中学生西川の八
「何のよう?珍しいね。俺に話しかけるなんて。校舎裏で話したいなんて、もしかして俺、殴られるのかな?ドラマみたい。ドラマと言えば、西川君の自己紹介、正確には高山君の自己紹介の時か。絶望的だったね。あそこからここまでクラスに馴染めるなんてまるでドラマだよ。これも高山君のおかげだね。良かったね」
こいつ本当にいつも無表情で言葉も発しない鉄仮面の森なのか。
目の前の森は無表情の鉄仮面そのままで、口だけよくもこんなに噛まずに間髪も入れずにベラベラと話続けられる物だと賞賛の拍手を送りたくなるような饒舌だった。
「殴りなんてしないよ。話をしたいだけ。それにしても、今日は随分と饒舌なんだな」
森の話の後半が、どうにも俺に毒を吐いたように聞こえて、実際正論ではあったが俺も少し毒を入れて返す。
森は鉄仮面の口角を上げて歪めた。ただ目は無表情でそれに若干の恐怖を覚えた。
「実は結構お喋りなんだ。俺。驚いた?驚いただろ。俺だって西川君の立場なら凄い驚くよ。もし俺がアニメや漫画のキャラクターならラスボスっぽくない?ほら、普段は影ながら主人公をサポートして、と思ったけどなんのサポートもしてないし一話完結物の雑魚キャラって所かな。残念。で、話って何?」
饒舌だと思う傍らもう一つ森に対して感じた事がある。それは目の前の俺と話しているはずなのに、森はまるで自分自身と話しているようだった事。
疑問を自分にして、それを自分で答えている。それを終えるとようやく俺に視線が来る。いや、正確には意識が来ると言った所か。視線は俺に常に向いていても空でも見てる時のように視線は感じられなかった。
その喋りは高山の面倒臭さとは違う、何か嫌な面倒臭さだった。
森について考察している場合じゃない。本題を切り出す。
「この前、高山と話してたろ。どんな話してたんだ。高山が打ち上げに来なかったのと関係があるんじゃないのか。長ったらしい要らない話は抜きにして簡潔に答えてくれ」
「酷いなぁ。長ったらしい話なんて。俺的には面白い話をしてるつもりだったんだけど、西川君には合わなかったかな?」
森の話を遮るように俺は「簡潔に頼む」という。
「あるよ」
大体予想は付いていたが、ここまで素直に答えるとは思わなかったので、驚いた。
無駄な話を入れるのは誤魔化す意もあったと思っていた。
森の口は今度は本題の事についてで、回る。
「高山君が打ち上げに行かなかったのは、用事でもお金が無かった訳でもないよ。なんだと思う?俺が頼んだからだよ。俺は教室で空気みたいな存在なのは知っての通りだよね。それで無表情で言葉も喋らないし、関わるな。なんて態度してる。自分でもわかる。でもね、友達はほしいんだよ。以外でしょ?」
「お前の事はそうなのか。としか言いようがない。頼んだってどういう事?」
「まぁ聞いてよ。俺がほしい友達ってさ、良い奴なんだよ。俺に都合の良いって意味でね。彼は単純に良い奴で俺にとっての良い奴でもあった。俺みたいなのでも仲良くしてくれる。でさ、頼んだってのは俺は大勢が嫌いなんだ。大勢が嫌い、でも打ち上げはしたかったんだ。だから俺は高山君に二人で打ち上げしようって頼んだ。俺って勝手だろ?まさか本当にそっちを断るとは思わなかったけど。高山君は本当に"良い奴"だ」
そうか。高山はこいつが大勢が嫌いだってのを知ってて渋ったんだ。
"行けたら行く"は森に確認を取ってから決めようとしてたんだ。
高山、お前は良い奴過ぎる。俺に対しても、森に対しても。
だからなんとなく分かる。高山は今更森を捨てる事はできない。
クラスメートを選べば、入学前から望んでいた普通で楽しい学校生活がある。でも高山はそこには居ない。高山と話すのは普段の学校生活だけになっていくだろう。
高山を選べば、親友と居れる。でも高山を"良い奴"として見ている森とも居る事になる。打ち上げのような事にも参加は難しい。
俺は家に帰宅すると、入学前のクラス表を見た後なんかよりずっと考えこんで、母親の「ご飯ができた」というコールにも暫く気付かなかった。