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気がついたら悪役王子になっていた。  作者: 彩帆
本編

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第三十七話 奥底

「撃ち方止め!」


 号令に従い綺麗に並んだ兵士達が一斉に構えを止めた。その手に持っているのはマスケットのようだが火打ち石(フリントロック)式でも火縄銃でもない形だ。


「後は親父達に任せるかな」


 この場の指揮官であるハルが前方を見つめる。その先にはこちらの攻撃によって混乱している王国軍。その側面の道から帝国軍の姿が見えた。ハル達が攻撃している間に遠回りして王国軍の後ろをとった皇帝が率いる部隊だ。


「スルールの民よ! 国を失っても信条は忘れるな! 魔法を許すな! 邪悪なる魔法使いは殺せ!」


 どこからかそんな怒声が聞こえてくる。帝国軍の先陣を切っているのは元スルール王国の民たちだ。彼らは今回の戦いで幾度と無く帝国の戦場を支えてきた。それは他でもない魔法という文化を許さない民族であったが為と言っていい。それ故に魔法を尊ぶ王国相手だと士気が高く、帝国に尽くす者が少ない軍の中では一番運用が効く兵士達とも言える。


「……モニカには見せられんな」


 彼らと同じく元スルール国民であった彼女を思い、ハルは憂う。故郷は未だに魔法嫌いが治っていない。それは今回の戦では帝国にとってプラスであったが……。


「しかしまぁ、このミニエー銃ってすごいな」


 隣りにいたはずのギルの声が少し遠くから聞こえてくる。そちらを見れば一人の兵士から銃を取り上げ眺めているギルの姿があった。


「ライフリングの刻まれた銃でありながら従来よりも早く装填ができる構造。その構造をさらに生かすように作られたこの弾丸」


 ライフル銃を片手に持ちながらギルは銃弾を取り出す。従来のマスケットであれば丸い銃弾なのだが、それは尖った形をしておりまるでドングリだ。ハルの『記憶』の中にあった現代兵器に用いられる銃弾に似ているそれはミニエー弾と呼ばれていたものである。


「ここまで恐ろしいもんが出てくるとは思わなかったよ」


 その威力をすでに目の前で見ていたギルは銃を片手に苦笑いしていた。このミニエー銃はハルが書きだした図面を参考にして作られたものだ。ギルの手によって送られた図面は帝都にいる武器職人たちの元に送られていた。そして完成した武器は先の輸送隊によって運ばれたものである。ハルはその輸送隊にこの武器があることを知っていたため、進軍を三日遅らせたのだ。


「まぁな。だが、このミニエー銃はオリジナルとちょっと違うんだよな」


 確かにこの銃は強い。このマスケットだらけの戦場ならば少人数でも勝ってしまうほどに。しかし、ここはあの世界と少し違う。それはこの世界には魔法があるからだ。


 ハルはギルから銃弾を受け取る。その銃弾には少し奇妙な模様が彫られていた。


「魔法を無効化する魔法陣が彫られている。これによってこの銃弾は敵の魔法で作られた防御壁はすり抜けるし、体内に食い込んで留まれば銃弾を除去しない限り治療魔法も効かない」


 まさに今の帝国の為に作られた弾丸だ。だが、不思議である。この魔法陣も図面に描かれていた物をそのまま写されている。『記憶』を頼りに作られたあの図面達、しかし『記憶』の大方は『乙女ゲーム』の知識とあの世界の知識が多い。あの世界には魔法はもちろんない。兵器の『記憶』があるのはいいが魔法の『記憶』は一体どこから来たのか?


