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気がついたら悪役王子になっていた。  作者: 彩帆
本編

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第三十五話 後悔

※今回の話には一部グロテスクな表現が含まれています。苦手な方はご注意ください。

 主戦場より離れたこの平原でその一方的な戦いは続いた。

 七千という兵力がありながらその殆どは混乱しておりまともに機能しない王国軍。対する五千の帝国軍は追い打ちをかけるかのように、辛うじて戦線を保っていた王国軍右翼を集中的に攻めた。

 王国軍右翼は真正面の帝国軍はもちろんの事、斜行陣で側面に回りこんだ帝国軍までも相手にしなければならず、結局あっさりと打壊した。


 この絶望的な状況に王国軍の兵士は誰もが諦めた事だろう。何せ敵後方のこの場所、彼らを助けるような援軍など来やしない。戦闘が始まる前から続く混乱も相まって中には自害する兵まで現れ始めた。


 だが、中には諦めずに戦う兵士もいた。しかしそのような兵士は少なく、哀れにも帝国軍の銃弾に次々と倒れていく。そうした中、脱走兵が続出したのは当然の流れであったが、帝国は脱走兵も容赦なく殺された。先の戦いで帝国軍がニセの脱走兵を用いた作戦をしたからか、逃げる兵士は逃さぬように命令を出していたのだ。


「中にはこちらに投降した者達もいますがどういたしますか?」


 ほとんど戦闘は終わっていると言っていい目の前の戦場(惨状)を見ながら、ギルが聞いた。


「……一部を残して全て殺せ。あの数を捕虜にできるほど我が国に余裕はない」


 どこか苦々しく表情を歪めながら、しかしはっきりとハルは残酷に言う。この戦場には勝利したものの、素直に喜ぶことができない。どこか苦しそうにこちらに降伏するように白旗を振る王国軍を見据えていた。


「――殿下、ご報告したいことがございます」


 ハルの元に一人の兵士が近づいてくる。その者は先程王国軍の調査をさせていた猟兵隊の兵士であった。





 ◆◆◆◆◆





 何処からか聞こえてくる音が響く中、その者の意思はあった。

 一つしかない視界の中には泡を吹いて倒れている男が映る。魔法使いと分かる服装をした男は、先程こちらを見た瞬間に口を大きく開けたかと思うとそのまま気絶するように倒れたのだ。


(……まぁ、そうでしょうね。こんな姿を見れば誰だって気が狂いますよ)


 男に同情するようにその者は思う。視界の端には己の肉体と思われる物が見える。それは以前までの嫌っていたあの小さな体とは思えないほどに変わり果てていた。

 どこか(うごめ)く赤い何かが滴る肉塊のような何かがあるのだ。そこから白い棒状の物がいくつか刺さっており、その中には自分の右腕と思われる腕が視界の下辺りに見えた。しかしこんな位置にあるのがおかしいし、その腕を動かそうとすると右腕は動かず別の何処かが動く感覚がある。


(……なんとなく今の僕の状態は思い描かない方がいいでしょう。こんな状態になったのはあの魔法が原因ですね)


 ため息をはきたくなるが口の感覚が何処かへ言ってしまっていた。さて、自分の状態は明らかに異常である。しかしそれでもなお自分の意思があることに驚いていた。


(すぐに死ぬと思ったのですが……こんな状態で生きているとは。死んでいないのが不思議ですね。痛みもありませんし……痛覚はどこかへ消えてしまったのでしょうか? 第一こんな状態だというのに慌てていなくて意識が壊れない事に驚きましたね)


 その者は冷静に考えつつも少しだけ自分を誇らしく思いながら、一つだけの視界で辺りを見渡す。目の前に広がる景色には、自分の魔法によってこの場所に一緒に連れてきた青と白の兵士の姿がある。その兵士達の様子を観察するに、どこか混乱しているようだった。そんな時に遠くに居た一人の兵士の姿を見て、この混乱している理由が分かる。


(……兵士達にはできるだけ被害が及ばないようにしたんですけど……上手く行きませんでしたか。……この転移魔法は禁忌魔法にしたほうが良さそうですね)


