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 遅くまで仕事をして、すっかり日が落ちてしまった。

 私は、パチン、とパソコン室の電気をつける。

 室内を見回していると、コツコツと窓を叩く音がした。

 窓辺には、ひばりと鳩がならんでいた。


「先生おつかれさま。消しゴムも持ってきてもらったよ」


 鳥たちを迎え入れるが、鳩は消しゴムを置いて去ってしまった。

 残された消しゴムを取り上げ、私は窓をしめる。

 ひばりは器用に、一台のパソコンとモニターを起動させていた。


「先生にも、実際に見てもらったほうが早いかなと思って」

「なんだ、やっぱりサイトがあったのか?」

「ううん。でも、秘密基地ならみつけた」

「秘密基地?」

「先生が持ってる消しゴムに、答えが隠されてるよ」


 私は、手元の消しゴムを見る。


「前に見たときより、いたずらが増えているな」


 いたずらといっても『お尻のほうにシャープペンの芯が埋め込まれている』というものなので、鳩がやったのではないだろう。

 これが答えだと言われても、さっぱりわからない。

 コンコン。

 窓に、さっき飛び立っていた鳩が戻ってきていた。

 なにやら、新しいものを持ってきている。

 窓を開けると、鳩も中へと入ってきた。


「ありがと」


 ひばりは鳩に礼を言う。

 モニターの前に鳥が二羽並んで、私を待っていた。


「なにを持ってきたんだ?」

「カードリーダーだよ。先生、これをUSBに差してくれない?」


 たしかに鳩が持ってきたのは、マイクロSDカードを読み取るための、小型のカードリーダーだった。


「先生、消しゴムのシースを外してくれない?」


 ひばりに言われるがまま、私は消しゴムのシースを外す。

 傷だらけの身があらわになった。


「ふむ……あ、なるほど」


 そういうことだったのか。


「これ、消しゴムのなかに、SDカードが入ってるんだな?」


 言いながらいじってみるが、消しゴムが裂けそうになるだけだった。


「取れないんだが……」

「ぼくも最初はまちがってたのかなと思って驚いたけれど、ほら、消しゴムに刺さってる芯を抜いてみて。すると、作りもわかるはずだから」

「ん? わかった」


 言われるままに、消しゴムの尻に刺さっているシャープペンの芯を引き抜きにかかる。

 刺さっている芯は二本あった。そのうちの一つは深爪の私にはむずかしかったので、鳩のクチバシに手伝ってもらった。

 すると、消しゴムの身がぐいっとずれた。


「なるほど……」


 指で押し込むと、消しゴムの中心が抜けるようになっている。

「そうやって抜いたとき、本体側に少し裂けた跡が見えるよね」

「ああ。カッターの切れ込みが広がって、土台が裂けてるみたいだ」

「それを気にして、健人くんたちは真ん中を指先でつまんで抜いてたんじゃないかな。だから、片面だけ爪でちぎれちゃってるわけだね」

「ああ。そして人が触っても真ん中がずれないように、『後ろからシャープペンの芯を刺して、鍵にした』わけだな」


 なんとも賢いことである。


「そういえば――私も消しゴムに似たようなことをした覚えがあるよ。そのときは中をくり抜こうとしたんだが、くり抜くというのは案外難しくて、結局諦めたんだがね」


 その点、健人くん謹製の消しゴムは、パーツが三つに分かれている。

 真ん中を四角形に切り抜いて、さらに、その抜いた四角形を横半分に切り分けている。

 わかりやすくいうと、SDカードをサンドイッチにして、元の消しゴムにはめ込んでいるのだ。表面が升目状に切られているのは、消しゴムの切れ目を隠すカモフラージュである。


「そして、これが彼らの秘密基地。のぞいてみるんでしょ?」


 ひばりの足下には、SDカードが置かれている。


「ぼくも、このカードになにが入ってるかまではまだ知らない。心の準備はいい?」

「気も引けるが……確認しておくよ」


 私はSDカードを差し、該当するドライブのフォルダを開く。


「わ……すごい」


 私とひばりは目を見張る。

 モニターにはたくさんの……健人くんの描いた、漫画のファイルが置かれていた。

 私は画面をスクロールして、内容を確かめる。

 ひばりが、ほー、と言った。


「これってどうやら……後輩の中川くんがテキストデータでお話を書いて、健人くんが漫画にしてるみたいだね」

「ああ。二人は作画と原作のコンビだったんだな」


 ――健人くんの、ちいさな秘密基地。


 そのなかには、彼らの思い描いた物語が詰め込まれていたのだった。


 これにて、健人くんの秘密基地事件簿は幕を閉じた。

 消しゴムは校庭に落ちていたことにして、健人くんへと返した。

 健人くんは両手で宝物を抱くように受け取ると、輝く笑顔でお礼を言ってくれたのだった。

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