『屋敷』と『ランクアップ』
『次の方…どうぞ!お待たせ致しました。!!!』
ここは黄昏の迷宮一階、冒険者ギルド受付前。
赤みがかった綺麗な中髪に一際美人で小柄な青い瞳の女性『ララ』の目の前には、小さい赤髪の魔導師と、後ろには英雄譚に出てくる『古の龍人の冒険者』を彷彿させる鎧を纏い立つ2人の冒険者が居た。
「ねぇ!オイラ達はここの長ミルティスの依頼で来たんだけど…たしか…『ララ』って人はいるかい??」
(ごっ…極秘ミッション!!…これはミルティス様の仰られていた極秘ミッションだわ!!)
ギルド職員ララは緊張を覚え思考する。
ララは事前にミルティスに『土龍一行』の依頼内容を聞いていた…だが、その時、彼女は不思議に思った。
(いつもは冒険者なんかには興味を示さない堅物ギルド長が何故か「極秘扱いにせよ!」と『笑いながら』私に極秘事項だと告げた…『笑いながら』…ここに勤めて8年になるけど…初めてミルティス様が笑っているのを見た…チョット怖かったな…)
「おーい!聞いてる??ねぇーっ!ねっーったら!!」
「固まってしまわれましたが…どうしますか?」
「なぁ?ネェちゃん!疲れてんのは分かるけど仕事しよーぜ?サイコギルド長に怒られるぞ!」
「え?あっ?すすすす・すみません!!わ…私が…ララです!依頼の件で御座いますね!…でしたら、別室にて承まわります。どうぞこちらへ…」
ララは盛大にどもり、テンパったが最後にはベテラン受付嬢のプロ根性を見せつけた。
「どうぞ、そちらにお座りくださいませ。」
「おーおー!これまた高価そうな椅子だな!ぼったくりギルドめ!」
「そんなこと言っちゃダメだよぉ!ルイ!」
「あの…防音の魔法が掛かっておりますので、気をお使いにならなくても大丈夫ですよ…」
琉偉は、前に通された応接間ではなく、秘密性の高い部屋に案内され、またしてもギルドの利益主義に対する軽口を叩く。
「では私、担当のララが今回のミルティス様の依頼を代理で『土龍一行』様に発注致します。
「うん…それで、なんだい?その依頼って?」
ポコがララの青い瞳を見つめる。
「はい…パーレンの街の一等地に我らギルド所有の建物があるのですが…そこがある盗賊によって占拠されているという情報が入りました…」
「おいおい!また盗賊関係か?治安悪いな!」
ここに辿り着くまでの一件で思わずボヤく琉偉。
「はい…依頼内容はその建物の奪還、及び、盗賊達の捕縛それと、この依頼には特定の条件があります。」
「条件??なんだ?条件って?全員捕まえればいいんだろう?」
琉偉はララに楽勝だと言わんばかりに笑みを浮かべた。
「条件は被害を最小限に抑えることです…実は、その建物は冒険者ギルドを創設した血族、『バームス・セイクリッド卿』の所有していた物件なのですが…跡取りがいなくなり、やがて空き家となっていた物件なのですが…歴史的財産も大量にあるので…クエスト難易度はAランク…報酬はその『セイクリッド卿のお屋敷』です。」
「はぉ?」
「マジかよ!!」
「お…お屋敷で御座いますか…?」
「ミルティスのヤローあの話は本気だったのか…」
ララは『土龍一行』に破格の報酬を提示した。
「いいのかよ!歴史的財産なんだろ?いくらなんでもこんな美味しい話…裏があるに決まってんだろ!?」
「そ…そうだよね!ララのおねぇーさん?本当に盗賊退治だけなの?その盗賊の情報はないの?」
琉偉とポコは、余りの報酬の良さに勘繰り詳細の情報を確認する。
「はい…少々言いにくいのですが…ギルドが調査したところ…最近、頭角を現した『盗賊ドンゴ』の一味らしいのです…」
「「え?」」
ポコと琉偉は『えっ?』をハモる。
「なので…パーティが3人ですと中々厳しいのですが……他の冒険者に依頼を出しても充分破格の報酬だと私、個人は申し上げます!ミルティス様の仰った事はここまでなので…どうでしょうか?お受けして頂けませんか?」