 そう思いつつも何もしないままにその者は静かに見ていた。体を動かそうと試したがどうにも足の感覚がないのだから無理なのだ。


 そのまましばらく時間が経ち、どこかくぐもった音が聞こえてくるのが落ち着いた後の事。


『……サ……ロ……』


 雑音混じりに自分を呼ぶ声がどこからか聞こえて来て、その者は消えかけていた意思を取り戻す。先程より掠れた一つの視界には黒と赤という色合いの威厳を示すかのように意匠が施された軍服を来た者。黒髪を風に揺らし、その赤い瞳はこちらを驚きに見開きながら見ていた。


(……あぁ、師匠。まさかまた貴方にお会いできるとは)


 ぼやける視界に映る少年をその者は嬉しそうに見つめる。聞こえる音がどんどんと消えていく中、黒髪の少年はこちらに近づいてくる。


(僕の事が分かるんですね、さすが師匠です)


 きっと見ただけでは自分だと分からないくらいに姿が変わっているだろうに、その少年は自分の事が分かるらしくその者はそれだけで嬉しかった。


 目の前に膝から崩れるようにして座り込んだ黒髪の少年。その少年は涙を流して何かを叫ぶように泣いていた。どこかこちらに対して謝っている気がする。


(……どうして謝るんでしょうか? 師匠は何も悪く無いというのに。僕がこんな姿になったのは不完全な転移魔法を行使した事が原因なのに……)


 その者に首があったら傾げていた事だろう。不思議に思いながら目の前で泣いている少年に手を伸ばそうとするが、代わりに左側から何かが落ちるような感覚があったので諦めた。


(……どうせ僕の命は長くはない。なら……)


 その者は目の前の者に乞う。必死に口を動かしてみると後ろの方で何か動く感覚がある。それと同時に目の前の少年が真っ赤な瞳を大きく見開いてこちらを見ていた。彼に自分の言いたいことが伝わっただろうと思いながら、その者は目の前の人物をたった一つの視界で見つめる。自分の願いを叶えて欲しいと願いながら……。


 思いが通じたのか、黒髪の少年が拳銃を取り出すとこちらに向ける。震える手によってブレる銃口が見えるがこの距離ならば外れることはないだろう。


『……、…………』


 殆ど見えなくなった視界に映った少年が何かを言うように口元を動かす。


 ――その後、黒髪の少年は引き金を引いた。







 ◆◆◆◆◆







「サロモン、すまなかった……」


 その言葉と共に銃声は響く。弾丸は目の前の人だった者と思われる血まみれの肉塊に撃ち込まれ、生きているのが不思議だったその命を奪った。


 黒髪の少年――ハルは銃を投げ捨てて動くのを止めた肉塊を見つめながらその場に座り込む。先程一人の魔法使いの話を聞いてここにやってきたのだった。


 王国軍が混乱に陥っていた理由は……彼らをここへ誘った力。他でもない転移魔法が原因だったらしい。


(他の場所に転移するのは便利だが……今回はその魔法が不完全だった。だからその影響が出てしまったらしい)


 転移をする際にその影響は出てしまった。人を転移する際に、一部の人達は体を再構成(・・・)されてから転移をさせられたらしい。具体例を出すならば転移された王国軍の中には、自分の腕がいつの間にか他人の腕と入れ替わっていたり、首から下が他人の体になっていたりしている訳だ。他にも被害はあるのだが被害者達には申し訳ないが、思い出すだけで吐き気が来るほどに酷い有様だったとだけ言っておこう。


(サロモンはその被害を最小限に抑えたようだが……その見返りで自分の体があんな事になるとはな)


 ハルはまだ出てくる涙を拭きつつ前を見る。そこには多分元は人間だったと思われる存在がいた。まるで様々なパーツをバラバラにして、適当にくっつけて失敗したかのような物。初めて見た時これがサロモンだとは思えなかった。しかし、こちらを見る一つだけの目玉がどこか彼を思い出させたのだ。


「……俺が中途半端に転移魔法の改善策を教えたせいだな」


 ハルは後悔するようにもう動かない者に語りかける。ハルは知っていた。転移魔法をどのようにしすれば不完全でない完璧な魔法にする方法を。しかしそれを彼は教えなかった。あの時教えていれば、このような惨劇は避けられたかもしれない。


