表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
60/100

御前試合2

 御前試合は近衛騎士団、第一騎士団、第二騎士団の団長と、さらに軍のトップである将軍が揃って取り行う『開会の儀』から始まる。ただ、『開会の儀』とは言っても固いものではなく、各団長と将軍から出場者への激励の言葉が掛けられるだけだ。

 ほんの10分程度で『開会の儀』は終わると、すぐに1回戦が始まった。


 出場者達は騎士服の上に革製の鎧を身に着け、刃を潰した剣という全員共通の装備で戦っている。一瞬で勝負がつく試合、鍔迫り合いのまま制限時間を迎える試合など様々あり、会場内には金属のぶつかり合う音と客席からの声援が溢れかえっていた。

 しかしそんな中、レイティーシアはポツリと呟く。


「やっぱり全然わからないわ……」

「今のは第一の奴が第二うちの騎士を舐めすぎていたからな。あっさり返り討ちにされたのだ」


 眉間にうっすらとしわを寄せて試合を見るレイティーシアに、アンゼリィヤは小さく笑いながら説明をした。


「さっきの試合は第一騎士団の方と第二騎士団の方だったの?」

「ああ、騎士服を見れば分かる。私や副団長の様に、上下共に黒は第二騎士団。上着は白で下が黒は第一、上下共に白が近衛だな」

「そうなのね。近衛の方は、汚れが目立ちそうで大変ねぇ」


 しみじみと呟くレイティーシアに、アンゼリィヤはくつくつと笑いを漏らす。


「シアの目の付けどころはそこなのか。普通の令嬢方にとって白の騎士服は、素敵な旦那候補の指標なんだけどね」

「リィヤ姉様! 笑いすぎよ!」


 いつまでも喉を震わせているアンゼリィヤに、レイティーシアは拗ねたように軽く腕を叩く。しかしそれでも笑いが止まらない様子に、一度強く腕を強く叩いてため息を吐く。


「もうっ! だって私は結婚しているもの。それより、リィヤ姉様」

「何? シア」

「団長さんとお付き合いしているの?」

「っな……!?」


 意趣返しとばかりに、数日前から気になっていたことを問い掛けると、アンゼリィヤの顔があっという間に赤くなる。右目の下に傷跡があることもあり、普段は勇ましい印象が強いアンゼリィヤだが、なんとも可愛らしい反応だった。

 レイティーシアはにっこりと笑いながら、アンゼリィヤの紅い髪に隠れたピアスを指す。


「そのピアスと対の物を団長さんが着けていたって旦那様が言っていたけれど?」

「これは、その……」


 右耳に揺れるピアスはシンプルなデザインの、金と紅い石で作られたものだ。アンゼリィヤの色合いと同じそれは、特別目立つものではない。

 しかし、幼い頃から共に居るレイティーシアにとっては違和感のあるものだった。


 なぜなら、アンゼリィヤは装身具を身に着けることを極端に嫌っていたのだ。

 レイティーシアが作った魔道具ですら、装身具という形では受け取らなかった。おかげで、剣に取り付けられる特殊な魔道具を作ることになり、後にそのことを知ったソルドウィンが盛大に駄々を捏ねるといった騒ぎがあったくらいだ。

 そんなアンゼリィヤがピアスを着けている。しかもオルスロット曰く、同じ様なものを団長であるバルザックが左耳に着けていたというのだ。

 これで邪推をするな、と言う方が無理がある。


 じぃっと見つめるレイティーシアから顔を反らし、アンゼリィヤは苦しげに説明する。


「これは、この前任務で、団長と夫婦の役をする必要があったから……」

「でも今も着けてるのは、任務だからじゃないでしょう?」

「それは、バルっ……団長がしつこいから仕方なくだっ!!」


 バルザックを名前で呼びそうになりながら言い放つアンゼリィヤの顔は、相変わらず真っ赤であった。

 ここまで動揺されると、明らかに何かあったとしか思えない。

 しかし口を真一文字に固く結び、金の瞳で睨むようにレイティーシアを見据えている様子に、これ以上の追求は諦めることにするしかない。あまり突くと、オルスロットの試合の前に屋敷へ帰る、と言いだしそうな状況だ。


 レイティーシアはにっこり笑い、試合へと視線を戻す。


「なんにしても、リィヤ姉様が良い人と巡り合えたのなら、嬉しいわ」

「だから、違うとっ!!」

「あ、旦那様だわ!」

「っ。あぁ、もう……」


 否定の言葉を遮られたアンゼリィヤは悔しげに唇を噛みながら、試合場へ視線を戻す。

 そこにはレイティーシアの言葉の通り、オルスロットが登場していた。いつも通りの漆黒の騎士服の上に皮の鎧を纏い、剣を片手に携えている。


 既に結婚したとはいえ、多くの貴族令嬢達がその妻の座を狙っていた様な人物だ。ひと際大きな歓声が上がり、思わずアンゼリィヤは顔をしかめていた。

 しかし試合場に立つオルスロットは歓声には何も反応せず、ちらりとレイティーシア達が居る席へと視線を送る。

 多くの観客が居るが、レイティーシア達の席は関係者用の分かりやすい位置にある。すぐにレイティーシアを見つけたらしいオルスロットは、ほんの少し口元を緩めて笑みを浮かべると、正面に向き直る。


 そして試合は一瞬で決着が付いていた。

 今までの試合の中でも最短と思われる時間での決着に会場が静まる中、審判役の騎士の宣言がなされる。


「勝者、第二騎士団副団長、オルスロット・ランドルフォード」


 それにどっと会場は沸くが、オルスロットは対戦相手である近衛騎士団の騎士に礼をすると、あっさり退場していく。

 その冷淡とも言える態度に、若い令嬢達のものと思われる黄色い歓声が更に上がり、一層会場は盛り上がっていた。


 しかしそんな会場の空気とは対照的に、レイティーシアは呆然としていた。そして去っていくオルスロットの背を静かに見送りながら、ぽつりと小さく呟く。


「旦那様って、本当にすごい方なのね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