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第0話 終わる世界の始まり

終わる世界の物語を……僕はまた見ていた。

僕には何をすることも出来ない。

ただ、ただ傍観することしか出来ない。

もう何回目かも解らなくなってしまった。

でも僕はこれを見続けなきゃいけない。 だからこれは僕の暇潰し為の物語だ。

この物語を書き終えられるか、或は僕はもう眠ってしまうかもしれない。


それでも書き付けよう。これが

終わる世界での僕達の奮闘記だ。

白衣の男は研究室の天井を仰ぎ一人黄昏れていた。まるで世界の終焉でも見たかのようにその表情には絶望の色が深く滲みでていた。

男の……いやこの科学者、藤崎ふじさき修作しゅうさくの立場を考えれば、その表情は相応しくない。もっと達成感や愉悦に満ち足りた顔をしているべきだ。


ノーベル物理学賞を受賞が決まった栄光ある科学者だという立場を、彼は忘れているのだろうか?

それは少し違うかもしれない。

科学者は……後悔していた。自分の全ての研究を。

もう間に合わないかも知れない。そう呟き血溜まりに立ち尽くす。


機械とオイルの臭いに、動物性の鉄分の臭いが混じる。


白くあるはずの白衣も、飛び散る血飛沫で赤黒く染まっていた。

十数人もの研究員を血溜まりに沈めて彼は諦めたかのように笑い出した。


「はっ……ははは…………ははははははっ」


悲しい笑い声が誰も居ない研究室に響き渡る。




不意に笑いが止み、彼は目の前にある備え付けの家庭用とは思えない大きなPCを冷たく睨み付ける……。





「こんなものを…………俺はッッ」



椅子を持ち上げ、PCにそれを降り下ろすべく宙に掲げる。






パァンッ…………!




「がッ…………ふっ…………!!」

男の脇腹に赤い染料がぶちまけられたかのように、赤黒いものが滲んでゆく。

返り血ではない。これは紛れもなく藤崎のモノだった。



「……藤崎っ……博士ッ!!……これは一体……どういうことですか!?」

震える手に拳銃を携えた一人の若い男の研究員は自分が撃ったというのにうろたえながら尋ねる。

無理もない。友とも呼べる同僚達が一人残らず血溜まりに臥していたのだから。

そしてその血溜まりの中に師とも呼べる藤崎博士が佇んで、自分達の研究の成果を壊そうとしていたのだから。



「……桐野ォ……俺達は、なんてこと……しちまったんだろうな……」


「……何を……言って……??」


暗く閉ざされた研究室の中で二人の声がこだまする。


「…………悪いな……本当にすまない」

椅子を投げ捨て、うなだれた様に頭を下げる藤崎。


「は、博士……。……一体何があったのですか?」

桐野の拳銃を握る手が緩む。謝罪の言葉で少し気が緩んだが……それでも目の前の藤崎からは狂気を感じとっていた。



「悪い、桐野。……お前も……ここで死んでくれッ……!!!」

頭を下げたまま低姿勢で桐野の腹に潜り込むように桐野に向かって突進する藤崎。 右手には血にまみれた包丁が握られていた。



「う、わああああああああああッ!!!」



パァンッ……パァンッ……!!



咄嗟に放たれた弾丸は藤崎の肩と脳天を貫通していた。

前姿勢のまま、自らの突進の勢いで前のめりに血にまみれた床に倒れる藤崎修作。



「ハァ…………ハァ…………」

桐野の目からはもう理由もわからない涙がボロボロと流れ出る。

昨日まであんなに幸せだったこの研究室の皆が……今は自分を残して血溜まりに沈んでいるこの現実が、桐野の頭の中では現実だと認識できないでいる。



「う……ぅああああああああああ!!!」

桐野は訳の解らない雄叫びをあげ、血の中に膝を付くことしか出来なかった。


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