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双対への兆し



第六話 双対への兆し



あれから数日が過ぎた。

高熱も冷め、怪我の容態も歩けるまで回復した火鷹は制服の袖を通し、今日が久々の登校となる。

机の上には使い魔のフラルが行儀良く座り、今でも心配げな表情を浮かべている。だが、対する火鷹は優しげな表情でそんな子狐の頭を撫でた。

そして、いつものように肩にフラルを乗せながら、少年は寮の私室から足を踏み出す。



◆ ◆ ◆



いつもと変わらない素振りで、魔法部に顔を出す雪先。

だが、そんな彼女が見つめる先で、ルトワはどこかいつもと違う雰囲気を漂わせていた。

機嫌が悪いといった、分類ではない。

それはどこか固く、部活動でいつもやっている魔法の練習に、熱が籠っている。そう感じられる雰囲気があった。

声は普段通り。だが、その心の中が分からない。


そして、ルトワを見つめ中で雪先は思い出してしまう。

数日前に聞かされた、魔法部が魔術連生徒会に狙われているという話を…。


「………る」

「?」

「………うんん、何でもない」


声を掛けたくても、掛ける言葉が思いつかない。

あの話について、雪先は聞けなかった。ルトワ自身が語らないその話を仮に口にしてしまえば、この今までの関係が壊れてしまうのではないか?

そう思ってならなかったから……。



◆ ◆ ◆



怪我で休んでいた火鷹が学園に登校してきたという情報が、妼峰の耳に届いた。

募る思いに揺り動かされる中、四時間目の授業を終えた彼女は直ぐさま教室を飛び出し、ある場所へと走り出す。

直ぐにでも駆け寄り、そして、声を掛けたい。

その気持ちでもう胸が一杯だった。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ!!」



その、……はずだった。


「…………………」


昼休みの屋上へと繋がる扉の前で、ドアノブに触れようとしていた妼峰の手が止まる。

ルトワには励まされ、火鷹がそんなことを言わないと言ってもらえた。

だけど、不安はそれだけじゃなかった。


(もし、また会えば……焔月くんはどうなるの? また同級生の男性生徒たちに囲まれて………また襲われるかもしれない。…私と話をしていた、そのことだけで…っ)


心の騒つきが胸を苦しめる。

その時、扉の向こう側から薄らと人影が近づいてくることに妼峰は気づいた。

そして、咄嗟のことに驚いて逃げてしまった。




屋上の階段を駆け下り、一階の廊下まで逃げてしまった。

足を止めた妼峰は、震える手を胸の前で強く握り締める。そんな中で彼女は無意識に呟いてしまう。


「………会えるわけが…ない」


火鷹から逃げてしまった。

励ましてもらって、直ぐ側にまで行けた、なのに…何も言えなかった。

目をつぶり、涙を溢す妼峰。だが、この時彼女はあることに気づいていなかった。

今日に限ってポケットに入れていた、いつもはしっかりと直しているはずの蓋付きペンダントを屋上へと繋がる階段に落としてしまったことに…。


そして、そんな彼女の後をつけていた、数人の男達のことに………。



◆ ◆ ◆



雪先の様子が、いつも何か違う。

そう感じていたのは雪先だけではなかった。ルトワもまた同じように彼女のいつもと違う雰囲気に気づきつつも、思うように声を掛けれなかった。

そうして時間は過ぎてしまい、夕方という時刻になってしまった。

そして、同時についにその日と時間が来てしまった。


生徒会役員との一騎打ち、それが今日なのだ。

その場所は校舎から少し離れた森の奥、先生や生徒達の目が届かない秘密の闘技場だ。


「……………」


雪先は、何か用事があると言って今、魔法部の教室にはいない。だが、ルトワにとっては好それは都合で在り、また彼女に知られなくてよかった、とその時だけは思ってしまう。

緊張が体を強ばらせる中、小さな手を強く握り締めながら心を落ち着かせる。

魔法連生徒会はこの学園のトップともいえる強敵だ。その誰もが魔術という強力な力を持っている。

並の生徒では、太刀打ちすること自体無謀と言っても良い。

だが、


(魔法なら……)


ルトワには、魔術とは違う、古から伝わる魔法の力がある。

それが唯一の手段の一つだった。

だがしかし、その一つにもまた大きな問題がある。それは、ルトワが使う魔法の種類が攻ではなく守を得意とするものだと言う事だ。

例え魔術よりも優れていたとしても、攻撃が出来ない魔法に勝ち目はない。どう考えても、勝機はゼロに等しかった。

ただ、それでも、


(負けたくない。………絶対に…っ)


今まで一人だった魔法部。

このまま、ずっと一人で部活をしていくんだろう…と、そう思っていた。

だが、今は違う。

そんな寂しさを和らげてくれる、彼女が…………雪先沙織がいる。

負けられない。


絶対に、この部活やこの幸せを、私が守る!


