革命反旗 Ⅱ
帝国内、フォルスベルク地域。山と森林が地域の半数以上を占める場所である。そんな森の中、少し斜面のある場所には反乱軍と思われる者たちが居た。その軍の殆どは平民から集めた民兵ばかりだ。
「……だから、訓練も十分ではないっと」
太鼓のリズムに合わせて行進するも、やはりというか動きがどこか鈍い。そんな彼らを見つつ、ハルが感想をポツリと言う。
「しかも人数もそんなにいないんだよなー。……おい、これ勝てんのか?」
ハルの隣で民兵達の動きを同じく心配そうにギルが眺めていた。
「まぁ、手はある。だからこそこんな森の中を戦場に選んだんだよ」
周りは斜面と木々が生える森だ。そんな場所では平原のように横隊に長く広がる事ができない。帝国軍は数は多い。普通に平原から真正面でやりあえばこちらが負けるのは目に見えているからこの森に彼らはやってきたと言えよう。
「……だからといってあちらが素直に来るかねー」
「指揮を取っているのはヘルフリートの奴なんだろう?」
「はい。私が調べたので間違いありません、ハーロルド様」
瞬時にしてハルの隣にもう一人現れた。その者はシノビ服を身に包んだシキだ。そのシキは先まではハルの事を信用していなかった。だがヴォルケブルク城を一緒に落とした件から彼が本気であると、そして歴代の皇帝とは違うと悟ったのか、今では協力的だ。……しかし、少しでも彼の期待を損ねるようなことをすればハルの首は飛ぶだろう。
そんなシキの言葉にハルは一つ頷いて答える。
「だ、そうだ。なら奴は来る。一刻も早く俺を殺したくてたまらないだろうからな」
「なんでそんな自身があるんだよ?」
「あいつは俺の事が嫌いだからな……」
ヘルフリートは昔から自分の事を嫌っていた。何かある度に兄上は次期皇帝なのですから、次期皇帝がそんなではだらしないなどと言ってきたものだ。
(だけど……それは……)
今思えば、彼が自分を嫌っていた理由がわかる。それは――
考えていたハルの視界に映り込むものがあった。それは斥候に出ていた者たちの姿だ。
「……さぁ、彼らを迎える準備をしようか」
考え事を止めてハルは言う。その言葉にギルとシキは頷いて答えた。
◇◇◇◇◇
細く白い木肌の木が列なる森。葉の間から差し込む光が僅かに差し込む中、少し整備された大きな土道を歩く黒き者達。
「ヘルフリート様、斥候隊が反乱軍の姿を発見したようです」
「そうか、ならば直ちに攻撃を仕掛けよ!」
まだ幼さの残る命令が響く。その声に従うように黒き軍勢――グランツラント正規軍は道を外れ、湿る腐葉土の土を踏みしめた。
森の中ながらマスケットを片手に横隊を組んで前進していく。機械的にきびきびと軽快なリズムを流す太鼓の音に合わせて。
やがて木々の影の向こう側からも同じように横隊を組む軍勢が見えてくる。服装は統一されておらずバラバラだ、そんな彼らが反乱軍である。
数は見て分かる程に少ない。帝国軍が約二万に対して、反乱軍は約六千だ。第一王子の近衛兵団を入れても約一万一千。約九千もの戦力差がある。
「敵など恐れるな! たかが一市民の寄せ集め。我らと同じように銃を手に戦列を組んだとして、まともな訓練をしていない者達に恐れる必要はない。皇帝陛下に楯突く不届き者たちなど、一人も残らず殺してしまえ!」
ヘルフリートの言葉通り、敵の動きは鈍い。時たま列が乱れたりしながらこちらに歩いてくる彼らに帝国側からの一撃は放たれた。白き硝煙が森の緑に混じる中、帝国軍の向かい側に居た者たちが血しぶきを上げて倒れていく。
また銃声が響く。反乱軍の反撃を返され同じように帝国軍側にも被害は出るも、数の差が酷い。帝国軍に取ってすれば些細な被害であった。
