銘柄コード1017
新聞を配っている時も、株のことが頭を離れなかった。リベンジしたいという思いが、頭をもたげたのだ。しかし、絶対に失敗はしたくなかった。ヤホーファイナンスの、あの鮮烈な書き込みにあったように、勝てないならば株に手を出してはいけないのだ。直感的に、株が安いと思っただけであり、負けるという不安は拭えない。自分は勝つのか、それとも負けるのかという相反する二つの考えを行き来しているうちに、危うく一軒通り過ぎてしまいそうになり、慌ててハンドルを切り返す。日々、不着や誤配をしないことに心血を注いできた彼にとって、大いなる不覚であった。反省して、配達中はもう株のことは忘れようと努めたが、何度も何度もそれは悪夢のように、浮かんでは消えた。
配達が終わると、家まで走って帰った。朝食を作るのも忘れて、パソコンの電源ボタンを押す。彼は、悪夢を消すため、とにかく株について知らなければならないとの結論に至った。山火電気が倒産するとは微塵も思っていなかった、無知な自分とさよならしたかった。孫子の兵法で敵を知り己を知れば百戦危うからずという有名な言葉があるが、彼は敵も味方も区別がつかない状況を打破しなければならない。人の意見に左右されず、自分の判断でその会社が倒産するかどうか見抜けるようになりたかったのだ。早速、現代の心強い味方、Google先生を呼び出すことにした。
「株 入門」とキーワードを打ち込み検索した。すると、投資に対してもっとも初歩的なことが書かれているサイトが表示された。彼は、それを読み込む。また、のめり込んで、朝食ができたからおいでと母が呼びに来る始末だった。
投資入門サイトでは、単なる用語の解説が長く続いた。ヤホー掲示板や株式ニュースを読んで、わからない用語があればたまに調べており、相場用語の基礎くらいは心得ていたため、あまり参考にならなかった。彼が知りたいのは、どういう銘柄を買えば勝てるのかである。お金が儲かるならば、用語なんてどうでも良かった。
銘柄分析の項目へ到達した時に、彼はやっと二つの武器を手に入れた。ファンダメンタル分析とテクニカル分析である。ファンダメンタル分析とは、簡単に言えば、その会社がこれからどんどん儲かるようになるか分析する方法だ。企業の利潤が増えれば、株価も値上がりするという論理に基づいている。そのためには、経営、財務諸表、市場、競争相手などを分析し、総合的に判断することが求められる。しかし、それらを基準なしに判断するのは非常に難しい。そこで、多くのファンダメンタリストはPER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)を基準としている。株価が1株当たりの純利益の何倍まで買われているかを示しているのがPER、株価が1株当たりの純資産の何倍まで買われいるかを示すのがPBRだ。これらの指標が低ければ低いほど割安とされ、高ければ高いほど割高とされる。それらを見て、割安な株を買い、割高な株を売るのだ。
テクニカル分析とは、株価のパターンなどを分析してこれからの株価を判断する方法だ。統計的分析や、呪術的方法など非常に多様である。ポピュラーなのは、移動平均線、RSI、ボリンジャーバンド、サイコロジカル、MACDなどである。また、株価の軌跡であるチャートを見て、上昇・下落を判断するチャーチストもこれに分類される。テクニカル分析を使用している人の多くは、これらどれか一つだけを使用するのではなく、多くの指標を総合的に判断している人が多い。
彼は、この二つの分析方法を知り、少し賢くなったと思ったが、これだけで勝てるようになれるのか疑問であった。自らは未熟であり、これらをよく知らず取引してしまったが、あのヤホーの書き込みをしていた人は、これくらい勉強して取引していたはずである。それでもあれほどの敗北を喫したのだから、これくらいの勉強で勝てるようになれるとは思えなかった。勝っている人は、一体どんな取引をしているのかが知りたかった。
「勝っている人…そうか100億男だ!」
彼は、「ikiru 株」とGoogle検索をした。それが、彼とikiruスレとの出会いとなった。




