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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
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春の嵐2

 アンゼリィヤ・ジルニス。

 ジルニス家長女でソルドウィンの姉。そしてレイティーシアの従姉である彼女は、魔術師一族の中では珍しい騎士だった。

 といっても、剣と共に魔術を使いこなす、魔法騎士だ。そして所属は第二騎士団。つまり、オルスロットの部下だった。


「何故、貴女がここに居るのです……」

「それは貴殿が呼び戻したからであろう」

「いえ、そうですけど、そういう意味ではなく。何故屋敷の前に居たのです」


 とりあえず門を挟んでのやり取りは目立つ、ということでアンゼリィヤを敷地内に招き入れて話を聞くのだが、敵意をむき出しにオルスロットへ突っかかっていく。

 その会話が成り立たない様にため息を吐いたオルスロットを見て、レイティーシアは困惑しながらも間に入る。ちなみに、ソルドウィンは面白そうに見ているだけだ。


「えっと、リィヤ姉様はなにかご用があっていらっしゃったのでしょうか?」

「シア! 私の可愛いシアを無理やり妻にしたやからを手打ちにするためにな」

「手打ち……」


 良い笑顔で言い放つアンゼリィヤに、レイティーシアは言葉を失う。確かに、昔から猪突猛進な所のある人だったが、ここまでだっただろうか……。


「嗚呼、北になど配属されていなければ、この話が出た瞬間に手打ちに出来たものが……。安心して私に任せてくれ! また平穏な日々を取り戻してくれよう!」

「アンゼリィヤ・ジルニス、落ち着きなさい」

「リィヤ姉様、落ち着いて!」


 一人盛り上がるアンゼリィヤに、オルスロットとレイティーシアは声を掛けるのだが、突っ走っている彼女は戻ってこない。力強く拳を握り、今にもオルスロットへ殴りかかりそうだった。


「そうなった姉さんは気が済むまで戻ってこないよ。諦めて決闘したらー?」

「……仕方ないですね」


 けらけら笑っていたソルドウィンの無責任な言葉に、オルスロットも盛大なため息を吐いて頷いていた。


   § § § § §


 場所を移して屋敷の裏庭の一角。そこは、休日にオルスロットが鍛錬を行ったりするために、土を踏み固めて作った場所だった。


「結界も張ったから、姉さんが魔法を使っても大丈夫だよ」

「余計なことを……」


 にやにや笑いながら言うソルドウィンに、オルスロットはため息を吐いている。

 ソルドウィンの隣の安全圏に居るレイティーシアも、一緒にため息を吐いていた。こういう時ばかり、無駄に仕事が早いのだ。


「騎士団として私闘は禁じられていますから、これはあくまでも、稽古です。宜しいですね」

「……致し方なかろう」


 距離を取って向かい合うアンゼリィヤとオルスロットが手にするのは、稽古用の模造剣だ。訓練のために、何本か屋敷内に常備している物らしい。

 模造剣で刃は潰してあるが、重さなどは本物の剣と変わらない物だ。当たれば痛いし、当たり所が悪ければ殺すことも出来てしまうという。そんな物を使って二人が戦うなど、恐ろしくて見ていられない。

 はらはらしながら見つめていると、眉間にしわを寄せたオルスロットがレイティーシアへ視線を送る。


「そんなに心配する必要はありません。我々騎士にとって、模造剣を使っての対人稽古は日常的に行っているものです。互いに、引き際も心得ています」

「ですが……」

「アンゼリィヤ・ジルニス。レイティーシアが心配します。殺気を抑えなさい」

「……致し方ない。シアを悲しませるのは本意ではないからな」


 オルスロットをぎらつく金の瞳で睨みつけ続けていたアンゼリィヤも、少しその迫力を抑える。そして小さく笑いながら、レイティーシアへ誓う。


「シア、安心してくれ。決して、稽古の域を超えて戦いはしない」

「…………約束ですよ、リィヤ姉様?」

「ああ、勿論」


 その言葉にほっと息を吐き、未だ心配は残っているが口をつぐむ。これ以上は野暮だろう。


 一応レイティーシアが納得したのを確認した二人は、それぞれ剣を構える。正眼の構えのアンゼリィヤと、下段の構えのオルスロット。

 しばらく互いに相手の出方を窺っていたが、まずはアンゼリィヤが距離を詰める。そしてその勢いを剣にも乗せて切り込むが、あっさりとオルスロットに受け止められている。

 そのまま幾度も剣を合わせるが、次第にアンゼリィヤの息が上がっていく。一方のオルスロットは、まだ涼しげな顔をしていた。


「やっぱ、伊達に副団長はやってないね」

「旦那様のこと?」


 小さく呟くソルドウィンを、レイティーシアは見上げる。正直、剣のことなど分からないレイティーシアにとって、二人の力量差など分からないのだ。


「そう。姉さんも剣の腕は悪くないんだけどね。アイツは嫌味なくらい、的確に相手の弱点を突いてる」

「そうなの?」

「うん。姉さんは、なんとか魔法を繰り出そうとしてるんだけど、アイツはそれを許さないんだよね。ホント厭らしい」


 つくづく嫌そうな顔をするソルドウィンに、レイティーシアは首を傾げるしかない。まじまじと二人の戦いを見ても、二人が剣を合わせていることしか分からない。


 そしてそんな時間は、比較的すぐに終わり迎える。

 アンゼリィヤの剣が弾かれ、オルスロットがアンゼリィヤへ自身の剣を突き付けた。


「……参った」


 苦々しげなアンゼリィヤの降参の声に、スッと剣を引いたオルスロットは、そのまま距離を取った。そしてある程度離れてから、互いに礼をする。


「納得しましたか?」

「……騎士たるもの、決闘に敗れたからには潔く引き下がるもの。だが、納得はしておりませぬ」

「はぁ……。まぁ、稽古ならばいつでも受けますよ。これから貴女はしばらく王都勤務ですし」

「もし。シアを泣かせたら、本気で首を狙わせて頂く」


 金色の瞳に物騒な光を乗せたアンゼリィヤは、オルスロットを睨みつけるのだった。

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