不思議ふしぎそうにファーランに問う。


「はい…短剣の横に添う様に一緒にありました。」



ファーランは発見時の事を思い出し琉偉に伝える。



「………ルイ様…申し訳ありませんが…この短剣と鞄を手に取って貰えないでしょうか??」


ファーランは短剣と鞄を琉偉の手元てもとに持ってきた。


「ん?全然良いけど…それで何かわかるの??」


「はい…高位の魔法道具まほうどうぐや武具のいくつかは持ち主 以外いがいには使えない魔法でロックがかけられていて、所有者しょゆうしゃ以外は使えない保護魔法がかけられている場合が多いのです。」


「ん?魔法まほう?ファーラン…今…魔法って言ったの??」


「はい…?そのように言いましたが?」


(マジかよ!!そんなメルヘンな事あんのかよ!…魔法が存在する世界…下手したら地球ですら無いな…まぁトカゲが喋る辺りでなんでもありか!)


ファーランの平然とした態度に意外な適応能力を発揮するポジ男。



「何かおかしな事を申したでしょうか??」


失礼な事を言ったかと不安がるファーランは琉偉を見つめる。


(この世界では魔法は常識じょうしきなのか?俺も使えるのか?)


琉偉は心の中で思考する。


「いや…悪い!なんでもないよ!コレをさわればいいの?」


琉偉は右手に短剣、左手に鞄を持った、その時、短剣のさや紋章もんしょうと鞄の真ん中の紋章が薄っすら金色きんいろに輝いた。



「……え?き…金色きんいろ…?…やはり…ルイ様の所有物もちものでしたか…もしや、私をからかいましたか?」



輝いた紋章をファーランは金色こんじきに輝く瞳で見つめた後、琉偉に微笑ほほえみながら問う。


「ぁ…いや…悪りぃ…やっぱり俺のかも……本当ド忘れが激しくて困ってんだよねぇ……」


初めて見る清光な光と状況に動揺して苦しい言い訳を放つ琉偉だった、だがファーランはそんな言い訳も追求ついきゅうせずに魔法道具まほうどうぐの事を琉偉に教授してくれた。



「では、もしかしたら…魔法の鞄の使い方を忘れてしまってるような事があるかもしれないので…お教えしてもよろしいでしょうか??」


ファーランは遠回とおまわしに茶目ちゃめっ気たっぷりに微笑みながらまなじりをさげる。


「あぁ…そうだな!一応いちおう聞いとくよ!教えてくれるか??ファーラン!」


琉偉も負けじと笑いながら言った。


「それでは、此方の魔法の鞄の取り扱いについて説明をします…まず、この魔法の鞄は空間魔法くうかんまほうほどこされた鞄です。」


(へぇー…魔法って物にもかけれるんだ!すげーな!)


「なので、この大きさでも相当な量の荷物をこの鞄一つで運んで出し入れ出来ます。」


ファーランのテキパキとしたチュートリアルが紡がれる。


冒険者ぼうけんしゃや商人、荷物運搬者にもつうんぱんしゃには大変、重宝ちょうほうされるのが魔法の鞄で、非常に高価な物です」


(なんだ?冒険者って…マジでメルヘン中2系だな)


琉偉は『冒険者』と言う響きに感銘を受ける。


「なぁ?ファーラン…この鞄ってどんぐらいの物が入れれるの??」


琉偉が鞄を見つめ、ファーランに問う。


「それは…鞄に施された術式じゅつしきのレベルとマナで決まります…もちろん術式のレベルが高く、マナの濃度のうどを濃く錬成れんせいしたもの程鞄の容量ようりょうは増えます」


「…そっ…そうなんだ!…ってかマナって何??悪りぃな…質問しつもんばっかで」



申し訳なさそうに頭の後ろに手をやり、琉偉は再度問う。



「…いえ…大丈夫ですよ!ルイ様!簡単にご説明しますと、マナとは…魔法を使う元みたいなものです…自然しぜんの中や、生物いきものの中、この部屋の空気や暖炉の火もマナは含まれています…そして生命と魂を宿す身体からだはより多くのマナを宿します。」


(ん〜っ…ゲームで言うMPマジックパワー的な奴?…不思議のマナちゃんで覚えておこう)


琉偉は少々バカだった。


「じゃあ、その自分の中のマナを使えば魔法は誰でも使えるのか??」


「はい。もちろん適正などはありますが、魔法を発動させる事ができます。」


琉偉が問いファーランが答える。


「もしかして…ファーランも魔法使えたりすんの??」


琉偉はワクワクしながらファーランに尋ねる。


「…はい…昔…お母様から教わりました。」


ファーランは少しかげりのある笑顔で琉偉に答える。


「えっ??マジで!?じゃあ、その魔法今見せ…」


琉偉がファーランに頼み込もうとした時、部屋の外から大きな声がが聞こえる。



「おい!!半獣はんじゅう!いつまで掃除なんかにそんな時間をかけてんだ!!全く…だから獣人じゅうじん奴隷どれいは使えないんだ!!いい加減かげんにしねぇーと戦争奴隷せんそうどれいにしちまうぞ!!バカうさぎ!!」


