戦2
オルスロットが戦地に着いてから2週間が経過したが、戦況は芳しくなかった。
平原に展開した部隊でもってベールモント王国の軍を押し返そうとすると、するりと避けるように軍を引き、その一方で森を抜けてきた遊軍が砦へと迫るのだ。森に潜んでいる遊軍を押さえるために哨戒の兵も多く出しているのだが、網の目を掻い潜られているのか、今一つ成果があげられていない。
「どうにも、情報が漏れているような気がしますね」
「内通者がいる、ということですか?」
「確信はありませんが……」
部隊長を集めての会議で、オルスロットはため息を吐く。
今のところ森を抜けてくる遊軍の数は多くないため、砦に迫られても大した被害は出ていない。しかし、この2週間で同じような展開に複数回なっているのだ。こちらの兵の士気は下がり気味だ。
しかも、このような展開はオルスロットが着任するまではなかったという。指揮官への不審感や不満も募っている様だ。
「恐らく、今の哨戒の経路などは既に敵に漏れているでしょう」
「では、新たに経路を」
「いえ、哨戒はそのままで。どこに内通者が居るかも分からない状況では、経路などを変えても無駄でしょう。哨戒を行っている場所からは敵が来ない、と考えておけば良いでしょう」
「しかしそれでは……」
「消極的過ぎますぞ!」
「そうです! いつまでも奴らに押されている状況では、兵の士気も下がり続けてしまいます!」
部隊長たちの反対に、オルスロットは軽く眉間に皺を寄せる。部隊長たちにも、オルスロットに対する不審感は募っているのだろう。
しかし、内通者がどこに居るかも分からない状況では、これ以上の作戦について会議で話し合うことも得策でないと考えていた。そうすることでさらに兵や部隊長からの不審感が募りそうだ、と内心で大きくため息を吐く。
とにかくこの会議を一旦お開きにしようと口を開きかけたとき、伝令が飛び込んでくる。
「会議中、申し訳ございません! 至急のお知らせです!」
「報告を」
「はっ! 今朝方、ハートフィルト子爵が何者かに殺害された状態で発見された、とのことです」
「子爵が……!?」
「証拠は見つかっておりませんが、ベールモントの仕業の可能性が高いとのことです」
「……分かりました。貴方は持ち場へ戻ってください」
伝令が退出した後、会議室は重々しい空気に満ちていた。
「至急、街の方にも救援を送りましょう」
「承知しました」
「砦および街周辺の警戒を強化してください。あと、子爵家の方の調査も」
「それは、諜報部隊にて引き受けます」
慌ただしく対応を決定すると、会議は解散となる。
足早に会議室を出ていく部隊長たちを見送り、オルスロットは一人大きくため息を吐く。
完全に、後手に回ってしまっている。砦を抜けられ、その先にあるハールトの街の領主である子爵を害されるなど、前代未聞だ。
いくら哨戒経路が漏れてしまっていても、砦や街の警備はザルではない。子爵も、長年このハールトの街を治めている人物だ。この戦時中に油断するとも思えない。
何かがおかしい。
この戦では、今までにない事態が起きている。
とても嫌な予感を抱いていたオルスロットに、その夜、更なる知らせが届く。
「ソルドウィンが出奔、ですか……?」
「はい。本日夕方に哨戒部隊に同道していたのですが、部隊員全員を魔術で昏倒させ、消えたとのことです」
「哨戒部隊の者たちは?」
「幸い、死者、重傷者はおりません。数日休養を取らせれば問題ないかと」
「……分かりました。貴方は下がってください」
「失礼します」
報告をした騎士が去ったのを確認し、オルスロットは自室の机を強く殴り付ける。
「レイティーシアを、裏切らないのではなかったのですか…!!」
大声を上げて叫びたくなるのを堪え、強く握りしめた拳を睨み付ける。その視野の片隅で、ひらり、と光る蝶が飛んでいた。
オルスロットが非常にダメダメな指揮官な状況になってますが、後々出て来ますが、理由はあります。
あとは単純に私の脳みそが原因です……。




