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銘柄コード1012

 投資家デビューしたはいいものの、山火電気の値動きは実につまらなかった。7円と6円を行ったり来たりするだけで、このまま永遠にこれを繰り返すのではないかと考えると、ぞっとした。彼は、自らの伝説の幕開けには興奮したが、30分もこの眠たい動きを見せられ、次第に熱が冷めてきたようだった。株価の軌跡を表す山火電気のチャートを見ると、何週間もこれを繰り返していることがわかった。それより前は8円と7円を行き交うバーコードチャートである。よく調べもせず買ったことを若干後悔しつつも、週足と呼ばれる週単位で記録されたチャートを表示すると、2年前には47円をつけた時期があることがわかった。彼は、そこまで株価が戻る可能性を見出して安心し、自らのポジションに自信を深めた。

 しかし、2年前に47円であったということは、2年後に47円になることを暗示しているのではないかと彼は思った。随分と先が長い話であった。すなわち、このまま株価を眺めていても、時間の浪費である。彼は、椅子から重い腰を上げ、家事に励むことにした。空は青く澄み渡り、日差しが強く降り注ぐ洗濯日和である。彼の門出を祝福してくれているようであった。家中の洗濯物をかき集め、洗濯機に放り込み、液体洗剤と柔軟剤を加えて、スイッチを押した。それから、台所で朝食の洗い物を行う。彼の母は、部屋でワイドショーをみながらお茶を飲んでくつろいでいたが、洗濯が完了した音が鳴ると、庭へ洗濯物を干しにでかけた。彼は、テキパキと洗い物を終えると掃除にとりかかっていた。気分が良いため、入念に家の隅々まで掃除機をかける。すべてが終わると、ポテトチップスを食べながら、母とお茶を飲んだ。テレビには、再放送の刑事ドラマ相方が流れていた。

 のんびりしていると、テレビはお昼のニュースに変わっていた。一日が過ぎていくのは、まさにあっという間である。昼は何にしようかと考えながら、ニュースを眺めていると、市況のニュースが流れた。

「前場の日経平均株価指数は、アメリカNYダウの大幅上昇を受けて、298円の値上がり。東証株価指数TOPIXは、18ポイントの上昇。円は、83円42銭と前日より円安で推移しています」

マーケットのサマリーのみ事務的に報告する短いニュースであり、以前の彼ならば聞き流しているところであったが、今では真剣にそのニュースを頭に焼き付けていた。日経平均が、日本を代表する225銘柄を単純平均して算出した指数であることなど知らなかったが、株全体が値上がりしていることだけはわかった。

 昼食には、インスタントラーメンを茹でて、もやしとネギと卵を載せた。「最近のインスタント麺は、おいしくなったね」と母としゃべりながら、しょうゆラーメンを啜っていく。彼は、株価のことが気になっていた。平均的に値上がりしてるなら、俺の山火電気も上がっているかもしれないという予感があった。

 ラーメンを食べ終わると、パソコンを覗いた。起きている間は常にスリープ状態にしてあるため、エンターキーを押すと、すぐに起動した。スーパーSBSにログインして、山火電気の株価を表示すると、株価は8円になっていた。8円と7円のバーコードに移行していたのだ。

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