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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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願い1

「今日はどうしましょう……」


 居間で一人、レイティーシアは途方に暮れたように呟く。


 ナタリアナの件が終結してから2日。レイティーシアは早くも時間を持て余していたのだ。


 対外的にはレイティーシアは療養中ということになっているが、実際には健康そのものだ。あの夜会の翌日は、使われた魔道具の影響か多少のダルさはあったのだが、それも今となっては治まっている。

 元々外に出ることは多くなかったので、外出できないこと自体はあまり構わない。しかし社交シーズンになるに当たり、オルスロットから控えるよう要請された魔道具作りについては許可を貰っていないのだ。勝手に魔道具作成を行うのも気が引ける。


 クセラヴィーラに勧められ、普通の貴族女性が時間を潰すために行う刺繍をやってみたところ、無意識に魔術式を縫い取っていた。色々な意味で危ない。

 そうやって色々と自粛していると、やることがなくなってしまったのだ。

 いい加減オルスロットに魔道具作成の許可を貰おうと思っているのだが、最近より一層忙しい様で、会うことすらできない状況だった。


「旦那様には許可を頂いていないけれど、もう魔道具作成をしてしまおうかしら……」


 頭を過る思い付きに心がグラつきながら、一つため息を吐く。

 レイティーシアがレイト・イアットであると結びつくような行動は、慎むべきだ。イゼラクォレルにも注意されており、重々承知している。しかし、ソルドウィンの結界もあるこの屋敷の中でなら問題ないのではないか。

 そんな思いが拭いきれずに、背中を丸め、もう一度ため息を吐いた。


 そこに、クセラヴィーラが声を掛ける。


「奥様」

「っ、はい! な、なんでしょうか、クセラヴィーラさん?」

「そこまで慌てなくても良いではないでしょうか……」


 居間の入り口に立つクセラヴィーラの茶色の瞳は、何か言いたそうだ。慌てて背筋をピンと伸ばすと、少し呆れたように苦笑を零される。


「奥様、お客様がいらしております」

「お客様、ですか?」


 客が訪れる予定などなかったはずだ。そもそも仮病で療養となっているので、大半の訪問者はレイティーシアに取り次がれることがないのだ。

 心当たりのない訪問者に首を傾げる。


「ランファンヴァイェン、という商人です。どうやら、旦那様が手配したようですので、応接室へ通しております」

「ランファンヴァイェンさん! 分かりました、参りましょう」


 オルスロットが手配した、ということはランファンヴァイェンには仮病であることは伝えているのだろう。

 魔道具以外にも、ランファンヴァイェンが取り扱う商品は珍しいものが多い。良い気晴らしになる。

 そんな思いを胸に赴いた応接室では、ランファンヴァイェンと彼の助手であるコルジットが待ち構えていた。

 二人揃って訪れるのは久しぶりだ。最近はランファンヴァイェンも忙しい様子で、コルジット一人が訪れることが多かったのだ。


「こんにちは、ランファンヴァイェンさん」

「ええ、お久しぶりデス、奥様」


 ニコニコと笑顔を浮かべたランファンヴァイェンはソファーから立ち上がり、レイティーシアを迎える。


「何やら、色々と大変ダッタようデスネ。大丈夫デスカ?」

「ええ。この通り、何事もないです」


 ランファンヴァイェンがどこまで知っているか分からないが、コルジットも居る状態であまり迂闊なことは喋れない。曖昧に笑いながら、話題を変える。


「近頃はあまりランファンヴァイェンさんはいらっしゃらなかったけれど、お忙しいのですか?」

「エエ。嬉しいことに、ワタシの国の商品を皆サマが気に入ってくれたようデス。それにコルジットも良く仕事をしてくれマスから。仕事を任せられマス」


 ちらり、と後ろに立つコルジットへ視線を送り、ランファンヴァイェンは嬉しそうに笑う。今までなかなか良い助手に巡り合えなかったと昔言っていたのだが、コルジットにはとても満足そうだ。

 レイティーシアの元に何度か訪れたコルジットの仕事ぶりは、まだ拙い部分もあるが、しっかりしたものだった。


「そうですか。それは良かったですね」

「エエ、ありがとうございマス。さて、奥様。今日は、オルスロット様とソルドウィンの坊ちゃんからの贈り物デスヨ」

「旦那様、とソルドウィン?」

「そうデス。コルジット」

「はい。こちらになります」


 そう言ってコルジットが差し出すのは、小さいけれどもズシリと重たい箱だった。


「ソレは、ソルドウィンの坊ちゃんからデス。内容はワタシが選びまシタけど、きっと気に入ると思いますヨ」

「なにかしら?」


 ニコニコと笑って箱を開けるよう促すランファンヴァイェンに従い、箱を机に置き、開封する。


「まぁ……!」

「また”竜の石”が入ったので、是非奥様にと思いましてネ」


 箱の中に入っていたのは、拳ほどの大きさの、中心が青く光っているように見える透明な石――”竜の石”だった。魔力を溜めやすい性質を持つ、珍しい石だ。

 以前にもランファンヴァイェンから結婚祝いとして貰った石でもあるが、あの時のものより格段に大きい。


「こんな大きなもの……。良いのですか?」

「エエ。きっと奥様なら、喜んでくれると思ってイマシタ。代金はソルドウィンの坊ちゃんからタップリ貰ってマスから、遠慮せずに受け取ってクダサイ」

「ふふ、ありがとうございます」


 おどけたように言うランファンヴァイェンに笑みを返しながら、礼をする。しっかりと”竜の石”を胸に抱いて笑うレイティーシアは、心底嬉しそうであった。

 その様子をランファンヴァイェンはニコニコと見守るだけだが、コルジットは不思議そうに首を傾げていた。


「奥様は宝石などでなく、そのような石でお喜びになるのですね」

「ぁ……。えっと、私…………」


 何てことのない様子で疑問を口にしたコルジットの言葉に、レイティーシアはハッと我に返る。

 普通の感覚であれば、コルジットの質問は当たり前だ。貴族の女性が、珍しいとはいえ宝石でない石でこんなに喜ぶなど、普通ない。


 どう取り繕おうかと必死に頭を回転させているレイティーシアと対照的に、ランファンヴァイェンは落ち着き払っていた。そして何てことないようにコルジットに説明する。


「奥様は昔から、珍しい石が好きなのデス。女性では珍しいデスガ、石のコレクターは良く居マス。そんなに不思議ではないデショウ?」

「そう、ですね。奥様、失礼しました」

「いいえ。……でも、変わり者であることには変わりないですから。このことは、内緒にお願いしますね」

「はい、もちろんです。お客様の事を吹聴するような商人は、信用できませんからね」


 恥ずかしげに笑ってお願いすると、コルジットは真剣な表情で頷く。どうやら納得してくれたようだ。

 ホッと息を吐いて慎重に”竜の石”の片づけるレイティーシアは、コルジットの金茶色の瞳に未だ疑惑の色が浮かんでいた事には気付くことはなかった。

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