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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
8/100

苦行のお茶会2

 お茶会当日。早朝からのクセラヴィーラ率いる侍女部隊による身支度で疲れ果てた状態のレイティーシアは、馬車に揺られていた。

 今日のお茶会の会場であるウィンザーノット公爵邸は貴族街の一等地、王宮のすぐ側にある。対してオルスロットの屋敷は市民街の高級住宅地にあり、馬車で移動しても少々時間がかかる。

 立派なオルスロット所有の馬車は、舗装された王都の道では緩やかな揺れしか起こらないため、微睡(まどろ)みそうになっていた。しかし、同乗したクセラヴィーラがわざとらしく咳払いをするので、ハッと背筋を伸ばす。


「奥様。常に姿勢には気を付けてください」

「はい……!」

「奥様のスタイルは非常によろしいのです。姿勢に気をつけて居られれば、その大きな眼鏡も霞んで、美しく見えます」


 今一褒められているのか微妙な評価を受けたレイティーシアの身を包むのは、流行の胸元が広く開いた薄青のドレスだ。コルセットによって元々大きめの胸が更に強調され、胸をコンプレックスと思っているレイティーシアとしては隠したくて仕方がない。

 しかしクセラヴィーラたちの努力の賜である白く輝くデコルテは、むしろ出すべし、という号令のもと大きな装飾品も付けられず、堂々とさらけ出されていた。おまけにこのデコルテをより強調するため、この3日間のお手入れで艶と輝きを取り戻しつつある鈍色にびいろの髪の毛は、一筋も垂らすこともなく結い上げられてしまった。

 姿勢を正していれば一番目に入るこのデコルテでもって、野暮ったい大きな眼鏡の印象を打ち消す作戦だった。


「レイティーシア様、大丈夫です。何かあってもその耳飾りが護ってくれますから」

「マリア、そういうことじゃないと思うの」

「マリアヘレナさん、耳飾りの防護を使う事態などあっては奥様の名誉の問題になりますよ……」


 今日レイティーシアが着けている耳飾りは、レイト・イアットの作品として製作した魔道具の耳飾りだ。手持ちのアクセサリーでちょうどいい代物がなかったため、クセラヴィーラの目にとまった蒼い石が使われた魔道具を身に着けているのだ。

 その効果は結界。魔道具を作動させるための呪文を一言唱えることで結界を張ることができるのだ。これを使用するような事態は、普通のお茶会ならばないはずだ。


 マリアヘレナのどこかズレた発言に苦笑しているうちに、馬車は止まった。ウィンザーノット公爵邸に到着だ。


   § § § § §


 ウィンザーノット公爵家は古くからある由緒正しい家系だ。また、最近では2代前に姫君が降嫁しており、未だ王家との血筋も近しい。

 そんな公爵家の屋敷は重厚な白い石で造られた、宮殿と見まごう立派な建物だった。その威容に気押されつつも入った広大な玄関ホールに、一組の男女が待ち受けていた。

 一人は美しいドレスをまとった金髪、青目の美少女。そしてもう一人はその美少女と少し似た面差しの金髪、緑目の優男やさおとこ

 レイティーシアを見た美少女はパッと笑顔を浮かべ、優雅に礼をする。


「ようこそお出で下さいました、レイティーシア様。わたくし、ナタリアナ・ウィンザーノットと申します。本日はお会いできて嬉しいです」

「ナタリアナ様、レイティーシア・ランドルフォードと申します。本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」


 慌てて、美しく見えるよう気を配りつつ礼をして美少女――ナタリアナへ笑顔を向ける。

 オルスロットやクセラヴィーラから事前にもたらされていた印象と異なり、とても可愛らしいご令嬢だ。ふんわりとした金色の髪や大きなたれ目、そして華奢で小柄なその姿は、守ってあげたくなるような雰囲気を醸し出していた。

 そのナタリアナは隣に立つ男に苦笑を向け、レイティーシアへ紹介をする。


「こちらは、ハロイド・ハートフィルトと申しますの。わたくしの従兄で、本日レイティーシア様がいらっしゃると聞きつけて、どうしても参加したいと押しかけてきたんです」

「はじめまして、レイティーシア様。ハロイド・ハートフィルと申します。第一騎士団に所属しておりますが、オルスロットとは同期で、今まで結婚話のなかった奴が結婚したと聞いて、是非とも奥方にお会いしたいと無理を言いました」

「まぁ、旦那様の同期の方ですのね。はじめまして、レイティーシア・ランドルフォードです。よろしくお願いします」


 ハロイドに手を取られて挨拶をされ、若干身を引く。ナタリアナ同様のたれ目は、色気というか軟派な空気がバンバン飛んでくる。騎士団の同期など沢山居るだろうに、それを主張されても困ってしまう。

 レイティーシアの困惑した空気を汲み取ったナタリアナは、申し訳なさそうな顔で更に爆弾を投下する。


「今まで催し物に全く参加されなかったレイティーシア様が出席されることを聞きつけて、普段なら同行されない夫君やご子息も本日は多くいらしているんです」

「まぁ……」


 今すぐ、回れ右をして帰宅したくなってしまった。しかし、さすがにここまで来てそれも出来ず、ナタリアナの先導について本日のお茶会会場まで着いて行く。


「本当はサロンでお茶会をする予定でしたが、参加人数も多くなってしまったので、本日はガーデンパーティーに変更したんです。まだ早春ですからあまり花も咲いていないのですが……。ショールなどをお持ちしますので、寒い場合は遠慮なく当家の者へ声をお掛け下さい」


 そう言いながらナタリアナが案内したのは、広大なウィンザーノット公爵邸の庭園の一角。温暖なテルベカナン国でもまだ早春のこの時期は、ガーデンパーティーをするには咲いている花が少なすぎる。

 美味しそうな料理は沢山用意されていたが、貴族のパーティーとして黙々と料理を食べるなどあり得ない。話のネタになる花もあまりないこの状況では、否応なしに話題は未だに注目の的であるレイティーシアとオルスロットの結婚についてとなる。


 挨拶時の雰囲気で油断していたが、この状況はナタリアナの計画だろうか。

 次々と参加者の貴族たちから挨拶をされ、そして結婚について色々と聞かれる状況に、そんな考えが頭を過る。あまりにも沢山の人が来る上、元々人の顔と名前を覚えることが苦手なため、ナタリアナとハロイド以外記憶に残っていない。

 必死に笑顔を顔に貼りつかせ、背筋を伸ばして談笑を続けるが、そろそろ色々限界が近づいていた。


 そんな時、急に強い風が吹き抜けた。

 そしてレイティーシアの隣に、黒い男が現れ、その細い腰に腕を回したのだった。

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