『ミルティス』と『黄昏の覇者』
ミルティス目線のお話です。
ミルティスと琉偉が出会った初日の話です。
「ミ…ミルティス様ぁ!!大変です!!」
「朝から騒ぎ立てるな!一体何があった?」
ラウル王国領内、黄昏の迷宮、一階冒険者ギルドにいつもとは違う慌てた側近の声に苛立ちの声を上げるのはこのギルドの長エルフ族のミルティスだった。
「ミルティス様!!大変です!!今日こちらに龍人族の族長がお目見えになるそうです!!」
「なに?アテナ様か?アテナ様がここに来られるのか!?」
ミルティスは600年間、龍人族の長『アテナ・シリウス』に片想いをしていた。
「ミルティー…久方ぶりね…元気にしていましたか?」
「はっ!アテナ様もお変わりなく美しくこのミルティス、幸せの極みにおります。」
「相変わらず御上手ね!ミルティー」
ギルドの入り口でギルド長自ら片膝をついて黒い妖艶なドレスを着る白髪の『ラウル王国最高貴族』を出迎えた。
「アテナ様…どうぞこちらへ…」
ミルティスはアテナを国賓室に迎え入れ高価なソファーにアテナをエスコートする。
「ありがとうミルティー」
ソファーに深く腰掛けるアテナ。
「して、アテナ様は、本日は何用でこちらに出向かれたのですか??」
ミルティスはもっとも気になっている事をアテナに問う。
「昨日…聖龍様のお告げがありました…お告げの内容は『今世紀最大のアホをそっちに使わせる…適当に手を貸してやれ』でした。」
アテナはそのふざけた内容のお告げを一つの笑みを溢さずミルティスに伝えた。
「それは、また…唐突ですね…よもや聖龍様のお告げが本当に下されるとは…ですが…それでは、やはり『聖龍様の使徒様』がこの地に赴く、という事ですか?」
「はい…伝承によると…『世界を変える出来事が起こる時、狭間の世界から1人の聖龍の使徒がこの世界に現れる…』我々はそのお方のサポートをするのが使命古よりそう伝えられています。
アテナは透き通る様な薄い緋色の瞳を閉じ龍人族の使命を語る。
「その…使徒様の居場所は分かっているのですか??」
「いえ…お告げでは、黄昏の迷宮から『守護龍』を倒し『水晶石』を持ち帰る者が現れるとありました。」
アテナは淡々と聖龍のお告げをミルティスに伝える。
「…アテナ様…過ぎる物言いをお許し下さい…お言葉ではありますが…守護龍が復活したという報告は受けていません!もしも復活する様な事があれは私が気づくはずです…それに、もしも守護龍が復活したならば恐らくあの龍に勝てる者は今の時代、王国の『聖騎士長』だけだと思います。」
ミルティスは現実的な話をして、目の前の薄い緋色の瞳を己の翠眼で静かに見つめた。
「ミルティーの意見が正しいと、私も思います…ですが聖龍様のお告げもまた、事実なのです。」
聖龍の巫女を称する一族の長は、明確な事実をミルティスに突きつけた。
「……分かりました!このミルティス、エルフ族の誇りにかけて今回の件、出来る限り手を尽くしましょう。」
「心より感謝します…ミルティー」
アテナはミルティスに向かい、立ち上がり、左手を右手の拳に包み『フワリ』と感謝の言葉を述べた。
(やはりこの方は女神か何かなのか?神々しさが止まることを知らない!!アテナさまぁ!!!大好きです!!)