「…あの…ララおねぇさん?ここに来る前にその盗賊、退治しちゃったんだけど…これでクエスト完了って事??」
「ははっ!なんだそりゃ!」
「まぁ…」
ポコが運命的な偶然に顔を引きつらせララに事実を伝え、琉偉は笑い、ファーランは目を見開らき、小さな口から驚きを洩す。
「………え?…と…言いますと…まさか!盗賊ドンゴを討伐したのですか??……えっ?」
ララの思考が一瞬停止してポコの放った言葉を整理し、再び思考がとまりかける。
「うん…捕らえては無いけど…もう二度と姿を現さないと思うよ!…ねっ?ルイ!」
「……ああ!俺が保証するよ!あの盗賊はもう、この世から消えたよ!」
(こ…この世から消えた??抹殺したという事??本当に??相手はあのドンゴなのに?…Bランクの冒険者が返討ちにあった盗賊の棟梁を??こんな可愛いい子供と若い冒険者なのにそんな事を笑いながら話すの!?…やはり…さすがは黄昏の覇者…凄すぎて少し怖い…)
「まぁーたぁ固まっちゃったよぉ…おーい!ララおねぇーさぁーん!」
固まる受付嬢、ララの綺麗な青い眼前にポコの小さな掌が上下に揺れる。
「はっ!また…し…失礼しました…分かりました、では、確認の為、早急にギルド職員を屋敷に向かわせます…確認後、正式に手続きを行いますので…後日ギルドにいらっしゃるよう、お願い致します、私からの話は以上でございます…」
なんとかベテラン受付嬢のメンツは守られたと思われたが、後に、土龍の冒険者の1人は彼女を『フリーズ嬢』と愛称をつけるのであった。
「じゃあ、明日、また伺うよぉ!宜しくね!」
ポコが天使の様な笑みをララに向けてその場を去ろうする。
「すみません!最後に、ミルティス様が特別に『冒険者ルイ』様のギルドランク更新の手続きを用意しています。今日の帰りに寄って頂きますよう、仰つかっております…」
「…なんだよあいつ!居るなら直接俺達に言えば良いのにな!」
「きっと恥ずかしかったんじゃ無い?面と向かってルイを『特別扱い』する事がねッッ!」
「ふふっ…そういう事ですね!」
遠回しに琉偉を贔屓する堅物ギルド長の本音をポコが暴露し既に気づいていたファーランは少し吹き出し笑顔でポコの意見に頷いた。
「ミルティス様は自室に居ますので…ご案内致します…こちらへ。」
ララはそう言うと、『土龍一行』をミルティスの自室に案内した。
『コンコン…』
「失礼致します…冒険者ルイ様、並びに土龍一行様をお連れしました。」
「あ…あぁ!入りたまえ…」
ララの案内でミルティスの自室に行き、ララが扉をノックし、中から少し緊張した聞き覚えのある声で応答があった。
「おお!凄い装備だな!ルイ!ララから話は聞いたか?少し手強そうだが、ルイ達なら大丈夫だろう!任せたぞ!」
「おう!昨日ぶりだな!えっと…盗賊退治の依頼はちゃんと終わらせてやったぜ!…土龍のパーティは仕事が速いって有名なんだぞ?知らなかったのか?兄弟!?」
琉偉は、美形のエルフの兄弟に『肩慣らしにもならない』と思わせるような笑みを浮かべ意気揚々と声をかける。
「…ははっ!冗談はやめてくれ…そんな早く……え?それは…もしや…事実か?」
琉偉の話にニヤつくポコと微笑むファーランを見てミルティスは騒つく思いに、真剣な面持ちで琉偉に輝く翠眼を合わせ問う。
「ミルティー…俺は『兄弟』に嘘はつかねぇーよ!」
「そんな…一体どうやったんだ??いや…ルイがそう言うのであれば、それが真実なのだろう!…さすがは兄弟!!感心を通り越して背筋少しが寒くなったぞ!はははっ!!」
『兄弟』という単語にミルティスは少し顔を赤く染め実に嬉しそうに琉偉達に微笑み声をだし笑った。
(あっ!またミルティス様が笑ってる…それに兄弟って…どういう事??)
