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気がついたら悪役王子になっていた。  作者: 彩帆
本編

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第九千九百九十九話 終焉

「終わりの世界に一人きり」


 魔女が占いし言葉を紡ぐ。今語るは一体誰の事?


「暗い闇の中で」


 聖女が視た夢を唄う。今語るは本当に夢の出来事?


「辿りし道筋は血の色」


「赤い血の海に沈むあなた」


 真っ赤に染まるこの場所は、二人の言葉と合致する。


「行き着く先は?」


 魔女が聞いた。この行き着いたこの先は? この結末は?


『――私の望まない結末』


 二人が同じ言葉を口にする。同じ言葉を。



「ならば()えてしまいましょう! 望まない結末を望む結末に!」



 真っ白い聖女に、真っ黒い魔女はヴェールの下で微笑んだ。


「……さぁ『記憶』は戻りましたね? ならばこれからやる事も分かりますでしょう?」


「はい、もちろんです! では早速やりましょう! 愛しい彼を残酷な運命から救うために!」


 白い少女と黒い女性は互いにヴェール下で頷き合うように微笑む。その表情はどこか狂気に彩られていた。


「この世の一人ひとりには定められた運命がある」


「それはけして覆らない運命」


「たとえ、その運命に至るまでの過程を変えられたとしても」


「その結末までは換えられない」


 聖女と魔女は魔法陣を描き出してく。それは死体となった愛しき者の血で描かれていく。


「結末の変更はできやしない」


「それは幾万と繰り返してきて分かった結果だから」


「換わらぬというのであれば」


「その結末を書き換えてしまえばいい」


 魔法陣は出来上がり、そしてその中央に死体を。目の前に祈るように聖女が跪く。そして魔女が魔法陣の外で魔法を行使する。


「神の如き所業を」


()の命と魔力、その存在全てと、そしてこの都にいる生者の魂を引き換えにして」


 魔法陣が光り輝く。その光はこの王の間だけにあらず、王都をさえも飲み込む。首都を守るために施された魔法陣は書き換えられた事によって、この血の魔法陣と連動する。


『今ここに、事象の書き換えを行う!!』


 その瞬間、王都は光に包まれた。まるで光の爆発が起こったかのようなその光は雲を裂いて天を突き抜けて――次元の向こうに消えていく。


 まるで神が運命を操るかのように――その恐ろしくも美しい魔法は行使された。














 ◆◆◆◆◆










「あは、あははははははは! 成功した成功した成功した成功した成功したあああああああ!!!!」


 目が覚めた瞬間に聞こえて来たのは気が狂ったかのような歓喜の声。その声にビクリと驚き、思わず身を素早く引き起こす。


「……なんだこれは……」


 思わず呟いてしまった。それはこの惨状に。自身を中心に描かれた奇妙な血で書かれた大きな魔法陣。その頭上はポッカリと穴が空く。まるで天井は壊されたのでなく消え去ったかのように空いた円形状の穴の外にはこれまた円形状に穴の空いた雲。その空は白い。青ではなく白い空が見え、そこから光の粒子のような物が降り注いでいるという摩訶不思議な空間。


 そんな場所で彼は――ハーロルドはぽつりといた。


 目の前では相変わらず奇声を発しながらくるくると回ったりしている女――多分魔女がいる。そして自分の隣には――


「…………モニカ!?」


 白い衣装に所々血に濡れた彼女が倒れていた。思わず駆け寄って揺するが彼女は起きない。いやそれどころか彼女は――死んでいた。生気の感じられないほどに青白い顔と驚くほどに冷たい肌。


「……なんだよ、これは!? 一体どうなってるんだよ!?」


 モニカは死んでいる。だがそれ以前に自分はあの時死んだはずだ。その証拠に自分の衣服は血だらけである。なのになぜいつの間にか自分は生きていて、そして彼女は死んでいるのか。


「…………おい! そこの魔女! これはどういうことなんだ!!」


 その事情を知っているはずの目の前で奇妙な動きをしていた魔女に問いかける。魔女は動きを止めて、そのヴェールの下の顔をにたりと口元を歪ませながら答えた。


「……そんなの()が生き返らせたに決まっていますよ? ふふふふ、あはははは! これであなたはもう死なない。もう二度と! 絶対に! もう死には怯えなくていいの! ねぇうれしいでしょう、そうだよね――ハル?」


