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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
番外編
89/100

贈り物

本編最終話の後、夏頃のお話です。

「なあ……。もういい加減諦めてくんない? アンタさ、才能ないよ……」


 ぐったりと疲れた様子で、ソルドウィンは自室の机に突っ伏す。

 折角今日は休日だったのだ。のんびり悠々自適に過ごす予定だったのに、この男が急に押しかけて来たのだ。


「いや、ちょっと待ってください。あと、少しで……」


 そんなことを言いながら、手元の金属片がガチャン、と音を立てて割れた。今日何度目だろうか。

 机の隅に出来上がった割れた金属片の山を見て大きく肩を落とすオルスロットに、ソルドウィンもため息を吐く。


 オルスロットがソルドウィンの家に押しかけて来たのは、今朝早い時間だった。そして急に、魔道具作りを教えろと言うのだ。意味が分からない。

 そもそも、ソルドウィンはあくまでも魔術師だ。趣味で多少は魔道具を作れるが、気まぐれにやる程度。

 本職はレイティーシアの方だ。


 しかし押しかけて来た理由を聞いては、レイティーシアに教われ、とは流石のソルドウィンでも言いにくかった。


「別にさ、手作りにこだわる必要ないんじゃないの? 姫さんの誕生日プレゼント」

「それはそうなんですが……」

「豊穣祭の時に、アンタが作ったっていう人形見たけどさ、あれはヤバイよ」

「あれはっ! 別に、関係ないでしょう」

「いやいや、関係あるって。あんなん作り出す人間に、ものづくりはムリだって」


 半笑いで告げるソルドウィンに、オルスロットはより一層項垂れる。普段、常に毅然とした様子のオルスロットの凹みっぷりに、段々と楽しくなってくる。


「ま、あんなん作る人が手作り魔道具をプレゼントしてきたら、流石の姫さんも感動するだろうけどね~。ギャップ萌え、的な?」

「ギャ、ギャップ萌え……?」

「違うか。でもさー、とりあえず魔道具は諦めたら? アンタには無理だって」


 目を白黒させるオルスロットを適当に笑い飛ばし、机から起き上がる。そして山になっている割れた金属片を適当に拾う。

 今作っているのは、本当に初級の魔道具だ。

 金属片に簡単な図形の魔術式を刻むだけだ。効果なんて、ちょっとしたお守り程度。手先が器用な子供なら作れてしまうレベルだ。

 それなのに、この男はいつまで経っても失敗作を量産している。

 図形が歪むのは当たり前。何回も図形を間違えるし、金属片からはみ出すし、果てには力を入れすぎて金属片を割る始末。いい加減、材料も無くなる。


 というか、このままでは魔道具が出来上がる前に日が暮れる。休みを丸一日この男に潰されるなんて、我慢ならない。

 だから、ほんの少し入れ知恵をしてやることにした。


   § § § § §


 その日、朝早くからどこかへ出かけていたオルスロットが帰ってきたのは、日も大分傾いてからだった。


 少ない休みの日で、行き先をレイティーシアに告げずに外出するなど、とても珍しかった。特に、レイティーシアの妊娠が発覚してからは、暇さえあれば傍に居たのだ。

 オルスロットにも用事くらいはある、と思いながらも気になって仕方なかった。散歩と称して庭に何度も出ていたら、付き添ってくれていたマリアヘレナに笑われてしまった程だ。


 少し拗ねた気分で居間のソファに腰掛けていると、着替えを済ませたオルスロットが何やら小さな箱を持ってやって来る。


「レイティーシア、ただ今戻りました。体調に変わりはありませんか?」

「オルスロットさま、お帰りなさいませ。体調は問題ありませんよ」

「マリアヘレナに文句を言われてしまいました。暑い中、大分散歩をさせてしまって申し訳ないです」


 小さく笑いながら謝るオルスロットに、レイティーシアは少し頬を赤く染める。庭に出て帰りを待っていたことをマリアヘレナに告げ口され、恥ずかしい。

 誤魔化すように顔をオルスロットから背け、手元に開きっぱなしだった本へ視線を落とす。

 今日は1ページも進んでいない。


「レイティーシア。これを受け取ってくれませんか? 少し早いですが、誕生日プレゼントです」

「……?」


 ゆっくり近づいてきたオルスロットが隣に座り、そっと小さな箱を差し出す。

 少し歪んだリボンでラッピングされたその箱は、手に取ってみるととても軽かった。


「開けてみてください」

「ええ。……まぁ!」


 箱の中に入っていたのは、小さな桃色珊瑚とパールを数粒、細いリボンに通して作られたブレスレットであった。

 素朴で、いかにも素人が作った感じのそれを手に取り、オルスロットを見上げる。


「もしかして、これはオルスロットさまが?」

「……はい。本当は、魔道具を作れたら、と思ったんですが、俺はどうにもセンスがなくて……」


 眉を下げて落ち込むオルスロットに、笑みが零れる。

 去年見た、昔作ったという豊穣祭の人形を思えば、きっとこのブレスレットを作るのにも苦労したのだろう。貴族女性が着けるには向いていないデザインだが、今年はもう特に社交に力を入れる必要もないから関係ない。


「とても、嬉しいです」

「……よかった」


 ホッとした様子で笑うオルスロットにそっと寄りかかり、レイティーシアは幸せをかみしめるのだった。

豊穣祭の人形は、「豊穣祭2」に出て来たヤツです。


===


新作も投稿しましたので、もしよろしければ読んでいただければ幸いです。

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