真面目ぶったエルフの頭の中は、今日、出逢うであろう1人の兄弟とあまり変わらなかった。
「では、使徒様が現れるまでひとまず待機ですね?アテナ様…何か、お飲み物でも…!!?」
「……ミルティー?どうしたの?顔が真っ青よ!大丈夫ですか?」
ミルティスはソファーから立ち上がりアテナに声をかけた瞬間…感じてしまった…迷宮の底の方からの凄まじい龍種のマナを。
「本当に…本当に復活した模様です…あの伝説の守護龍『マレフィスの蒼龍』が…」
「さぁ…世界が動く瞬間です…この暗く悲しき時代に一筋の希望をもたらしたまえ…」
ミルティスは余りの凶悪なマナに汗を流し、聖龍の巫女の一族の族長は両手を合わせて、全身全霊で天に祈りを捧げた。
「ミルティス様ぁ!!大変です!!」『バン!』
本日2度目となる優秀な部下の慌てぶりに右手で額を抑えるギルド長の姿があった。
「……今度は…なんだ!?ララ!!アテナ様の御前だぞ!静かにしなさい!」
ミルティスの部下、ララは慌てて豪奢な扉をノックもせずに開けた。
「も…申し訳ありません!ですが…ある冒険者が最下層にてあの守護龍を撃破し、尚且つ、『黄昏の水晶石』を回収したと受付で騒いでおります!!」
「何?冒険者だと?…確かに…先ほどから下層の龍種のマナは感じ取れない…アテナ様どう致しますか?」
「その冒険者とやらに逢わせて貰えませんか?…非常に興味があります!!」
(ん?今、アテナ様が一瞬、興奮してた様に感じたが……いかん!使徒様かもしれない相手に嫉妬など…エルフの誇りが汚れてしまう…落ち着け…私!)
「ララ!至急その冒険者を応接間に通せ!水晶石の買取交渉だ!」
「分かりました!すぐに手配致します!聖金貨はいかほど用意しますか?」
「聖金貨か…300年間守護龍は復活しなかった…そして守護龍が守る水晶石は強大なマナを取り込むと言われている…聖金貨20枚程用意しておけ!」
「20枚ですか??平均買取価格は聖金貨6枚です…少し多いのではありませんか?」
ミルティスの右腕ララは過去の買取金額を大幅に超える金額に異議を唱える。
「それは『マレフィスの蒼龍』が復活していない時に回収された水晶石だ!…今回のは『本物』だ!」
「……」
「それに、もしその冒険者が聖龍の使徒様だった場合、騙して利益を得る様な真似は出来ない!」
(聖龍の使徒様??)
ララは心の中で聞き覚えのない単語に疑問を残す。
「ですが…いきなり聖金貨20枚の提示はおやめください…そこから更に吊り上げられる恐れがあります。」
「あぁ…相手の素性を探る為にも聖金貨7枚から交渉は始める…これでどうだ?」
「…それならば、妥当だと思います。」
「ララとやら?その冒険者はどの様な方なのですか??」
ミルティスとララが買取の作戦を練る中アテナがララに尋ねた。
「は…はい!報告によると11・2歳程の赤髪の子供と黒髪の青年と金髪の獣人の女性のパーティとの報告です。」
「く…黒髪ですかぁ…そうですか…少しドキドキしてしまいますわ…」
(ちくしょう!なんだこの気持ちは…その冒険者め…黒髪フェチのアテナ様を誘惑する気か!!けしからん!…いや恐らくただの幸運の冒険者の可能性が出てきたな…流石に女子供にあの龍の討伐は不可能だな)
ミルティスはアテナの黒髪好きを調査しており部下の報告に嫉妬の焔を燃やしていた。
「では、アテナ様…参りましょうか?」
「そうですね…あまり待たせるのはよろしくありませんね…行きましょう!」
(こうなったらアテナ様に出来る男をアピールしなくては!女神を落とす絶好の好機!!いざ!男ミルティス!!正念場だ!)