受付嬢ララは『新人冒険者ルイ』と黄昏のギルド『最高職ギルド長ミルティス』の不思議なやり取りを眺めて思考していた。
「では、早々にギルドランクの更新を始めようか!まずはこの『杖』にマナを記憶させてくれ!」
ミルティスはそう言うと、琉偉に先端に水晶の取り付けられた、真っ黒の何やら文字が沢山彫られている杖を手渡す。
「……おお!水晶が光った!…これで良いのかよ?」
「あぁ!そしたら杖を私に貸してくれ!…ほう…流石に『マレフィスの蒼龍』を討伐しただけの事はあるな…では行くぞ!」
《汝の器を昇華させ、証明せよ!!キリーク・レゼ!》
ミルティスが短文の詠唱をすると沢山の金色の光に琉偉は包まれる…
「えっ?ランクアップする時ってこんなになるっけ?」
「いえ…私もこんな事は…目視出来るほど御主人様のマナが歓喜しています…」
「何…?こんな事が…『Sランク』…ルイ…はGランクからSランクに昇華した…凄い…歴史的快挙だな!おめでとう!兄弟!」
「やっぱり…守護龍の経験値は半端じゃ無いね!」
「まさか…一回の探索で『一級冒険者』に至るとは…さすがは、御主人様!!」
「よっしゃ!これで盗賊とか他の冒険者とかに舐められなくて済むな!…あっ!どうせなら、ポコとファーランも更新して貰えるか?ミルティー」
「あぁ!心配しなくてもいいぞ!最初からそのつもりだ!」
「…ナイスな男だぜ!ミルティー!」
「本当に!?やったぁ!ランクの更新って結構お金かかるから久しくやってなかったんだぁ!!」
「私も四年以上、更新していませんので、ありがたいです。」
「では、2人共…先程と同じ手順を!」
太っ腹なミルティスに琉偉は笑みをこぼし、通常、ギルドランク更新にかかる金貨一枚の費用と手続きを免除されたポコとファーランは大いに喜んだ。
「おぉ!オイラもランクアップしてるぅ!!Aランクになったぞぉ!守護龍との戦闘経験値を貰ってたんだな!やったぁ!」
ポコは子供の様にはしゃぎ、『準一級冒険者』に昇格した。
「私は、ランクアップには至らなかったですが…何やら新たな『スキル』が発現したようです…」
ファーランは己の身体の変化に気づいた。
「これでオイラ達のパーティは戦力上昇だね!順風満帆!!ありがとうミルティス!」
「ありがとうございます…ミルティス様」
「いや…礼なんてやめてくれ!ルイの家族…ポコ殿達の力になれて私も嬉しい!」
ミルティスは、ポコとファーランに琉偉と同じ様に親愛を振りまき、それを琉偉は気持ちを柔らかくして見つめていた。
「そうだ!ミルティー!あの龍人族の族長さんは何処に居るんだ?あの人とも『約束』があるんだよね!」
「あ…あぁ!話は聞いている!アテナ様はこの建物の『国賓室』にて、ルイをお待ちしている!あまりお待たせするのは礼儀に欠ける…直ぐに案内してくれララ!」
アテナの名に少しだけ動揺したミルティスは再びギルド長の顔に戻り、優秀な部下に案内を託す。
「はい!承知しました。『土龍』の皆様どうぞこちらに。」
「明日、また来るよ!ミルティー!仕事頑張れよ!じゃあ、今日は行くよ!忙しいのにありがとな!またな!」
「ああ!気にするな!明日も楽しみに待ってるぞ!」
琉偉とミルティスはお互いの拳を合わせ、目尻を下げて再会の約束をした。
「此方が国賓室になります…これより先は私は入れませんので、ここでお待ちしています、中にいらっしゃいますのは非常に高貴な御方です…どうぞ失礼の無いようにお願い致します。」
「おう!大丈夫!昨日の轍は踏まないぜ!」
「御主人様…お気をつけて…私はいつでも戦闘準備は出来ています!」
「いや…ファーラン…本当にやめてね!昨日の二の舞いはもう勘弁だよぉ〜!」
ポコは、昨日の黄昏の水晶石、換金時の大混乱を思い出していた。
「ともかく、今日はちゃんとあの『トカゲの試練』の内容を聞くかな!今日は盛ってないと良いんだけど…あの白髪ねぇーちゃん…」
琉偉は、少しの不安を感じて豪奢な扉を開ける。
「お待ちしていました…聖龍の使徒様…」
そこにはスケスケの際どい衣装を纏う白髪の妖艶な姿のアテナが座っていた。
「おいおい…大丈夫かぁ?」
琉偉の呟きが部屋に小さく響いた。
「お…おう!今日はやけに刺激的な格好だな…まぁいいか!昨日の『試練』の話を聞きに来たぜ!」
「くっ…やはりこの方は非常に危険です…」
琉偉がアテナを直視せず話を進める。
そして何故かファーランが悔しがり警戒を最高潮に高める。
「此方に御座り下さい…昨日はお恥ずかしい痴態を晒してしまい申し訳ございませんでした…何卒お許しを…」
目の前の大きなソファーに着席を促し、3人にアテナは深く頭を下げた。
「いや…大丈夫だ!そんなに気にしてないから…頭を上げてくれよ!」
「はい…寛大な御心に感謝致します…では、本題に移らさせてもらいます…使徒様は『試練』についてどこまでご存知ですか?」
アテナは昨日の失態を詫び、丁寧で気品溢れるお淑やかな口調で話しすすめる。
「えっと…全然…何も知らないんだけど…悪りぃ」
「いえ…それを御説明するのが私の仕事ですので…」
(おお…見た目とは裏腹に今日は大丈夫そうだな!)