部屋の外からのすさまじい罵声ばせいが聞こえる。


ファーランは身体からだをビクッとさせて慌てて部屋を出ようとした。


「も…申し訳ございません。…話に夢中むちゅう時間ときを忘れていました…後程のちほど夕食ゆうしょくをお持ちしますので…それまでゆっくりなさってください。お話の途中とちゅうですが…すみません…」


顔はうつむき、先程さきほどとは違う苦笑にがわらいをファーランは琉偉に見せた。


「なぁ…怖い店主オーナーには変な客に言い寄られてたって言って俺のせいにしていいからな!ファーラン…色々教えてくれてマジで助かったわ!ありがとな!」


「……やはり…ルイ様はお優しい方ですね…」


去り際に、真っ白く透き通る様なほほを薄っすら桜色おうしょくに染めてファーランは深く頭を下げて部屋を後にした。


ベットに座りまた一人になった部屋で琉偉は考えていた。


(今の店主の男…そいつの言葉ことばに、いくつか引っかかった…『獣人じゅうじん』に『奴隷どれい』だ…この世界には人間以外にも人に近い種族しゅぞくがいるのか?魔物が居るって言ってたし、ファーランも獣人?あの喋るトカゲもそう言う理由か?)


琉偉は思考を繰り返し、誰も居ない部屋でベットに寝そべった。


(ん〜っ…しかし奴隷制度どれいせいどかぁ…むかし学校で習ったが…忘れたな)


琉偉は中々のアホだった。


(そぉーいえば…この短剣もあのバカトカゲが投げたやつだよな?…じゃあ、この鞄もあいつが置いてったのか?)


ベットの上に置かれた短剣と鞄を見て琉偉はそう思った。

そして鞄の中身なかみを見ようと鞄を開けた。


「おいおい…どーなってんだよ?ブラックホールじゃん!真っ暗で何も見えねー!!マジで魔法かよ!!スゲーな!」


琉偉は初めて使う魔法の鞄に度肝どぎもを抜かれていた。


そして恐る恐る中に手を入れる。



(ん?鞄に入ってるものの一覧いちらんが頭にイメージされてる?なんかのゲームのカーソルみたいだな?)


琉偉の頭の中に色々なアイテム名前や在庫数のイメージが頭に浮かんでくる。


(うわっ…すげーいっぱい入ってる…ん?金貨きんか?金貨が入ってる?)


琉偉は色々な物の名前が頭の中で渦巻うずまく中、『金貨きんか』と言う単語たんごの物をかばんに突っ込んだ右手にイメージする。


(なんか触った!?掴める…なんかコインっぽいの掴んだ!!)


琉偉は掴んだ右手を鞄から出す。


(モーリル聖金貨??この金貨使えんのか?同じのが後1750枚程か?一度鞄に手を入れたら在庫の数もわかるのか?魔法って便利べんりだな!)


段々と魔法の鞄のコツをつかむ琉偉。


(夕食迄には鞄の中も把握はあくするか…それにしてもすげー量だな…ファーランは持ち主は俺だって言ってたから好きに使っていいのか??)


鞄に手を入れたまま何一つ分からない道具一覧を興味津々で探る。




(それにしてもすげー量だな!これだけの物があれば売ったりして当分の金は手に入る…あぁ…ようやくこの世界にも希望きぼう見出みいだしてきたぜ!……でも、ぶっちゃけこの世界の物価ぶっかを知らないからこの金貨がどれほどの価値があるかはわからない…

もし全然ぜんぜん価値かちの無いものだったら、あのバカトカゲの短剣を売ってあえずはしのぐか!ファーランも価値があるような事言ってしな!)



