噂1
レイティーシアから大量の魔道具を納品された翌日。オルスロットは早速その魔道具の一部をバルザックへ渡していた。
「これ……。作りはシンプルだが、全部レイト・イアットの刻印が入ってるじゃねーか……!」
「ええ。本物ですから」
「本物って、まじかよ……」
いくら脳筋なバルザックでもこれには単純に喜んだりせず、己の右腕でもあるオルスロットをじっとりと見やる。
「おい、オルス。お前一体何やったんだ?」
「何をやった、とは人聞きの悪い。ただ単に、レイト・イアットへの特別な伝手が出来たんです」
「特別な伝手だぁ?」
「はい」
バルザックが獅子のような己の風貌により凄みを加えるが、オルスロットは一切意に介さず涼しげに続ける。
「特別に、デザインは簡素なもので簡単な魔道具をまとまった個数納品してもらえるようになりました。今回は、癒しの魔道具が10です」
「今回はってことは、定期的に色々な魔道具を納品してもらうのか?」
「はい」
「……代金は? うちは金ねーぞ」
少し卑屈げに唸るバルザックに、オルスロットは小さく笑う。
「ご安心を。材料費のみ、という契約です」
「材料費だけなら、まぁ、なんとかなるか……? 経費で落ちるか、それ?」
「落とします」
きっぱりと言い切るオルスロットに、金褐色の髪を掻きむしっていたバルザックは視線を合わせる。そして少しだらけた姿勢のままだが、金褐色の瞳に強い光を込めて確認をする。
「脅したりとか、なんか犯罪行為には手を染めてないな?」
「はい。誓って、そのような卑劣なことは行っていません」
バルザックを見返すオルスロットの蒼い瞳をしばらく見据え、そしてニヤリと笑う。
「分かった。んじゃ、遠慮なく使わせてもらおう」
「はい。とりあえず、この10個はこの春からの第一部隊に支給しようと考えています」
「あー、第一って王都で扱くやつらか」
「……団長の、直轄部隊です」
微妙なバルザックの捉え方に、オルスロットのこめかみが一瞬引き攣った。しかしそんな様子も笑い飛ばしたバルザックは、そういえば、とわざとらしく話題の転換をする。
そしてその話題に、オルスロットは硬直することになる。
「オルス、お前の奥方が浮気してるって噂が出回ってるぞ?」
「…………は?」
*5/24 後の展開の関係で、納品する魔道具の数を修正しています。




