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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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春の嵐3

 稽古、という名の決闘後。結局アンゼリィヤとソルドウィンはそのまま夕食まで食べて行くらしく、堂々と屋敷に居残っていた。


「二人とも、お仕事は大丈夫なの?」

「私は今日王都に着いたばかりだからな。仕事は明日からだ」

「俺は、まぁ、いつものことだし?」

「それはサボりと言うのですよ」


 オルスロットの冷めた視線がソルドウィンに突き刺さる。しかしソルドウィンはそんなこと一切気にしておらず、アンゼリィヤに絡み出す。


「姉さん、魔法完封されてたじゃん。ダメじゃん。姫さん守れないよ~?」

「喧しい! お前とて、近くに居たのに、易々と副団長にシアを攫われているではないか!」

「や、そうだけど。姫さんの結婚、チェンザーバイアット伯爵は認めてるし。ねぇ?」


 レイティーシアへ同意を求めるソルドウィンの金の瞳には、助けを求める色が多大に含まれていた。彼は自分から絡むくせに、8歳年上の姉がどうにも苦手のようだ。魔法騎士とはいえ肉体派の騎士と、頭脳派の魔術師では相容れないものがあるらしい。

 しかしレイティーシアとしては、久しぶりに見る兄弟のやり取りは微笑ましいものだった。クスクスと笑いながら、そのまま見守る。


「……貴方達は随分と仲がいい、というか、レイティーシアに対して過保護ですね」


 そんなやり取りをしていると、オルスロットがどことなく不機嫌そうな空気をまといながらそう言ってくる。蒼い瞳が、久しぶりに薄氷の様な冷たい色をしていた。


「それはシアが幼いころ、うちで過ごしていたからだろう」

「そうそう。そのころは姫さんのこと煩く言う爺共じじいどもも居たしね~」

「一体どういう……?」


 蒼い瞳に困惑の色も乗せたオルスロットが、レイティーシアを見るが、小さく頭を下げて説明を拒否する。


「大したことではないんですが、もう昔のことですし。何より、チェンザーバイアット家のことなので……」

「あまり言いたくない、と」

「はい。……申し訳ありません」

「いえ、構いません。俺こそ、申し訳ない」


 そんな二人のやり取りを、アンゼリィヤとソルドウィンは小さく肩をすくめて見守っていた。


   § § § § §


 夕食も、小さな言い争いはありながらも平和的に終わった。オルスロットとアンゼリィヤの、騎士団名物とも言われるフードファイトにてミニ決闘その2も開催されたが、あくまでも余談だ。

 そして食後に談笑を、と食堂からの移動でちょうど玄関ホールに差し掛かった時だった。


「よおオルス! 邪魔すんぜ~」

「!? 団長?」


 何の前触れもなく、扉が強引に押し開けられた。そしてまるでオルスロット達が居ることを見越していたように、ニヤリと笑いを投げかけながらバルザックが屋敷へ侵入する。

 扉が押し開けられた瞬間に警戒態勢を取っていたオルスロット達だが、バルザックに不敵な笑みを投げかけられ、一瞬で脱力していた。そしてオルスロットの背後へと押しやられたレイティーシアは、広い背中の陰から、その獅子の様な男を見上げて首を傾げる。


「団長さん?」

「おっ、ちょうど奥方も居んのか! お初お目にかかる。俺は第二騎士団団長のバルザックだ」


 一応騎士らしい礼を取るバルザックに、レイティーシアも淑女の礼を返す。


「はじめまして、レイティーシア・ランドルフォードと申します。お目にかかれて光栄です」

「……うん、こりゃ良い嫁さんだな。オルス、よかったな!」

「団長、殴ってもよろしいでしょうか?」

「はっは! やれるもんならやってみろ」


 レイティーシアの主に胸部に向けて不躾な視線を送っていたバルザックから隠すように、前に出たオルスロットは氷点下の笑みを向ける。おまけにアンゼリィヤからも、全力の殺気が放たれる。

 しかしそんな二人を意に介した様子もなく、豪快に笑い飛ばすバルザックは、右手に持った酒瓶を掲げる。


「ま、冗談は置いといてだ。せっかくアンゼが帰ってきて、おまけにオルスの奥方にもお目にかかれたんだ。一杯やろうじゃねぇか?」

「……人の家に侵入しておいて言うことですか?」

「細けぇことはいいじゃねぇか! ちょうど良くソルドの坊ちゃんも居るし、ぱぁっとやろうぜ」

「坊ちゃんとか、意味分かんない呼び方いい加減やめてくんないかな? やっぱ騎士団の脳筋って嫌だわ~」


 全員に絡み出すバルザックは、まるで酔っぱらいの様なテンションだ。客人だがどう対処したものか、と苦笑しながら悩むレイティーシアに、オルスロットはそっと指示をする。


「レイティーシア。とりあえず、アレはこちらでなんとかするので、部屋に戻りなさい」

「ですか……」

「気にしなくて構いません。酒が入ると余計に面倒になりますから。どうせ、レイティーシアのことも一目見れれば、それで満足しているはずです」


 さぁ、とそのまま階段の方へ押しやるオルスロットの蒼い瞳は、有無を言わせない迫力が籠っていた。ここ最近では少し和らいでいたオルスロットのまとう空気が、なんだか今日は冷たい、というか刺々しい。

 一体何なのか、と思いながらもレイティーシアは大人しくオルスロットに従うのだった。

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