『族長』と『お弁当』
そこは薄暗く独特な乾いた空気に満たされた忘れ去られた廃墟の様な所だった。
そこに、1人の少女?が長い眠りから覚めた。
「…はぁ…ようやく目覚めたと思ったら…なんだこりゃ…」
「うわ!…っうか…なんだよぉ…この格好…」
埃が積もり蜘蛛の巣が張り巡らされている廃墟の中で困惑と不満の声を上げる。
「……どうしよっかなぉ…まぁ…なんとかなるかな?…ふぁーあ…取り敢えず…もう少し寝よう…」
暗闇の中1人の黒髪の少女はまた眠りにつく。
これから訪れるであろう、運命の出逢いまで…
場所は変わり、ここは黄昏のギルド国賓室。
「なんと!まぁ…これを作った料理人は王国の宮廷料理人にも勝るとも劣らない腕です!」
「そうなんだよ!!すげーんだよ!」
「ワァオ!オイラのは、お肉ばっかり!!」
「…ポコ様はお野菜もちゃんと取らないと大きくなれませんよ…?」
「ファーラン…オイラが小さいのはそういう理由じゃ…」
「言い訳は聞きません…ちゃんとお野菜も食べてもらいますよ!」
「オイラ野菜は苦手なんだぁ…」
アテナの膝の上で可愛らしく琉偉に助けを求め見つめるポコ。
「ルイ様を見てもダメです!克服出来るよう頑張りましょう…」
「ポコ…諦めろ!…ファーランは…なんつーか…お母さんだな!」
両手にサラダを持つファーランがにっこりとポコにプレッシャーが混じる微笑みをかける中、黄昏のギルド国賓室から普段は聞こえるはずのないランチパーティーの声が散々と響く。
「こ…これは一体…どういう事でしょう…」
ギルド職員ララはいつまで待っても国賓室から出てこない『土龍一行』を不審に思い、上司のミルティスに禁止されていたが彼女の好奇心がそれを上回ってしまい、国賓室を『覗く』という浅ましい行為に出てしまってる。
(どうして龍人族の族長様の膝の上に…あの赤髪の子が座ってるの??え?…お弁当?お昼ご飯食べてるのかしら?ここは一度、ミルティス様に報告をしに行かなくては…)
琉偉達はアテナから『聖龍の試練』の概要を聞き、これからの道筋をあらかた決め終えたタイミングでアテナを昼食に誘った。
「冷めてもこの旨さとは…やっぱ、ガゼルの大宿の料理人は凄腕だな!」
「使徒様に食事を誘って貰えるなど…光栄の極みで御座います…それに…こんなに大勢で食事を楽しむのは何百年もしていません…この様な機会をくださるとは…『土龍』ポコにも感謝します…」
試練の話を終えたアテナは小さなポコに愛しさを感じ、膝の上に乗せた事でポコも緊張を解き、仲良くなり琉偉とポコが昼食に誘ったのが今の現状であった。
「うん!お弁当は皆んなで食べた方が美味しいって事を族長に教えてあげたかったんだ!!」
「…アテナは普段、皆んなで食事をしないのか?」
「はい。食事は殆ど1人ですね…私は今回の様な事が無ければ王都の屋敷から出る事はまずありません…なので、いつも自室に籠り祈祷を捧げています。」
「そうなんだぁ…でも、族長って国王様とかと仲良いんでしょ??聖龍の巫女様って国の役職にもついてるし!」
ポコが。白髪の麗人の顔を振り返り見上げる。
「いえ…私は族長を務めているだけなので…国政、国務の仕事は『聖龍の巫女』を務める私の『妹』が担っております。」
「アテナの妹かぁ!姉さんに似て美人なんだろうなぁ…あっ…」
「………『ギラン』……」
「ルイ…そんな事、言って良いのぉ??」
「ファ…ファーランそんな目で俺を見ないでくれ!」
琉偉が、口を滑らせ、ファーランが瞬時に琉偉に愛と嫉妬の視線を無言でぶちかまし、それをポコが煽る。
「……妹は…少し変わっていますが…心優しき正義感の強い者です…」
「確か…半年ぐらい前に『聖龍の巫女』様が他国の王子と揉めて戦争直前までなったって噂が流れたよぉ?大丈夫だったの?」
「…えぇ…それは事実です…ラウル王国の隣国、軍事国家ゼスト王国の第2王子と婚姻間近で破談になり…ゼスト王が平和協定の見直しを宣言されてしまいました。」
「今はこちらの国政官が国交を結び直す為、頑張っているとの事です。」
「へぇー…偉い人達も大変だねぇ…」
「ったく…男と女の事情で戦争なんか起こされた日には国民が不憫で仕方ねぇーよ…」