誠実なエルフのミルティスは心に邪念を抱く…
そしてミルティスとアテナは応接間の扉を開ける。
後に、極大魔法まで使いそうになる修羅場へ……
『ガチャ』…………ミルティスの運命は動き出した。
「…話には聞いたが…相当に若いな?貴殿はどこの国の騎士の所属だ?…いや…すまない…自己紹介が先だったな!…私はここのギルドの長、ギルド長を務めるミルティスだ!初見の詮索を許してくれ。」
(はっはぁ!!やはり緊張して圧倒されている…これならすぐに交渉に行っても聖金貨7枚で手を打ってくれそうだな…この身なり…恐らく聖龍様の使徒様では無いだろう…)
「いや…いいよ!若いとかガキとかコッチ来て言われ慣れたしな!…んで?俺達の用事は、迷宮のお宝の買取交渉って認識で良いんだよな?…早急に始めたいんだが?」
(な…なんだこの冒険者は…若いのに、まるで商人の様な口調だ…)
ミルティスは琉偉の余りの饒舌に少しの不安と焦りを覚えた。
「あぁ…待たせてすまない。早速始めよう…こちらで検討した結果…多少の『上乗せ』として、『モーリル聖金貨7枚』でギルドはその水晶石を買い取ろう!」
(こい!)
「やったよぉ!!ルイ!!聖金貨7枚!!オイラ達はちょっとした御大臣だよ!お金持ちだ!!やったぁ!」
(よっしゃーー!!これでアテナ様は私に首ったけだ!悪いな、幸運の冒険者くん)
「では、交渉成立ですね?手続きが有りますので早急によろしくお願いします…では、水晶石の提示を!」
(ちゃーんと見てますかぁーアテナ様ぁ!!ミルティスは完璧な買取交渉をしましたよぉ!)
「…いや…待て!…水晶石は売れない!…交渉は決裂だ!!」
(は?………え?)
ミルティスの思考は止まる。
『ルイ』と言う冒険者はソファーに偉そうに座り足を机に乗せたかと思うと啖呵をきって反撃に出た。
(はっ!まずい!やはりこの冒険者只者じゃ無い!この全てを見通す漆黒の瞳…そしてこの堂々とした態度…そして…薄っすら身体から漏れ出す龍種のマナ!?…こいつは…この水晶石の価値を知っている…まさか…本当に…聖龍様の使徒様?)
そこから琉偉と言う冒険者はミルティスをまくし立てた…全て図星交渉に置いては完敗だった…結果、買取金額は上限の聖金貨20枚と言う形で幕を閉じた。
そこから更にミルティスに悲劇が襲う…
少し気に入らなかったがミルティスは聖金貨20枚を用意して応接間に戻った時、事件は起きていた。
ミルティスの女神はルイと言う冒険者の膝の上に跨り、その女神の持つ神聖な2つの楽園を黒髪の冒険者の顔に押し付け興奮する憧れの女神。
(なんだそれ……なんなんだ!俺が600年憧れた女神を…おのれ!おのれ!おのれぇーーっ!)
ミルティスの中で何かが壊れた。
思い浮かぶのは女神との初めての出会いだった。
立派な墓の前…白い花を持つ青年ミルティスはその翠の瞳から大粒の涙を流していた。
「なんで…なんで死んでしまったのですか??お母様!!」
「やめろ…ミルティス!死んだらもう二度と戻って来ることは無い…安らかに送ってやろう!」
「…くっ…お母様…お母様…」
ミルティスが丁度100歳を迎える頃、エルフの村で、流行り病が流行した。
その病はエルフ族のみに感染すると言う変わった伝染病だった。
「もう…この村で残った若者は、お前だけだ!ミルティス…お前が…この病気にかかってしまったら我らの氏族は全滅してしまう…村を出るんだ!ミルティス!」
エルフ族の長老は年若きミルティスを村の外に出し感染を防ごうと考えた。
「そんな…家族を捨ててまで生きようとは思いません!!私は最後までこの村に残ります!!」
「それは許さん!お前も知っているだろ?我等は『約束の使命』がある…それを第一に考えねばならない。」
「バリティスも病に感染してしまったのだろう?……村で1番の戦士も病気には勝てぬか…」
ミルティスは下を向いて長老の言葉を肯定する。
