ラスト・ダンスをあなたと。
あらすじにも書きましたが念のためもう一度。
わりと救われない感じの話ですので苦手な方はまわれ右をして他の幸せなお話を読まれることを心よりお勧めいたします。
ラスト・ダンスをあなたと。
一緒にいるのが当たり前だった。
傍にいるのが当たり前だった。
だから、わからなかった。
ううん、わかりたくなかったのかもしれない。
この感情の名前を-
物心がつくころにはもう、【ソコ】にいた。
ただ戦うための知識を、技術を、私達は疑うこともなく学んでいった。
授業で怪我をして泣いたり、それを見て怪我をしてないみんなまで泣いてしまったり。
みんなで寄り添って眠ったり。
時にはごはんを取り合い、時には分け合って。
そんな風に、私達は10人で暮らしてきた。
知識や技術を教えてくれる先生は毎朝【外】から来て、夕方には【外】へと帰っていった。
そうやって私達は成長していった。
いつか私たちも【外】へ行くのかな。とか。
そんな話をしながらみんなで寄り添って眠っていた。
-ほんの数日前までは。
【卒業試験】として与えられた課題は信じがたいものだった。
くじで二人一組のペアを作り、最後の一組になるまで戦うこと…正確には、殺しあうこと。
課題が終了するまでは、一切の食料は送られてこない。
正直、何かの冗談だと思った。
みんなも、そう信じていた。
けれど。
翌日になっても、その翌日になっても。
毎朝届けられていた食料が、届かなかった。
三日目の朝に、みんなで泣きながら認めた。
冗談などでは、ないんだ。と。
みんなでひとしきり泣いた後、話し合いをした。
大切な家族だから、殺したくない。
みんなの気持ち同じだった。
でも。
私達は【殺しあう】ことに決めた。
ただ、【知る】ために。
私達が生きてきた意味を、そして殺しあわなくてはならない理由を、【知る】ために。
それに、【二人一組】だから。
二人、だから。
一人じゃ無理でも、二人ならきっとがんばれる。
そう信じて。
私達は【殺し合い(課題)】を始めた。
私達はまず、かくれんぼのときのようにペアごとにばらばらに散った。
単純な乱戦や組み合わせで戦うのは、あまりにも寂しいから、と。
強襲でも、正面から戦うのでも、構わなかった。
けれども。
話し合いで決めたわけではないけれども。
私達の気持ちは一緒だった。
せめて苦しまないように-
それだけを考えて、【殺し合い(課題)】を進めていく。
優しかったモノも、ちょっと怖がりなノナも。
ただ眠っているだけのように安らかな顔だった。
けれども、息はしていない。もう二度と目覚めることはない。
「泣くな、ディー」
相方のヘキサがそう言って頭を撫でてくれた。
歯を食いしばって堪えようとするけれども、後から後から溢れ出して止まらない。
もう帰れない。
あの日々はもう二度と帰らない。
みんなで笑い合える日は、もう二度と来ないんだ。
ぼろぼろと涙を零していると、ヘキサの胸に頭を押し付けられた。
「ディー、みんなとは行けないけれど、俺たちは『二人』で【外】に行くんだ。『二人』ならきっと-」
ヘキサが言い切る前に、【声】が響き渡った。
-『ディー、ヘキサ』ペアのみの生存を確認。次の【課題】を通達します-
次の【課題】の内容に、私は床にへたりこんだ。
-次の【課題】はお互いに殺しあうこと。片方が死亡し、生存者が一人となった時点で【卒業試験】は終了します-
「…無理、だよ…」
自然と、私の口から零れ落ちた。
その言葉に返事はなく。
ただ、ヘキサが数歩離れるのが、気配で分かった。
「ディー、立て」
視線をそちらに向けると、ヘキサが武器を構えていた。
私は頭を振った。無理だよ、と。
「立て。立って武器を構えろ」
私はイヤイヤをするように頭を振る。
嫌だ。ヘキサと殺し合いをするなんて、絶対に、嫌。
ヘキサがすっと武器を動かした。
鋭利な刃がヘキサ自身の喉に当てられる。
「ヘキサっっ!?」
「立つんだ、ディー。そうでなければ俺は-」
ヘキサが言い切る前に立ち上がり、武器を構える。
そう、だよね。
おたがいさま、なんだよね。
私はすぅっと息を吸い込むと、ダンッと強く地面を蹴ってヘキサの懐に飛び込む。
けれどもヘキサはそれを容易く体を捻ってかわす。
勢いを殺しきれずに走り抜ける私の背後からヘキサの斬撃が追ってくる。
それをなんとか武器の腹で受け流して体勢を整える。
お互いの手の内なんてよく知っている。
だからお互いになかなか有効な攻撃にはならない。
不思議な感じがした。
