2.鶴姫の命令 3.初陣と勘
前回分は設定を間違え先ほど上げなおしたばかりなのですが・・・(汗)もうあげちゃいます
今回は二話分まとめてあげました。どうぞよろしく。
鶴の舞う空
2.鶴姫の命令
鶴姫は頬に手を当てて考え込み、にやっと笑って言った。
「そうだ....いい事思いついた。おい、こいつの鎖外せ。」
鎧の男はしぶしぶ海斗の手錠を外した。すると鶴姫の横にいた青年が始めて口を開いた。
「鶴姫様....またとんでもないことを考えてますね.....。」
「ふふ...っ。風早もいい加減なれただろう?」
「まあ....はい...。」
「おい、海斗ついて来い。」
海斗は彼女についていくしかなかった。三人は牢屋を出て少し歩いた。すると、彼らの前に大きな和風の屋敷が立っていた。海斗は異世界ながらもここは古代の日本ではないかと思った。
「えっと....海斗殿でしたね?私は姫の従者、五人将の一人大柳風早義実。まあ、風早と呼んでください。」
「はあ...。」
海斗はなにやらとんでもないことが始まろうとしていることを察した。
一行は屋敷の中に入っていった。風早いわく、この屋敷は王宮らしい。周りの人間はみな鶴姫に頭を下げていた。三人は細い廊下をくだり、とある小部屋へと入っていった。
そこは槍や剣、鎧などが置いてある倉庫のようだった。鶴姫は一番奥に置いてあった重たい箱を取り出した。それを見た風早は少し慌てていった。
「姫君....やはり....。」
「ああ...。海斗、お前は私の部下になり戦場で我が豊洲宮のために戦い、お前が本当に間者出ないことを証明してみよ。」
鶴姫の目はまっすぐで迷いのないものだった。どう見積もっても本気でいっているとしか思えない。海斗は焦りと驚きのあまり顔が引きつって半笑いを浮かべていた。風早は海斗の顔を苦笑いで見ていた。
「どうした?やらないのならここで間者とみなして切って捨ててもいいのだぞ?」
鶴姫は筒から剣をゆっくり抜き始めた。刀は鈍い光を反射し、引きつった表情の海斗の顔を映しこんだ。そして、鶴姫はびっと刀を海斗の喉笛の前に構えた。海斗はその殺気から無論逃れることなどできるはずがなかった。追い詰められた海斗のの額からは冷や汗がたれた。
「さあ、どうする?!」
「.......っ!や、やるって言うしかないじゃないっすか.....。」
「ふっ、だろうな。ならばこの鎧と剣を受け取るがよい。」
海斗はその汗ばんでしまった手に青い鎧と剣を受け取った。初めて手にした鎧や真剣の質量を全身で感じ、事の重大性を改めて実感させられた。よくよく見ると少し傷のついた鎧が激しい戦場を連想させる。
「風早!海斗をお前の部隊に入れるように。」
「姫君!よろしいのですか?私の部隊の配置は前線....」
「かまわぬ。じゃっ、後は任せたぞ。」
そう言って鶴姫はこの小部屋を後にした。
3.初陣と勘
あれから三日後。とうとう戦の幕が切られようとしていた。この間に分かったことはわずかであった。―この国は5年ほど前に戸賀崎宮に落とされてしまったこと。ここが日本だろうということ。姫が大将軍を任せられるのは普通であり、驚くことではないということ。戦の臨み方や勝利条件など。―つまり初歩的なことしか理解する暇がなかった。
ここは豊洲国の南東の方、笠見原という場所らしい。地名からしてやはりここは異世界であることを実感する。この戦では海斗たち風早の部隊は、鶴姫を守る側近部隊であり、前線であった。陣中にて、集った兵たち全員の前で鶴姫は会戦の挨拶を始めた。
「聞け!皆の者!!今日の戦に勝てば国土の半分を取り戻すことができる!この国のために私に力を貸してくれ!」
鶴姫のこの掛け声に兵たちの士気が一気に上がり、それが歓声としてびりびりと伝わってきた。これに海斗だけが乗り切れなかった。海斗は大勢の兵に囲まれながらも、一人きりで出陣することとなったのだ。
「いくぞおっ!!私について来い!」
鶴姫の掛け声と共に、兵は一気に駆け出した。すると相手の戸賀崎国の兵も迫ってくる。戦が始まって三分程ですでに交戦状態となった。笠見原の大地には刃と刃の重なり合い、ぶつかり合う鋭い音、刃が人を貫く鈍い音が四方八方に響いた。海斗は呆然とし、震えながら血のにおいをかいでいた。その時だ。
「豊洲国の兵!覚悟!!」
後ろから戸賀崎国の兵が襲い掛かってきた。海斗は剣で何とか相手の刃を食い止めた。すると不思議なことに手の震えがぴたりと止まった。海斗はそのとき不思議な感覚に襲われていた。
「俺は....」
海斗は剣をぐっと握り、相手を力で押した。そして、相手が一瞬よろめいた隙に一気に切りかかった。海斗刃は相手の鎧を貫いた。
「ぐうっっ!!うわあああっ!!」
相手の兵は倒れこんだ。この瞬間に海斗の焦りや不安、緊張が一気に消えうせた。
(俺は真剣を交わしたのは初めてなのにこの感覚を...どう動けばいいのかを....知っている..)
