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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
86/100

嘘つきはだれ2

 オルスロットは迫り来る刃を見つめ、冷静に剣を引き寄せる。

 背後からの一撃目はレイティーシアの魔道具が防いでくれたおかげで、衝撃を感じただけだった。しかしその反動で体勢を崩し、二撃目への対処が遅れてしまった。

 魔道具は、先ほどの一撃を受けた影響か、壊れて落ちた感覚があった。他の騎士たちも、距離を取っていたため割り込める位置には居ない。


 このままでは間に合わない。


 しかし、オルスロットは焦りも絶望感もなく、ハロイドの動きを見据えていた。そしてあと僅かでオルスロットの首筋に剣が届く、というその時。


「うぐあぁ!」


 暗い森に一条の光が走り、ハロイドは絶叫を上げながら崩れ落ちる。

 オルスロットを狙っていた剣の軌道は大きく反れ、易々と剣から逃れることが出来た。そして直ぐさま倒れているハロイドを捕えると、オルスロットは小さく息を吐く。


「やらせるわけないよねー」

「ソルドウィン、もう少し他にもやりようがあるでしょう……」

「えぇ? 何でさー。コレが一番効率いいじゃん。それともアンタ、もしかして避けられないかもしんなかったから手加減しろってことー?」


 ニヤニヤと嗤いながら完全に馬鹿にした様子で問いかけるソルドウィンに、思い切りため息を吐き言葉を飲み込む。今は何を言ってもきっとロクな言葉は返って来ないだろう。

 なんせ戦況は完全に後手に回っており、ソルドウィンの無茶苦茶な提案に乗る以外に良策がなかったのだ。

 苦い表情で再度ため息を吐いた時、押さえつけていたハロイドがもがき出す。ソルドウィンの術で少しの間失神していたのだが、早くも目覚めたようだ。


「何故だ、何故だ、なぜだっ!? ジルニス! お前はこっち側の人間だろっ! なんでソイツの味方をするんだ!!」

「はぁ~!?」


 土の上に押さえつけられながらも怒鳴り散らすハロイドに、ソルドウィンはわざわざ顔のそばにしゃがみ込むと理解できない、という表情で語る。


「そもそもさ、オレにとって大切なのは才能で、地位とか名誉とかどーでもいいものなんだけど。ジルニス家の人間はそういうもんだってのが常識だと思ってたけど? なのに何でアンタはオレのこと同類だと思ってんの?」

「だがお前は! ただ伯爵家の娘というだけで、あの女を”姫”と呼び、従っているではないか!!」

「はっ! アンタって何も知らないんだね?」


 ソルドウィンは心底馬鹿にした様子でそう言い放つと、もはや興味もないとばかりに離れていく。


 しかし今の発言を信じると、ハロイドはレイティーシアがレイト・イアットであることは知らないようだ。恐らくコルジット等ベールモント王国の間者の手引きもしたであろうに、重要な情報は渡されていないのだろう。

 これではきっと、この戦争に勝利し、ベールモント王国側に行ったとしてもハロイドは早々に切り捨てられていただろう。

 裏切者など、重用される訳がない。


 地位や名誉に固執するばかり、そんな簡単なことにも思い当たらなかったのだろう。いまだ喚き続けているハロイドに、憐れさすら感じていた。


「あの……、副団長。これは……」

「一体、どういうことなのでしょうか?」


 いつの間にかソルドウィンが魔法で明かりを灯して少々明るくなっている森の中、おずおずと他の騎士たちが近づき問いかける。

 仲間だと思っていたハロイドはオルスロットに斬りかかるし、先程まで裏切者として捜索していたソルドウィンは攻撃してくるわけでもない。オルスロット達としてはひと段落着いた心地だが、他の者からしては意味が分からないだろう。


「あぁ、説明せず申し訳ないですね。これは……」

「作戦だな!」

「っだ、団長?」

「なんでここにいらっしゃるのですか!?」


 木々の間から急にバルザックを始め、まだ砦に到着していないはずの増援の一部と思われる面々が姿を現す。オルスロットを導いた蝶とは違う色に光る蝶がバルザックの元からソルドウィンへと飛んでいき、光の粒子となって消えていく。

 ただでさえ状況が分からない騎士たちは、狼狽しっぱなしだ。しかしバルザックやソルドウィンには、説明しようとする素振りはない。

 深くため息を吐き、捕らえたハロイドを他の者に引き渡して立ち上がったオルスロットは簡潔に説明する。


「詳しくは説明できませんが、全てはハロイドを捕らえるための策です」


 ハロイドから同類と思われ、ベールモント王国へ与するよう持ち掛けられたソルドウィンは、それに乗ったふりをして情報を引き出そうとしていた。しかし、ハロイドは思った以上に手段を問わず行動を起こしてくれた。

 おかげでハートフィルト子爵殺害など、想定した以上の被害を出すことになってしまった。

 だからこそ、無茶苦茶ではあるがソルドウィンが裏切ってベールモント王国に行ったふりをし、ハロイドを罠に掛けたのだ。そしてハロイド以外にも伏兵が居る場合を想定し、先行して砦近くまで来ていたバルザックたちを森へ呼び寄せていたのだ。


「明日の午後には残りの者も砦に着く予定だ」

「そうですか。では……」

「おうよ。さっさとケリ付けんぞ」


 ニヤリと笑いながら告げたバルザックの言葉通り、ハロイドという裏切者からの情報流出がなくなり、さらに増援が到着したことであっさりと戦況は覆り、その夜から1週間足らずで停戦へと至ったのだった。

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