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気がついたら悪役王子になっていた。  作者: 彩帆
番外編

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革命反旗 Ⅰ

これより先、番外編です。本編の余韻を残したい方は回れ右をお願いします。

 グランツラント帝国の西、アルムバッハ。この地の北西には山が広がり澄んだ川が流れる場所だ。その地にある一つの村は普段と変わらぬのどかな日常を送って……いるはずだった。


「……さて、諸君。貴様達は皇帝に対して反乱を計画しているんだよな?」


 村の広場にそんな声が響き渡る。その広場には村人全員が集められ、その者たちを囲うようにして兵士達のマスケットの銃口が向けられていた。物々しい雰囲気の中、兵士達が身に纏うのは第一王子の近衛兵団の軍服。


「……な、なぜ……なぜ計画が漏れた……」


 このアルムバッハの領主が目の前に立つ人物を見て狼狽える。この場にいるはずもない、いやそれどころかこんな事をしでかす事がないはずの人物が彼の前にいたのだ。


「……そう怯えるな伯爵。これから話すことは貴様らにとって悪い話ではない」


 伯爵を見つめる赤き瞳を持つ黒髪の人物はニヤリと笑う。


 ――二周間前に突如として消息を断った第一王子、ハーロルド。


 その者がこの一見のどかな村、だが反乱軍の基地となりつつあるこの場所に現れたのであった。




 ◇◇◇◇◇



 これから行われるであろう大国同士の戦争。それを止めるべく皇帝に反旗を翻すこととなったハーロルドことハル。


 だが、あの皇帝を相手取るには人手が足りない。そこで彼はこのアルムバッハへとやってきた。その理由は言わずもがな、彼の味方となりそうな者たちがこの地にいたからである。


 近い将来、皇帝に対して反乱を起こそうとしていた者達が集うこの地に。


「……で、では殿下は我らと共に戦ってくださると?」


 場所を移してここは伯爵宅。深いソファに腰をかけて座る伯爵は信じられないといった様子でハルを見ていた。


「先程からそう言っているだろう。何度言わせればいい。我が父は愚王である。今すぐにその地位から引きずり降ろさねばまた戦争を始めるぞ?」


 向かいのソファにどっしりと座り込むハルは煩わしそうにして答える。戦争という言葉に伯爵は苦々しく顔を歪めるのをハルは見逃さなかった。


「俺は戦争は真っ平ごめんだ。それにあの皇帝は戦では役に立つがそれ以外では役立たずである。……戦争を止めるために、そしてあの愚王を引きずり下ろす為に俺もお前たちと戦いたい……一緒に戦わせてくれないか…………なぁシキ?」


 その名前に伯爵は驚いたようにハルを見る。目の前に居るのは彼の言う人物ではない。この場に居ないはずの人物の名をハルは今言ったのだ。


「……デタラメを、ただ貴方様は皇位が欲しいだけでしょう?」


 突然部屋にそんな吐き捨てるような言葉が響く。この部屋にはハルと伯爵、そして両者の護衛がいる。だがその誰の声でもない声がこの部屋に響き渡ったのだ。


「……やっぱり居るよな。隠れてないで出てこいよ、シキ」


「お望みとあらば」


 その言葉と共に現れたのは一人の青年。紫髪と黒いシノビ服を纏ったその者は、ハルの背後に瞬時に現れたかと思うと手に持った刀をハルの首に突き付けていた。


「……貴方様が行方不明になったと聞いて私も戻ったのですが……まさかこんな所に現れるとは……」


「色々あってな。さてと、この場の指揮はお前が取っているんだろう? 俺はお前と話がしたかったんだ、シキ」


「……私の事まですでに調べてあるということですか」


 ハルの言葉にシキは察した。計画が漏れているだけでなく自分の存在までバレているということに。


 ハルの護衛であるギルバート達が銃を手に動こうとするも、ハルが手を振ってそれを止める。刀を首元に突き付けられているというのに、この余裕な態度にシキは不思議そうにするも油断なくハルを睨む。


「……皇帝を打ち倒すんだろう? 俺もその仲間に入れろ」


「皇帝だけでなく皇族もです。貴方様は王子でいらっしゃるのでそれは無理な話ですね」


 彼らは皇帝ももちろんながら皇族一族をも排除しようとしている。それは今までの歴代の皇帝たちが不甲斐ない者達ばかりだったからだろう。それにハルも、そしてその弟ヘルフリートの評判もあまり良くない。


「それを分かった上で俺は言ってんだよ。戦争を止めるために俺も手伝うぞ」


「そう言ってただ皇位が欲しいだけでしょう?」


「まぁ皇位は欲しいさ、誰にもやらん。だがな、それなら俺はここでお前らの味方なんかするか? ただ待っていれば自動的に皇帝になれる俺が、危険を犯してまでここに居る意味は何だと思う?」


 確かにただ皇位が欲しいだけならハルがここにいる意味はない。いや、それ以前に今目の前にいるのは本当にあの第一王子なのかとシキは思う。先程皇位が欲しいといったがここまで欲しがっていただろうか?