「……ハル、考え事は後にしようぜ」


「そうだな……では予定通り我らは次の地点に移動するぞ」


 ここは戦場であり、考え事をしている暇はない。ハルは考えを振り払うと軍を率いてその場を離れていった。




◆◆◆◆◆





 帝国軍が対魔法武器として用いだしたミニエー銃。その武器の数は三千と少ないがそれによって王国軍の戦線は切り崩され、そして士気の高いスルールの民がそこから王国軍を蹂躙する。


 それだけでも王国軍にとって最悪となる状態だが、魔法という絶対の存在があってこその王国軍にとってその魔法を打ち破った兵器の登場に士気は酷く下がった。


「殿下! 東部隊の崩壊を確認致しました! これ以上の戦線維持は無理です!」


「ここまでですか……」


 兵の報告にフィリップは悔しそうに拳を握りしめる。むしろよくここまで持った方であると誰もが思うほどに王国軍は戦っていた。しかしやはりミニエー銃の登場により、兵士達に動揺が走っている。この状態のまま戦を続けさせれば無意味に兵を失いかねない。


「全軍に告ぐ、このリュノールの街は諦め、撤退を開始します!」


「なっ!? 本気でございますか殿下!?」


 フィリップの言葉に枢機卿が慌てたように異を唱えた。確かにここが落とされれば王都が危ういだろう。王国は降伏も考えていないようであるし、帝国もそれを受け入れるか分からない。だが、枢機卿の心配は別の所にあったようだ。


「このリュノールの地にはルーナ教の大聖堂があります! 王国は我がルーナ教を国教としておりましたよね? 我がルーナ教を見捨てるおつもりか!?」


「申し訳ありませんが王子である僕の最優先はどうしても国でしかないのです。それに例えこの地がルーナ教の大聖堂が帝国の手に落ちたとしても、かの国はルーナ教を否定はしていないではありませんか。帝国の中にもルーナ教の信者いる程ですから、悪いようにはしないかと――」


「国はそうでもあの皇帝は我らを許しはしない! だから助けてくれ、我らを、()を見捨てないでください殿下!」


 枢機卿という地位にいるはずの男はそんな尊厳など皆無にしてフィリップに縋り付く。その尋常じゃない命乞いをする姿にクリストフや他の神官たちはどこか幻滅し冷めた目で枢機卿を見ていた。


「……見捨てるとは言っておりません。どうでしょうか? 僕達と共に王都に避難するというのは?」


「本当でございますか、殿下! ならば――」


「枢機卿、それはなりません」


 フィリップの言葉に顔を明るくした枢機卿であったが、クリストフの冷やかな言葉に表情が曇る。


「何を言う! 我らもここを離脱し、そして機会を伺い後から帝国よりこの地を奪還すればよいではないか!」


「それはなりませぬ。帝国などという邪教徒にこの神聖なる地を土足で踏み荒らされたというのに、あまつさえ大聖堂を引き渡すと? それは断じて許してはなりませぬ」


 クリストフの言葉に周囲の神官たちが頷く。枢機卿はその光景を見え顔を青くする。


「な、ならぬ! ここへもうすぐ奴が! 皇帝がやってくるのだ! 私たちは、私は一刻も早くここを脱しなければ――」


「皇帝が来るのであればチャンスではありませんか。その首を持ってしてこの戦争も終わる。戦争を好まない我らが女神もきっと喜んでくださるはず……その為にも枢機卿、貴方様はここを離れてはなりません」


