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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
6/100

奥方の真実3

 レイト・イアット。


 それは、数年前に現れた正体不明の魔道具技師だ。性別すら明かされていない、の技師が作成した魔道具は非常に性能が高かった。

 効果自体は、結界を張る防御系や簡単な治癒術といった至って一般的なものばかりだ。だが、燃費が非常に良いのだ。


 魔道具は、簡単に言ってしまえば、魔法が使えない人々でも魔法を使えるようになる代物だ。しかし、発動させるにはやはり魔力が必要になる。魔術師でなくても大抵の人間は多少の魔力を持っているため、魔道具はほぼ全ての人が使える物ではある。

 だが、強力な魔道具では多くの魔力が必要になるのだ。また、粗悪品であれば大量の魔力を使う割に大した効果がなかったりもする。そのため消費する魔力が少なく、効果が高ければ性能の高い魔道具、ということになる。

 レイト・イアットの魔道具は正にそれに該当する。


 また、彼の者の魔道具は総じて美しい装飾品の形態だった。魔道具を構成する術式を、美しい装飾の中に混ぜ込み、それでいて効果は損なわない。

 まさに、天才的な作品だった。

 そのため、レイト・イアットの魔道具のファンは魔術師や騎士といった実戦で必要とする者以外にも、貴族や富豪にも多い。他の工房製の魔道具に比べて数も少ないことも相まって、年々価格が上がってもいる。

 それに伴い、もちろんレイト・イアットをかたる模造品も出てくるのだが、それはすぐに見破られてしまう。なぜならば、レイト・イアットの魔道具に必ず入っている刻印が特殊なのだ。

 RとIを美しい紋様の中に織り込み、そしてその紋様が不思議な色彩を持つのだ。特殊な塗料を使用しているのか、時々によって色の変わるその刻印は、他の魔道具技師では真似が出来ず、何よりのレイト・イアット製魔道具の証となっている。


 その刻印が、今オルスロットの手の中のペンダントに刻まれていた。


「レイティーシア、貴女がレイト・イアットだと……?」

「はい。チェンザーバイアット領に居る頃より、製作を行っていました」

「それで、今日は魔道具作成中に事故を?」

「ええ。新しいことを試してみようと思ったのですが、少し失敗してしまいました」


 肩をすくめて苦笑するレイティーシアに、絶句する。


「いや、その前に、何故言わなかったのです」

「言わなかったとは?」

「レイト・イアットだと」

「それは、レイト・イアットであることを知る人間は少ない方がいい、という方針なもので」


 あっさりと言ってのけるレイティーシアに、頭が痛くなる。


「……この家に入ったのです。いつの日か、露見するとは思わなかったのですか」

「先日までは、一応自重して製作は行っていなかったのです。でも、旦那様が屋敷内は好きにして良いと仰ったので。この部屋を立ち入り禁止にしてしまえば問題ないかな、と思いました」

「いくらなんでも、楽観視しすぎです」

「そうですね。こういった失敗する場合を想定しておりませんでしたわ」


 のんきに笑っているレイティーシアは、とても凄腕の魔道具技師には思えない。

 しかし、彼女がレイト・イアットであったのは、思いがけない収穫である。


「……ちなみに、今後もレイト・イアットとしての製作は続けるおつもりですか?」

「はい。私の唯一の取り柄であり、趣味なので」

「わかりました。では、製作のための部屋を用意しましょう」

「まぁ! よろしいのですか」

「はい。このように居室を破壊されるのは困りますし、何よりもここは市街地ですから爆発騒ぎはもう御免です。ちゃんと対策を施した部屋を作りますので、それまではしばし製作を控えてください」

「ありがとうございます!」


 長めの前髪と大きな眼鏡で隠されてもありありと分かるほどの喜色を浮かべ、礼をするレイティーシアに、オルスロットは目を細める。貴族らしからぬ、とても御しやすそうな性格の女性だ。

 そしてレイティーシアは、ひとしきりマリアヘレナと喜びを分かち合った後、オルスロットをそっと見上げておずおずとお願いを口にする。


「あの、旦那様。私がレイト・イアットであることは、口外されないようにお願いします」

「分かっています。それに、貴女のレイト・イアットとしての収入は貴女の自由にして頂いて構いません。ただし、一つだけ条件があります」

「何でしょうか?」

「少量で構いません。いくつか、魔道具を融通して頂きたい」


 レイト・イアットの魔道具は美術品としての価値も高いが、それ以上に魔道具としての性能が高いのだ。

 魔力量のあまり多くない者が大半の騎士団にとって、性能の高い魔道具はより騎士団員の生存率を上げる代物である。特に前線に立つことの多い第二騎士団にとっては、魔道具の最高峰であるレイト・イアット製の魔道具は喉から出る程欲しいものだ。

 しかし、価格が高騰しすぎてとてもではないが手が出なかった。申請しようものなら、財務部門からの嫌味が増えるだけだった。


 それが、思わぬところで最高の伝手が手に入ったのだ。利用しないわけにはいかない。


「もちろん、材料費などは出します。装飾性も不要です。だから、どうか受けて頂けませんか?」

「……レイト・イアットは、私の趣味の一環でもあるのです」

「趣味だから、こんな依頼は受けないと?」


 オルスロットは表情を険しくさせ、まとう空気も冷たいものになった。その雰囲気に委縮し、レイティーシアはビクリと体を震わせた。

 しかし気丈にも顔を上げ、分厚いレンズと長い前髪越しにオルスロットを見据える。


「違います。こんな、趣味の一環で旦那様たち騎士の方のお役に立てるのならば、光栄です」


 にっこりと唇が笑みを形作る。


「私の作品が、多くの貴族方にコレクションされていることも知っております。でも、魔道具は道具ですから。使って頂きたいのです」


 レイティーシアはオルスロットの手からペンダントを受け取り、そのペンダントトップを優しく撫でる。そしてそのペンダントをオルスロットの首へとそっと掛けた。


「私は、護るために魔道具を作成しております。必要としておられる騎士方に、ぜひお届けしたいです」


 このペンダントもどうぞお持ちください、と告げるレイティーシアの笑顔は非常に美しいものだった。

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