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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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消えた招待状3

 クセラヴィーラとマリアヘレナを従えながら応接室に入ると、いつも通り風変わりな異国の服を(まと)ったランファンヴァイェンと、見慣れない少年が待っていた。

 ランファンヴァイェンはソファーに座っているが、少年はソファーの後ろに立っていることから、助手といったところだろうか。まだあどけなさも残る少年をちらりと見ながら、挨拶をする。


「こんにちは、ランファンヴァイェンさん。あなたからいらっしゃるなんて珍しいですね」

「コンニチハ、奥様。急に申し訳ないデス」


 レイティーシアが入ると同時に立ちあがって出迎えたランファンヴァイェンは、申し訳なさそうに笑いながら急な来訪の理由を告げる。


「今日お邪魔シタ理由は、新しくワタシの国の物を扱うことにしたので、その宣伝デス」

「ランファンヴァイェンさんの国の物を?」

「ハイ。ワタシの国は南の方の小さい国なので、この国では珍しい物がイッパイですヨ」

「まぁ、そうなんですね」


 にこにこ笑いながら説明するランファンヴァイェンの話に合わせながらも、内心で首を傾げる。今までランファンヴァイェンは魔道具専門だったのに、急にどうしたのだろうか。


「そうなんですガ、まだ知られていない国の物を広めるのは難しいので。旧知の仲のガルフェルド様に相談したラ、奥様達に色々試して貰って評判を広めて貰えば良いとネ」

「奥様()?」

「ハイ。奥様や、姉妹方デス。チェンザーバイアット家のお嬢様方は、皆さま王都に嫁いで居られるので、良い機会デス」

「まぁ。伯父様は姪を差し出したのね?」

「ワタシの事を信頼してくれてルって言うことだと思ってマスヨ」


 茶化しながら問えば、ランファンヴァイェンも笑いながら返す。そして、これはガルフェルド様からの紹介状ネ、と手紙を手渡された。その際にパッチリとウィンクを送られ、ハッと息を飲む。

 不自然なランファンヴァイェンの行動の理由が、この手紙に書かれているのだろう。不審に思われない程度に文面を隠しながら、手紙を読む。


 手紙では、先ほどランファンヴァイェンが説明した表向きの理由と、本当の狙いが説明されていた。

 本当の狙い。それは、レイト・イアットの魔道具の納品だ。

 ランファンヴァイェンの商品を試すお茶会を姉妹で開き、そこで魔道具の受け渡しも行え、ということだった。

 お茶会は2週に1度くらいの頻度で行うが、魔道具は作れた時に不定期で渡す。そして魔道具の対価は、次回のお茶会までに査定をして渡されるとのことだ。

 そしてこのランファンヴァイェンの商品を試すお茶会は、他の貴族たちにも行っていく予定らしい。


 姉妹は皆、レイティーシアがレイト・イアットであることは知っている。そして、マリアヘレナを始め、姉妹がそれぞれチェンザーバイアットから連れてきた侍女の一部も既にそのことを知っている者が居る。

 しっかりと同行する人員を選定すれば、リスクも低く、不審ではないお茶会を開くことが出来る。そして今後対象が広がっていくことにより、ランファンヴァイェンが魔道具を入手した経路も分かりにくくなる。

 今まで、ランファンヴァイェンが他の商売を行うことを考えもしなかったので、思いつきもしなかった策だが、これ以上の手はないだろう。


 レイティーシアも、大きな眼鏡のせいでほぼ見えないだろうが、にっこりと笑みを浮かべる。


「久しぶりにお姉様達にも会えますし、珍しい品も楽しみですわ」

「ハイ。楽しみにしててくだサイ」

「そちらの少年は、このために新しく雇われたんですか? 初めてお会いするわ」

「そうデス。この子も、ガルフェルド様に紹介して貰ったのデス。コルジット、ご挨拶を」


 そうランファンヴァイェンが声を掛けて初めて、少年が礼をする。薄茶の髪と金茶色の瞳の、平凡な雰囲気の少年だ。頬に散ったそばかすが素朴な印象を強め、いかにも異国人といった見た目のランファンヴァイェンと対照的だった。


「はじめまして、奥様。コルジットと申します。どうぞ、よろしくお願いします」

「はじめまして。よろしくお願いするわ」


 まだまだ見習い、といった雰囲気のコルジットは、レイト・イアットとしても付き合うことになるのだろうか。そこはこれからの様子を見てからだろう。


「ああ、そうだ奥様。せっかくですカラ、今日も少し商品を試しませんカ?」

「今日……?」


 せっかく来たのだから、といったランファンヴァイェンの申し出に、レイティーシアは逡巡する。背後のクセラヴィーラがピリピリしていて怖いのだ。あまり時間は無い気がする。

 しかし、そう思ってちらりとクセラヴィーラを見ると、彼女は思案顔でランファンヴァイェンに話しかける。


「商品とは、どのようなものですか?」

「今日は慣れない人にも好まれやすいお茶を、いくつかお持ちしてマス」

「そうですか……。では、お湯などを用意しますので、試させて頂けますか?」

「ハイ、勿論」


 意外な展開にクセラヴィーラを見上げると、キリリとした茶色の瞳と合う。


「珍しい、美味しいお茶であれば、手土産に丁度いいと思います。思いがけないタイミングですが、助かりましたね」

「……そう、ね」


 国中から様々なものが集まるであろう公爵家へのお土産など、多大な悩みの種だ。

 しかし他国、しかもランファンヴァイェンの容姿から推測するに、決して近隣の国ではない。そんな場所の物であれば物珍しさは随一。そして良い品物であれば文句は無い。


 今まで魔道具専門とはいえ、とても信頼できる商人であるランファンヴァイェンが用意した品だ。悪いものではないはずだ。

 思いがけず良い物が手に入りそうで、レイティーシアも笑みを零した。

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