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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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豊穣祭2

 翌日。王都での豊穣祭初日は、とても良い天気となった。

 季節は秋へと移り変わり、段々気温は下がってきているが、未だ日中は暑くなる日も多い。それに今日は人の多い中へと出掛けるのだ。シャツに薄手の上着を羽織った格好でレイティーシアを待っていると、彼女もかなりシンプルなワンピース姿で現れる。

 お祭りは王都全体で行われ、貴族向けに劇場での特別公演なども行われるが、今回の目的はそちらではない。一般市民も集まりやすい商業街の大通り周辺に集まる、様々な出店や旅芸人の出し物を見に行くつもりなのだ。

 上位貴族の令嬢などでは難しいが、それ以外の若い貴族にとっては、王都の豊穣祭とは気楽に出歩き市民と共に祝うイベントだ。オルスロット達同様に、ラフな格好で街へ出かけている貴族も大勢いることだろう。


 少々時間はかかるが商業街まで歩いて行くことにし、レイティーシアと二人で屋敷を出る。


「レイティーシア、どうぞ手を」

「えっ……?」


 利き手とは逆の左手をレイティーシアへと差し出せば、きょとんとした表情でその手を見つめ返される。

 男に手を差し出されてこんな反応をする女性はなかなか居ないだろう。しかも相手は、少し前に想いを伝えてきた人間だというのに。

 相変わらずなレイティーシアの様子に苦笑をしながら、オルスロットはそっと彼女の右手を握り、もっともらしく説明をする。


「今日の商業街は混んでます。はぐれたら大変ですから」

「あ……。そ、そうですね」


 まだ屋敷の敷地からも出ておらず、どう考えてもデタラメな理由であるが、レイティーシアも納得した様に頷く。

 その頬が少し赤くなっているように見え、自然とオルスロットの顔にも笑みが浮かぶ。ほんの僅かでも、意識されている様ならば嬉しいものだ。


「すっかりうちの屋敷も、豊穣祭の飾りで一杯ですね。レイティーシアも手伝ったそうですね?」

「ええ。クセラヴィーラさんたちが誘ってくれたんです。わたしはあまりお役に立てなかったんですけど……」


 そう言って悲し気にレイティーシアがちらりと視線を向けるのは、庭の一角。豊穣祭の飾りとして一般的な黄色やオレンジ、赤といった暖色のリボンが巻き付けられている(・・・・・・・・・)1本の木だ。お世辞にも、飾られているとは言い難い有様だ。

 あんなに繊細な魔道具を作るレイティーシアの作品とは思えないものではあるが、彼女の様子からするに、あの木は彼女が飾り付けたのだろう。


「ははは、意外ですね。貴女はこういったことは得意かと思っていました」

「あんなに大きなものを飾るのなんて、魔道具作りとは全然勝手が違いますもの! クセラヴィーラさんも、直してくださればいいのに……」


 拗ねたようにそう言うレイティーシアに、オルスロットは小さく笑いながら軽く手を引いて彼女の注意を引く。


「豊穣祭の飾りつけは家の者全員で行うのが伝統ですから、貴女の作品そのままを残したかったのでしょう。クセラヴィーラはそういった所をこだわりますから。俺なんて、10年以上前に作ったあの人形を、毎年飾られてます……」


 その人形は、一応豊穣の女神を模したものだ。自他共に認める、芸術センスの欠片もないオルスロット作であるため、言っても誰もモチーフなど分からない、一応人型の何かだ。

 毎年、何かと忙しくて屋敷の飾りつけを手伝えないため、有無を言わせずソレが庭の片隅に置かれるのだ。今年は、レイティーシアが飾り付けた木の根元に置かれていた。

 夫婦の共同作品となったその場所は、少々カオスな状態だ。


 なんとも言い難いその場所からそっと二人で視線を反らし、手をつないだまま外に出る。

 オルスロットの屋敷の周りの家々も、それぞれ盛大に飾り付けがされていた。市民街の高級住宅地であるこの辺りは、貴族街ほど格式張っておらず、なかなか個性溢れる飾り付けをする家もある。

 見物に来る人も多く居るため、豊穣祭の時期は意外と賑わっているのだ。お祭り特有の賑やかな空気が満ちており、レイティーシアの顔にも笑みが広がっていた。


 レイティーシアの様子に安心すると、オルスロットは名物と化している家を色々と紹介しながら、商業街へ向かって歩く。


「あそこの家は、毎年あの像を門の前に飾るんです。ご当主とご夫人を創造神と豊穣の女神に見立てた像ですが、毎回違うデザインなので、毎年見に来る人も多いらしいです」

「何というか……、すごいですね」

「ええ。色々な意味で、すごいです」


 キラキラ、というよりギラギラ光る像を通りがてらに見物をしたり、色々な家の飾りの感想を言い合ったりしながら、ゆっくりと街を歩く。そして辿り着いた商業街の大通りでも、気の向くままに旅芸人の出し物を見物したり、出店の食べ物を分け合って食べたりとお祭りを満喫する。

 何を心配する様子もなく穏やかに笑うレイティーシアに、オルスロットも自然と笑みが零れていた。

 自身の左手にある温もりが、何よりも幸せであった。

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