【殺し合い】をしているはずなのに、まるで一緒にダンスを踊っているような気すらしてしまう。
いっそこのまま時間が止まってしまえばいいのに。
【殺し合い】でも、終わるまでは二人でいられるから。
一人にならなくて済むから。
だから、ずっとこのまま-
カァン
けれどもそんな願いが叶うはずもなくて。
手を抜いたつもりはないけれども、空腹のせいかめまいがして。
その一瞬の隙に私の武器は跳ね飛ばされてしまった。
「ヘキサの勝ち、だね」
私はその場に膝をついて、ヘキサを見上げる。
にこっ、と笑いかけてから、静かに瞳を閉じた。
「…ディー……」
ヘキサが近寄る気配。
そして手に暖かな温もり。
「…?」
ヘキサの手だった。
私の手の平に何かを握らせ、手の甲にヘキサの温もりを感じた。
そうだね。
こうやってヘキサの温もりを感じながら逝けるのなら、幸せだな。
私はゆっくりと目を開けて、ヘキサを見た。
ヘキサは唇を強くかみ締めていた。
私はもう一度、ヘキサに向けて笑った。
「私達を、【外】に連れていってね」
ずっと、一緒だよ-
そして再び瞳を閉じて、刃に貫かれる時を待った。
ヘキサの温もりを感じていられるのは嬉しかったけれども、ひどく長く感じた。
そして。
「ごめん…」
呟くようなヘキサの声。
けれども。
刃は私を傷つけなかった。
手首が返されるような間隔と、短いうめき声。
そして、血の匂い。
「どう、して……」
ヘキサは、私に向けていたはずの刃を、ヘキサ自身に向けた。
即死ではないけれども、まちがいなく致命傷だ。
「どうして…っっ」
「ごめん、やっぱり俺には、ディーは殺せない…」
「そんなの、ずるい、よ…」
ぼろぼろと涙が零れる。
「ごめん、な。でも、やっぱり、ディー、だけ、は…無理なんだよ……」
だんだん弱くなっていく声。
嫌だよ。
一人は嫌だよ。
小さくなっていくヘキサの声を聞き漏らすまいと顔を近づける。
「好き、だよ、ディー。…誰よりも、君を、愛、し、て……」
「勝手なこと言わないでよ!!好きならっ、好きならずっと一緒にいてよっっっ」
「…魂、でも。幽霊、でも、悪魔、でも、精霊、でも…君と、一緒にいる、から。見えなくても、ずっと、一緒、だか、ら……」
ヘキサの瞳がゆっくりと閉じていく。
「愛、して、る…ディー……ずっと…君の、そば、に………」
それ以上、ヘキサが言葉を紡ぐことはなかった。
私はただ、ヘキサの傍らに座りこんでいた。
「ひとりじゃ、むりだよ……」
二人だと思ったから、がんばれたのに。
みんなも、二人ならと思って、がんばってたはずなのに。
ヘキサだって、自分ひとりでは残れなかったじゃない…。
「ひとりじゃ、むりだよぉ…」
もう、無理だよ。
このまま、ヘキサと一緒に眠ってしまおう。
みんなと過ごしたこの家で。
未来なんていらない。
私ひとりで生きる未来なんて欲しくない。
「おやすみ、ヘキサ…私もすぐにいくから……」
冷たくなってしまったヘキサの唇に、そっと自分の唇を重ねる。
ふと、視線をあげてみると、空が見えた。
青い青い空に、鳥が一羽、飛んでいた。
あの鳥はどこに行くんだろうか。
仲間の元へ帰るのだろうか。
それとも仲間から離れ、ひとりで旅をしているのだろうか。
-殺し合いなんてしたくない。でも、このまま何事もなかったように死んでいくのも、嫌だ-
話し合いの中で出た、結論。
何も、見つからないかもしれない。
理由なんて、ないのかもしれない。
でも。
それでも。
決めたんだ。
想いを託すことを。
想いを受け継ぐことを。
「モノ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘプタ、オクタ、ノナ、デカ…それから、ヘキサ……一緒に、行こう…【外】へ」
-…魂、でも。幽霊、でも、悪魔、でも、精霊、でも…君と、一緒にいる、から。見えなくても、ずっと、一緒、だか、ら……-
ヘキサの言葉を、胸の中で繰り返す。
「また、騙したら…許さないんだから、ね………」
私は立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
【外】へと-
私は基本的に小説を書くときにはなんらかの歌をBGMとしてかけながら書きます。1曲を延々とリピートして聴くこともありますし、再生リストからランダムで聞くこともあります。
ちなみに今回はとある曲を単体でリピートして延々と聞きながら書きました。
その曲はArtemis スペクタクルPさんのボカロ曲です。