そのまま弾を込め終わった帝国軍側が二発目の射撃に入ろうとしたその時――
「構え! 撃――ッ!?」
命令を下す士官の一人の頭が撃ち抜かれた。
「なっ! い、一体何処から!?」
近くに居た下士官が慌てて狙撃位置を探す。そこは帝国軍の側面、その少し遠くに走る人影を見付けた。
「あの、命令は!? 撃たなければ敵がッ――」
人影を見ていた下士官に近くに居た兵士が叫んだが、その叫びは最後まで聞くことは出来なかった。なにせ敵の二発目の攻撃が当たってしまったのだから。
「クソッ……列を乱すな! 今すぐ構えろ!」
下士官が必死に声を荒げて命令を下すも、すでに混乱した兵達が耳をかさない。
そんな中、またしても一発の銃声が響きその銃弾は下士官を捉えたのであった……。
◇◇◇◇◇
「ご報告いたします。敵の猟兵隊と思われる者に我軍の指揮官を殺され、指示をする者が次々と殺されております。それによって我軍の一部が統率不能状態であります!」
「そんなこと言われんでも分かっている!」
兵の報告にヘルフリートは苛ついた怒声を放つ。
「おのれ! 将校を狙うなどとは!」
将校の殆どは貴族である。ゆえに将校は狙わないのは戦場での暗黙のルールだ。だがそれは国同士の戦の場合のみ。貴族が居なければ軍の指揮はなくなり兵士が野放しになる。野放しになった兵士が何をしでかすか分からないから、こうしたことを避けるために指揮官である将校は狙わない。
しかしこの戦、相手は同じ帝国の民。反乱軍である。むしろ野放しになった兵士達があちらに寝返っていそうだ。
「……残った兵を集めろ! これ以上無様にやられる訳には!」
ヘルフリートの指揮のもと、帝国軍は動く。しかし、敵の動きについて行けない。なにせ敵は戦列歩兵を組んで真正面からというのが少ないのだ。ほとんどが少数の部隊で動き、森の茂みに隠れながら攻撃を加えている。対して帝国軍は横隊並んで攻撃をするしか無いが機動性はない。完全にこちらのほうが不利である。
「なんだというんだ! たかが民兵ごときに! あの兄上にこの僕が負けるというのか!?」
「はい、その通りでございます」
「――ッ!?」
聞こえて来た声にヘルフリートは声を出しそうになるも、首元に突き付けられた刀に息が止まる。いつの間に現れたのか黒い衣装の集団にヘルフリートとその周りの兵士達は囲まれていた。
「……さて、貴方様にも少しの知恵はありましょう。我々反乱軍はこれ以上同じ国民同士、争う事は止めたいのです。それを止めるにはこの軍の指揮官である貴方様に降伏をしてもらわねばならない。……しないのであればその命を持ってして止めさせていただきますが……」
「…………降参すればいいんだろう」
無慈悲に告げるシキの言葉に、ヘルフリートは悔しそうに返した。
◇◇◇◇◇
「……終わったかな?」
「のようです、ハーロルド様」
ギルの言葉にハルは疲れたようにため息をついた。
(正直言って反乱軍の民兵には心配していたが……なんとかなったな)
訓練のなっていない民兵たちであったがその愛国心は帝国軍には勝るだろう。絶対はないだろが、裏切りの心配はあまりなくそれ故に猟兵としても動かすことや、散兵による戦術がとれたのだ。
茂る森の先でヘルフリートが降参したため、次々と敵兵つまり帝国軍側が武器を捨て投降していく。
この場での戦闘は終わった。誰もがそう思ったその時――
「大変です! 我が軍の側面より敵部隊が現れました!」
「なんだと!?」
伝令の言葉にハルはそちらの方角を見る。木々の隙間のその先に黒い軍勢が見え隠れしていた。その部隊を率いるは……
「――ヴァルターか」
主戦場を離れ、側面に回り込んでいたヴァルターの部隊がこちらにへと迫りつつあった……。