 そんな疑問に包まれるもハルはまだ信用に足りない存在であるとし、周りの護衛を警戒しつつシキは言う。


「……危険を犯す理由などたくさんある。その内の一つ、貴方様は味方のフリをして我らの仲間になり、罠に嵌めるということもある。貴方様がこのような行為を皇帝陛下の命令でない限りするとは思えない」


「……そうだな、その可能性もある。俺は陛下にとってどうでもいい存在だ。捨て駒にするには丁度いいだろう」


「…………」


 ハルが上を見上げる。そこには自分に刀を突きつけた一人の青年。赤が混じった紫色の瞳はこちらをどこか見定めるように見ていた。


 その青年の存在はハルにとってとても複雑でなんとも言えない。それというのも過去……いやあの『記憶』では彼はハルの敵に回っていたし、大切な存在を殺したり連れ去ったりとしていた存在なのだ。


(……でもああなったのはあいつの魔法のせい。こいつはただ国の為に動きたかった、それだけだ。それに俺もこいつを殺しているしな……ならば……)


「俺が気に食わなければ殺せばいい。だがな、それは俺のしようとする事を見てからにして欲しい所だな」


「……貴方様は一体何をしようとしているのですか?」


「俺は国を変えたい。国民が幸せだと、この国の民で良かったと思えるそんな国に変えたい。その為には今すぐに皇位が欲しいんだ。もちろん戦争をさせないというのもあるがな」


 そう言って黒髪の少年はニヤリと笑った。見つめる赤い双眸は今の皇帝と同じであるがどこか違う光を宿している。その光はまるでこの先を見据え、暗き道を光照らさんとするかのような陽の光。


(……ヒナタ様)


 シキは思い出す。かつて、この国に存在していたとある皇妃を。まだ彼が幼かった頃に会ったこの少年の母親を……。この帝国の唯一の光であったあの方の面影を今目の前の少年から見出した。


「……いいでしょう。そこまで言うならば、貴方様が皇帝となってこの国を導いて見てください。ですが、もしも貴方様が皇帝に相応しくない存在であったのならば、その時は首を狩られても文句は言わないでくださいね」


 まだ疑いを残しままであったが、シキは刀を引いた。側でその様子を眺めていたギルバートは安堵の表情を浮かべる。


「それは、俺に協力してくれるということか?」


「協力するのは貴方様のほうなのでしょう?」


「……そうだったかな? まぁとにかく、親父をぶっ倒しに行くのには変わらんだろう」


 そう言ってハルはどこか疲れたようにため息をついた。ずっと刀を突き付けられていたのだ、緊張しないほうがおかしいだろう。


 だが疲れた様子もすぐに引っ込めるとハルは真面目な表情で話し出した。


「さて、さっそくだがこれからの予定を聞こうか? まぁ大体分かっているけどな」


 ハルはその場に居る新たな仲間たちを見渡した。











 ――数週間後。国境にあるヴォルケブルク城が反乱軍と名乗る者達に占拠された。


 その軍を率いていたのは――行方不明となっていた第一王子ハーロルド。



 グランツラント帝国にて皇帝ベルンハルトとその息子ハーロルドが起こした内戦はこうして始まった。






 ◇◇◇◇◇






 グランツラント帝国、帝都。その王城にて皇帝は玉座に座り込んだまま、目の前に跪いたものを見下すように見ていた。

 

「陛下、まさか兄上が反旗を翻すなど思いませんでした。そこであのような不届き者の処分、私に任せていただけないでしょうか?」


 頭を垂れてそう願い出るは第二王子、ヘルフリート。


「……ほう。そしてその報酬はこの皇座か?」


 眼下に見えるヘルフリートの小さな背を皇帝は面白くなさそうに見ていた。


「私は皇座を望んではいませんでしたが……兄上が陛下に楯突いた時点で継承権はないものと思います」


「ですから、必然的にヘルフリートへと継承権は移りましょう?」


 俯いたままにヘルフリートは淡々と答え、その言葉を皇帝の隣りに座る第二皇妃マルグリットが引き継いだ。


「ねぇ陛下、私達の子が皇座を継げるのよ? 今第一王子を正当に排除する機会だわ、だからヘルフリートを行かせてあげて?」


 氷のように美しい笑みを作りながら皇妃は皇帝に囁く。それをどこか煩わしそうに皇帝は聞いていたが――


「……跡継ぎは我が決めることだ。だがそうだな……貴様に行かせてやろう、ヘルフリート」


 皇帝は肘掛けに膝を付きながら、そう答えた。





「ヘルフリート、良く聞きなさい」


 皇帝の耳が届かない場所――皇妃の部屋にその冷たい声が響く。


「陛下はまだ第一皇妃の忘れ形見である貴方の兄を見限ってはいないわ。その証拠に彼の反乱をご自身で止めに動かない。そして向かわせる貴方に殺すのではなく捕らえる命令を下した」


 命令のように、その声がヘルフリートの耳に届く。


「――殺しなさい、ハーロルドは邪魔な存在よ。そして貴方が皇位を継ぐの、いいわね?」


 自身と同じく銀の髪が流れ、その下にある青い瞳はこちらを見つめる。その瞳に自分が映り込む。――絶対に自身を映すことのなかったその瞳が。


「……分かりました、母上」


 ヘルフリートは答えた。とても嬉しそうに、瞳に映る自分を見つめながら……。



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