「いや……それだと俺の国が負けるか……。全部教えなかったら俺の国は魔法について何も知らずに戦う事となっていただろうし……」


 あの時、自分はどうすれば良かったのだろうか。――その答えを知る者はどこにもいない。


「……俺のせいというのもあるが、一番気になるのはこの命令を下したフィリップだな」


 立ち上がったハルが一人呟く。周りでは後処理をしている帝国軍の姿が見えた。


(魔法のリスクはきっとサロモンが言ったはず。いや言わなくても他の魔法使いたちは知っていたようだ。だからフィリップはこうなることも予測できたはず。なのに……サロモンに魔法を使わせたのか?)


 どこか心に怒りが湧いてくる。この事態を引き起こした最大の原因は自分なのだが、その魔法の使用を命令させたのはきっとフィリップだろう。


(どちらにせよ、俺の国は勝たなければならない)


 ハルはとある方角を見る。それは今皇帝と戦っているだろうと思われる敵の指揮官を睨むように。





 ◆◆◆◆◆





 いつの間にか雪がチラつくようになったヴォルケブルク城。現在の前線が遠くなってしまったが後方支援の基地としての役割はきちんとあった。


「ハルさんは大丈夫でしょうか」


 与えられた自室の窓から小雪を眺めいたモニカが心配をするように呟く。以前突如として頭に現れた光景を手紙にして彼に送った。その手紙は無事に付いたようで、こうしてお礼の手紙が戻ってきたのがその証拠だ。


 少し荒っぽい文字で書かれたハルの手紙をモニカは愛おしそうに見つめる。その内容の中には情報をくれた事に関するお礼もあるのだが同時に自分の存在を訝しむ内容も書いてあった。モニカ自身も不思議なのだ。どうして突如としてしかも未来の出来事が頭の中に思い出されたのか。


(……一体、これはなんなのでしょうか?)


 これがあの魔女の予言した能力だと言うのだろうか……?


 そう悩んでいた彼女に激しい頭痛が襲う。あの時、あの戦場の光景を見た時と同じ頭痛だ。いや、比べ物にならないほどの頭痛とそして流れ込んでくる――『記憶』。


(……何、これ……)


 思わず地面に座り込むようにして倒れた。頭を抱えてその脳裏に映る光景はどれも見たことのない『記憶』で、そしてどこかで見たことがある懐かしい『記憶』のような錯覚に囚われる。


「……あぁ、やっぱり。思った通りでした」


 その時、声が聞こてきた。この部屋にはモニカ以外に居なかったはずだ。だというのに、そのどこか無機質な声が背後から聞こえて来た。


「……あなたは」


 膨大な『記憶』が流れていくる頭を抱えながら、モニカが振り向くとそこに居たのは一人の女。黒いローブを纏い、ヴェールで素顔を隠した女性。


「お久しぶりでございます、聖女様」


「……先読みの魔女」


 自分を聖女と予言した王宮占い師、先読みの魔女がそこに佇んでいた。


「どうして……どうしてあなたがここに……」


 さらに頭痛が激しくなる。その痛みに呻きながらも、目の前に立つ魔女からモニカは目を離さない。


「あら、それをお聞きになるのですか? ……あなたなら分かるでしょう? あぁそれにしても、せっかくあなたが魔法を使えないようにして何も手出しできないようにしたというのに、こんな影響があるなんて……」


 魔女はモニカに近づいていく。そして頭を抑えている彼女の手に、自分の手を重ねながら彼女の頭に触れる。


()がこの世界に存在する事が原因なのでしょうね……。だからあなた(・・・)が知りようがない『記憶』の流入が起こってしまった……」


「何を……何を言って……」


 モニカは目の前にいる魔女を恐れるように見ていた。

 しかし、もう一度頭痛が彼女を襲った時、何かに気づいたような顔をする。


「あなた……あなた(・・・)は……!?」


「……あら? もしかして分かってしまいましたか? しかし、すぐに忘れてください。その理由は……言わなくても分かるでしょう?」


 モニカの頭を触れていた手を伝い、魔法が行使された。それによってモニカは痛みで呻いていた表情が何処かへと行き、目を虚ろにさせる。


「先を知る者は、この世界に一人で十分なんですよ」


 魔女が手を退けるとモニカは倒れていく。どうやら気絶したようだ。


「……もう少し、もう少しで最高の環境が整う。その時が来るまであなたは何もしてはならない」


 その言葉を残して、魔女の姿は掻き消えた。





 ◆◆◆◆◆





「あれ……私なんで倒れて……」


 しばらくして目が覚めたモニカを待っていたのは、遠くから聞こえてくる悲鳴。聞こえて来たのはどうやら部屋の外……城内からだ。それから聞こえてくる怒声と剣の鳴り響く音。


