中学生西川の七
何故だろう。いや、何故だろうと言う程の事だろうか?
別に良いじゃないか。高山が誰と話してようが俺の手の届く事じゃない。
恋人じゃあるまいし。逆に何故、何故だろうと思ってしまったのか。
いや。きっと俺が何故だろうと思った対象が違うのだ。
"そいつ"と話してる高山は、打ち上げの前のような、いつもの高山らしからぬ"楽しそうに見えない"ものだった。そこに違和感を覚えた。
いや。少し違うかもしれない。"その違和感"と高山が話してる相手が"打ち上げに呼ばれなかった"森であった事が違和感の正体だろう。
これを見たのは放課後の体育館前だった。
いつもは気軽に話しかけられる高山だが、"あの高山"となるとそうは行かなかった。俺は結局話しかけずに帰宅した。
翌日になり、できるだけ普通に昨日森と何を話していたのか聞く事にした。
別に大した事を聞く訳ではない。クラスメートとの話の内容を聞く。それだけだったが、何故か俺は緊張していた。
暫く席で待っていると、高山が教室に入ってくる。高山が教室に入るのは寝ても、友達と夢中になって話していても分かる。
「おはよう!!今日も元気!」
高山は決まってこの定型文をドアを開けると同時に叫ぶ。といっても言い始めたのはクラスに馴染んだ後で、最初は失笑だったクラスメートも慣れてくると「おはよう」と返すようになった。
「ういっす。西川!おはよ!」
昨日、森と話していた高山を思い浮かべると今目の前に高山は、やはり別人だった。
「おはよう。あのさ、高山。あの、聞きたい事あんだけど、いいか?」
入学前、あそこまで地獄だの処刑所だの言っていた自己紹介より、俺の言葉は詰まる。
俺が内心で焦っているうちに、高山の目は大きく開き、両手を口元に充てて大袈裟な身振りをする。
「西川が?お前が?俺に聞きたい事なんて-」
「熱はないぞ」
「そうか。ほっとした」
茶番を挟んで少し冷静になった俺は、本題を切り出す。
「お前、昨日森と何話してたの?」
「俺が森と話すのって、おかしいか?」
「質問を質問で返すなよ。話せない内容なのか?」
「なんか喧嘩腰だな。リラックスしようぜ」
「打ち上げ来なかった事、関係してるんじゃないのか?」
「なんか西川、今日こえーぞ。やっぱ熱あるんじゃねぇの?」
「ないって!!!」
教室に居る全員が俺を見る。高山が叫ぶ事はあっても俺が叫ぶ事なんて、俺の記憶でもない事で、クラスメートも俺自身も混乱していた。
叫んだ時は熱くなっていても今は恐ろしい程冷静で、男の声で「やばくないか?」とか「誰か止めにいけよ」なんて声が聞こえてくる。
今更高山に対して、教室で叫んだ事に後悔がこみ上げる。
椅子を引きずる音が聞こえて、高崎がやってきた。
「どうした?お前が叫ぶなんて」
俺は言葉が出せない。出すとなんだか泣いてしまいそうなくらい混乱していた。
「いやいや。なんでもない!俺が提案してみた!もし俺と西川のキャラが変わったらみんなどんな反応するかなって」
高山は空気が張り詰めた教室を、さわついてるクラスメートを大袈裟に見渡して「期待通りの反応で俺も満足!」と言い、教室は数秒の沈黙の後に爆笑の渦に包まれた。
高崎も「本気で驚いたぞ」と笑いながら自分の席に戻っていった。
その頃には俺の混乱も解けて、脅かした事を、本気で叫んだ事を隠して適当に謝った。
俺は怒鳴った相手である高山に助けられた形となった。
それでも、違和感は相変わらずあって、怒鳴る事になったのも元はと言えばあいつがはぐらかしたからだ。と思ってしまう俺は、やはり良い奴とは言えない。