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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
23/100

内密の会議

 数種類の酒とつまみを用意し、飲み会場所にしたオルスロットの書斎の周囲の人払いをする。そしてウイスキー片手に既に上機嫌なバルザックを冷ややかな視線で見据えていると、ニヤリと笑われた。


「オルス、お前がこんなに誰かに執着するなんて珍しいな」

「……は?」

「あ? もしかして自覚無しか?」

「団長サン、何言ってんの?」


 黙って好き勝手にワインを飲んでいたソルドウィンが、首を傾げながら尋ねる。隣でストレートのブランデーをガンガン飲んでいたアンゼリィヤも、不思議そうにバルザックを見ていた。

 オルスロットも眉間にしわを寄せ、視線でバルザックへ説明を求める。


「オルス、お前は人当たり良いからあんまバレてねぇけど、はっきり言って、他人に興味ねぇだろ?」

「……」

「ま、指揮官として必要な力量やら適正やらを見るのは得意だから、騎士としては問題ねぇが」

「ならば問題は無いでしょう」


 憮然とした面持ちで返すオルスロットに、バルザックは少し苦笑いをする。


「まぁな。でも、お前友達いねぇだろ?」

「ぶっは! 団長サンひっどい」

「…………」


 オルスロットは更に眉間のしわを深め、バルザックを睨む。しかしそんな睨みには一切動じないバルザックは、そのまま話を続けてニヤニヤと笑う。


「お友達すらいないレベルの、表面的な人付き合いしかしてこなかったオルスがだ! 奥方のことはしっかり庇うし、あっさり部屋に引っ込めさせるし。これが執着でなくなんだってんだ!」

「っ……余計なお世話です。それより団長、そんな与太話よたばなしをするため俺の家に来たわけではないでしょう?」


 ギリ、と唇を噛んだオルスロットは、より眼光を強めてバルザックを睨みながらも無理やり話題を変える。色々な意味で、これ以上この話題を続けられるのは不愉快だった。

 そんなオルスロットの様に、ニヤニヤと笑っていたバルザックも小さく肩を竦め、その話題転換に乗ってやる。


「しょうがねぇな、本題入るか。おいアンゼ、密書で言ってた報告の詳細は?」

「……ここで聞きますか?」

「騎士団はどこに耳目があるか分かったもんじゃねぇ。コッチのがよっぽど安全だ」

「俺も居るけどいいの?」


 明らかに騎士団の報告だろう話題に、面白そうにしながらもソルドウィンが口を挟む。しかし、バルザックはニヤリと口を歪めつつ、金褐色の瞳に強い光を込めてソルドウィンを見返す。


「おう、お前さんも巻き込まれてもらうからな」

「はぁ!? 巻き込むの?」

「せっかくちょうど良く優秀なのが居るんだ。使わねぇ訳ないだろ」

「ふざけんな! 俺、帰るから」

「まぁ待て。ちょっとハートフィルト子爵家が怪しいってだけの話だ」

「姉さん!? なんっで勝手に聞かせてくるのさ!?」


 慌てて立ち上がったソルドウィンだったが、隣に座っていたアンゼリィヤにガッシリと腕を掴まれ、そして勝手に報告内容の一部を聞かされる。

 一部とはいえ、内密な報告の内容を聞いてしまえば、もう立派な関係者だ。しかも巻き込む気満々な騎士団面子はニヤリと笑い、さらに情報を追加していく。


「北のベールモント王国の商人が出入りしているのでしたっけ?」

「商人ではなく、商人に扮した者たちの様です」

「……国境でそんな怪しい奴らは止められるんじゃないの? 姉さんが居た北の兵って、そのために居るんじゃないの?」


 諦めたようにソルドウィンは話の中に入ってくる。

 ハートフィルト子爵領は、北の国境に接した位置にあり、そして国境は第二騎士団が警備をしている。アンゼリィヤは、つい先日までその北の国境警備任務に就いていたのだ。

 薄く笑いながら、アンゼリィヤはソルドウィンの疑問に答える。


「正式な通行手形を持っているから、そう止められぬのだ。友好関係になくとも、ベールモントと我が国は国交が途絶えているわけではないからな」

「正式な通行手形、か。じゃあ向こうさんは、国ぐるみなんだね……面倒だなぁ」

「ハートフィルト家には不審な商人が入国した事は連絡済みですよね?」

「はい。しかし、その後ハートフィルト家からは、問題なしとの返答のみでした」

「問題なし、ですか。一体何を考えているやら……」


 面倒そうに呟き、オルスロットは手近にあったワインを一口飲む。

 不審な人員の侵入など、警備の強化等検討が必要になる事柄である。それが問題なし、とは不審な事態だ。


「ベールモントに関しては最近軍備も増強してるしな。国境に面したハートフィルト家が警戒しねぇ訳がねぇ。何を考えてるんだ?」

「そこまでは分かりませぬ。しかし、ハートフィルト子爵家が今更ベールモントと繋がるのも不審な話です」

「だな。ハートフィルト家はウィンザーノット公爵家と縁続きになって、中央ともパイプが出来たんだ。隣国の手引きをする必要性もねぇな」

「どっかでハートフィルト家の報告がすり替えられたとか?」

「あり得ないとは言えませんが、現実的ではありません」


 各地の領主家から軍への報告は、近隣に詰めている部隊へ報告し、内容によっては王都に居るオルスロット達まで上がってくる仕組みだ。

 ハートフィルト子爵家の場合、同じ街の中に国境警備部隊が居るのだ。使いの者が街の中を走っている間に、報告がすり替えられるなど、到底現実的な話ではない。


「ここで話し合っててもラチ明かねぇな。上にも報告してるが、調査は必要だな」

「諜報部隊も動くでしょうが、このレベルではまだうちが主体でしょうからね」

「だな。つーことで、宮廷魔術師のソルドウィン殿」

「……何?」


 急に改まったバルザックに、嫌そうに顔を顰めつつもソルドウィンは律義に返事をする。


「ま、別に何かを依頼するわけじゃねぇ。だが、お前さんもなんか情報を手に入れたら教えて欲しい」

「そんなもん? それなら別に構わないよ。俺だってテルベカナン国に仕えてるからね」


 面倒事に盛大に巻き込まれることを予想していたソルドウィンは、少し意外そうに首を傾げる。それを見て、アンゼリィヤが小さく笑う。


「お前は今まで散々、自分本位に周囲を振りまわしているだろう。こうも簡単に協力するとは、皆思っておらぬのだ」

「え、ひっどい。俺、仕事はちゃんとするよ?」

「だがその分、無茶苦茶な要求もするであろう?」

「まぁそうだけど」


 悪びれもしない弟の様子に、アンゼリィヤはため息をつく。つくづく、組織に属することに向いていない人間だ。

 そんな兄弟のやりとりを横に、バルザックがふと思い出した様に声を上げる。


「ああ、そういえば。ハロイド・ハートフィルトがうちに異動になる」

「何故です?」

「さぁな。この件に関連して、うちで監視しろってことなんじゃね?」

「……アレは第一騎士団であることにやたらと固執しているので、面倒事でしかないですよ」

「そうなんだがな。上からの命令だ。ま、頼んだぜ」


 丸投げする気満々なバルザックに、オルスロットは盛大にため息を吐くのだった。

 どうでもいい設定ですが、バルザックとアンゼリィヤは酒豪。オルスロットは嗜む程度。

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