ポコがアテナの膝の上で肉を口いっぱいに頬張り、横暴な国の政治の一端を感じる琉偉がボヤく。
「1つ…お聞きしても、よろしいでしょうか…使徒様?」
アテナが突然、琉偉に質問を投げかける。
「もし…使徒様が、国を率いる立場なら…どう争いを無くしますか?」
不意にアテナは琉偉の国に対する考えを聞きたくなってしまった。
「ん?どう争いをなくすか…??そうだなぁ…難しいな…」
琉偉は両目を瞑り思考する。
「!!いや…案外そうでもないかもな!」
すぐに琉偉は何かを思い付き笑った。
「なぁ?ポコぉ!俺の卵焼きあげるから、その肉巻きちょうだいよ!」
「ん?いいよぉ!はい!」
「おっ!サンキュー!」
「なぁファーラン!俺のパンとそのサラダを交換しようぜ!?」
「はい!勿論です!御主人様…どうぞ!」
「アテナ!アテナはお弁当持ってなかったよな??」
「はい?そうですね…ここの食べ物は全て、使徒様達がご用意してくださった物なので…」
「じゃあ、このサラダと肉巻きと俺の焼魚をアテナにあげるよ!食べてくれよ!」
「??ありがとう御座います…ですが使徒様?それでわ使徒様の分が減ってしまうのでは無いのでしょうか??」
「違うぞ!俺の分は少し減ったかもしれないけど、何も持っていなかったアテナが一緒に食べれる様になったぜ?一緒に食べるご飯は美味いんだよな!ポコ!」
「…そうなんだ!!1人で食べるご飯よりか何倍も美味しくなるんだよぉ!ねぇ〜?ファーランッ!」
「はい!その通りですね!ポコ様!」
孤独を知る2人の家族は優しく微笑み、琉偉の意見を肯定する。
「ここにある食べ物は3人分しかない…4人で奪いあったら1人分足りないんだろ?もっと食べたい!もっと人よりも多く食べたい!そんな事をやってると、ここのお弁当はすぐに空っぽになっちまう!」
アテナは箸を置き、琉偉の言いたい事を理解し、ゆっくりと瞳を瞑る。
「でも、俺達は弁当を分け合い皆んな一緒の物を食べて笑いあって美味しさも倍増だ!」
琉偉の国政は続く…
「…更に!これを食べ終わった時、また皆んなで仲良く食べたいなって思えるオマケ付きだ!!」
「結局は、奪い合えば全然足りねぇーんだ!!でもさぁ!分け合えば少し余るんじゃねーの?国も人も弁当も同じだって事だろ??」
琉偉は弁当を綺麗に四等分にした。
「…その様な答えがあるとは…使徒様の様な人が『国を変えていける人物』なのでしょうね!」
「アテナ…違うぞ!変えなくちゃいけないのは国じゃない…人の心だろって思うけどな…俺は…」
「…って偉そうに言ったけど、これは甘い考えの理想論だよな…口で言うのはスゲー簡単なんだけどな…」
最後に琉偉は少し現実を思い出してしまった、琉偉が生まれた現世も、移転してきたこの世界にも争いは同じ様に存在していたからだった。
「誠に恐れ入りました。使徒様は、そんなに私を惚れさせてどうするおつもりなんですか??」
緋色の瞳が潤み琉偉を見抜く。
「御主人様!!少しお戯れが過ぎますよ!勘違いさせる様な言い方は控えて下さい!」
「えっ…?このタイミングで?俺のちょっといい話はどこいった?え?なんか…すいません…」
「と争いは続くのでしたぁ…あははっ!こんな感じ??」
「……ポコ様…冗談はお野菜を食べてから言ってください!」
「ふふふっ…こんなに愉快なのは久方ぶりです…一生忘れる事は無いでしょう…本当に感謝します…」
アテナの生まれて初めてのランチパーティーは心の中の引き出しに大切に…大切にしまわれた。
「よし!じゃあ、ギルドでやる事は全部やったし目的もはたしたし…今日は帰って、今後について、また作戦会議だな!」
「うん!あっ!帰りに少し買い物して帰ろうよぉ!」
「そうだな!まだ、少し早いから、街でもぶらついて帰るか!」
「では、準備をしましょう。」
国賓室のソファーから琉偉が立ち上がり、ポコとファーランに声をかけ2人も行動を開始する。
「それじゃアテナ!『試練』の事、色々話を聞かせてくれてありがとうな!もうアテナは王都に帰るのか??」
「はい…明日の朝には王都に向けてここを発つ予定です」
「じゃあ、俺達が王都に行く機会があったら、また皆んなで飯を食べような!」