 首をかしげてこちらを見つめるそんな魔女の様子はどこか恐ろしく狂気に溢れ、そして子供ぽい。



 奇声のような歓喜の声を上げるそんな魔女をハルはしばらく見つめ――そして気がついた。



「――いや、まさかそんな……そんな訳が――
























































 ――お前は……モニカなのか?」









 その瞬間、時が止まったかのような錯覚に囚われる。何せ魔女はくるくると奇っ怪な踊りの動きそのままに体を止めたのだから。だがやがてゆっくりと足を地面につけてこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。


「あらあらあらあらあらあら? あららぁーバレてしまったかしら? でも嬉しいですぅ! あなたに気づいてもらえたもの!」


 魔女は被っていた黒いヴェールを取り払う。取り払われたヴァールのその下には亜麻色の髪がふわりと現れ、そして翡翠のようなしかしどんよりと濁った緑色の瞳。


「はい! モニカでございますよ? あなたを愛して愛してやまないモニカなのです!」


 そうやって子供っぽい笑みを浮かべるのは、ハルが抱きかかえている死体のモニカと同じ顔を持った女であった……。







 ◆◆◆◆◆








「はぁ……大変だったんですよ。ここまで来るのに……」


 魔女は……モニカと同じ顔をした女は疲れたようにわざとらしくため息を吐いた。何かの見間違いかと彼女を食い入るように見て、そして腕に抱く死んでしまったモニカを見比べるが……


「どういうことなんだ……これは?」


 やはり、何度見ても彼女であった。だが少し違うとすれば、魔女のほうが若干大人びており、そしてどこか闇に彩られ狂ったかのような光を写さない瞳を持っている。


「聞きたいですか?」


「……そうに決まっているだろう!」


「そんな怒らないでくださいよー。いいですよ、話しますよ。時間はあまりないので手早く済ましますね!」


 何が可笑しいのかおどけたような笑みをハルに向けながら……魔女は喋り始めた。




「さて、まずは私の存在ですね? 私はモニカです。正確に言えば――未来からやってきた者です」


「……未来?」


「はい! 未来からあなたを……ハルを救うために私はやってきました」


「どうして……」


「そんなの決まってるじゃありませんか。何回も繰り返してもあなたを救えなかった。だから私は時を渡りこの時代にやってきたのです」





 そして彼女は語り出す。



 自分は何十回も時を渡った。それは他でもないハルを死なせないために。


「最初は記憶だけの引き継ぎだけしか行えませんでした……そこからあの学園生活が始まりあなたと出会うその時から何回もループを繰り返しました」


 時を渡るというより、過去の自分に今の記憶を送り込むという魔法を用いて彼女は時を繰り返した。その幾多のループの中である時はハルの味方を、そしてある時は敵になりつつもその全てにおいてハルを救うために行動してきた。


「でも、ダメだった。何をしてもあなたは死んだ。戦争に勝利しても、戦火の届かない場所に逃げても……あなたは死んだ」


 どんな手を尽くしてもハルは死んだ。何をしてもハルは死んだ。


 何千何万と時を繰り返しても、死は免れなかった。


「……そしてやっと気がついた。あなたは救うことが出来ない。死は定められた絶対のものだって……」


 過程を変えることはできた。しかしその行き着く結果までは変えられなかった。



「だから私は変えることは諦め、そして書き換えることにした!」


 結末が、結果が、変わらないのであれば、書き換えてしまえばいい。過程は変化させずとも結果だけを書き換えてしまえば全ては覆る。


「あなたが死ぬ運命にあるのであれば、その死の結果を書き換えて死なないようにしました。そしてそれはうまくいきました!」


 魔女は……モニカは手を天に向けて大きく広げて歓喜の声を上げる。


「死なないようにこの世の理に干渉し、あなたが死なないように事象を書き換えた」


 しばらく天を仰いでいたが、力なくだらりと手を下ろした魔女はどこか悲しそうにハルを見る。


「……あともう一つ。気づいてしたことがあった。それは今まで私があなたを死なせない為に行動していた。だからもしも、あなた自身が死なないように行動するのであれば変わるかもしれないと思ったの」


「…………そうか。俺にこの『乙女ゲーム』やら『違う世界』の混じった『記憶』を与えたのはお前か」


「そうよ……私が繰り返して得た先の出来事と、そしてあなたを救うために方法を探していた時に垣間見た別世界の知識。その別世界の知識を織り交ぜて、この膨大なループの記憶が理解がしやすいように私が作り出した『記憶』……それをあなたに与えたの」


