中学生西川の四
地獄の自己紹介から一月が経ち、肌寒かった気温もやっと春らしくなってきた。
気温の上昇に合わせたようにクラスメートの緊張も溶けているようで、昼休みに教室を見渡すと一定のグループが出来ているようだった。
揃いも揃って髪の毛をツンツンに立てて馬鹿騒ぎしているグループには、話した事無い奴。もとい高崎が属している。
小学校の頃も落ち着きの無いイメージはあったが、中学生になって浮かれたのか今はやかましいという方がピッタリの言葉だと思う。
このグループは積極的に、俺曰く「私、おしゃれでしょ」女子グループと絡んでいて、この先の行事が全てこの二つのグループに仕切られる事を予想するのは難しく無かった。
奴らが発する目と耳に来る騒音から逃げるように、顔を窓際に向ける。
委員会が一緒だった、宮本さんが属するグループだ。
可愛い子も居れば不細工も居て、宮本さんのような超平均的な顔もいる、バランスの取れたグループ。もしあのグループが主役のRPGがあれば、戦闘面では一切苦労せずに進んでいけるだろう。
地味な奴、名前は確か...森だったか。
森はグループに属していない。よくもまぁ一日中無表情で居られるな。と感心する程の鉄仮面だ。
何時も一人で行動しているが、特に嫌われている訳でも無く、だからといって鉄仮面が災いしてるのか話掛けようとする奴もいない。
そして肝心の俺は一人ぼっちでは無いが、グループに属しているわけでもない。
「やべぇよ...西川。俺、停学になるかもしれない」
次の授業の体育の準備をしていた高山が大根役者の演技の様に「あわわわ」と言いながら足を震わせ近づいてきた。
いや。大根役者と呼ばれる方でも、ここまで酷い演技はしないだろう。
高山の馬鹿さに呆れて言葉も出ない俺は聞いてる意の一瞥を目の前の阿呆にくれてやる。
「やべぇよ...西川。俺、退学になるかもしれない」
若干単語をグレードアップさせてきたのはスルーして、このやり取りが永遠に続いちゃ敵わないと今度は恐らく話が進むキーである返事をくれてやる。
「お前程の阿呆がよく一月持った。お疲れ様」
「違う。俺は、どうした!?と友達を心配する心からのどうしたがほしい」
「お前の頭どうした?」
「心配する所が違うが、俺を心配してのどうしただって事には変わりは無いから話すよ」
なんなんだこいつ。まだ十二年と少ししか生きてない俺でも、今まで出会った人とこれから出会う人の中で間違い無く面倒臭さでトップ3には入るぞ。
「俺の体操着が、先週家に持って帰るの忘れてて物凄く臭い!この臭いでクラスのみんなの嗅覚が...。みんなの嗅覚を狂わせたら、もう退学レベルの問題だ!」
「...」
高山にはほぼ毎日呆れさせられた。
最近は俺達のやり取りを聞いてなのか笑い声が起こるようになっていた。素の笑いなのか呆れての笑いなのかは分からないが、自己紹介で大惨事を引き起こした俺にとって高山は呆れ要員であり、少ないクラスメートとの交流を持たせてくれる存在でもあった。