「はい…是非、次のお誘いお待ちしています…お誘いは……今夜でも受け付けていますので…使徒様…」
「ちゃんと聞こえていますよ…御主人様?」
「もう勘弁してくれ!」
ファーランの笑顔が怖かった。
「じゃあ、族長!また、一緒にお弁当食べようね!」
「はい…お約束致します!ポコも身体をいたわるのですよ?無理はしないよう気をつけてくださいね…」
昼食の間にポコと絆を深めたアテナが別れの挨拶をする。
「使徒様…『黄昏の水晶石』は王都の屋敷で厳重に保管しますので御安心を…それと…これをお持ちください…」
そう言ってアテナは、琉偉に白銀に輝く龍人族の紋章の入ったブレスレットを手渡した。
「おう!頼むよ!ん?何これ?貰って良いの?」
「これは、龍人族の庇護を受けている証明にもなります…この先、他国に旅をする場合、国の許可書が必要になります…これはその代わりを果たしてくれます…是非お使い下さい。」
「へぇーっ…パスポートみたいな物だな!…助かるよ!ありがとう!」
「では…最後に暫しの別れに口づけを…」
そう言ってアテナは両目を瞑り琉偉に口づけを迫る。
「…アテナ様……いい加減にしないと本当に斬りますよ?」
最後の最後にファーランがキレかける。
「あら怖い!!…使徒様…怖すぎて心臓がドキドキしてしまいました。お手を当ててさすって下さい!お速く!さぁ!!」
アテナは、あからさまな演技ではち切れんばかりの胸を琉偉の腕に押し付ける。
「貴様…『カチャ』…」
「いや…も…もう行くよ!じゃあ、アテナも元気でな!また何かあったらよろしくな!じゃあ!」
アテナを優しく振りほどき、下を向き黒い瘴気に包まれるファーランの手を握りその場を逃げるように国賓室を後にした。
「申し訳有りません…怒りで心を乱してしまいました。」
「いや…平気だよ!あそこまでグイグイ来られると少し引くな!」
「ですが…ルイ様はずっとあのアテナ様の谷間を見ていましたよね?ずぅーとチラチラと?やっぱり大きなお胸は好きですか?」
「な…何言ってんのぉ?ファーランは少し警戒し過ぎだよ!全然見てないから!ポコぉ!なんとかファーランの誤解を解いてくれ!」
「仕方ないなぁ!ファーラン落ち着いてよ!!ルイが見てたのは主に、もろ見せしてたパンツだから、おっぱいじゃないよぉ!ね?ルイ!」
衝撃の真実を語る無垢な少年の仮面を被るポコ。
「え?お前…俺に恨みでもあんのか?ポコ?そんな冗談はお呼びじゃないんだよ!!…いや…見てないよ!本当に見てないよ?」
「ルイ様!」
「ポコぉ!!!」
「あははっ!」
『土龍の一行』は、黄昏のギルドを後にする。
「おお!ゴンド!遅くなって悪い!待たせたか?」
「いやいや…馬の手入れをしていたんで、全然、大丈夫でさぁ!じゃあ、パーレンの街までお送りします!馬車に乗って下さい!旦那!」
黄昏の迷宮の入り口付近で、琉偉達の帰りを待っていたのは元盗賊のドンゴもとい、御者のゴンドだった。
「あっ!おい!ゴンド!お前、パーレンの街の中にアジト持ってるだろ!?えっと…セイクリッド卿の屋敷だったか?」
「!!旦那!何故それを知ってるんですか??」
「今日、ギルドでお前の討伐、依頼が発注されたから、もう退治したって報告しといたぞ!」
「だから、もう二度と盗賊ドンゴは名乗るなよ!」
「本当に…何から何まで…この恩を返せるよう…真っ当に生きますので…これからのあっしを見ていて下さい!」
「おう!こんないい馬車持ってんだ!頑張れよ!」
元盗賊のゴンドは熱くなる目頭を押さえて、琉偉に感謝してもしきれない程の恩を確認し、自分を変える事で琉偉に真っ当に生きる事を誓った。
「それと、そこの屋敷が今回の報酬らしいんだよ?後で見たいから一度、案内してくれないか?」
「ええ?一等地のあの屋敷を??さすが旦那だ!わかりました!パーレンの街のに着いたらすぐに案内します!」
琉偉達は、馬車に乗り込み、来た時と同じように馬車での旅を楽しんだ。
「やっぱ、馬車は楽チンだな!そうだ!ゴンドを俺達で雇えば常に馬車で移動出来るよな?」
「そうだね!盗賊稼業をやめてまともに働くんだったら喜ぶんじゃない??ルイの事を慕ってるようだし!」
「あんなおっさんに好かれても嬉しくねーの!」
