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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
16/100

噂2

 しばらくして硬直から回復したオルスロットは、気まずそうな顔をしているバルザックに笑みを向けて話を促す。


「それで、その噂とは?」


 その蒼い瞳は氷のごとく冷めきり、まとう空気はもはやブリザード並み。

 普段オルスロットの怒りの空気にも動じることなく飄々(ひょうひょう)としているバルザックでも、冷や汗をかいていた。恐らくこの空間に気の弱いものが入れば、あっという間に気絶してしまうだろう。

 バルザックはガシガシと金褐色の髪を掻き毟り、噂話の詳細を記憶の片隅から引っ張り出す。


「あー、確か、お前の奥方が男に抱きついていた、とか。怪しげな店に入って行ったとか、だな」

「……そう、ですか」


 話を聞いたオルスロットは、すいと目を細める。そして深々とため息を吐きながら、短い黒髪を掻き混ぜる。

 普通の貴族の女性ならば気を使う最低限のレベルだろう。貴族女性らしくない、とは思っていたが、その辺の気の回し方も違うのか……。


 凍てついた空気をまとって何度も深いため息を吐いているオルスロットに、バルザックも引き攣った笑いを送る。部屋の空気が悪すぎる。


「でも、ほら、もしかしたら別人のことかもしれねぇぞ?」

「何故です?」

「だってよ、お前結婚披露パーティーすらしてねぇじゃん。お前の奥方の姿、俺だって知らねぇぞ。噂話も別人のことを、今話題のお前の奥方のことにして騒いでんじゃねぇの? この話、貴族の女性陣の間で盛り上がってるだけらしいし」

「なぜ団長が貴族の女性陣の間で話題の噂話を知っているのかも気になるんですが……。しかし、先日ウィンザーノット公爵令嬢のお茶会に出席しているので、その時に知り合った人が見かけたのであれば本人でしょう」


 そのオルスロットの言葉に、バルザックは絶望した顔になる。気休めの別人かもしれない、が効かない!

 更に金褐色の髪をグシャグシャに掻き毟り、とりあえず、とオルスロットに命令をする。


「オルス。お前明日から3日間休め」

「は……?」

「奥方が浮気してるとしたら、新婚なのに放置しすぎなお前も悪いだろ。奥方の機嫌を取ってこい」

「いや、別に、それは……」

「つべこべ言わず休め!」


 予想外の展開に呆けていると、バルザックは金褐色の瞳をすがめて更に畳みかける。


「てか、お前休まなすぎだ。もう異動の準備も終わってんだ。いい加減休め。上官のお前が働いてばっかだから、他の奴らも休みにくいって言ってたぞ」

「……それは、申し訳ないです。しかし、団長は休んでますし、皆も気にすることはないでしょう」

「おい、俺がサボってるみたいな物言いやめろ。てかそれ以外にも、お前が働いてばっかだから、そろそろ上から注意が来そうなんだよ」


 将軍のお説教怖ぇよ、と嘆くバルザックは心なしか顔色が悪い。今まで色々やらかして何度か食らった将軍のお説教は、嫌な思い出らしい。

 獅子のようなバルザックが小動物のようにプルプル震える姿は見ていて愉快ではあるが、気持ち悪い。


 確かに仕事は多少落ち着いているし、周囲が休みにくい環境にしたいわけでもない。強硬に休みを断る必要もない。

 オルスロットは小さくため息を吐いて、震えるバルザックに了承の言葉を投げる。


「分かりました。明日から3日間、休みます」

「そうか。助かる」

「ええ。では団長、しっかり、書類の処理は頼みますよ」


 にっこりと笑みを浮かべながら、明日以降オルスロットが処理する予定だった書類の山をバルザックの執務机に積み上げる。


「え、ちょ……」

「俺が休みでも、書類の期限は延びませんから」


 さて、明日からどうしましょうか。と呟くオルスロットの横では、バルザックが顔を青褪あおざめさせていた。

この国の軍部の体制としては、トップが将軍で、その配下に近衛騎士団、第一騎士団、第二騎士団がある設定です。

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