「嫌だ! 私はここを出て行く! 殿下と共に!」


 子供のように泣きわめく枢機卿の姿にクリストフは頭を抱えつつ、他の神官たちに命令を下す。神官たちはクリストフの言う通りに枢機卿を捕まえるとどこかへ連れていった。


「……お見苦しい所をお見せして申し訳ございません、フィリップ様。戦争が終わり次第、枢機卿は代替わりさせる予定です」


「いや……それより本当にいいのかい? 僕としてクリストフ、親友である君には……」


 言葉の続きを言おうとするもフィリップは結局言えなかった。しかしクリストフはフィリップの様子を見て何を言いたかったのか伝わったのか、微笑みを返しながら応える。


「私めは大丈夫でございます、殿下。我らには女神様の加護がありますから。まぁ、もしもですが、できることなら最後くらいは綺麗なシスターに看取られたいところですね」


「……君は相変わらずだね」


 少し沈んだ気分が持ち上がったフィリップであった。だが、できればその冗談は冗談であって欲しい所だ。


「……ですが、出来ることならば運命の君に最後にお会いしたかったのですがね」


「…………」


「……私めがここに残るのは彼女のためでもありますから。あの脳筋が上手くやってくれる事を祈るのみですね」


 ――あぁ、貴方もなのですね。貴方も彼女に取り憑かれている。


 フィリップは残念そうにクリストフを見る。そしていつもは隣で自分を守っており、今はいないあの赤い騎士も思う。フィリップの周りの者達は全員彼女に対する執着心が強い。それはあの三人だけでなく兵士も国民も含まれている。


「…………この国に、聖女は必要ない」


 小さく呟く彼の姿には、どこか孤独に戦う者の姿が見て取れた。




 ◆◆◆◆◆





 それから数時間後。ルーナ教の大聖堂の周りには帝国軍の黒い軍勢が取り囲んでいた。すでに王国軍は撤退しており、中にいるのは残されてしまった王国軍の負傷兵と神官達、そして枢機卿くらいだろう。


「……陛下、ここは降伏勧告をするべきでは?」


 いつまで経っても命令をくださない皇帝を不思議に思い、ハルは聞いた。


「…………ならぬ」


「では、どうされるのですか? 彼らは建物から出てきませんが……」


「出てこないのであればあぶり出すまでよ。……砲兵隊に大聖堂を砲撃させよ! 建物から出てきた者達は逃さず撃ち殺せ!」


「……なっ!?」


 皇帝の合図により兵たちが動き出す。運びだされた大砲はきっちりと大聖堂に向けられる。


「陛下! 建物の中には戦う意思のないルーナ教徒と負傷兵ばかりです!」


「それがどうかしたか? 降伏するならばさっさとしていただろう。だが奴らはしなかった。出てこないだけで奴らにはまだ戦う意思はあるんだろう?」


「ですが、ルーナ教はあくまで中立の立場を保っています。それに彼らの使う治療魔法は魅力的です、生かしておいても良いかと――」


「確かに彼らの魔法ならばどんな怪我も、どんな病気(・・)でさえも治せるだろう。だが奴らは信者以外にその力を使おうとしない――いや、しなかった(・・・・・)!!」


 皇帝の怒声が辺りに響き渡る。身を竦ませるほどに低い声にハルは思わず固まった。その声に重なるようにさらなる音が轟く。砲撃が開始されたのだ。


 大聖堂が砲弾によって壁に穴が空き、徐々に大きな音を立てつつ傾いていく。その建物から慌てて出てきた者達は待ち構えていた兵士達の銃弾の嵐により一人、また一人と倒れていった。


「…………特別な力はそれだけ他人の妬みを買う。だというのにそれを独占するからこうなるのだ」


「……陛下」


 崩れ去っていく大聖堂を見つめる皇帝の背にどこか普段は見せないような陰りが見えた。



「おのれ……建物を砲撃するとは……」


 瓦礫の中からそのような声が聞こえてくる。そちらを見れば防御壁を展開し崩れた瓦礫をなんとか防いでいる枢機卿とクリストフの姿があった。


「まだ生きておったか、女神の豚めが」


「……ひっ皇帝陛下!?」


 皇帝の声に枢機卿は腹を揺らすほどに体をビクつかせる。二人の様子から知り合いのようだ。


「こ、これは陛下! じゅ、十四年ぶりでございます! あ、あの時は申し訳ございませんでした! しかしこの私も神官の端くれ、あの時はああするしかなかったのです! ですが今は心を入れ替えましてルーナ教などという邪教を信じていた私が馬鹿でありました! で、ですからどうか命は――」


 命が惜しいのか支離滅裂な言葉を口走る枢機卿。その姿にクリストフは本当に見限ったかのように枢機卿を睨む。しかしその視線に枢機卿は気づかない。


「……随分と落ちぶれたようだな、昔のようなあの信仰心はどうした?」


 なぜならば、それよりも恐ろしく、鋭い視線が彼に突き刺さっていたのだからだ。皇帝の視線に枢機卿はヘビに睨まれたカエルの如く悲鳴さえもあげられないほどに顔を真っ青にさせる。


