『洞窟』と『トカゲ』
ルイは悪友を呼ぶ〜アウトローズ〜
麻倉 虎徹
「…え…?ん?……ここ…どこだ?」
仄暗く、湿気がまとわりついて気持ち悪いと感じられる場所に水滴の滴る音が響く。
そこにはいつもの寝起きとは違がう感覚で睡眠から覚醒した男が声を発した。
この物語の主人公。
名を内藤 琉偉【18歳】
黒髪に短髪、両目は真っ黒の何処にでも居る典型的な日本人。
顔は世間の評価では中の上、目つきと態度が悪かった。
言うなれば…繁華街に居るチンピラのにーちゃんだった。
(…えっと…落ち着け俺!…俺…昨日、家で寝たよな?スロットで負けてふて寝したよな?ってか…クッソさみーな…)
琉偉は平べったい冷たい石の上に短パンに長袖のシャツ1枚と言う格好で胡座をかいて座りながら考える。
「あぁ…マジ寒みぃ…本当ココどこだよ??」
動揺し、それを隠すように現状把握に徹する。
(俺の知ってる場所で、こんなトコは来たことない…ヤベー…知らねーあいだに訳の分からない場所に拉致られたか??)
普通の生活をしている一般人ならそのような事は思いもしないが、内藤 琉偉は反社会的勢力、不良だった。
「………いや…待て…俺みたいな新人を攫ってなんの意味があんだ?…ってか今、夏だよな?……意味わかんねぇ…」
不安と寒さで思考が混乱する中辺りを見渡す琉偉は暗闇に慣れ始めた目を凝らし薄っすら見えてきた。
「…あーーー……声が響くし、室内?いや…どっかの洞窟か?そんなん地元の近くには無かったよな?」
どこかの遠い山の中の洞穴に連れてこられたと推測し思考する琉偉。
(財布も携帯も何もないよな?ん〜っ……やっぱり攫われて山に捨てられたんだな…でも、どこも痛くねーしなぁ…腫れたり…服すら汚れてねぇ…おかしいよな?)
琉偉は自分の顔と身体を触り痛覚と傷の有無を確認した。
「攫って置き去りとか…いったい何がしてぇーんだよクソっ!!」
元々温厚とはかけ離れた性格の琉偉は湧き上がる復讐心にフツフツと火をつけ独り言多く、その場を立ち上がった。
「まぁ…とりあえず、脱出するか!」
そう言って琉偉は徐々に暗闇に慣れた目を使い手探りと、時折感じる外の冷気を頼りに出口を目指した。
琉偉は数十メートル進み、ようやく微かな光が見えた
、そして徐々に明るくなり光輝く出口に導かれた琉偉は手で光を遮りながら外の景色を眺める…そして…瞬き一つせずにゆっくりと、ゆっくりと思考は停止した…。
見渡す限りにだだっ広い荒野の日差しを受け、只一人呆然と立ち尽くしていた。
「いやいやいや……は?……???コレって現実か?夢?ってかココ日本じゃねーだろ!!」
琉偉は突如襲われる得体の知れない恐怖に心は乱る。
「…ヤバイ…落ち着けッ!落ち着けッ!落ち着けッッ!」
琉偉は思考停止状態を逸早く解除し、最大に脳をフル回転させ、精一杯精神が恐怖に浸食されないように自分を落ち着かせようとした。
「マジで全然訳わかんねーよ!拉致られて荒野ってなんだよ!!コレ人の仕業か?ここどこだよ!マジで誰かいねーのかよ!!!」
琉偉は大声で叫んだ。
動揺と緊張でうっすら目に涙をためて。
その時、聞こえた。
「クスッ…クスクス…男の子なのに泣いてるょー」
「ほんとうだ!小さい子みたいに叫んでるよぉー」
どこからか声が聞こえてくる。
琉偉にはそれは天から降り注ぐ声に聴こえた。
琉偉は初めて自分の以外の声を目覚めてから耳にした。
それは子供の様な甲高い声だった。
男の子と女の子の声だ。
「…お…おい!!誰かいるのか?…誰だ!近くにいるならココがどこで俺に何があったか教えてくれ!!っーかお前らは誰なんだよ!!」
姿が見えない謎の声に琉偉は緊張と動揺で声を荒げた。
「フフフっ…今度はプンプン怒ってるよぉー」
「言葉も汚いバカ丸出しの人間が怒ってるよぉ」
琉偉を小馬鹿にするように甲高い声は響いた。
「…いいから…マジでココがどこだか説明しろぉ!クソガキの悪戯だったらマジでキレるぞ!!…出て来い!俺はガキだろうが本気で泣かすぞ!」
琉偉の大人気ない脅しが空に消えていく。
「…さっきまで、ワンワン泣いてた人間がよく言うよ」
「ほんとほんと!「誰でもいいからー」とか言ってたよね?」
何処からか聞こえる声は何故か琉偉を見下し、侮辱するように続けられた。
「…いや…泣いてねーから!!そんな言い方してねーよ…ったく…わかったよ!怒んないからマジで出て来てくれよ!…頼むよ!」
己の状況と立場を把握をしたい琉偉はイラつきながらも困ったように謎の声に告げた。
「そうそう!そうだよ!最初からその態度なら教えてあげても良かったのに!」
「そうそう!」
ふざける様な声を放って子供の声の『2匹』が岩陰から姿を見せた。
それはつぶらで感情の読み取れない瞳を向ける小さい…小さい…トカゲに似た爬虫類の様な生物だった。
