鬼に救われた少年
雨が強く降る夜、少年は街から森を抜けたところにある家へ帰ろうとしていた。
もう少しで森を抜けようかというところで少年は1人の少女に出会った。
こんな暗いところに1人でいるのを不思議に思った少年は声を掛けた。
「どうしたの?」
その声に反応して少女の肩がビクッと跳ねた。しゃがんでいたその少女はゆっくりと少年の方を向いた。
その時、雷が落ちて森の中が少し明るくなった。雷の光に少女の顔が照らされた。
少女の頭には小さな角が2つ生えていた。
「人間じゃない、、、、?」
少年は驚いた。けれど、思い切ってもう一度声を掛けてみた。
「家に帰らないの?」
変な質問だったかもしれないと少年は思った。
「あ、、ぅあ、、、、」
少女は怯えたように声を出した。少年の質問に答えるというよりは、口から音が出ただけと言う方が正しかった。
少女は服の裾を強く握って震えていた。少女の腕にはいくつも切り傷や痣があった。
『バケモノめ!』
『こっちに来るな!』
『出ていけ!!』
『い、、ぁ、、、、!ぅ、あ、、!』
少年は少女の腕の傷から目を離せなかった。
少女がどうして怪我しているのか何となく分かった。
少年は足を1歩踏み出した。
少女は何をされるのか怖くて目をぎゅっと閉じていた。
ポン
少女の頭の上に少年の手が置かれた。
予想外のことにびっくりした少女は目を見開いて少年の顔を見た。
少年は優しい笑顔をしていた。
「とりあえず、うちに来なよ」
少年はそう言うと、自分の家に向かって歩き出した。
少女はその少し後ろから少年を追いかけた。
家に帰ると、少年は買ってきた野菜を使って2人分のシチューを作った。1つは自分に。もう1つは少女のために。
少年は家の入口に立っている少女を椅子に座らせてあげた。
少女の前にシチューを置いてあげた少年は、少女の向かい側の席に座った。
「食べていいよ」
伏し目がちな少女にそう言ってあげたのと少女のお腹が鳴ったのは同時だった。
少女はスプーンを手に取ってシチューを1口啜ってみた。
「ぁ、、、、、、」
少女の瞳が揺らいだ。
「もし、君が帰るところが無いのなら、ここにずっと住むといいよ」
少年はまた優しく笑った。
少女は大粒の涙を流しながら2口、3口とシチューを口に運び続けた。
少年は鬼の少女に色々なことを教えてあげた。
少女にシチューを作ってあげたとき。
「ぅ、、、、」
「美味しいかい?」
「お、い、いい、、、、?」
「好きなもののことを美味しいって言うんだよ」
家の近くを散歩したとき。
「森の中には入っちゃダメだよ」
「なんで、、?」
「森にはコワイ生き物がいたり危ないところがあって危険なんだ」
「わかった、、」
少女の髪を切ってあげたとき。
「わたしおにいちゃんがおいしい!」
「それはちょっと違うよ」
「でも、すきなものを"おいしい"っていうんでしょ?」
「それはそうなんだけどね、、」
少年が鬼の少女と一緒に暮らし始めてから色々なことがあった。
少女が言葉を話せるようになったこと。
少女が川に溺れて少年が慌てて川に飛び込んだこと。
家の前の丘が綺麗な花でいっぱいになったのを一緒に見たこと。
1度、少年が昼寝をしている間に少女が居なくなったことがあった。それに気付いた少年は日が暮れるまで探し続けた。
そして、夜になってやっと少女を見つけたときには少女の身体はいつかのように傷だらけだった。
「どこに行ってたの!」
少年は珍しく少女のことを怒った。
「、、、、街に買い物しに行ってたの」
少女は俯きながらそう答えた。
「何で、そんなこと、、、、!」
少年がそう言いかけたとき、少女が握っていた手を開いて少年に見せた。
「これ、いつも迷惑とか掛けてたから、、、、。お礼がしたくて」
少女の手のひらには小さなキーホルダーが収まっていた。
少年は言葉が出なかった。
「、、、、ありがとう」
やっと、一言だけ絞り出せた言葉だった。
「でも、今度から街に行くときは1人ではダメだよ」
「分かった」
少女が頷くと、少年は笑った。
「じゃあ、帰ろう」
少年と少女は手を繋いで家に帰った。
そんな毎日を何回も過ごした。春を過ぎて夏が来て、夏が過ぎて秋が来た。冬を越して何度も春を迎えた。
そして、少女が綺麗な娘になって、少年がおじいさんになった頃
少女の頭に付いていた角が取れた。
「君はもうここにいる必要は無いんだ。どこにだって1人で行けるんだよ」
少年だった彼は少女に語りかけた。
「嫌、、。私はずっとあなたと一緒にいたい。1人は嫌だよ」
少女は首を振った。
「君はもう川に溺れることはない。森でうずくまっている必要も無い。街で石を投げられることもないんだ」
「でも、、、、!」
「ほら、見てごらん。今年も綺麗に咲いている」
少年は窓の外を眺めた。窓の外は綺麗な黄色い花が一面に咲いていた。
「あの花で君が冠を作ってくれたことがあったよね。あのときは幸せだったなぁ、、、、。ううん、そのときだけじゃない。1人で無茶をしてこれを買ってきてくれた時もそうだよ」
少年は手に持っていた小さなキーホルダーを優しく包み込んだ。
「今は、、、、今は、どう?」
少年は笑顔で答えた。
「もちろん、今も幸せだよ。君には感謝してもしきれないくらいの温かさをもらった。あの日、あの場所で君に出会えて僕は嬉しかったよ」
少女はボロボロと涙を流していた。隠すこともなく、ただ流し続けていた。
「さぁ、もうお行き。僕は少し昼寝をさせてもらうよ。今ならいい夢が見られそうなんだ」
少女は少年の手を握った。少年の手は少しひんやりとして気持ちよかった。
「きっと、、、、帰ってきます、、、、、、だから、、、、」
「うん、そしたらそのときは今日あったことを聞かせておくれ」
少年はゆっくりと目を閉じた。
「おやすみ。愛しているよ」
「おやすみ、、なさい、、、、」
「わたしも、、、、あなたが、おいしいです、、」
少年は優しく笑った。
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