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銘柄コード1004

 彼の一日はその日から変わった。まず、生活リズムを取り戻すことから始めようと考えた。だが、いきなり午前6時に起きて、午後11時に寝るような生活をすることは到底不可能と思われた。これまでも何度か、生活リズムだけでも取り戻そうと、気合で夜になるまで起きようとしたことがあったが、昼頃にはいつも睡魔に負けてしまっていたのだ。そこで、起床時間を一時間ずつずらしていき、ちょうど朝6時になったところでうまく定着させることとした。また、たるんだ体をなんとかするために、起床直後のラジオ体操と腕立て・腹筋・背筋100回ずつを自らに課した。夜中に、台所の戸棚からポテトチップスやチョコレートを物色するのを辞め、両親にもそのようなスナック類をなるべく常備しないように言い含めた。大好きな即席麺も出汁用の昆布を噛んで我慢した。

 他の時間は相変わらずアニメ鑑賞とネットサーフィンであった。とりあえず生活を正し、健康を取り戻すことだけは思いついたが、他に何をしていいのか皆目検討もつかなかった。彼には将来に対する夢も希望も無い。したがって、目標も無いため、するべきことがなかった。趣味に走ろうにも、以前ほどアニメに対する情熱も薄れ、ライブに行ったり、グッズを買ったりする気にもなれなかった。アニメ鑑賞も時間を潰すために惰性で行われているだけだったのだ。

 2ヶ月後、彼のささやかな試みは功を奏していた。起床時間を午前6時に見事軟着陸させ、就寝時間も午後11時前後に落ち着いた。体重は少しずつ減少していき、72kgになっていた。腕立て・腹筋・背筋のノルマは1日200回へ増加し、心なしか筋肉質になってきた。バランスのとれた食事をしっかり三食取り、母親の家事も手伝うようになった。やるべきことを何も見出していなかった彼にとって、いつの間にか家事が楽しみの一つになっていたのだ。これまで、料理、掃除、洗濯など一切やってこなかったが、減量に向けてダイエット料理をインターネットで検索してから、彼の家事への挑戦はスタートした。ダイエットメニューとしてポピュラーな豆腐ハンバーグから始まり、カレー、チャーハン、味噌汁といった通常の定番料理もマスターしていった。料理を作るのが楽しみになり、夕食は彼の担当となった。料理がきっかけとなって家事への興味が沸き、両親の役に少しでも立ちたいという気持ちも手伝って、掃除や洗濯も進んで行うようになった。それは、社会復帰の取っ掛かりとしては悪くない行為に思われ、母親も積極的に彼に家事を教えた。

 ある日、母と一緒に昼食にカレーを食べた。昨日、彼が一生懸命作った茄子カレーの残りだ。いつものようにテレビ『笑っちゃっていいとも』を見ながら、黙々と二人はスプーンを口に運ぶ。本日のコーナーは生でぶっちゃけた話を聞こうというものだった。ステージに現れたすりガラスで顔を隠した男が、普段はなかなか聞けない話をしてくれるらしい。そして、その男から発せられた次の言葉で彼の人生は一変する。

「わたしは、株で100億儲けた男です」

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