「…はぁ?……なんだ…やっぱり夢か!ってか…こんなリアルな夢なんかあるんだな…薄々夢なんじゃねーかなって思ってたんだよ…」
あり得ない現実に少しだけ琉偉は冷静さを取り戻した。
「ははっ…流石にトカゲが言葉を話す現実を、現実と受け入れる程バカでは無くて助かったぜ!」
目の前の事に頭がついていけない琉偉は、よく分からないポジティプさを発揮し、現実ではあり得ない…夢だと確定付けた。
「あのさー…せっかくココがどこか教えてあげよーかと思ったのになんなの…その態度?無礼にも程があるんじゃない?」
「そーよ!そーよぉ!メルがせっかく親切におしえてあげようとしてたのに」
2匹の爬虫類はむすっとした声で琉偉を見上げて不満を口にした。
「いや…悪りぃ…大丈夫だ!夢の中の状況説明程に無意味な事なんかねーよ!」
妙に余裕を出し始めた琉偉がもう一度周りを見渡しトカゲを見ずに投げやりな口調で答えた。
「外はさみーから洞穴戻って寝るわ!こんな訳の分かんない夢はもう沢山だ!わりーけどトカゲの話をまともに聞くほどメルヘンじゃねーよ!じゃーな不思議生物共…」
琉偉は2匹のトカゲを視界にも入れず手をヒラヒラさせながら洞穴の中に戻ろうと歩き出した。
「ったく…普段の疲れが溜ってんのか?恥ずかしくて誰にも話せねーよこんな夢…っーかどうやったら目が覚めんだ?まっ!寝れば平気か?」
琉偉はため息混じりに自分が横になっていた場所に戻ろうとしたその時。
『ガブッ…』
「痛っ!!」
『ズキン!!』っと右足の神経が直接針で刺されたかのような感覚に倒れこむ。
「痛ってぇーーー!!クソ!なんだよ!!」
琉偉が苦痛に絶叫し怒声を発する。
「………はっはぁーんッ!僕らの親切を踏みにじった行為は罰に値する!」
小さい爬虫類の1匹が素早く元の位置に戻り琉偉に言い放つ。
琉偉の右足首にはトカゲに噛み付いた跡がくっきり残っていた。
「聖龍の導きを軽んじた自分のバカさを呪うんだね!人間!…だけど……何も知らないバカを殺す程僕達はキツイ性格はしていないのさ」
「メルやさしぃ…」
「そうさぁ!ラスティー、僕は世界一慈愛と優しさに溢れる小粋な『ドラゴン』なのさ!」
「メルかっこいい…」
2匹のイチャつきだすトカゲを見やり、右足の痛みに耐えながら睨つける琉偉。
「クッソ!!てめーら…いい加減に…」
『ザクッ…』
琉偉の足元にどこからともなく現れた一本の白い短剣が突き刺さり琉偉の言葉はそこで断ち切られる。
「もういいよ…人間…下等で稚拙なお前には試練を与える!」
メルと呼ばれたトカゲは岩の上に登り、偉そうに琉偉を見下し口調を変え、声を響かせる。
その時、琉偉は金縛の様な感覚に支配された。
「一度しか言わないからちゃんと記憶しろ…お前のステータスに『聖龍の使徒』という隠し称号をつけてやる…これからお前はまた飛ばされるが目覚めた先で『アテナ』を頼り『試練』を果たせ!」
夢か現実か分からぬまま琉偉は金縛りに遭い言葉一つ発せられぬまま『アテナ』と『試練』の2つの単語を頭の中に残して意識が薄れていく。
そして空間に亀裂が走り金色の魔法陣の様な模様が現れる。
琉偉は意識が途絶、そこに吸い込まれた。
「ねぇメル…?あんな人間で本当に平気なの??」
ラスティーはメルに不安そうに問う。
「…さぁね!僕はジジ様に言われた通りやっただけさ
…とにかく…今は様子を見よう。」
メルは甲高かった声を少し落とし、何かを考えるようにラスティーを見る。
「うん…でも、あの人間すごくバカそうだったよぉ?」
「うん…同感…」
げんなりとした声でメルはため息をついた。
「…でも…僕が噛み付いた時、一瞬で僕のマナを半分以上持ってかれたって事はそうなんだろうね…」
「えっ?半分???うそでしょ…メル?」
最後にラスティーは震える声で呟やいた。
「ん………はっ!」
意識を取り戻した琉偉は木目の天井を見上げていた。
(??家じゃない…また…知らない所だ…)
バッサっと掛けられていた毛布をはぎ、周りを見渡す。
「さっきのはやっぱり…夢だったのか??…!!?いや……あれは現実だった…」
トカゲに噛まれた足首から少し出血し疼き、それを見て思い出し確信する。
そして、今度は知らない部屋のベッドに寝かされていた。
小綺麗な山小屋風な部屋だった。
備え付けの暖炉の火がパチパチと音を立てている。
やはり、今回も夢では無さそうだと琉偉は考える。
気持ちを落ち着かせ気を失う前を思い出す。
「あのクソッタレトカゲが最後に『アテナ』とか『試練』とか言ってたな?マジで意味がわからない…それにここは…」
琉偉はベットから立ち上がり周りを確認しながら、本日2度目の現状把握しようと動き出す。
(ここは家の中?だな…普通の人間の家だよな?また喋る爬虫類系の奴の家か?)