「お前の受け入れ先は、ラウル王国じゃ…あの龍人族が受け入れを受理してくれた…今日から準備をして龍人族の庇護のもと使命を全うせよ!…これが最後のワシからの頼みじゃ…ミルティス…手を出せ…」
「長老様?これは?」
「これは昔…ワシらのご先祖様より預かりし力…破壊神ラータス様の禁術じゃ…運命の日に向けてこれを紡がなければならない……すまないミルティーこんな力を託してしまって…恨むならこの老いぼれを恨め…すまない…」
「長老様ぁ!!しっかり!長老様ぁ!……お爺様ぁぁぁ!!!!」
2000年以上の時を生きたエルフ族の長老は孫、ミルティスに世界を終わらせる力を与えこの世を去った。
そしてミルティスの氏族は病魔に侵され全滅した…
「そなたが…あのバリティスの息子ミルティスか?」
それは心に響く優しい透き通るような声だった。
「アテナ…様ですか?」
「そうです…龍人族は貴方を受け入れます…今は悲しさで心が満たされてるかもしれませんが…いずれその悲しみを溶かしてくれる心の兄弟となる方がいつの日か必ず現れます…これは聖龍様のお告げです…さぁ此方に来なさい…」
「兄弟ですか…?それは…少し楽しみですね……ありがとうございます…アテナ様…」
ミルティスはそう静かに呟き翠の目から大粒の涙を流し、アテナはミルティスが落ち着くまで震える頭を大きな胸の中に抱き寄せ優しく頭を撫でていた。
(私は…あの日のアテナ様の言葉は忘れない…あの一言にどれ程救われたか…だから許せない!聖龍の使徒だろうがそれはさせない!!)
《我が命を捧げる…破壊の神ラータスよ…我が名はバリティスが息子ミルティス…》
(もう後には引けない!やるしか無い!)
「ミルティー…」
懐かしき声が聞こえる…
「そなたが私を慕っていた事は気づいていましたが…その恋慕にはお応え出来ません…」
(終わった…完全に終わった…こんな恥を晒し全員に引かれてる…死のう…私は今日、人生を終わらせよう…どうせ私が死んでも悲しむ家族は1人も居ないのだから…)
アテナの言葉に全ての気力を失うミルティス。
「龍人族の族長は龍人族か龍族の者としか番になれません…それは太古の昔から決められし『掟』なのです。
それに、私は一度…最愛の夫を亡くしています…それは種族の『掟』を重んじるエルフ族には決して受け入れられない。…ミルティーもわかっていますね?」
「『掟』そんな…アテナ様…」
(また『掟』かぁ…本当終わったな…)
「なぁ…よく聞け!」
誰も声をかけれぬ程、呆然としているミルティスに1人の冒険者が力強くそして優しく『声』をかけて来る。
「俺がお前の立場ならこっ酷く振られた時はなぁ…酒を死ぬほど呑んで夜のおねー様達に癒してもらいに行くんだ!!今日は最後まで付き合うぜ?『兄弟』!」
ミルティスは稲妻に打たれた様に記憶が蘇る…
(なんだ?なぜ…この冒険者の言葉は心に刺さる…兄弟?凄く安心する響きだ…なぜだ…私はこの冒険者を殺そうとしたんだぞ…?なぜ笑って優しい声をかけてくれる…なんでだ?)
「貴殿は…貴殿はこんな失態を犯した私を許してくれるのか?…それも兄弟と…」
黒髪の冒険者は言った…優しい顔で笑い…兄弟と…
600年渇ききった心に水が注がれた…
優しく…そして暖かな…追い求めていた家族の繋がりが…
琉偉の一言はミルティスの心を癒してしまった。
(私はこの時の事を忘れない…心の痛みを取り払ってくれた兄弟を…絶対に忘れない…)
「ミルティス様!大変です!!ギルドロビーで冒険者が暴れています!」
「やれやれ感傷に浸ってる暇すらないのか…で、暴れているのはどこの馬鹿だ?」
「それが…先程の黄昏の覇者です…」
「は?」
水晶石の一件で暴れてしまったミルティスは反省と感傷に浸っていたが先程の兄弟の契りを結んだ冒険者が揉めていると言う。
「早速、借りを返しに行くか!血の気の多い兄弟には困ったもんだ!!ハハハっ!」
ミルティスは少しだけ…迷惑な顔をしてそして…少しだけ心から笑った。