「では、可愛いお胸の大きな女性でしたら嬉しいのですか?」
「ファーランはもう少し俺を信じてくれ!」
「ふふッ…冗談ですよ!御主人様!」
「ほぉーんとかなぁー??」
「ポコも煽るな!」
3人を乗せた馬車は笑い声と共にパーレンの街を目指す。
「旦那ぁー!そろそろ街に着きますぜ!?このまま馬車でセイクリッド卿の屋敷前まで行ってもいいですかい?」
「おう!街中をこんな立派な馬車で移動したら目立つだろうな!また襲われたりしないよな?」
「まぁ、ルイがSランクの冒険者になったんだ!すぐに情報が回るだろうし、ルイに手を出して来る輩は減るだろうから少しは安心だよ!」
「ちなみに、Sランクの冒険者は『下級貴族』と同じぐらいの地位をもらえるんだよ!…ルイは、いつか王様から『爵位』をもらったりして!」
「しゃくい?爵位ってあれか?伯爵とか男爵って奴?」
「はい!その通りで御座います…」
「Sランクの冒険者の扱いは『士爵』と同じ扱いなんだ!」
「こっちに来て2日目には貴族か…なんか…短い様で長い様な…いや、濃い2日だな!」
「あはははっ!それを聞くと異常だよね!」
「旦那!着きやした!ココがセイクリッド卿の屋敷でさぁ!」
真っ黒の馬車が、大きな屋敷の前に止まり、琉偉達が馬車を降り、目の前の屋敷に視線を送る。
「でけーっ!マジでこれ貰えるの?なぁ!ゴンド!中はどうなってんだ?綺麗なのか?」
「へい!俺達がアジトにしていたのは納屋の方で、本館は魔法の封が掛かっていて入らないんでさぁ!力になれず、申し訳ねぇ…」
「いやいや、謝んなよ!しかし魔法の封が掛かってるって事は中は後のお楽しみって奴だな!?」
「それにしても立派なお屋敷だね!いくつ部屋があるんだろうね!この大きさだとメイドさんを雇わないと無理だね!」
「………」
「…メイドかぁ………ファーラン…こっち見過ぎ!」
「そぉ…そう言えばゴンド!お前の部下はどうしたんだ?まさか、全員が御者をする訳じゃないんだろう?」
「へい…今日、盗賊団を解散する時、子分達は各自、仕事を見つけると言ってやしたが…実際、厳しいのが現状でさぁ…盗賊上がりには中々まともな仕事は貰えません…」
ゴンドは、ドンゴ盗賊団を解散して、子分達に自由に生きろと伝えてあった。
「……じゃあ、その子分達と、この屋敷で働くか?この大きさなら警備とか屋敷の管理とか、かなりの人を雇わなくちゃならないからな!ゴンドは俺達の専属の御者で使用人頭の役職まで付けてやるし、給金は弾むぜ?どうだ?」
「旦那ぁ……本当にいいんですかい??あっしは元盗賊でさぁ…もし、バレた時は旦那にも迷惑をかけるかもしれねぇ…よく考えくだせぇ…」
「あの『盗賊ドンゴ』は今日、死んだんだよ!だかもし…昔の罪がバレて文句を言ってくる奴が居るなら俺が守ってやる!お前の子分も全員だ!約束する!その代わりちゃんと働いてもらう!あとはお前の気持ち次第だ!」
琉偉はゴンドの眼を見て言った、気持ちの良いくらい満面の笑みで、そして力強く守ってやると誓った。
「…旦那ぁ…重ね重ね本当に申し訳ねぇ…また旦那の優しさに甘えてもいいですかい?俺は旦那に人生を託す…いや…命を託します。」
大柄なチョビ髭の男は溢れる泪を拭いもせず子供の様に泣き、深く頭を下げた。
「ルイの周りには涙もろい奴ばっかり集まってくるね!……やっぱりルイは最高だよ!」
「御主人様の温かい言葉はいつも心に響く歌の様です。」
この時、御者のゴンドとその子分が新たに琉偉の舎弟になった。
「それじゃあ旦那、明日も黄昏の迷宮に向かうんですよね?朝には正門でお待ちしてますので声をかけてくだせぇ!」
「おう!今日はありがとな!明日もよろしく!気をつけて帰れよ!」
「はい!旦那もお気をつけて!それじゃ、あっしは行きますので!」
「ああ!じゃあな!」
『パシン!』『ヒヒーン』
「よし!じゃあ、後は街をブラついて買い物して宿に帰るか!」
「おぉーーっ!」
「了解です…御主人様!」
ゴンドと一旦別れた琉偉達は、買い物と物色を兼ねて商店通りに向かい移動する。
「…例の人物を捕捉したよ…これから、尾行を始める…」
不穏な影が琉偉達に迫っている事を知らずに……