と、そこへ…足音が聞こえ部屋の扉が開く。
琉偉は緊張し、警戒を高める。
『ガチャ』
琉偉の居る部屋の扉が開く。
「お…お目覚めになられましたか?お身体の方は平気ですか?」
琉偉は一瞬にして安堵した。
琉偉はこの状況になって初めて『人間』と顔を合わせたからである。
扉を開けて声を発したのは日本人の顔の作りでは無かった。
鼻が高く、金髪の北欧系の綺麗な金色の眼で見つめてくる琉偉と同じか少し年上の美人の女性だった。
「あの、ここってどこ??ってか…今…日本語…喋ったよね?」
あまりの安堵に目をパチクリさせながら金髪女性に声を発する。
「ニホンゴ?ですか?……少し混乱されてる様ですね!ここはラウル王国のパーレンの町外れにある宿屋で御座います。」
女性は『日本語』と言う単語に首を傾げ、現在の状況を優しくゆっくりと教えてくれた。
「貴方は、この宿の前に行き倒れていましたのでこちらに運ばさせていただきました。」
(どうやら、この女に救われたみたいだな……だけど…やっぱりラウル王国なんて国…聞いた事ねぇ…)
琉偉は心の中で聞き慣れない国名に少し動揺した。
「今朝宿を出たら貴方が前の道に倒れていたので、驚きました…森の魔物にでも襲われたのですか?」
「??まもの?って…魔物だよな?人を襲う系の奴か??」
琉偉は親切に事の成り行きを教えてくれる女性の金色の眼を見つめ再度問う。
「ふふっ……あっ…申し訳ありません…面白い事を言いますね…まず、お互いに自己紹介しませんか??」
ぱぁっと笑いながら金髪の女は口に手を当て、笑みと笑い声を溢しながら琉偉に提案をする。
「あっ…そうだよな!…ごめんごめん!俺は内藤 琉偉18歳で日本生まれの日本人だ!琉偉って呼んでくれよ!遅くなって悪いけど助けてもらってありがとう…マジで感謝してるよ!」
琉偉は女性の笑顔に心を掴まれ、隠す事なく自己紹介し感謝を告げた。
「ニホン?ですか…?やはり…他国の貴族様でしたか…私はこの宿で……住み込みで働かせてもらっている名を『ファーラン』と申します」
ファーランと名乗る女性は笑みを絶やさずそれでいてお淑やかに琉偉に自己紹介をした。
(おお!ヤバイ!北欧美人の笑顔にハマりそうだ…って呑気に考えてんじゃねー俺!!)
情報収集に徹しようと必死にファーランの笑顔と戦う琉偉。
「あ…あのさ、ファーラン…さん?」
「ファーランで構いませんよ…ルイ様?」
ファーランは琉偉を見て金色の瞳を更に輝かせた。
「いや…俺の方が様付けとか要らねぇーよ!そんな大層な人間じゃないしな!」
「いえいえ…隠さなくてもいいですよ?ルイ様が倒れてる近くに…そちらの短剣が落ちていました…私は国や文化には少し疎いのですが…武具にはいくらか、それなりの目利きが出来ます。」
ファーランはベットの横の机に置いてある白い短剣を手にして言った。
「この短剣は聖龍様の加護を寄与されている宝剣ですよね?」
「えっ?…か…かご?宝剣?え?」
ファーランの口から出る言葉を理解出来ぬまま狼狽えた琉偉にファーランの言葉は続く。
「はい…この様な代物を持つ高貴な方を呼び捨てにしては不敬罪で打ち首です」
ファーランは美しい花の様な笑顔でそう言った。
琉偉は頭の中で思考する…
(えっと…気づいたら…クソ寒い洞窟…言葉を喋る爬虫類…瞬間移動した先の日本語ペラペラな北欧系美人…不敬罪で打ち首…それに…なんとかの加護の武器…これって…)
ゆっくりファーランの話を聞き琉偉はある1つの答えを見つけ出す。
「あれ??俺って違う世界にいる感じ?」
…『いやいや気づくのメチャメチャ遅くない??』世界の声が木霊する…
それは…ここから始まる物語…
アホの異世界冒険譚始まり…はじまり。
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初めまして、麻倉です。
初作となります。
誤字脱字があるかも知れませんが一生懸命頑張ります。
暖かい心で見守ってください。
これからよろしくお願い致します。