「モニカさん! ご無事ですか!?」


 部屋に慌てて入ってきたのはアカネとそしてカンナ。その後ろから一人の兵士。


「どうしたのですか!? 一体何が――ッ!?」


 走り寄ってきたアカネを抱きしめて何が起こっているのか聞こうとした時、モニカは目を見開く。それは一緒に入ってきた兵士が後ろから斬られて倒れたからだ。


「ああ、ここにいらっしゃいましたか。ずいぶんと探しましたよ、聖女様?」


「……ユベール」


 モニカ達三人がいる部屋の入口を塞ぐようにして、紫髪の青年――ユベールはそこにいた。その手には先程兵士を斬り殺したと思われる血のついた刀を持っている。どこか狂気が見える笑顔を向けながらこちらに歩み寄るユベールに、モニカは怯えるアカネを抱きしめながら後ろに後退った。


「モニカ様!」


「ダメ、カンナさん!」


 その間にカンナが立ちふさがるが――あっさりと斬られて終わる。斬られたカンナが血を流しながら倒れていく様をモニカとアカネはただ見ている事しかできなかった。


「どうして……どうしてこんな事をするのですか、シキお兄様!」


「……そんな事我が国の為ですよ。……アカネ、そちらの聖女様と私と共に行きませんか? あんな王子に味方をする馬鹿な婚約者など捨てて――」


「馬鹿はそちらです! いますぐに剣を下ろしてください、シキお兄様!」


 シキの誘いなど受けないと言った風にアカネは断言した。そんなアカネを見てユベールはその虚ろな瞳に悲しさの色を乗せる。


「……そうですか。では、私を貶めてくれたギルバート様に、いい恩返しをしなくては。――という訳でアカネ、貴女には死んでいただきましょう」


 しかしその悲しさもすぐに消える。最初から殺すつもりで来たといったようにユベールは殺気を込めてアカネを睨む。そして刀を構え直すとアカネに徐々に近づいていく。


「……待ちなさい、ユベール。彼女を殺す事は私が許しません」


 モニカがアカネを守るようにして抱きしめる。そんな彼女をユベールはどこか迷うように見ていた。


「しかし……」


「殺してはなりません。それに貴方の目的はこの私なのでしょう? ……これ以上無駄に命を取るのであれば、聖女(・・)である私は許しません」


 モニカはわざと聖女という言葉を使う。するとユベールはその言葉にハッとすると刀を落としその場に(ひざまず)く。


「も、申し訳ございません、聖女様! 貴女様を助ける為とはいえ、少しばかり血が頭に登りすぎていました!」


 そんな様子を見せるユベールをモニカは静かに見ていた。


「かくなる上は我が命を持ってして償いたい所でありますが、今はこの場より聖女様を救出する任を優先したいと思います」


 そう言ってユベールは立ち上がるとモニカを見る。


「……貴方と共に私が行けばもう、この城に被害を加えませんね?」


 自害してくれたほうがありがたいモニカであったが、死ねと命令しても今は聞き入れてくれないだろう。ならばここは大人しく付いて行ったほうが、この城の被害を抑えられるかもしれないと彼女は考えた。


「はい、もちろんでございます。今すぐに仲間にも連絡いたしましょう」


「……そうですか。ではそうしてください」


 モニカはそう言ってアカネから身を離すとユベールの元に歩み寄る。


「モニカさん! ダメです、行ってはなりません!」


「……アカネさん、私のせいで申し訳ございません。カンナさんも巻き込んでしまって申し訳ございません……」


 自分を止めようとするアカネとそして倒れて動かないカンナを、申し訳なさそうに見てからモニカはユベールと共に部屋を出ていった。




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