 ハルの持っていたあの『記憶』の数々。その全ては今目の前にいるこの魔女――モニカの持っていた記憶の一部だった。


「私が創りだしたあの『乙女ゲーム』におけるあなたのルートの結末は、私にとっての願望。あなたが運命を掴み取れば……って思ったのよ。でも結局ダメで……私が犠牲になることでこれを阻止した」


「犠牲……?」


「そうよ。事象の書き換えなんて神の如き所業を私一人でできると思う? それこそ私が二人居なければできなかった事……」


 ハルが自身で死ぬ運命を回避できなかった以上、魔女は最後の手段に出た。それは神の真似事に近いほどに究極なる魔法の行使。それを行うには彼女一人では無理であった。


 時間を繰り返し、この世界では誰の追従も許さなくなった魔法使いとなった彼女でさえ……。だが、もしも彼女が二人いればそれは不可能ではない。ゆえに彼女は記憶だけでなく自身の身をも時間を越えこの時代にやってきた。


 命と魔力の生け贄となる自分と魔法を行使する自分が必要だったのだ。


「過去の自分では生け贄にしかならない。だから過去の自分を生け贄にした。……過去の自分が死んだ今、未来の私も消失する運命にある。……でも予想でならすぐに消えるはずだったのに今もまだ消えないのは……影響の確定までのラグなのかしら?」


 良く見れば魔女の体は淡く光り、消えつつある。もう少し時間が立ってしまえば彼女は消えるだろう。


「でも、このラグには感謝をしなければ! こうして最後にあなたと話ができたから!」


 ハルに近寄った彼女は座り込むハルの視線に合わせて自身もかがむ。その表情はどこか朱に染まり、つり上がった笑みが張り付く。


「…………なるほど、俺が知らない所でそんなことがな……」


 繰り返していた時間の記憶はハルにはない。若干影響は起こっていたが全てを知ることはハルにはできなかった。


(……俺、今まで彼女のことどう思っていたんだろうな)


 繰り返した時の中で自分は果たして彼女をどう見ていたのか。考えても分かりはしない。ならば今の気持ちに従うまでだ。


「……なぁモニカ」


「はい、なんでしょうか?」


「俺に魅力の魔法はかけてないよな?」


「もちろんかけてなどいません。繰り返した時に知っております。無理やり強制させた好意などただの虚しいものですから……」


 そういって目を伏せる彼女はいよいよ消えかかりそうだ。もう時間は残されていない……ならば。


「お前、今時を渡れるか?」


「無理ですね……ですが、記憶の転移なら――」


「そうか、それじゃあ……」


 ハルは何かを手に持つとそれを頭にぴったりとくっつけた。それは銀の色が光を鈍く弾き返す一丁のリボルバー。


「……………………何をなさろうとしているのです?」


 そんなハルの行動に固まったかのように動きを止めて、どんよりと曇った瞳を大きく見開く魔女。


「今すぐ俺の記憶を過去の俺に転移させろ、できるよな?」


「止めて! 今すぐ銃をおろして! ここまで至るのに一体どれだけ私が繰り返したと――」


「できるのか、できないかと聞いているんだ! どっちなんだ早く答えろ!」


「……っ!? で、できます!!」



 その言葉にハルは満足気に笑いながら答えた。


「……そうか、ならやれ」


「いやです……」


「魔法を使ってくれないのならこの銃で死ぬぞ?」


「それも止めてください……私がどれだけ繰り返してきたと思ってるんですか……やっとやっとあなたが死なない結末にたどり着いたのに……ここでそれを台無しにしないでください……」


 大粒の涙を流しながら魔女は――モニカは懇願する。左腕が使えたならばその涙を拭いてやりたかったと思いながらハルは片目で彼女を見つめながら話し出す。


「俺、お前の事好きだよ。二番なんて嘘だ。何よりも代えがたい大切なおまえを失うなんてしたくない。一人残された者の寂しさなんてお前が一番よく分かっているだろう?」


 ハルの言葉にモニカは驚くように彼を見る。その透けかかった濁った瞳に僅かに光が映り込む。


「……だからやり直すぞ。だってーー俺は死なないんだろう?」





 そう言ってハルは――躊躇なく引き金を引いた。








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