暴走痴女アテナ・シリウスの真面目な態度に安心する琉偉。
「『聖龍の試練』とは厳密に言いますと各、迷宮の最下層に存在する全ての『水晶石』の収集と『龍の城』と言われる幻の遺跡の到達を意味しています!」
「えっ?うっそ……俺、あの水晶石、売っちゃったよ!いきなり試練失敗かよ!?」
既に手元から離れた迷宮のお宝が試練の鍵だったという事を知った琉偉は出鼻を挫かれショックを受ける。
「御安心を!使徒様!私があの後、水晶石は買い戻しましたので。」
「じゃあ、水晶石は今?アテナさんが持ってんの??」
「あの…使徒様…私の事は『アテナ』とお呼び下さい…もしくは『お前』と…」
「『カチャ』……」
「ファーラン……その太刀から手を離すんだ!」
少しづつ地が出始めるアテナをファーランは警戒し、ポコが殺気の制止を求める。
「そ…そうか!助かった!じゃあ、残りはいくつ集めれば良いんだ??」
「この世界には6つ迷宮が各地に点在すると言われています…なので、残りの水晶石は5つです……全ての水晶石を集め『龍の城』に赴くことが『聖龍の試練』の全容です。」
「…『あると言われている』って事は、全部の迷宮の場所は分かってないんだな?」
「…聡明なお方ですね…その通りです。私が把握している迷宮は、まずラウル王国『黄昏の迷宮』そして此処より東に位置するベラルーマ王国『沈黙の迷宮』そして、大陸から南に位置する外海の孤島、オーガル島『殺戮の迷宮』そして魔族が支配する国、レウス魔神国『始まりの迷宮』となっております。」
「じゃあ、後二カ所は場所も分かってないのか?」
「はい…残念ですが、私の知るところにはありません。」
アテナは申し訳なさそうに瞳を落とす。
「いや…悪い!充分に目的も分かったし、何より水晶石を買い取ってくれてた事にマジで感謝だ!ありがとうアテナ!」
「使徒様…私は、その言葉だけで心が疼き、締め付けられてしまいます…」
(こ…この上目づかいは……耐えろ!耐えろ!内藤琉偉!お前はまた昨日の混沌と修羅場を繰り返すのか??耐えるんだ!!オレ!!)
琉偉の感謝の言葉にアテナは緋色の瞳を揺らし、大きな胸元に手を当て頬を染めあげた上目づかいを繰り出し、それに対し、アホの極み中の琉偉は、己の中で葛藤する。
「ルイ様…そのようなお優しい言葉は…くっ…し…仕方ありませんか…」
ファーランは琉偉の優しい言葉に嫉妬して口を挟むが、『聖金貨20枚』の値が付いた物を琉偉の為に買い取った、目の前の恋敵に少しの共感を得て言葉を止めた。
「なぁ?アテナ…ちゃんと俺が買い取るから払った金額を教えてくれないか?」
「えっ?…ルイ!どうするのぉ!?オイラの金貨を合わしても宴と宿代で聖金貨一枚分足りないよぉ…?」
「ポコォ!なんで俺の試練でポコの金を使うんだよ!あれはもうポコのもんだ!分かったな!?」
「でも…どうするんだよぉ!」
「ポコ…忘れてんのか?『俺の鞄に?』」
「……不可能の文字はない!!!」
「そーだ!その通り!!」
「ふふっ…素敵です!」
3人の息はピッタリだった。
「勘違いをしないでください…使徒様…水晶石収集は聖龍の巫女の一族の務め!私達は使徒様に仕えるための一族で御座います。」
「それって…」
琉偉は真剣な表情でアテナを見つめる。
「私は、聖龍様のお告げでこの黄昏の迷宮に来ていました…お告げの内容は…「今世紀最大のアホをそっちに使わせる…適当に手を貸してやれ…」です。」
「ぷっ!あははは」
真面目な流れから思わぬお告げの内容を聞いたポコが耐えきれず笑い出す。
「おい!!お告げの内容が全体的に失礼だろ!!なんだよ!『今世紀最大のアホ』って…ぜってーあのクソトカゲだろ!そして、お告げ自体が雑だよ!!もっと神聖な感じを出せ!!ブラック企業の社内メールか!真面目な顔して損したわ!クソ!…笑うな!ポコぉ!!」
「…これでは当分の間、私達の旅と迷宮の探索が続きますね…」
先の長そうな話にファーランだけは少し安堵を覚え、そして嬉しさでニヤける顔を必死に制御した。




