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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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むかしの話3

 しばらく無言でオルスロットのことを見つめていた。しかし彼も譲るつもりは無い様だ。申し訳なさそうな表情で有りながら、蒼い瞳は有無を言わせない強い光を宿している。

 大きくため息を吐き、顔を覆う大きな眼鏡に触る。


「その様なこと、知ってどうするのですか?」

「知っていれば、貴女に二度と同じ様な目に遭わすことが無い様、気を付けることができます」


 きっぱりと言い切るオルスロットの言葉に、レイティーシアは小さく笑う。

 同じ様な目に遭わせない。そんな風に綺麗事を言うのではなく、気を付ける、という現実的な物言いがオルスロットらしいと思う。


 もう一度深くため息を吐いてから、重い口を開く。


「聞いて、楽しい話ではありません。それに、もう終わった、昔の話です」


 そうして語り始めるのは、もう10年以上前の出来事と、そのきっかけ。

 全てのきっかけは、レイティーシアが生まれるよりもずっと前、両親の結婚だった。


   § § § § §


 チェンザーバイアット家とジルニス家は、元は一つの家だった。それが二つの家に分かれたのは、ずっと昔。魔術の才を持った弟と、その弟を支えることを決めた兄が、決めた事だった。

 そして魔術を極め、さらに魔術の才を持った次代を求めて婚姻を行うジルニス家。ジルニス家のサポートとして政治や領地経営を行うため、貴族の繋がりを重視した婚姻を行うチェンザーバイアット家となったのだ。


 その様に二つの家の役割が分かれ、それぞれの方針で家が継続して行く中。両家の関係が疎遠にならない様、一定の代でチェンザーバイアット家とジルニス家の間でも婚姻は行われていた。

 そう、レイティーシアの両親の様にだ。


 しかしレイティーシアの両親は、両家が婚姻する様に定められた代ではなかった。幼馴染だった二人が自然に惹かれ合い、そして結ばれたのだ。

 二人が両家の定めた代ではないが、恋愛結婚した。それだけならば、特段大きな問題ではない。血が近くなりすぎるのも好ましくはないが、当時はそこまで近かったわけでもない。そろそろ両家の婚姻を、といった話題が出ていた頃でもあった。

 しかしタイミングが悪かったのだ。


 当時のチェンザーバイアット家当主の弟――レイティーシアにとっては大叔父に当たる人物を中心とした一派が、異国の商家との縁談を進めていたのだ。その異国の商家と結びつくことで、チェンザーバイアット領に新たな経済的な発展を見込むと共に、当主家の国内での結び付きを弱めようとしていたらしい。

 また、その一方で自身の子供には国内の有力貴族との縁談を進めており、国内での自身の発言力を当主家よりも強めようとしていたという。

 つまり当主にはなれないながらも、野心家であった彼の人物は一族の縁談を使って、自身の力を強めようと画策していたのだった。


 そんな最中さなかに、当時既に恋仲だったレイティーシアの両親は、自身たちが引き裂かれる前にと強引に結婚をしたのだ。

 ちなみに、大叔父の策略については後々判明したことであり、当時の二人は全く知らなかった。しかし、図らずも大叔父の策略を阻む結果となったのだ。

 そのため一族、特に大叔父の一派からは八つ当たり混じりに、一族の利益よりも私情を優先した、と非難されることとなった。

 しかしそれも、レイティーシアの母の兄――若くしてジルニス家の当主となったガルフェルドがあっという間に宮廷魔術師として地位を確立したことにより、収まっていく。

 ジルニス家を通し、宮廷に大きな伝手が出来たからだ。異国の商家と結びつくよりも、明らかに大きな益がある。レイティーシアの両親はそうして認められ、一時はチェンザーバイアット家も落ち着いたのだった。


 だがその落ち着きも、レイティーシアの誕生と共に崩されることとなる。


  § § § § §


「私、母方の曾祖母そうそぼに似ているんです」

「え……?」


 唐突に切り出した話題に、オルスロットが戸惑ったように蒼い瞳を見開いてレイティーシアを見ている。しかし詳しい説明はしないまま、話を続ける。


「母は、ジルニス家の出身ですが、あまり魔術の才がありませんでした。だからか、私の兄弟には誰一人、魔術の才能を持った者は生まれませんでした。私以外」

「以前、そう仰ってましたね」

「覚えていらっしゃいましたか……」


 随分と前にちらりと話したことをオルスロットが覚えていたということに、自然と笑みが零れる。そして、ずっと躊躇っていたソレを実行に移すため、そっと眼鏡へと手を伸ばす。


「旦那様は、チェンザーバイアット家の人間にほとんど会ったことがないので違和感がなかったのだと思いますが……」


 そう言いながら眼鏡を外し、まっすぐオルスロットの瞳を見つめる。


「私のこの髪色と、瞳の色は、一族の中では無い色なんです。母方の曾祖母以外」


 久方ぶりに眼鏡を通さず人前に晒す、紫色の瞳を、そしてクセラヴィーラ達の努力のおかげで艶を取り戻し、銀色に輝く髪の毛を思い、レイティーシアはため息を零した。

随分と遅くなりました……。


ちなみに、レイティーシアの兄弟は魔術の才がないという話題は、5話の「奥方の真実2」での話になります。

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