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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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囚われ1

 時は少し遡り、まだオルスロットが倉庫街にも辿り着いていない頃。

 唐突に意識が浮上したレイティーシアは、鈍い痛みを訴える頭に小さな呻きを漏らす。


「うぅ……。なにが…………?」


 固い床に横になっていた体を起こすと、はらりと銀色の髪の毛が胸元へと流れ落ちる。結い上げていたはずの髪がなぜ解かれているのだろうか。

 今一つはっきりしない記憶に眉をしかめる。


「あぁ、よかっタ。目を覚ましたのデスネ、奥様」

「えっ……? っランファンヴァイェンさん!」


 少し掠れた、けれど聞き慣れた声を掛けられて視線を周囲に巡らせる。

 薄暗く静かなこの場所は、物置部屋なのだろうか。狭い部屋には木箱が置かれているだけであり、レイティーシアも隙間の床に転がされていた。そして少し離れた壁際には、ぐったりとした様子のランファンヴァイェンが居たのだった。


 壁に繋がれた鎖で左腕を頭の高さで括られ、いつも着ているゆったりとした服は土や血で汚れている。顔も、表情こそ笑顔を作っているが、あちこちに傷があった。

 慌ててランファンヴァイェンへ近付こうと立ち上がるが、一歩踏み出す前にツンのめる。


「痛っ! なに……?」

「奥様。ワタシは大丈夫ですから、落ち着いて下さイ。多分、足枷が付けられているのではないですカ?」

「足枷?」


 まさか、と思いながらドレスを少し持ち上げて足首辺りを確認してみると、ランファンヴァイェンの言う通り足枷が付けられていた。両足首に金属の輪を嵌められ、その金属の輪の間を短い鎖で繋がれているものだ。

 さらに自身の身形を確認すると、服装に乱れはないがレイト・イアットの魔道具、オルスロットから贈られたブレスレット区別無く、装飾品は全て外されていた。ブレスレットが無くなっていることに気落ちしながらも、さらに怪我がないことまで確認すると、そっと立ち上がる。

 足枷の鎖は普通の歩幅で歩く程の長さは無いが、小さな歩幅であれば歩くことは可能だ。慎重に、少し時間を掛けながらランファンヴァイェンの側へ寄る。


「ランファンヴァイェンさん、一体、何があったのですか?」

「ワタシにも、詳しいことは分からないデス。予想は付きますガネ。ああ、奥様。ワタシの傷なんカ、治さなくてイイですヨ」

「治さなくていい傷なんて無いです! どうか、わたしに治療させて下さい」

「イエ、だめデス。奥様は魔力を温存しなけれバいけませン」

「でもっ!」


 静止を聞かずに治癒魔法を掛けようとするが、ランファンヴァイェンの自由になる右手でまとめて両手を握られる。

 レイティーシアを見据えるランファンヴァイェンの顔は、今まで見たこと無い程厳しく、真剣なものであった。


「奥様。今回貴女がココに囚われている原因は、ワタシのセイです。でも、元々の目的は、貴女ダ」

「…………わたしが、レイト・イアットだから?」


 きゅっと眉根を寄せ、レイティーシアが問うと、ランファンヴァイェンはゆっくりと頷く。


「奴ラは、ワタシに貴女のことを聞いてきまシタ。一切喋りはしてイナイのですガ、ワタシを捕らえた時点で既ニ、奥様がレイト・イアットである確信があったのデショウネ……。奥様をお守り出来ナクて、本当ニ申し訳ありませン」

「そんなこと! ランファンヴァイェンさんのせいではありません。旦那様やお義母様にも注意されていたのに、わたしの注意が足りなかったのです」


 そうランファンヴァイェンに返し、レイティーシアは唇を噛み締める。


 レイト・イアットであることを隠すためにもっと慎重に行動していれば、ランファンヴァイェンはこんな目に合うことはなかったのでは無いか。

 レイティーシアが攫われる時、アンゼリィヤも酷い怪我を負っていた。それに、誘拐の現場となった馬車の御者も、きっと何かしらされているはずだ。


 全て、全て、レイティーシアがレイト・イアットであったことが原因だ。


 深く後悔の念に囚われていると、そっと頭を優しく撫でられた。


「奥様。そんな顔をしないで下サイ。ワタシは、貴女の作品が好きデス。貴女に出会えて、貴女の作品に関われたことハ、喜びでアリ、後悔などありまセン」

「でも……!」

「奥様。ワタシは昔、奴隷だったんデス」

「えっ?」


 唐突な話にきょとんとした表情でランファンヴァイェンを見ると、にっこりと微笑みを返される。


「若い頃、祖国を飛び出しテ放浪しているうちに、奴隷商に捕まっちゃいマシテ。デモある時、偶然出会ったガルフェルド様がワタシの国の魔術、しゅに興味を持チ、ワタシを買い取って下さいマシタ」

「伯父様が……」

「ハイ。そのおかげデ、また素晴らしいモノに沢山出会うことガ出来ましタ。その中デモ、奥様の作品程、初めて見た時ニ感動したモノはありませン。本当ハ、ガルフェルド様もワタシに奥様の作品を見せたのはただの自慢で、売る気は全く無かったンですヨ。でも、どうしてもアノ素晴らしい作品に関わりたいト、色々交渉したのはワタシ自身デス」

「えっ!?」


 驚きに目を見開いていると、ランファンヴァイェンが申し訳なさそうに目を伏せる。


「だから、奥様のセイではないンデス。キッカケを作ったのハ、ワタシデス。ワタシが、奥様を危険に晒したンデス」

「そんな……」

「だから、奥様。何があってモ、貴女を無事に帰しマス」


 そう言い切るランファンヴァイェンは、何かを決心したような表情であった。

 その表情に不安を覚え口を開こうとするが、その前ににっこりと笑ったランファンヴァイェンに右手を取られる。


「サテ、奥様。ちょっとしたお守りを描きマショウ」

「え……っ!?」


 くるりと掌を上向きにされ、そこにランファンヴァイェンが指で何かの紋様を描いていくのだが、一瞬光った後消えていくのだ。

 サラサラと呪印しゅいんを描いたランファンヴァイェンは、一見いつも通りの様子であるが、薄っすらと額に汗を掻き、辛そうであった。


「ランファンヴァイェンさん……!」

「大丈夫、デス。久しぶりにやったのデ、ちょっと疲れただけデスヨ」


 苦しげでありながらも、いつもの様な笑みを浮かべようとする様子に、レイティーシアは言葉を失うのだった。

 そして両手でランファンヴァイェンの右手を握ると、精一杯にっこりと微笑む。


「ありがとうございます」

「どういたしましテ」


 レイティーシアの言葉に安心した様子で再度笑ったランファンヴァイェンに、描いた呪印のことを聞こうとした時だった。


「おっ! 起きてんじゃん、レイト・イアット」


 そんな言葉にと共に、コルジットが入ってくるのであった。


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