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気がついたら悪役王子になっていた。  作者: 彩帆
本編

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第二十七話 考察

「あらおはようございます、モニカさん」


 朝日が差し込む少し薄暗い調合室にそんな明るい声が響く。


 手伝いに来たモニカを見るなり、そういったのは頭巾を被ったアカネだ。口元を隠していた布地のマスクを取りながら、この薬草の独特の鼻につく匂いが漂い、細かな薬草のゴミが落ちた部屋を歩いてくる。


「おはようございます、アカネさん。もしかして徹夜していました?」


 モニカは心配するようにアカネを見る。彼女の目の下にはクマが出来ており少し顔色が悪い。


「大丈夫よ~ちゃんと仮眠は取りましたし……」


 そう言って明るい調子で話して笑うものの、足元はフラついていた。


「それよりさぁ、ハル殿下から何か貰わなかったかしら?」


 何処か興味深々といった様子で、アカネはその赤紫色の瞳を輝かせてモニカを見ている。


「ええ、紙で作られた花を。そういえば、アカネさんはこういうの得意なんですよね」


「んーまぁね、他にも色々作れるわよ。興味があるのでしたら今度教えますわ。でも、花に関しては殿下に頼んでくださいね」


「はい、もちろんそのつもりですよ。それ以外は時間が出来たらお願いいたしますね」


 二人して何かを察したのか、互いに照らし合わせるように笑う。


「それにしてもちゃんと渡たせましたのね、ハル殿下。教えた時はちょっと心配でしたけど、そんなにヘタレていませんのねー……」


 そんなことをブツブツと呟きながらアカネがモニカに背を向けて作業台の方に向かおうとする。しかし、疲れが溜まっていたのか、案の定アカネはフラリと後ろに倒れた。


「アカネさん!」


 モニカが慌ててアカネを支えようと動く前に、その横を誰かが素早く通る。


「っと……やっぱりこうなっていたか」


「ギルさん」


 アカネを支えたのはギルであった。ギルは気絶したアカネを抱き抱えると、部屋の入り口に向かう。


「悪い、後は頼んだ。薬は……そこの机の上だな。全部出来上がってあると思うが、足りなかったらカンナか他の薬剤師を呼べ」


「はい、分かりました。アカネさんをお願いしますね」


「ああ、もちろんだ」


 モニカを一人残して、ギルは立ち去って行った。以前の彼ならこのような事をしなかっただろう。それだけモニカを信用したという事だろうか。


 モニカは気を引き締めるように髪を纏めると、頼まれた事をやり遂げようと行動を開始した。





 ◆◆◆◆◆





「……もう、無いのか」


 手を付けていた書類を仕舞い、ハルはそんな事を呟く。昨日約束をした時間になってもモニカはまだ来なかった為、待つ傍ら残っていた仕事をしていた。だが、どうやら今日の分は全て終わらせてしまったらしい。


 夕日が差し込む中、冷めたコーヒーを飲みつつ考える。今朝ギルがやって来てアカネが倒れた事を伝えられた。ギルには彼女に付くように命令したので今も彼女の所だろう。モニカが来ないのはもしかしたらアカネが倒れた影響もあるのかもしれない。



(アカネには無理をさせ過ぎたか。これも俺の監督能力の責任かな……)


 一応城が落ち着いてきた事もあり、しばらくはアカネに休暇を取らせられるようにした。ギルにもしばらく休暇を与えるかと考えた所で、少し目が回る。


(あー俺も少し限界が来てるな)


 頭を押さえつつこのまま寝てしまおうかと思うが、彼女が来るかもしれない。どこか期待するように扉を見つめた。


(……別に来て欲しいなんて思ってない。思っていない……)


 彼女が来る事を望む自分に複雑な気持ちを抱く。


(あぁでも……一番が彼女になれば俺は……いやダメだ……)


 何処か迷うようにハルは苦しむ。昨日晩からこの調子だ。今まではそれを忘れるように仕事に打ち込んでいたが、また彼を苦しませるようにその気持ちが迫る。


 いつの間か、彼にとって自分にとって望むものが分からなくなっていた。


 静かに、今度は睨みつけるように扉を見る。このまま、彼女が来なければいいのに。そうすれば、こんな事にも悩む事がないのかもしれない――


「ハル――ハーロルド様、モニカです。少し遅れましたが約束通り参りました」


 最近はまた閉じるようになった扉を叩く音と共に、そんな声が聞こえてきた。その声に少し驚くように体制を正したハルだが、すぐに声が出なかった。


「ハーロルド様?」


 声が帰ってこないからどこか心配をするように彼女の声が扉の向こう側から聞こえてくる。ハルは慌てて咳払いをしてから、声が震えないようにしつつ口を開く。


「……入れ」


 その声に従うようにガチャリと扉はゆっくりと開いた。現れたのは昨日手渡した紙でできた一輪の白い花を手に持つモニカの姿。


「……これの作り方、教えて下さいますよね?」


 先程まで働いていたというのに、疲れを感じさせない笑顔で彼女はそう言った。






 ◆◆◆◆◆






 夕日が差し込む中、丸い机の上ににはいくつもの花が並ぶ。様々な形をしたそれは本物ではなく紙で作られた花だ。枯れることのない白い花は今もまた新しく作られていく。


「難しいのかなって思いましたけど、結構簡単なんですね」


 モニカは椅子に座って教えて貰った折り方をしながらまた新たな花を作り上げていく。それを向かいに座ったハルが同じく紙を折りながら答える。


「それはモニカが器用だからだと思うんだが……」


 ハルは出来上がった花を見る。やはりよれており、どこかしおれた花のように見えてしまうそんな花が出来上がった。モニカの出来上がった花はとても綺麗に折られたようでよれてなどいない。