「……我が貴様を、ルーナ教を許すと思うか?」


 拳銃を構えた皇帝の姿に枢機卿はただただ怯えるのみ。


「お、お待ちを! どうか命だけは――」


「命乞いなど見苦しい。潔く死ぬがよい!」


 軽い発砲音と共に、ドサリと質量を持った物が倒れる音がその場に響く。誰もがしばらく口を閉ざしたまま、その中心に立つ皇帝を見ていた。


「……何をしている。生き残った者達を殺すが良い」


 その言葉と共に二丁目を取り出した皇帝。狙う先は――クリストフであった。


「……どうぞ、撃ってくださいませ。我らに生き残る道はないようなので」


「ほぉ、あの豚とは違って諦めが良いな。――貴様が枢機卿であったならばルーナ教も、もう少し変わっていたかもしれぬな」


 銃を突きつけられても平然と佇むクリストフをどこか期待するように見て、皇帝は面白そうに笑う。


「何を馬鹿なことを。女神以外の神の存在を許し信じる邪教徒の国と手を組むつもりはありません」

 

「……そうか、どの道我が国に月の加護は届かなかったか」


 残念そうに小さく捨て吐いて、皇帝は引き金を引いた。二度目の銃声が響く中、また辺りを血が染める。それを合図に辺りで見守っていた帝国軍の兵士達が動き出す。それはもちろん皇帝の命令を遂行するためだ。


「ハーロルド、後処理は任せた」


 瓦礫の山から戻ってくるなり、ハルにそう言いつけて皇帝は去ろうとする。そんな去っていこうとする皇帝の姿にハルは驚くように見つめていた。


「どうした、ハーロルド」


 返事が帰ってこない事に苛つきを乗せた言葉が聞こえてくる。しかしハルはそれでも返事を返さずにただ静かに皇帝を見つめていた。


「なぁ親父、あんたまさか……」


 皇帝でも陛下とも呼ばずに、畏まることなくハルは皇帝を――ベルンハルトを親父と呼んだ。その言葉遣いにいつもならば眉をしかめて怒るであろう目の前の人物だったが、今は何も言わない。


「…………我はただ、国の長年の夢である大陸統一を成しているだけにすぎん。これはそのついでにすぎない」


 しばらくして答えた皇帝の姿をハルは驚くように見つめていた。いや、言葉に驚いたのではない。背は向けているその人物がその片手に持っている物を食い入る様に見つめた後、ハルは慌てて自身の持つ物を取り出す。


「――随分と時間がかかってしまったな。ハーロルド、ここの片付けは今から後三時間で終わらせろ」


「……りょ、了解いたしました!」


 皇帝が見ている手元にある物とまったくそっくりな物で時間を確認したハルは、驚きを隠せないままであったが、なんとか返事を返した。






 ◆◆◆◆◆






 時間が過ぎ去り夕焼けが辺りを包む頃には作業が終わった。時間を確認したハルが疲れたように息をつく。


「なんとか言われた通り終わったな」


「……ハル! 大変だ!」


 そうした所でギルの慌てる声が聞こえて来た。こちらに走り寄ってきたギルの只ならぬ様子にハルも胸がざわつく。


「どうした? 敵襲か?」


「ここだったら良かったんだがな――ヴォルケブルク城が襲われた」


「何!?」


 今では前線とは程遠いヴォルケブルク城。その城が襲われたという報告にハルは驚いた。いやそれよりも――


「なんで襲われたんだ!? モニカは? 彼女達は無事なのか!?」


「……襲ったのはユベール達だ。牢に閉じ込めていた奴らが逃げ出して城を襲ったらしい。そして彼らは彼女を――モニカを攫っていったそうだ」


 それを聞いた瞬間にハルは力なく項垂れる。あそこならば安全だと思っていたのだから……。




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