中学生西川の二
広い体育館での入学式を終えて各自の教室に移動する途中、俺は自分のクラスメートとなる人達の列を見渡した。
入学式の最中既に仲良くなった者達やそれを見て「自分も早く友達作らなければ」というような焦燥感に駆られた顔をしている俺を含めた人達。
しかし、仲良くなった奴らもなんとか面白い話をしようと、沈黙を作るまいと奮闘している様子だった。
同じ小学校だった三人に目をやると地味な奴は緊張した顔がずらりと並ぶ中で無表情だった。まるで「友達とか興味ないし、いらない」とでも言いたげな顔だ。勿論これは俺の勝手な想像で、本当は緊張しているのかもしれない。
話した事の無い男は入学式フライング仲良し組に属しており、俺を含めた数人の羨ましい視線など露知らず軽快なトークで出来立てほやほやのお友達を笑わしているようだった。
委員会が一緒だった女は、他大勢と同じように緊張の面持ちをしているようだ。同じ委員会だった好で声をかけようか。とも思ったが、人の心配をしている余裕は俺にはない。そもそもここで話かけられるような俺だったら何も心配せずに友達などすぐに出来る。俺は彼女の端整でもなければ不細工でもない普通としか言い様が無い顔を見つめる事しかできなかった。
そうして俺の目があちらこちらキョロキョロしている内に、列は体育館を出て下駄箱を通過し、一年生の教室がある二階を目指し階段を上り少し歩いて中学生生活で最も恥ずかしい行為"自己紹介"をする地獄の処刑所、もとい教室にたどり着いた。いや、やってきてしまった。
自己紹介とは単純に第一印象が決定される場であるが、人気者にならんとする挑戦者達の審判室兼墓場である。
挑戦者達は自己紹介に加えて、一発ギャグをやってみたり言葉で笑いを取りにいったりするが、大半の挑戦者達は緊張が充満した教室で滑り教室という大きな箱を棺桶に変えて安らかに朽ち果てていく。
逆に緊張を打倒し、みんなを笑わした者はムードメーカーとしてクラスに溶け込んで行き、顔の作りに関係無く人気者となる。
俺は、何故挑戦者達がそのような事をするのかは理解できない。
国語での音読指名や数学での「西川。この問題を前に来て解きなさい」程度の事で顔が熱くなる俺にとっては自己紹介は最悪のイベントで挑戦者達のような事をしなくても自己紹介前の教室は、やはり地獄の処刑所なのだ。
友達を作る事に脳味噌の大半を使っていた俺は突然の大きな壁を砕く術など持っておらず、いやそもそも砕く術など存在しないから強敵なのだ。
なんのことはない。名前と出身校を言ってしまえば終わりなのだ。幸いにも俺の苗字は西川であいうえお順で言えば中頃。特別目立つ事も無いだろう。
心の中で代々西川家を繋いできたご先祖様に感謝を奉げた後これまた心の中で「普通にやれば大丈夫」と昨晩の布団の中でした様にちょっと多めに五回呟いて指定された自分の席に着いた。