戦3
その後、すぐさまソルドウィンを追うために部隊の編成を行う。
ソルドウィンは常に軽い言動で分かりにくいが、かなり優れた魔術師なのだ。そんな人物が敵国についた場合、戦況が大きく変わりかねない。
しかし、出奔したとき共に見回りに出ていた兵をあっさり無力化するような男だ。適当な兵を出したところで被害者が増えるだけだ。戦闘能力の高い騎士を中心にいくつか隊を作り、森へと出動させた。
さらに、オルスロット自身も捜索に向かうため、幾人か騎士たちを集める。そして捜索のために砦を出ようとしたところで、ハロイドと出くわした。
「オルスロット!」
「ハロイド。戻っていたんですか」
「あぁ。私が居ながら、あのようなことになるなど……」
悔し気にそう呟くと、ハロイドは拳を固く握り締めていた。
今日が非番であったハロイドは、丁度昨夜は実家であるハートフィルト子爵邸に戻っていたのだ。そんなタイミングで父親が何者かに殺害されるなど、自分を許せないのだろう。
「子爵のことは、本当に申し訳ない……。家の方は良いのですか?」
「家は、兄たちが居るから問題ない。父のことにしても、早くこの戦を終わらせることが重要だからな。それより、ソルドウィンが出奔したと聞いた。これから捜索に出るなら、私も同行させてくれないか?」
「そうですね、ハロイドであれば実力も十分です。行きましょう」
そして捜索に出た先は、既に日が暮れて闇の広がる森の中。暗く視界は良くないが、大っぴらに捜索もできないため、明かりを付けるわけにもいかない。しばらく闇に目を慣らした後、道などもない森の中を歩きだす。
哨戒経路に沿った捜索は別の部隊の者に任せている。視界の隅に時々入る蝶を横目に、ベールモント王国の国境へ近づくように歩みを進めていく。
「おい、オルスロット。何か手掛かりでもあるのか? 随分、迷いなく進んでいるようだが?」
「……いえ。ただ、きっとこのタイミングで出奔するのであれば、ベールモントの者と接触するでしょうし、それならばこちらの方へ行くかと」
他の者と相談することもなく進んでいく様子を不審に思ったのか、ハロイドが声を掛けてくる。それに我ながら苦しいと思う言い訳をすれば、案の定胡散臭そうな顔をされた。
「本当か? オルスロット、お前実は、ソルドウィンと何か謀っているんじゃないか?」
「そんなことあり得ません」
「本当ですか、副団長?」
連れて来た他の騎士も、不信感を募らせた様子で少しオルスロットから距離を取りながら問う。
ここの所の戦況が芳しくなかったうえに、出奔したソルドウィンはオルスロットと現在親戚関係だ。疑いの目を向けられるのも無理はないのだろう。
ままならない状況にため息を吐きたくなるのを堪え、どう説明したものかと悩んでいたところに、場違いな軽い声を掛けられる。
「あっれー? 皆さん随分と物々しいねぇ?」
「ソルドウィン!?」
「貴様っ!!」
相変わらずの軽い調子のソルドウィンは少し距離を置いて立ち止まり、ニヤリと笑う。
「随分と疑心暗鬼みたいだねぇ?」
「こんな状況を作った貴方には言われたくないですね。レイティーシアを裏切らないのではなかったのですか?」
「姫さんを裏切ってなんかいないさ。オレは、姫さんのために、ココに居るんだから」
「貴様! 何を言っている!?」
おどけた様に言うソルドウィンに、他の騎士たちが憤り、剣を抜く。
森の中で足場は悪いが、大して距離は離れていない。普通の魔術師相手であれば、騎士が負けるような距離ではない。
しかし相手は魔術師一族として名高いジルニス家の人間だ。何より、あからさまに全身に魔道具を纏っており、油断できる状況ではなかった。
緊張感が高まり、全員の意識がソルドウィンに集中していたその時。
「っう……」
「副団長!!」
「な、ハロイドっ!?」
背後に立っていたハロイドが、オルスロットに対して剣を振り抜いたのだった。