「……俺が教えているというのに」


 いくら久しぶりに折るとはいえ、初めて折るはずのモニカとの出来栄えの差にハルは落ち込む。


「お、落ち込まないでください! 私は好きですよ、ハルさんの作った花! なんだかとっても実物に近い感じがします! それに私は紙を折って何かを作る事は初めてではないですし……」


「……そうなのか?」


「はい、私の故郷……スルール王国にも似たようなものがありました」


 そいうとモニカは一枚紙を取り出すと折り出していく。気がつけば鳥の形をしたものが彼女の手のひらに出来上がる。


「花の作り方は知らなかったのですが、こういう物は作れます。といってもこれしか作り方を知らなかったんですけどね。故郷には本当に小さい頃の記憶とこの作り方しか覚えていないもので……」


 手に持った小さな鳥を眺めるモニカはどこか忘れていた何かを思い出そうと複雑な表情をしていた。


「……そんなに故郷に帰りたいか? 今は俺の国の一部だ。どうしてもと言うなら連れて行ってやるぞ?」


 そんな彼女を見ていたハルは思わずそんな言葉を言ってしまう。確か彼女は故郷に行きたくて、あの王国を逃げ出したとも言っていた。


「……私は捕虜ですよ? そんな簡単に連れだしては行けないと思うのですが」


 聞かれたモニカは驚くような表情をしてそして肩をすくめる。


「俺を誰だと思っているんだ? それから今聞いているのは行きたいのか行きたくないかだ。それでどっちなんだ?」


 彼女を捕虜としているのはハルなのだ。だからその扱いなどハルが決める事ができる。彼はそういう地位にいるのだから。そんなハルに聞かれモニカはどこか迷うように答えた。


「そうですね、行ってみたいですね。私を受け入れてくれなかったとはいえ一応は生まれ故郷ですから」


 モニカは自分で作った紙の鳥を通して故郷に対する思いを馳せる。今の故郷はどうなっているのだろうか。あの景色はあのままだろうか。今もまだ魔法嫌いの民が多いのだろうか。自分を受け入れてはくれないのだろうか。複雑な思いばかりであるが、それでもモニカは故郷を思う。


「……そうか。まぁ今は無理だがその内連れて行ってやるよ」


「いつですか?」


「それは……戦争が終わったらだな」


 その答えを聞いてモニカはやっぱりと言ったように落ち込む。落ち込んでいるのは今すぐ行けないからという訳ではなさそうだ。


「……ハルさん。戦争はいつ終わるのでしょうか?」


 モニカは鳥を机に置くと今度は紙の花を手にする。


「このままではまたあの人達のような犠牲者が増えるのでは?」


 今作っているこの紙の花は他でもない、あの手脚のない患者達のためだ。彼らは戦争というものに参加をしていたが為に手脚を失ったのだ。いや、戦場では帰らぬ人となった者達もたくさんいるであろう。


「……そうだな。だがまだ当分は終わりそうにない」


 戦争を始めたのは帝国だ。その国の王子であるハルはどこか責任を感じるように顔をしかめる。


「……せめてルーナ教の神官ように、クリストフさんのように治療魔法が使える人がいればいいのに……」


 確かにこの世界には衰退を迎えそうではあるが魔法という不思議な力が残っている。その魔法が使える者が居れば、あの彼らも手脚を失うこともなく、また命を落とすような人も居なかったかもしれない。


「そういうが……あいつらは信者しか助けないじゃないか。女神ルーナは慈悲深いというがそれを崇める者達はそうではない」


 ハルはどこか吐き捨てるように言う。ルーナ教の神官たちが信じる女神のからの祝福として治療魔法が使えるがその奇跡の力は信者にしか使われない。異教徒や女神を信じない者達には使われないのだ。


「この国はルーナ教を認めてはいるが、同時に他の宗教も認めている。だから彼らはこの国には足を運ばない。彼らにとって神とは女神以外にありえないからさ」


「ええ、そうでしょうね……」


 そう肯定するモニカだった。彼女も分かっていた、彼らは身内しか助けないことなど……。


 沈む夕日の光が差し込まなくなり、暗くなりつつある部屋に沈黙は流れた。


「ねぇ……ハルさん。戦争にはやはり勝つつもりなんですよね。だってそうしないとあなたは死んでしまうから」


 暗がりの向こうから、そんな確認をするような声が聞こえてくる。今までの雰囲気から少し違うような感じを見て取り、ハルはそれに戸惑いを覚えた。


「あぁ……そうだな。だから俺は絶対に勝って――」


「戦争に勝つ……あの時は私の手は借りないと言いましたが、本当は私が必要なんじゃないんですか?」


「えっ……」


 驚くようにモニカを見る。確かに戦争に勝つという条件には彼女が関わっていた。図星を突かれたハルを見てやっぱりといった表情をしたモニカはさらに続ける。


「……どうしてハルさんは私を必要としたのか気になっていたんです。私が居れば死なないといいました。しかしそれなら私を側に置いて置くくらいでいいと思うんです。最悪、無理矢理にでも連れ去ってしまえばいい。だから、あんな風に私に優しく接したり、頬にキスなんてする必要はないですよね?」


 そう尋ねる彼女の顔は暗くて見えない。だが、どこか確信を得たかのような口ぶりだ。




「……ねぇハルさん、その夢の中の私は……あなたを好きになっていましたか?」








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