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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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豊穣祭3

 気の赴くままにあちこちの出店や旅芸人の出し物を見て回っているうちに、日も傾き始めていた。

 レイティーシアの様子を伺うと、楽し気にあちらこちらを見ているが、やはり少し疲れているように見える。配慮が足りていないなと反省しつつ、レイティーシアに声を掛ける。


「レイティーシア。少しどこか落ち着けるところに入りましょう」

「え……、はい。お気遣い、ありがとうございます」


 少し迷った様子を見せながらも、オルスロットの意図にも気付いたのだろう。少し申し訳なさそうにしつつ、レイティーシアは頷く。


「多分、大通り沿いはどこも混んでいるでしょうから、少し脇道に入りましょう。そんなに奥まで行かなければ問題ないですが、念のため、離れないでください」

「はい。手を離さないよう、気を付けますね」


 繋いだ手を少し持ち上げて微笑むレイティーシアに、オルスロットの表情も柔らかくなる。

 今日一日で、自然と手を繋ぐようになっていた。そのことに、喜びがこみ上げてくる。


 ゆっくりと祭りを楽しみながら適当な道に入り、落ち着けそうな店を探す。

 大通り周辺であればそうそう不審な店もないが、奥まで迷い込んでしまうと一気に治安も悪くなる。変な場所に入り込まないよう注意しながら路地を歩いていると、子供たちが数人、籠を片手に何かを配っていた。


「こんにちは! お花、いかがですか?」

「女神さまのお花だよ!」


 そう言って差し出されるのは、黄色やオレンジ、赤色の花をまとめた小さな花束だった。花自体も素朴なもので、組み合わせもちぐはぐな感じのものが多いが、どこか温かみのあるものだ。

 レイティーシアは子供の目線に合わせてしゃがみ、声を掛ける。


「これはあなたたちが作ったの?」

「うん! お花も育てたんだよ!」

「まぁ、素敵ね。それじゃあ、一つ頂けるかしら」

「はい、どうぞ! お姉さんたちに、女神さまのごかご、がありますように!」

「ありがとう。あなたにも女神様のご加護がありますように」


 舌足らずな子供のお祈りに、レイティーシアが笑顔でお祈りを返す。そして花束を受け取ると、子供たちは元気よく手を振りながら、次の人の元へと走り去っていく。


「ふふふ、元気な子たちですね」

「ええ。この辺の商家の子たちでしょうね」


 レイティーシアの手を取って立ち上がるのを助けながら、彼女の横顔を見つめる。小さくなっていく子供の背を見送るその表情は、とても優しく、美しいものだった。


「レイティーシアは、子供がお好きなんですね」

「そう、かもしれないです。親族以外で小さな子供に会うことはなかったので、あまり考えたこともなかったですけど……。でも、あの子たちを見ていて、とても可愛いと思いました」

「きっと、レイティーシアの子供も可愛いでしょうね」

「えっ!?」

「え? ……あ、いや、特に深い意味ではなく!」


 しどろもどろに弁解をしながら、オルスロットは右手で自身の口を覆う。何の気もなしに口から零れたその言葉は、子供が欲しいといった意図ではなかったのだが、きっと心のどこかにはあった思いなのだろう。

 いつまでも待つ、と言ったにも関わらずこんな言葉を零してしまうとは情けない。

 恐る恐るレイティーシアの表情を伺うと、頬を赤くして視線を彷徨わせていた。困った様子ではあるが、嫌悪感を抱いているわけではなさそうだ。


「あー、えっと。とりあえず、あそこのお店に入りませんか?」

「え、あ。そう、ですね」


 店の吟味など二の次で、適当に近くの店を指す。このままでいるのは、かなり気まずかった。

 レイティーシアも同様だったのか、お店の様子も確認せずに頷いていた。


 そして入った店は、半地下になった薄暗い、なんとも怪しげな雰囲気のお店であった。より一層気まずい雰囲気になりつつ、店内を眺めると、意外な人間たちがいた。

 ソルドウィンとハロイドだ。

 彼らは二人連れだって外出するような仲ではなかったはずだ。


 不審な思いでしばらく見据えていると、一瞬、ソルドウィンと目が合ったような気がした。しかし、常であればレイティーシアを見つければすぐに飛んでくるにも関わらず、ソルドウィンはその後すぐに席を立ち、店から出ていく。

 いつもとは違うソルドウィンの反応と、わざわざ別々に店から出ていく二人に、嫌な予感が募る。


「オルスロット様? どうかしましたか?」

「いや、なんでもないです……。ここで少し休んだら、屋敷に帰りましょう」

「そう、ですね。十分楽しみましたし」


 店に入ってから突然纏う空気を変え、眉間にしわを寄せたオルスロットに、レイティーシアは不安そうに声を掛ける。

 座っている位置の関係で、レイティーシアはソルドウィンに気付かなかったようだ。それならば、余計なことを教えて心配させる必要もない。

 そう考えて露骨に話題を変えると、レイティーシアは困ったように笑いながら頷いた。

 こちらの意図を察して色々と飲み込んでくれる彼女に、申し訳なく思いながらも今回は甘えさせてもらう。


「休みの日くらい、心やすらかに居たいものですね……」


 オルスロットが零した小さな願いは、しかし残酷にも翌日には崩れ去る。

 ”ベールモント王国が国境を越えて進軍”、の報が早馬にてもたらされたのだった。

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