琉偉は夕食の時間まで魔法の鞄の中身を把握することにした。



琉偉は頭の中で在庫確認ざいこかくにんし始めて2時間じかん程たった頃だった。


(あぁ…疲れた…っーかどんだけ入ってんだよこの鞄…ってかやっぱ、頭使うのは精神的に疲れるし腹減るな…メシはまだかなぁ…)


疲れ果てベットに横たわる琉偉。


しばらくして『コンコン』と誰かが扉をノックする。


(おっ!ようやく飯か??ファーランに金貨の事聞いて見よう)


そんな事を思いながら琉偉は「どーぞ!」と声を掛けた。


『ガチャ』扉をあける音がする。


そこには金髪…ではなく、少女しょうじょ雰囲気ふんいきが残る無表情むひょうじょう赤髪あかがみの女の子が立っていた。


「失礼します。夕食ここに置いとく。後で食器しょつきを下げに来るから早く食べてね…」


そう言うとそそくさと赤髪の子は部屋を出ようとする。



「ちょ…ちょっと!…待ってよ!あのさぁ…ファーランと話したいんだけど、今日はファーランは上がっちゃったのか??」


琉偉は部屋を去ろうとする赤髪の女の子に声をかける。


「?ファーラン?あぁ…あのうさぎね…ファーランはもういない…それじゃ早く食べてね…『パタン』」


赤髪の女の子は口数くちかず少なく無愛想に部屋を去った。


(なんだ?居ないって?帰ったって事か?住み込みって言ってたよな?なんだよチクショー…またファーランの笑った顔見たかったな…)



琉偉は頭の中でファーランの花の様な笑顔を思い出していた。



夕飯は貧相ひんそうな物だった。


黒く薄汚うすよごれた硬いライ麦パンの様なもの、そしてほぼ塩湯しおゆのようなうっすいスープ、それと小さな見たことの無い果実が一つにコップに入った水だけだった。


(食えなくは無いが…味は最悪さいあくだな!しかも全然量が足らない…クソっ…腹減った…)



琉偉は夕食を速攻で完食かんしょくし、それでもひもじい思いと戦っていた。



(この金貨きんか使えねぇーかなぁ…いっその事外に出てこの金貨の価値を調べるか?外なら他のメシ屋があるかもしれないし状況だって分かるかも…)



琉偉はかばん在庫ざいこを確認している時に宿の周りに人の声や馬の鳴き声や何かがとおる音などが聞こえた事を思い出した。


一度も外に出ていない琉偉は外の様子ようすが気になり出した。


(よし…宿の周りを探索たんさくしてみるか!)



琉偉は鞄を肩から掛け腰に短剣を腰に差し身支度みじたくをする。


(あっ…俺、裸足か…くつが欲しいな…鞄の中に装備品みたいのはあったけど…出し方が分からん…)


琉偉は部屋の扉を出て階段を下りると出入り口らしき所に座る大男おおおとこが琉偉を見て話掛けてきた。


「あ?お前があのバカが言ってた文無もんなし貴族様か?便所ならそこだぞ!」


身長2メートル程の巨体に髭面ひげずらの熊の様なオッサンが琉偉にはなし掛けてきた。


「おぉ…スゲぇー凶悪きょうあくなツラのおっさんだな!客商売きゃくしょうばいむいてないんじゃねぇーの??」


琉偉はファーランとの会話の途中で聞いた罵声ばせいはコイツだと声で判断はんだんした。


そんな感情かんじょうが礼を言おうとしていた琉偉を喧嘩腰けんかごしに駆り立てた。


「おい…お前…いのちおしけりゃ無駄口むだぐち叩かずクソして寝て朝には消えろクソガキ…ここはてめーの国じゃねーんだから法律は通じねぇーぞ?」


店主の大男は声を低くし、にらみつけて琉偉を脅しにかかる。


「いや…今すぐ出て行くわ!こんなクソ宿屋…」


琉偉は持ち前の不良気質と負けん気根性で店主をにらみ返す。



「おい!!」


店主が何かを言おうとする。


「うるせーよ!声がでけーんだよ!オッサン!金なら外に出て作って来る…逃げたりは絶対ぜったいしねーから黙って待っとけよ!」



琉偉も声を低くオッサンに啖呵たんかを切る。



「いや…金はもうもらってるから早く消えろクソガキ」



「は?何??どう言う事だよ?誰が金を払った?」



琉偉は店主の放った言葉に違和感と不安を覚えた。



「あ?お前があのバカ半獣はんじゅうを言いくるめたんだろ??」



大男が薄気味うすきみ悪い顔で琉偉に言う。



「は?おい…お前いったい何の話をしてんだ?」



琉偉は頭の中で嫌な予感よかんがしている事に気付いた。



「お前、本当に何も知らないんだな!こりゃ笑える…あのバカは借金奴隷しゃっきんどれいな訳よ!そんで借金返すためにココで働いてたんだがよ…これが使えねーのなんのって…料理は出来ない、やる事はチンタラチンタラその上見た目は良いが薄汚ねえ半獣ときたもんだ!!」