海斗はこの直後から動きが一気に変わった。襲ってくる相手の兵をかわし、切り捨てる。彼は戦場を駆け抜けながら、根拠のないあるひとつの確信にたどり着いた。
(俺はこの日のために剣を修行していたんだ....。)
海斗は視線を正面から少し東の方向に変えた。すると鶴姫の後姿が見えた。海斗は彼女の太刀姿についに見とれてしまった。あまりにもきれいな剣さばき、闘志の燃えた表情。それは不意に見とれてしまうほどに美しかったのだった。そして海斗の瞳に、鶴姫の背後を狙う敵兵が映りこんだ。
「危ない!」
海斗は左腕で敵兵の剣を受け止め、驚いた敵兵を一気に切り捨てた。
「海斗!すまない!」
「うっ.....。俺は大丈夫です。鶴姫、怪我は?」
「私は大丈夫だ。」
海斗の左腕から血が流れ落ちたが興奮しているせいか、痛みという感覚は薄れていた。海斗がはっと辺りを見回すと、二人はすでに囲まれている状態だった。
「ちっ.....。運がない...。」
「切り抜ける!海斗、背中は任せるぞ。」
「.......了解。」
海斗は出会って間もない自分にこんな状況とはいえ、背中を預けてしまう彼女が不思議だった。そして、右手で強く剣を握り締め、切りかかった。しかし、少し動くと左腕が熱を持っているらしく、激しく痛んだ。
「....しかたない。」
海斗は右腕一本で剣を構えた。見たことのない太刀姿に辺りを囲んでいた兵は激しく動揺した。海斗はその瞬間を突き、一気に前へ出た。そう、フェンシングの構えである。異世界の、おまけに古代の兵が見たことがあるはずがなかったのだ。鶴姫はわき目でそれを見ていた。
「ほう...なかなかやるな。」
鶴姫も負けんとばかりに剣を振るった。このあまりにも美しい太刀姿は豊洲国の戦場の華、鶴姫といわれているものである。そして、少し収集がつき始めたころ、黒い鎧でひとつ結びの男性が助太刀に入った。
「クロ、遅いぞ!」
「申し訳ありません。一気に片付けます。」
クロと呼ばれていた男性の活躍で囲まれている状況は脱すことができた。
およそ五分後、戦場に風早が敵の大将を討ち取ったと戦況が伝わってきた。そしてこの戦は終わりを迎えた。海斗は傷の処置後鶴姫に呼ばれ、陣の奥へと行った。そこには一息ついた様子の鶴姫と四人の側近兵のような男性がいた。そこには風早とクロと呼ばれる男性も混じっていた。鶴姫はにこっと笑って言った。
「海斗、このたびはすばらしいはたらきだった。礼を言う。そして、間者と疑って悪かったな。」
「いえ....。」
「こいつら....五人将をお前に紹介しよう。風早はいいとして...。先ほど加勢に来たこいつは黒田久人基良、クロだ。こっちの短髪で鉈を持っているのが飯田影光時寄、影光、この槍を持っているのが光本翔衛門宇治雅ショウだ。」
「えっと....はあ...。な、なぜそんなことを俺に...。」
「五人将が此度一人かけてな。その穴を海斗....お前に入ってもらおうと思ってな!」
「はいっ?!」 「.....!」 「なっ?!」 「ひ、姫君?!正気ですか?!」
「本気だ。」
鶴姫の真剣な眼差しに海斗を含めた全員が呆れつつ驚いた。海斗はとんでもない姫君に呼ばれてしまったと思った。
続く
次回 鶴姫の無謀な考えに巻き込まれた海斗は―
次回もお願いします。