心を強く持ち、ルトワは教室を出て行く。

魔法部の存続を掛けた決戦の場所へと、一人で歩き出していく。

そして、それこそが本当の始まりだった。

二人の主人公が、逸脱者へとなっていくための物語が動き出す――――――。



◆◆ ◆



全ての授業が終わった中、火鷹は一人廊下を歩いていた。

本当なら直ぐに下校して寮に帰っている頃なのだが、そんな彼の手には小さなペンダントがあり、それが妼峰の物であることを知っていた。

それは以前に、屋上で彼女が大切そうに持っていたのを見ていたからだ。


「………………」


本当なら、彼女とは会わずにいようと思っていた。

彼女を責めているわけではなく、自身の立場を今一度自覚しているからこその考えだった。

だが、大切にしていた物をこのまま返さないのも悪いと思い、仮に教室にいなければ、同じクラスの女友達にでも渡そうと、そう思って妼峰のクラスがある階までやって来た。

そして、妼姫のクラスに着こうとした。

その時だった。


「?」


何があったのかはわからない。

だが、何故か彼女の教室から騒がしい声が聞こえてくる。

何気なく気になった火鷹は足を少し早め、教室の入り口から顔を覗かせた。

そこで火鷹の耳に、その言葉が聞こえて来た。


「おい、妼峰どこにもいないぞ!」

「どうなってんだよ、先生たちも見つけられないって言ってるし、それに生徒会もいないんだよ!」

「先生も大勢で探してるのに、なんで…っ」


一体何が起きているのか、その時は理解できなかった。呆然としてしまい、同時に思わず手に持っていたペンダントを落としそうになる火鷹。

だが、そんな彼の胸ぐら、突然と真横か掴み上げられ、そのまま廊下の壁に向かって、体を叩きつけられた。

痛みが響く中、顔を歪ませる火鷹。

揺らいだ視線を前に向けると、そこには―――――



「おい、お前。妼峰さんをどこにやったんだよ?」



数日前、火鷹を集団で襲った男達。

その中の一人だった男子生徒がいた。口元を歪めるその男は、まるで皆に聞かせるように、その言葉を大きな声で言う。

教室にいた妼峰のクラスメイトたちが廊下に出て来るのを横目で確かめ、さらに男は言葉を続ける。


「お前があの人のストーカーをしてたってことは、もう知ってんだぜ?」

「ッ、何いっ!」

「じゃあ、その手にあるのは何だ? あん?」


それは屋上へと繋がる階段で見つけた妼峰のペンダントだ。

妼姫が持っていたことは、皆が知らなくても、彼女の友人なら知っているだろう。男の言葉に信憑性が高まり、次第に廊下に出てきた妼峰のクラスメイトたちの目が、鋭い物へと変化していく。

もう一押しか…、と内心でそう確信した男は顔を動かし、そのペンダントを取れと促す。


「さぁ、どう落とし前をつけてくれるんだぁ? なぁ、卑怯者…」

「ッ…」


火鷹の意志を無視して、取られたペンダントは彼女の友人である一人の女子生徒の手に渡される。

そして、そのペンダントが本当に妼峰のものであるのかを確かめる為に、蓋が開けられ、中身が確かめられる。


「これから教師どもを呼んで、きっちり取り調べられるだろうな。いや、それよりも先に俺たちの質問に答えてもらってからか?」


この流れではもう何を言っても遅すぎる。

男の言葉によって偽られた真実は変えられず、側にいるフラルが必死に鳴き声を出そうとも、何も変わらない。

無慈悲なまでの現実に火鷹が歯を噛みしめ、ただ耐えるしか出来なかった。

このまま犯人にされて、妼峰の居場所も掴めないままになる。

胸の内からくる、悔しさに、ただ自身の無力さを思うしか…………、




「貴方、妼峰さんと知り合いなの?」




え…、と。

その時。誰もがその言葉に体を硬直させた。

火鷹を責める男が目を見開く中、ペンダントを持つ女子生徒はその中身を彼らに見せる。

ペンダントに秘められていたもの。

そこに入れられていたものは………、



「……ぁ」



丸く切り取られた。一枚の写真だった。

幼少のものらしいその写真には、小さな妼峰と親らしい夫婦が笑いながら写っていた。そして、そんな彼女の隣にいたのは、今とはうって変わった無邪気な笑顔を浮かばせる火鷹の姿だった。その後ろにいるのは、彼の父―――焔月鮮平が写っていた。

二人の両親と少年と少女。

仲良く写ったその写真を見た直後、忘れていた火鷹の記憶が鮮明に蘇る。




◇ ◇ ◇



それは、数年前の小学生に上がった頃。

仕事の都合上で離ればなれにならなければならない、その当日の事だった。


『それじゃあな』

『……うん…』

『…はぁー……ほら、もう泣くなよ。これから先、会えなくなるわけじゃないんだから』

『ぐずッ……えぐ…』

『…………よし。だったら、やくそくをしようぜ』

『っず……ゃ、やくそく?』

『ああ。いつになるかわからないけど、俺たちはまた出会う。その約束だ』

『…う』

『それとも、約束は嫌か?』

『ううん! 約束する!!』

『………ならよし。それじゃあ約束だ』

『うん! やくそくだよ。ぜったい…ぜったいに、また会おうね!』



◇ ◇ ◇



その場が静寂に包まれる中、男は震えた声で女子生徒に怒鳴り声を上げる。


「そっ! そんなの嘘に決まってんだろうがッ!! それはコイツが嘘をつくために作ったんだ、だからッ!」

「…ははっ………、最低だな。本当に…」

「アンん?」


火鷹の呟きを自分に言われたと勘違いした男は火鷹を睨み、その顔を殴り掛かろうとする。だが、その行動に異論を抱いた男子たち、直ぐさまその動きを止めに掛かってきた。

形勢が逆転したように、皆の視線が男に向けられる。

そんな中で、妼峰のクラスメイトのうち、一人の女子生徒が弱々しい声を出して、


「ね…ねぇ、それぐらいにしなよ…。それに、調べるんだったら……その、生徒会に」

「それじゃあ、遅いって言ってんだよッ!! ッ離せよ!! 生徒会は今、魔法部を潰しに行ってんだからっ」


と、その次の瞬間だった。





「今………何て言ったの…」





男の言葉に対し、そう言う者がいた。

廊下の騒ぎを聞きつけ、やって来た一人の少女がいた。

そこには―――――――――魔法部に所属する、雪先沙織が立っていた。


焔月火鷹と雪先沙織。

それは、何の前触れもない――――双対の兆しともいえる出会いだった。





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