店主の大男は楽しそうに喋ってる…そして琉偉の恩人を侮辱し、虫酸が走る様な言葉を琉偉に浴びせる。



「…うるせーよ…クソヤロー…少し黙れ…」



琉偉はうつむき、何かを言ってる。



だが、店主は聞いてはいない。



「だからよぉ〜今日、冒険者ぼうけんしゃのパーティにあいつを売り飛ばしたのよ!そん時にお前の宿代やどだいもあいつが出したって事だ…くっせー半獣はんじゅう色目いろめでも使ってやったか?クソガキ!!」


ファーランをさげすむ店主の口は止まらない。


「しかも!あのバカ…俺様が約束やくそくを破らない様に魔法契約まほうけいやくまでさせやがって…半獣の分際ぶんざいで…思い出したらムカついてきやがったぜ!もう少しいたぶってやっても良かったな!惜しい事したぜ!」


(借金…奴隷?自分を売った?コイツは何を言ってる…?)


琉偉はファーランの笑顔を思い出し必死に考える。



「っとまぁそんな感じだからお前がこの宿から出て行くまで俺様はお前に手は出せねーんだよ!?契約でな!…ふん!命拾いしたな!…だからとっとと消え失せろ!!バカガキ!二度と顔を見せんな!」


店主は言葉に怒りと殺気を乗せて琉偉にがなり立てた。


(…なんだ?なんでそうなった?あんなに可愛く笑う子に助けられた?なんで?俺にそんな事してくれる??クソ…なんだこれ?心臓むねが痛い…息もしづらい…なんだこの感じ…ふざけんなッ!!俺は…また…俺は……)




琉偉の変化は劇的にだった…琉偉の周りに黒い霧の様な物が満ちてくる…そして、琉偉の右半身に黒い霧がまとわりつく。



「な…なんだお前!?魔族まぞくだったのか!?あのバカ兎を…『ズッドーーーーーーーン!!!』



何かが爆発した様な轟音を響かせ宿屋の主人クズは建物の壁をぶち壊し、外の通りに吹き飛んだ。


店主を吹き飛ばしたのは琉偉の右腕のこぶしだった。


吹き飛んだ店主の方に琉偉はゆっくり歩み寄る。


「痛え!痛え!!痛え!!!化け物んだ!俺の店に魔族の化け物んがいる!!誰が衛兵えいへいを呼んでくれぇーーーっ!!」



だか、外の通りには人影はなく店主を助ける人は周りには居ない。


店主の前で足を止めた琉偉は低い声で店主に聞いた。



「おい…クソヤロー…ファーランの居場所を教えろ…何処にいる?」



「ひ…ひィ…お…お…お願いします!!命だけは…命だけは助けて下さい!!なんでもします!なんでも言います!!」



「そんなデカイなりしてびびってんじゃねーよ!まぁいい…じゃあ早く言え…ファーランはどこにいる?」



無表情むひょうじょうで琉偉は店主クズに問う。


「たっ…多分、黄昏たそがれ迷宮めいきゅうの『最下層さいかそう』を目指してもぐってるはずです!!!」


打たれた腹を抑えながら脂汗にまみれて必死ひっしに宿屋の主人は琉偉にファーランの居場所いばしょを伝える。


「おい…クソヤロー…俺とファーランの事は忘れろ!

お前はまだ、この先の人生を楽しみたいだろ??」


琉偉は店主の薄くなった髪を掴み恐怖に染まり怯える店主に顔を近づけてドスの効いた声で言った。


「忘れます!!二度と思い出したりなんかしません…ですから!命だけは…命だけは…」


必死に涙を流し命乞いのちごいいをする店主。


「まぁ…お前にさく時間が惜しいからな…さっきの話、頭じゃなくて心に刻めよクソヤロー!俺はいつでもお前を殺せるぞ?」



「は…はいぃぃ……『バタン』」




店主は口から泡を吹き気絶きぜつした。


琉偉もその場を後にした。







琉偉は走っていた。


(あのクソオッサン詳しい場所を教えてから気絶きぜつしろよチクショー!!…ってかさっきのすげぇチカラってやっぱ魔法か??バカでけーオッサンが発泡はっぽうスチロールの様に軽かった…流石さすがメルヘンの世界だ!!…やっぱりあのアニメみたいにこの世界だと俺ってスゲー強いのか?)



腕っ節には多少の自信があった琉偉だったがあそこまで馬鹿げた力は無かったと思いふと思考しながら全速力で林道を走る。


そして琉偉はようやく冒険者ぼうけんしゃらしきいかつい顔に防具と武具を装備そうびした二人組から黄昏たそがれ迷宮めいきゅうに行く道を教えてもらい更に駆ける速度を上げた。



(待ってろよ…ファーラン!!すぐに迎えに行ってやるからな!!また…あの可愛い笑顔を俺に見せてくれよ!!)




そして…程なくして琉偉は黄昏たそがれ迷宮めいきゅうの入り口に立っていた。



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